2017年1月22日日曜日

トランプ新大統領のTPP離脱は覆せない

 トランプ新政権はホワイトハウスのホームページでTPP協定から離脱することを発表しました。これでTPP協定が発効しないことが確定しました。
 トランプ氏は大統領就任演説でも「長い間、ワシントンの小さな集団=1%が政府からの恩恵にあずかる一方、国民はそのつけを背負わされてきた」と述べNAFTAなどの自由貿易協定が国民を不幸な境遇に落とし込んだという認識を明らかにしました。
 また、すべての国々が自己の国益を第一に考える権利がある」と述べました。米国は勿論のこと、他のすべての国にもそうする権利があると宣言したわけです。どちらも極めて正当な主張です。
 
 それに対して、ひたすらアメリカに従属さえしていればわが身は安全とばかりに、まるでお経のように「日米同盟は外交の基軸」と唱えている安倍首相は、この真っ当な言葉をどう受け止めたのでしょうか。
 安倍首相は今なおTPP協定からの離脱を考え直すようにトランプ大統領を説得したいという意向のようですが、TPPが「1%」の巨大資本に取ってこれ以上はないほどありがたいものであるものの、「99%」の国民にとっては悲惨な結果をもたらす以外のものではないことをNAFTAの実態から喝破したトランプ氏が、TPP協定からの離脱を政権の政策に据えたものを、一体どんな論理で説得して変更させようというのでしょうか。
 それについて自民党の高村副総裁は、「アメリカの経済にとってより良い結果をもたらすと説得する」と言っていますが、そもそも「アメリカの経済」という言葉が曖昧であって、それが「アメリカの1%の人々にとって良い結果をもたらす」という意味であるならトランプ氏は勿論納得しません。そうした基本認識を欠いているのであれば、そもそも説得するなどと発想すること自体が間違っています。
 
 TPPが言われ出した2011年当時、民主党の菅首相や野田首相が愚かにも「TPPこそは ”平成の開国” 」などと舞い上がりましたが、今の安倍首相の認識もそこから一歩も出ていません。
 そんな幼稚な感覚でトランプ氏と会談してみても、「安倍はTPPについての知識もなければ、私が何故離脱を決めたのかについての考察力も持たない凡庸な人間だ」という評価を受けることでしょう。
 トランプ氏に取っては、TPPからの離脱はもはや変更しようのない事柄です。それが彼の信念であり選挙民が期待している事柄です。
 それをこの期に及んで「是非再考を」などというのは、例えば中国憎しで凝り固まっている安倍氏に対して、「これからの相手はアメリカではなくて中国に限る」と主張するようなものです。その程度の想像力もないのでしょうか。 
 そんな無駄で有害なことに時間と労力を使うのであれば、トランプ氏がすぐにも迫ってくるであろう「日米二国間自由貿易協定(FTA)」の交渉を如何にして断るか、その方法をこそ熟慮すべきです。
 
 植草一秀の「知られざる真実」と「日々雑感」の二つのブログとNHKのニュース(部分)を紹介します。
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熟読に値するトランプ新大統領就任演説
植草一秀の「知られざる真実」 2017年1月21日
ドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任し、1月20日、就任演説を行った。
トランプ氏は演説で「この日から米国第一だけになる」と宣言した。
同時に、「私たちは世界中の国々との友好と親善を求めます。しかし、私たちがそうするのは、すべての国々が自己の国益を第一に考える権利があるという理解のもとにです。私たちは、米国の生活様式を誰にも無理強いしようとはしません。」と述べた。
 
米国が米国第一主義を採ることは、米国の正当な権利である。
演説の冒頭でトランプ氏は、「私たちは、首都ワシントンから権力を移し、国民の皆さんに戻す」と述べた。
「長い間、ワシントンの小さな集団が政府からの恩恵にあずかる一方、国民はそのつけを背負わされてきた」と述べた。
ワシントンの既得権者ではなく、米国の国民の利益を第一に考えることが重要であることを述べた。
 
そして、トランプ新大統領は、公約通り、TPPからの離脱を大統領就任初日に宣言した。
トランプ氏は演説で「私たちの企業を奪い、雇用を破壊する他国の行為から、私たちは国境を守らなければならない」と述べた。
TPPは日本国民や米国国民の利益を守るための協定ではない。グローバルに活動を広げる強欲な巨大資本の利益を極大化させるための協定である。
トランプ氏がワシントンの少数の既得権者や、グローバルに活動を広げる強欲巨大資本=多国籍企業の利益を第一にするのではなく、米国国民の利益を第一に掲げると宣言したことは、完全に正しい。
 
驚くべきことは、日本の安倍首相が「米国第一主義」を掲げてきたことだ。
ここで言う「米国第一主義」は、「米国国民の利益第一主義」ではない。「米国の巨大資本の利益第一主義」なのである。
「米国の巨大資本」=「多国籍企業」=「ハゲタカ」である。
つまり、安倍首相が推進している政策の基軸は、「ハゲタカファースト」なのだ。
 
