兵庫県の第三者調査委員会が元県民局長(公益通報者)の私的情報を県議らに見せたのは井ノ本知明元総務部長であり、それを指示したのは斎藤知事である可能性が高いと結論付けました。この行為は明らかな人権侵害であり、地方公務員法違反です。プライバシーを侵害され、そのことで脅迫を受けた元県民局長は自死されました。
同委員会が5月27日に調査結果を公表したのを受けて、翌日と翌々日に以下の6紙が一斉に斎藤知事に辞職を勧告する社説を掲載しました。これまでの同知事の行為や態度等への批判がベースにあることは言うまでもありません。
各紙社説の要点は下記の通りです。
信濃毎日新聞 斎藤氏は自ら辞職を決断すべきだ
朝日新聞 県政を担う資格はない 県議会の役割が再び試されている
毎日新聞 行政トップとしての任に値しない もう言い逃れは許されない 自らけじめをつけるべきだ
読売新聞 知事の任に値しないことは明らかだ 自ら進退を決しないのであれば、県議会が改めて辞職を迫ることも選択肢
産経新聞 知事としての資質が疑われる。自ら進退を判断すべきである 県議会には斎藤氏を厳しく追及する責務がある
神戸新聞 進退が問われてもおかしくない。自らの非を認め、責任の重大さを直視しない限り、信頼回復は望めない
以下に紹介します。
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〈社説〉斎藤兵庫県知事 過ちを認め辞職すべきだ
信濃毎日新聞 2025/05/28
内部告発者のプライバシーの漏えいは、知事らが指示した可能性が高い―。驚きを禁じ得ない結論である。
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑を告発する文書を作った元県民局長の私的情報を、井ノ本知明元総務部長が県議らに見せたとされる問題だ。弁護士3人による県の第三者委員会が調査報告書を公表した。
井ノ本氏が昨年4月ごろ、元局長の私的情報を県議3人に漏らしたと認定。「知事や元副知事の指示により、県議会一部会派への『根回し』の趣旨で漏えいを行った可能性が高い」と結論づけた。
当初、井ノ本氏は第三者委に対し漏えいを否定したが、その後弁明書を提出。漏えいを認めて「知事及び元副知事の指示に基づき総務部長の職責として正当業務を行ったにすぎない」と主張した。
第三者委が追加で調査したところ、指示があったとされる場に同席した元幹部も、知事から指示があったことを認めた。
斎藤氏は第三者委の聴取に、関与を全面的に否定。報告書が出た後も、漏えいについて「指示はしていない」と主張。「組織の長として責任を感じている」として自身の給与カットなどの処分を検討しつつ、辞職は否定した。
調査を重ねた報告書の指摘は重い。中でも見過ごせないのは、漏えいの動機だ。「元県民局長の私的情報を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する点にあった」とする3議員の供述に「一定の説得力がある」としている。
兵庫県政の混迷は昨年春、告発文書問題が起きた際の斎藤氏の対応にさかのぼる。告発された斎藤氏自身が“犯人捜し”に乗り出し、告発文書を「誹謗(ひぼう)中傷」と決めつけて懲戒処分を急いだ。その後元局長は死亡した。
別の第三者委員会が今年3月、告発は公益通報者保護法の外部通報に当たると判断。公益通報と扱わずに元局長を懲戒処分にした対応を「違法」と結論づけた。
斎藤氏は対応を適切とする自説を曲げず、通報者保護の体制整備を巡り、法令順守を軽んじるような発言をしている。県政の違法状態が放置されている。
不正をただそうと声を上げた職員を、法に従って守るどころか、おとしめていた。漏えいを指示した可能性が、県政トップに浮上している。行政組織を率いる資質に欠けることは、今回の報告書で決定的である。斎藤氏は自ら辞職を決断すべきだ。
(社説)斎藤氏の責任 進退が問われている
朝日新聞 2025年5月29日
