安倍政権になってから俄かに中国の脅威が叫ばれ、特に尖閣列島の近海に中国の漁船が押し寄せていることが、一触即発の危機であるかのように喧伝されています。
しかし日中漁業協定に照らせば、中国の漁船が押し寄せてくること自体は別に違法なことではありません。
ジャーナリストの田中龍作氏が尖閣諸島にほど近い宮古島で漁業関係者に聞いたところでは、いまは人工漁礁が宮古島の南と北の沿岸にできたため、燃料代をかけて約200kmも離れた尖閣まで行く必要がなくなり、漁民に危機感などは全くないということです。
しかし政府は何としても優良な漁場が中国によって奪われるという構図を作りたいので、防衛省は2014年から、ナント1回(1泊2日)尖閣列島まで行くと1人につき10万円超を支給し、船の燃料代も別途出すようにしました。仮に年に20回行けば200万円以上になるし、漁獲があればその分は当然上乗せの収入になります。
防衛相は1漁協当たり1億円を準備しているということで、そうまでしても尖閣列島の緊張関係を演出したいということです。
田中龍作ジャーナルが2回に分けて連載しました。
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【煽られる脅威】(上)
漁師「(中国に対する)危機感はまったくない」
田中龍作ジャーナル 2017年1月25日
港で漁網をたたんでいた漁師に聞くと「燃料代が高くて(尖閣周辺には)行かない」と答えた。
「我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており…」。安倍政権が集団的自衛権と軍備拡張を正当化する際の常套句だ。
官邸のお先棒を担ぐマスコミは、常套句にリアリティーを与える。ホットスポットとされる尖閣諸島周辺海域に関する報道が特にそうだ。
中国漁船が武装した海警(中国の海上保安庁)と共に乱入してきたかのように伝えるテレビニュースもある。
マスコミと政府が合唱する時は、政権が国民を欺きたい時である。
彼らが口にするような脅威は実際にあるのだろうか? 尖閣諸島にほど近い宮古島で漁業関係者に聞いた。
漁業関係者は「漁民に危機感など全くない。聞いたことがない」と首を振った。理由はこうだ―
20年くらい前までは(尖閣周辺まで)行っていたが、その後行かなくなった。人工漁礁が宮古島の南と北の沿岸にできたため、燃料代をかけて約200kmも離れた尖閣まで行く必要がなくなったのだ。
だが政府は優良な漁場が中国によって奪われる、という構図を作っておきたい。
そこで防衛省が考えたのが、漁民を尖閣海域にわざわざ行かせることだった。2014年から始めた。
1回につき1人10万円超が支給される。燃料代は別途出る。漁師は尖閣海域に1泊2日で行くだけだ。
日中漁業協定に照らし合わせれば「中国船が漁場を荒らしている」と騒ぐこと自体がおかしい。脅威を煽り立てているだけだ。
尖閣周辺海域には年間に20回行く。1人200万円超の収入となる。漁をしても構わないので、さらに収入は増える。(初年度の2014年だけ漁は不可。2015年以降は可となった)
尖閣に行かせる事業は、ひとつの漁協単位で年間1億円という。農水省ではない。防衛省の事業だ。
漁協に借金していた漁師が、尖閣海域への “アルバイト” で借金を完済したケースもある。
2014年からこれまでに漁師たちが撮影した中国船(漁船と海警)はわずか数隻だ。
それでも漁師たちはマスコミの取材に「中国船が漁場を荒らしている。中国は怖い」と答える。
漁協は防衛省に頭が上がらないからだ。漁師が “アルバイト” で潤っていることもあるが、防衛省は数億円もする製氷施設に助成金を出してくれたりする。
日中漁業協定(1997年締結)は、中国が領有権を主張し境界が確定していない尖閣諸島周辺海域を「暫定措置水域」として定め、相手国の許可なく操業できるとしている。
中国船が漁場を荒らしているという理屈は成り立たないのである。
~つづく~
【煽られる脅威】(下)
要塞化する観光の島
田中龍作ジャーナル 2017年1月26日
陸上自衛隊新基地の予定地とされている宮古島中央部のゴルフ場で24日からボーリング調査が始まった。
新基地建設の是非が争点となった宮古島市長選挙で、容認派の下地敏彦市長が再選された翌々日のことだ。防衛省の焦りが窺える。
新基地には少なくとも700~800人規模のミサイル部隊が配備される。ミサイルは敵に叩かれずに済む移動式だ。配備後はミサイルを積んだ超大型トラックが島の外周をグルグル回る。
絵空事ではない。防衛白書(平成28年度)に目を通すと、早晩現実となることが分かる。
第Ⅲ部第2章「島しょ部に対する攻撃への対応」に作戦計画が載っている。
島しょ部に侵攻があった場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を上陸させるなどの島しょ奪回作戦を行う。また、弾道ミサイル、巡航ミサイルなどによる攻撃に的確に対応する。(平成28年度 防衛白書)
空自宮古島分屯基地の地下には司令部が設けられる。敵のミサイル攻撃に遭っても作戦指揮を続けることが可能となる。
敵が先に島を制圧した場合も当然想定している。「離島奪回作戦」である。
空からは爆撃機が敵を叩き、回転翼機(ヘリ)が兵員をパラシュート降下させる。海からは水陸両用車とボートで兵員が上陸する。
日米合同の上陸訓練も予定されている。宮古島の東海岸にあたる平良の砂浜(写真)と見られている。
訓練にはオスプレイも登場する。沖縄選出の伊波洋一議員が政府に「訓練にオスプレイは必要か否か?」とする質問主意書を提出した。
政府は「具体的な訓練の内容について、現時点でお答えすることは困難である」としながらも「V-22(オスプレイ)を使用することも想定される」と答弁した。
オスプレイは来るのである。
さらに驚くのは翁長知事が観光に活用しようという下地島空港の軍事転用に向けた動きがあることだ。
沖縄県が管理する下地島空港は3,000m級滑走路を持ちながら、現在はコミューター機の離発着訓練などに使われているだけとなっている。
1971年(昭和46年)、屋良朝苗主席(知事に相当)と佐藤内閣の丹羽喬四郎運輸相との間で交わされた覚書では、「民間機以外の下地島空港利用は認めない」とある。
民主党政権時、北沢俊美防衛相は衆院安全保障委員会で下地島空港の自衛隊利用について「国を守る防衛省、自衛隊としては大変魅力あるものだ。実際に活用できるかどうかも検討していきたい」と述べた。(琉球新報)
民主党政権の防衛相でさえ食指を動かそうとしたのだから、安倍政権が動かぬはずはない。
北沢防衛相の上記の答弁を引き出した沖縄選出の保守系議員が現在も、地元と防衛省の間に立つ。
エメラルドグリーンの海に囲まれたのどかな島が、ぴりぴりとした緊張が張りつめる要塞の島となる。時間の問題だ。
~終わり~
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「島を戦場にしてはならない」「基地から地下水源を守れ」・・・オール沖縄の市長候補と3児の母の市議会議員候補が、安倍政権に抗って訴えていた宮古島の選挙。