「世に倦む日々」氏が掲題の記事を出しました。
自民党の野村哲郎元農水相は31日、鹿児島県での会合で、随意契約による備蓄米の売り渡しを就任早々に決めた小泉農水相に対し党の了承手続きの一環として農林部会に諮っていないとし「自分で決めて自分で発表してしまう。ルールを覚えてもらわないといけない」と苦言を呈しました(江藤拓前農水相も、当初の段階で「本来、米価は市場原理に任せるべき」と平然と口にしていました)。
これに対して小泉農水相は「ルールは存じ上げてるつもり」「一つ一つを党に諮らないといけないのならスピード感を持った大胆な判断はできない」「今回のような随意契約に切り替えるということも党に諮らなければいけないとしたら5月31日に備蓄米が店頭に並ぶことはなかった」などと反論しました。
2年前には5キロ1300円弱であったコメが、1年前に1900円になり、今年になって4200円になった現状が「本来」のものである筈がありません。低所得で食べ盛りの子どもを持つシングルマザーの家庭にとって、この高騰がどんなに苛酷であるのかが国会議員に分からないのは実に不思議な話です。
世に倦む日々氏は、経済学者の金子勝氏が5月23日の動画で「業者がコメの値段をつり上げて利益を得るのは自由な市場原理の行動」と合理化したことを批判し、「この1年間を追跡すれば、どう考えても投機が介在してい」ると述べます。コメという「主食に対する投機も認めるべき」というのは間違いです。この異常な高騰は投機起因と考えるしかありません。
問題は、コメの高騰に関与している業者は今の高値を維持するために『小泉氏による備蓄米(古古古米)がタネ切れになる』のを待っておもむろに市場に出すという作戦に対してどうするかですが、「5キロ1000円台の東南アジア産のコメを需要がある限り緊急輸入し続ける」ことで防げるとされています。
日本のコメ農業を守るために「外国産のコメは輸入禁止」が本来の姿ですが、緊急事態においてはその国是は解除されるべきです。主食に関する「食糧安保」は絶対的に必要だったのにこれまではそうなっていませんでした。農水族議員の責任は重大です。
その根本問題は今度の異常事態を良い契機にして本格的に解決を目指すべきですが、先ずは当面のコメの高騰をどう解決するのかが喫緊の課題です。今の段階で『小泉改革』をあれこれ批判するのは間違いで、どのようにして成功させるかにこそ知恵をしぼるべきです。
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小泉劇場化する進撃の備蓄米プロジェクト - コメ価格を下げようとしない野党
世に倦む日日 2025年5月31日
江藤拓の農水相辞任から10日が過ぎ、5月も終わろうとしている。テレビは、ずっと備蓄米とコメの価格問題一色なのだけれど、その報道内容には違和感を覚える。1年前と比べてコメの価格が2倍に高騰している現実に対して、国民の窮乏や呻吟や拒絶が表出されたり代弁される場面が少なく、むしろそれを肯定し容認する感想や議論を多く見るからだ。不思議だ。もしフランスで、国民が三食口にするパンが急激に高騰し、1年間に値段が2倍に跳ね上がったなら、そして、その原因が小麦粉の買い占めと投機によるものだったら、フランス社会はかく平穏でいられるだろうか。おそらく、市民が群衆を成して強力な抗議デモの波を打ち、例によって過激な一部がパリ街頭で暴徒化して世界の耳目を集め、政府は投機の規制と取締りに全力を挙げる展開になるだろう。それが手ぬるかった場合は、政権が倒れる事態に陥るに違いない。なぜ日本は静寂なのか。
コメの価格は1年前の2倍以上になっている。物価高のため、実質賃金は下がり、年金収入は目減りし、節約を強いられた日本人の家計消費支出は2年連続で減っていて、特に食料品への支出が前年比で1.0%マイナスになっている。エンゲル係数は43年ぶりの高水準となった。この3年ほど、食料品もエネルギーもあらゆる物価が高騰する中、自給率100%のコメだけはありがたく価格が安定し、頼りになる庶民の生活の味方だった。そのコメが、昨年から1年の間に1900円から4200円になった。低所得で食べ盛りの子どもを持つシングルマザーの家庭には苛酷な状況だろう。日本人一人当たりのコメの消費量は年間51キロ。50年前の半分の量に減っている。月に4.2キロ食べる計算になる。5キロが1900円から4285円となった価格を4.2キロに換算すると、2000円になる。つまり、一人当たり毎月2000円の出費増なのだ。