斎藤元彦知事ら兵庫県にまつわる問題を告発した元県民局長の男性に関し、前総務部長が男性の私的情報を県議に漏洩(ろうえい)した。知事の指示のもと行われた可能性が高い。
男性の人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾(だんがい)する目的だった、との説明に説得力がある。
県の第三者委員会が報告書をまとめ、公表した。県から独立した弁護士3人が資料を分析し、聞き取りを重ねて導き出した結論である。驚くべき事態だ。
斎藤氏は自ら告発文書を入手し、前総務部長ら側近グループに調査を命じ、男性への懲戒処分に至った。男性の人権を傷つけ、公益通報者保護法を踏みにじる一連の対応を主導してきた斎藤氏は「(前総務部長に)指示をした認識はない」としつつ自身の減給処分に触れたが、問われているのはその進退である。
前総務部長は今年2月、県に弁明書を提出。調査で押収した男性の公用パソコンから私的文書が見つかったことを斎藤氏に報告した際、知事から「議員に情報共有しといたら」という趣旨の指示を受けた、と説明した。
第三者委が同席していた前理事や、知事の最側近だった前副知事から話を聞いたところ、3人の話がおおむね一致した。斎藤氏は指示を否定したが、その内容に不自然さが否めないとして、第三者委は知事の供述を「採用することが困難」とした。
前総務部長による漏洩疑惑は、昨年7月に週刊文春が報じた。斎藤氏は会見で、(前総務部長らに)確認したがいずれも関与を否定した、と述べていた。この説明は虚偽だったのか。
知事は県議会の不信任決議を経て失職し、出直し知事選で再選されたとはいえ、新たな事実の発覚に伴う責任は免れない。「私の責任は県政を前に進めること」と再び語ったが、県政を担う資格はないと言うほかない。
公益通報者保護法は、通報者への不利益な取り扱いを防ぐ体制整備を自治体にも義務づけている。男性のマスコミなどへの告発は、県庁窓口以外への外部公益通報だと別の第三者委に認定された。
しかし斎藤氏は、整備義務の対象について「内部通報に限定されるという考え方もある」と繰り返し発言。法を所管する消費者庁が「外部通報も対象」として、全国の自治体に通知を出すに至った。
知事とともに県民を代表する県議会の役割が再び試されている。斎藤氏の再選後は慎重な姿勢が目立つが、毅然(きぜん)と対応すべきだ。
社説 兵庫知事が「漏えい指示」 もう言い逃れは許されぬ
毎日新聞 2025/5/28
事実なら言語道断である。行政トップとしての任に値しない。
斎藤元彦・兵庫県知事のパワーハラスメント疑惑を告発した元県西播磨県民局長の私的情報が漏えいした問題で、知事自らが指示した可能性が高いと県の第三者委員会が結論づけた。
県は告発者を特定する過程で、元県民局長の公用パソコンを調べ、私的情報のファイルを見つけた。第三者委の調査報告書によれば、2024年4月に元総務部長が知事に私的情報の内容を報告した上で、3人の県議に知らせた。
知事の側近だった元総務部長は当初、県議との面会すら否定していたが、調査の途中で主張を翻した。今年2月に「弁明書」を第三者委に提出して漏えいを認めた。知事らの指示に基づく「正当な業務」だったと説明したという。
元総務部長の違法行為を知事自身がそそのかしていた疑いが浮上したことになる。
知事は第三者委の事情聴取に「元総務部長が独自の判断で議会側との情報共有をしたと思う」などと指示を否定した。報告書の公表後も、報道陣に対して「漏えいの指示はしていないという認識に変わりない」と述べた。
しかし、報告書によれば、私的情報を県議と共有するよう知事からの指示があったと、元副知事ら複数の幹部が証言した。否定するのなら、説得力のある説明をする必要がある。
私的情報を見せられた県議は、その目的について「元県民局長の人格に疑問を抱かせ、告発文書の信用性をおとしめる目的があった」と認識していたという。