メディアが反トランプ攻撃を続けている最大の理由は、トランプ氏が「ハゲタカファースト」のスタンスを示していないからである。
トランプ氏は明確に「ハゲタカの利益を抑制して」「米国民の利益を最優先する」と述べている。
これが、ハゲタカにとっては許し難いことなのである。
ハゲタカは、世界市場を統合して、利益を極大化することを目指している。
この目的を実現するには、ヒトの移動 カネの移動 モノの移動 のすべてを完全自由化することが必要だ。
しかし、これは、ハゲタカの利益を極大化するものではあっても、米国国民の利益を極大化するものではない。
トランプ氏は、「一つずつ工場がシャッターを閉め、海外へ流出していったのに、取り残された何百万人もの米国人労働者のことは一顧だにされなかった」と述べたが、政府が「ハゲタカファースト」の政策を遂行したために、米国民が犠牲を強いられてきたことは紛れもない事実なのである。
トランプ氏の演説内容を、色眼鏡を外して、じっくりと読み解くことが必要である。
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トランプ大統領に一番当惑しているのはマスメディアだ。
日々雑感 2017年1月21日
 日米ともマスメディアはトランプ氏を泡沫候補だと扱っててきた。少なくとも昨年夏にトランプ氏が正式に共和党の大統領候補になるまではそうだったし、その後も11月の大統領選投票日までヒラリー氏の当選を既成事実のように語っていた。
 日本のマスメディアは碌に現地取材もしないで、米国最大手のCNNのヒラリー圧勝の記事を垂れ流していた。そして大統領候補にトランプ氏が決まった後もTPP離脱を表明しているにも拘らず、安倍氏はなぜか必死になって推進し、トランプ氏が時期大統領になってからも「いや、トランプ氏の翻意を促す」などと出来もしないことをほざいていた
 
 それに対して批判すべき立場にあるマスメディアまでもグローバル化こそが正義だ、とばかりにトランプ氏を素人政治家呼ばわりして小馬鹿にする報道を繰り返してきた。馬鹿なのは世界の潮流がグローバル化から反・グローバル化に転じているにも拘らず、CNNなどから刷り込まれたグローバル化から脱却できないでいる日本のマスメディアだ。
 登場する評論家たちもマスメディアの幇間だからトランプ氏に批判的な論調だ。「米国は分断される」だの「人種差別が深刻化する」だのと、時代錯誤の暴論を繰り返している。しかし米国は元々分断国家だったし、深刻な人種差別がいまもある、現実の米国を認識していないのはむしろマスメディアの方ではないだろうか。
 
 トランプ大統領は日本のマスメディアが心配しているようなことではなく、もっと基本なことで日本に譲歩を迫って来るのではないだろうか。トランプ氏が公約に掲げていた国内投資を増やして内需拡大策を実施すればドル高になり、トランプ氏が掲げる「アメリカ・ファースト」の足を引っ張りかねない。
 
 そうなればトランプ氏はどうするか、プラザ合意の悪夢が繰り返されることになりかねない。そのことに対する対応策を講じることが安倍自公政権に出来るだろうか。当然、日銀の異次元金融緩和策を転換して金融引き締めを行わなければならず、日本も米国以上に財政出動して内需拡大策に本気で乗り出さなければならなくなる。その場合、財政規律を主張する財務省を捻じ伏せることが出来るだろうか。
 そうした心配をすべきだが、まだマスメディアはトランプショックの只中にある。似たようなトランプ大統領に余計な杞憂を垂れ流すテレビ番組を報じ、新聞も似たような記事を垂れ流して安心している、という体たらくだ。
 ジャパンハンドラーという飼い主が突如としていなくなった日本の政治とマスメディアの中枢部が正気を取り戻すにはまだ何日か必要なようだ。
 
 
トランプ新政権 TPP離脱の方針を表明
NHK NEWS WEB 2017年1月21日
トランプ新政権はホワイトハウスのホームページで政策課題のひとつとして通商政策をとりあげ、TPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱すると明らかにしました。協定の発効には、アメリカの承認が欠かせず、去年、日本を含む12か国が署名したTPP協定は発効のめどが立たなくなりました。
(中 略)
日本の通商戦略に大きな影響も
(中 略)
日本政府内では、TPPは経済規模が大きいアメリカの参加を前提に、各国が一定の譲歩をして合意したことから、アメリカが抜ければ11か国の協定を新たに取りまとめることは難しいという意見が大勢です。このため日本政府は、トランプ新政権や議会の関係者に対し、粘り強くTPPの意義を説明して、国内手続きを進めるよう働きかけていく方針に変わりありません。
 
一方、トランプ大統領は、これまで通商交渉はTPPのような多国間ではなく、二国間で進めるという方針を示していて、今後、日本に対しても2国間の交渉に応じるよう求めてくる可能性もあります。日本政府としては、あくまでTPPを優先すべきだとしていますが、安全保障など幅広い分野で協力関係にあるアメリカに対し、みずからの主張を貫けるか不透明です
(後 略)
トランプ新政権の貿易政策は
トランプ新大統領は就任前から、アメリカ国内の雇用が奪われるとして、TPPについて離脱する考えを示していたほか、NAFTAについても見直す考えを示し、アメリカへの輸出に関税がかからないメキシコに工場を移転する動きを厳しく批判していて、その矛先はトヨタ自動車など外国のメーカーにも向けられていました。
(中 略)
ピーターソン国際経済研究所のゲイリー・ハフバウアー上級研究員は、「トランプ氏の企業への“脅し”は、ビジネスマンとしての彼のテクニックだ。商務長官に指名したロス氏や通商代表に指名したライトハイザー氏にも、外国の政府と交渉する時に、交渉の武器として“脅し”を使ってほしいとトランプ氏は望んでいる」と話しています。
(後 略)