2人世帯だと毎月4000円の出費増となり、3人世帯だと毎月6000円、4人世帯だと毎月8000円の出費増となる。コメだけで確実にこの負担増となる。低所得の家計にとってのインパクトは小さくない。今回のコメ価格高騰について、鈴木宣弘や金子勝は、供給が減っているところへ需要が多くなったから価格が上がったのだと言い、需給バランスの崩れが原因だと解説している。スミス的な「神の見えざる手」が帰結させたと言い、すなわち「作為」ではなく「自然」の法則の結果だと理由づける。鈴木宣弘は、買い占めや投機は行われてないと言い、金子勝は、コロナ明けのインバウンド需要の急増が原因だと指摘している。それでは金子勝に訊きたいが、コロナ明けのインバウンド増がコメ高騰の原因だと言うのなら、なぜ、砂糖や醤油や食用油や牛乳は2倍に高騰してないのだ。なぜコメだけが2倍に急騰するのだ。不自然だろう。説明できないだろう。
金子勝らの理由づけは牽強付会だ。鈴木宣弘や金子勝らの説明は、政府の減反政策を批判するところに結論と主眼があり、減反政策をやってきたから供給が減り、在庫量がインバウンドの需要増に対応できなくなったのだとする。政府自民党を叩く議論だから、左派が納得し、これが合理的な解として世間に浸透する言説状況となっている。「自然災害」の図として了解され、暴利を企んで買い占めを行った転売業者の存在と悪行は認識されない。減反政策を続けてきた政府が悪者になり、増産をすれば問題解決すると言う。そして、5キロ4200円のコメ価格を不当視しない。金子勝の 5/23 の動画解説を見たが、本当に驚いてしまった。業者がコメの値段をつり上げて利益を得るのは自由な市場原理の行動だと合理化しているのである。信じられない言動に接し、途中で不愉快で動画視聴をやめた。鈴木宣弘も金子勝も、現在のコメ価格が高すぎると言わず、異常だと批判しない
その点は、徳永エリや舟山康江も同じであり、森山裕も同じである。高すぎると言っているのは小泉進次郎で、小泉進次郎だけが圧倒的多数である消費者国民の声を代弁している。当然、小泉進次郎に人気が集まる。5/25 の共同通信の世論調査では、小泉進次郎の登場によってコメ価格が「下がると思う」と期待した割合が59.8%となった。同じ 5/25 の日経・テレ東の世論調査でも小泉進次郎に「期待する」が65%になっている。間もなく出るTBSの世論調査でも、その次に出るNHKの世論調査でも、同様の結果が示され、高い評価と支持が反映された結果となるだろう。小泉進次郎は農水相就任早々、6月上旬に2000円の備蓄米を出すと公約したが、5/31 に前倒しで店頭に並ぶ成果を出した。非常にスピードが速く、官民が一致協力してダイナミックにプロジェクトXを動かしている。国民の求める政策実現のために、日本政府がこれほど迅速に行動する図を暫く見たことがない。
驚いたのは、中小の事業者を相手の古古古米の随意契約に、農水官僚が実際に動いたことだ。この着手と実行については半信半疑で見ていたが、躊躇なく 5/30 から動いた。街の中小スーパーや小さな米穀店が対象であり、小泉進次郎によると万単位で申し込みが来ている。40人の「コメ対策集中対応チーム」がメールで注文を受け付けていて、小口の得意先からの膨大な受注を捌いている。審査確認をし、出荷を機動的に手配している。彼らにとって初めての経験だろう。この営業業務がどれほど煩瑣なワークロードと工数か。東大出の官庁の役人は、普通、こんなドブさらいのような事務仕事はしない。私は、仮に失敗しても、今度の農水省の小泉備蓄米の直販行動に拍手を送ってよいと思う。よくチャレンジに出たものだし、果敢にスタートダッシュしたものだ。プロジェクト全体を設計・統括している官僚がいて、その幹部は、江藤拓による姑息な備蓄米遅延(米価つり上げ)に反対だったのだろう。