知事自身も「元局長の公用パソコンには倫理的に不適切な文書があった」などと、私的情報を暴露するような発言をしてきた。
元県民局長は、告発文書が「誹謗(ひぼう)中傷にあたる」として懲戒処分を受けた後、24年7月に死亡した。自殺とみられる。
私的情報の漏えいが元県民局長を死に追い込んだ可能性もある。知事の疑惑を追及していた元県議も中傷を受けて死亡している。
もう言い逃れは許されない。知事は自らけじめをつけるべきだ。
兵庫漏えい問題 告発者の人格を貶める卑劣さ
読売新聞 2025/05/29
知事のパワハラ疑惑を告発した県職員の私的な情報が外部に流出し、その漏えいを指示したのが知事本人だった疑いが強まっている。
告発者の人格を 貶(おとし)め、告発が虚偽だと印象づける狙いがあったのなら、卑劣極まりない。公益通報制度の根幹を揺るがしかねず、知事の責任は免れない。
兵庫県の斎藤元彦知事に関する内部告発問題で、県の第三者委員会は、告発した前県西播磨県民局長の男性の私的情報を、前総務部長が県議3人に漏えいしたと認定する調査報告書を公表した。
第三者委の調べに、前総務部長ら複数の幹部が「知事から『情報共有しておいたら』と指示を受けた」と証言しており、報告書は「漏えいは斎藤氏の指示だった可能性が高い」と結論付けた。
斎藤氏は記者会見で「指示していない認識だ」と否定したが、問われているのは「認識」ではなく「事実」だ。事実を認めたくないという姿勢ばかりが目立つ。
告発内容とは無関係の、告発者自身の私的情報を県議会に漏えいさせたことは、議会への根回しという形で「告発者潰し」を狙ったとの見方が強い。前局長はその後、死亡した。自殺とみられる。
これまでも斎藤氏は、人ごとのような対応を繰り返し、責任逃れに終始してきた。
前局長が告発した内容の事実関係を調査した別の第三者委から、知事のパワハラを認定され、内部告発への対応について「違法」「不適切」と指摘された際も、県の対応は適切だったと強弁し、自身への処分は行わなかった。
公益通報制度に関する斎藤氏の発言について、消費者庁が「公式見解と異なる」と苦言を呈した時も、「一般的な法解釈のアドバイスをいただいた。重く受け止めたい」と述べるにとどまった。
今回、情報漏えいについて「組織の責任」という形で、自身への処分と前局長の遺族への謝罪を検討すると述べたが、漏えいへの自身の関与は認めていない。それでは、遺族は到底納得できまい。
県政の混乱は一向に収まらない。兵庫県では昨年度、知事部局の退職者が100人を超えた。県は転職市場の活性化を理由に挙げるが、斎藤県政に見切りをつけた人も少なくないのではないか。
斎藤氏が知事の任に値しないことは明らかだ。いつまで問題の深刻さから目を背け、居直り続けるつもりなのか。自ら進退を決しないのであれば、県議会が改めて辞職を迫ることも選択肢だろう。
<主張>兵庫県の情報漏洩 斎藤知事は進退の判断を
産経新聞 2025/5/29
看過できない重大な指摘である。
兵庫県の斎藤元彦知事に関する内部告発問題で県の第三者委員会が、告発者の私的情報を元総務部長が県議3人に漏洩(ろうえい)したと認定した。漏洩は、斎藤氏らの指示だった可能性が高いと結論づけた。
だが、斎藤氏は「指示したという認識はない」と関与を否定した。十分な説明もなく、「一つのご指摘」とにべもない。
時間と税金をかけて第三者委に調査を求めながら、その指摘を受け流すかのような物言いに啞然(あぜん)とする。真相を知らされるべき県民を軽視するものだ。
漏洩に関しては「組織の長として責任を感じる」と自身の給与カットなどを示唆したが、部下の管理責任だけは負うというのでは理解を得られまい。これで批判をかわせると考えているのなら心得違いも甚だしい。
元総務部長ら幹部3人は「指示」があったとしており、第三者委の指摘の蓋然性は高いとみるべきだ。否定するなら納得できる説明が必要である。それがない以上、知事としての資質が疑われる。自ら進退を判断すべきである。
報告書によると、元総務部長は「知事から(私的情報を)議員に共有しておいたら」と指示されて昨年4月、印刷した私的情報を県議3人に示し、一部を口頭で説明して漏洩した。
報告書は「私的情報の暴露で(告発者の)人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾する」ことが目的とした。極めて悪質な行為だ。
一連の問題で県は3つの第三者委を設置し、今回で全ての調査報告書が出そろった。だが斎藤氏はパワハラを認めたものの、多くの指摘に対しては自身の主張を変えようとしない。
3月の報告書では斎藤氏が告発文書作成者の特定を指示したのは公益通報者保護法に反すると結論づけたが、斎藤氏は「対応は適切だった」とした。
公益通報の体制整備を巡っては、消費者庁から、内部通報だけでなく外部通報も対象だとする指摘を受けたのに、いまだに対処しようとしない。こうした不誠実な姿勢で県政を適切に運営できるのかは疑問だ。
県議会には今回の指摘を踏まえた関係者聴取などで斎藤氏を厳しく追及する責務がある。自浄能力がなければ地方自治を担えないと銘記してほしい。
<社説>私的情報漏えい/知事は自らの責任直視を
神戸新聞 2025/5/29
県政のトップ自らが情報漏えいを指示した可能性を指摘される異例の事態である。進退が問われてもおかしくない。
兵庫県の斎藤元彦知事らへの告発文書問題で、文書を作成した元西播磨県民局長(故人)の私的情報を前総務部長が県議らに漏らしたとされる疑惑を調べた県の第三者調査委員会が報告書を公表した。前総務部長が県議3人に漏えいしたと認定し、「知事や元副知事の指示により県議会への『根回し』の趣旨で開示した可能性が高い」と結論づけた。
きのうの会見でも知事は「漏えいの指示はしていない」と関与を否定した。だが知事以外の関係者の証言とは食い違っており、県民の納得は得られまい。知事は「組織の長としての責任」を理由に自身の減給処分を表明したが、文書問題を巡る一連の対応については「適切だ」との見解を繰り返す。自ら設置した第三者委の結論を受け入れない態度は、存在意義を否定するようなものだ。
前総務部長は井ノ本知明(ちあき)氏で、県は停職3カ月の懲戒処分とした。地方公務員法(守秘義務)違反の疑いが強く、県庁内には「処分が軽すぎる」との指摘もある。井ノ本氏は「知事や元副知事の指示に基づき、部長の職責として正当業務を行った」と主張し、審査請求をするという。
報告書によると、県議3人が昨年4月、元県民局長の私的情報が印刷された資料を総務部長(当時)から見せられたと証言した。井ノ本氏は当初漏えいを否定したが、後に提出した弁明書で、知事から「そうした文書があることを議員に情報共有しといたら」との趣旨の指示を受け、県議に口頭で説明したと認めた。
他の元幹部らも井ノ本氏の主張に沿う証言をしており、知事の説明だけが異なる。第三者委は知事の供述は不自然で「採用は困難」とした。知事は説明を尽くすべきだ。
見過ごせないのは、漏えいの目的だ。第三者委は「元県民局長の人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾する点にあった」とする県議の見方を支持した。私的情報は告発内容とは無関係で、告発者をおとしめる行為は許されない。
私的情報は政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏も入手し、交流サイト(SNS)に投稿、拡散された。調査した別の第三者委は県職員関与の可能性が高いとした。県は運営企業に削除を申請したが、プライバシー侵害は今も続く。
知事は自身のパワハラや公益通報者保護を巡り、第三者委から違法性などの問題を指摘されながら正面から受け止めてこなかった。自らの非を認め、責任の重大さを直視しない限り、信頼回復は望めない。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。