この小泉備蓄米の政策プロジェクトは、電通が全面的にバックアップしている。テレビを見ていてよく分かる。戸田のマルヤスの松井順子社長は、今回の小泉備蓄米プロジェクトのイメージガールであり、このプロジェクトに国民の支持を集めるためのシンボルキャラクターだ。まさしく電通的な手法であり、巧妙にマーケティングをドライブしてモメンタムを作っている。20年前の純一郎の「小泉劇場」を想起させる。あれも演出は電通だった。電通が成功させた政治事業だった。松井順子のマルヤスのオフィスは、本当に小さな、多忙な民間企業の営業事務スペースであり、彼女の仕事ぶりは、いかにも厳しい環境で薄利で一生懸命やっている日本の中小企業を象徴していて、多くの日本人を共感へと誘うものだ。このプロジェクトを通じて、いろんな民間の現場で働く人が出て来る。農家や小売や飲食店の人たち。その人間模様が面白く、ワイドショーの視聴率を取るコンテンツになることが分かる。
5/30 のゴゴスマを見ていたら、品川の内田米店の社長が登場して、石塚元章とのやり取りの中で重要な証言を発していた。今回のコメ価格高騰には業界の暗部があり、同じ現物を複数の業者が転売して価格をつり上げていた実態があると暴露した。一部上場の大手の卸売業者が、24年度の決算で莫大な利益を出している事実も語っていた。金子勝と鈴木宣弘は、今回のコメ価格高騰には投機の介在はなく、すべてスミス的市場原理の需給バランスの為せる業だと言うのだが、われわれ庶民の目からこの1年間を追跡すれば、どう考えても投機が介在していて、国民の主食であるコメの価格安定が阻害された深刻な社会禍に見える。もし買い占めと転売の投機が事実であり、証拠づけられるなら、その卑劣な業者は国民の前で糾弾されるべきで、責任を問われなければならないだろう。金子勝のようにそれを「市場原理」の論法で擁護することはできない。コロナ禍時のマスクの転売ヤーと同じ市民社会の敵だ。
5/28 のミヤネ屋では、田崎史郎が出演し、やはり投機筋が絡んでいる事情を示唆していた。コメを抱え込んだまま高値売り抜けで換金暴利を狙っている転売業者がいて、小泉備蓄米政策が成功して市場の空気が変われば、投機筋が抱えたコメを手放し、コメの市場価格が元に戻ると言う。私もその見方で同じだが、そうであれば、もし投機筋がコメを抱えたまま今夏を堪えきり、先に小泉備蓄米が払底して弾切れになった場合は、4200円の市場価格は崩れず、高い新米が出て来て市場はまた高値に流れてしまう可能性がある。暴利に味をしめた投機筋が、さらに精力的に、農家から新米を高価かつ大量に買い占めれば、市場価格は4200円を超えて5000円、6000円と際限なくつり上がるだろう。そのとき2000円の備蓄米はなく、高騰に歯止めをかける市場的手段はない。田崎史郎の分析はそういう意味であり、小泉備蓄米の放出の後の8月頃がコメ価格が下がるかどうかの正念場らしい。
それに対して、小泉進次郎と農水省チームの側は、投機を迎撃する戦略と勝算があるようだ。その中身はというと、安い小泉米をどんどん放出して行けば、その分、高い江藤米が毎月余って増えて行く。投機筋の在庫が嵩んでお手上げになる。それを政府が再備蓄米として買い戻し回収することで、2000円で出す小泉米が追加で補充できるという想定らしい。小泉米は毎月20万トン放出される。この量は、日本人が消費する毎月60万トンのコメの3分の1を構成する。ということは、6月7月8月と3か月で60万トンの非小泉米が掃けずに在庫に残る勘定になる。2025年の新米は9月から店頭に並び始め、今年は収穫量を増やす計画で動いているため、消費量が同じである以上、在庫だけが一方的に増える計算になる。転売業者には損益上の圧力になる。まさに市場と政治の熾烈な駆け引きが行われており、勝負のポイントは 7/20 の参院選の結果となろう。投機筋は小泉失脚を望んでいるだろう。
今回、野党は何もしなかった。去年の夏・秋からコメの価格高騰は深刻な問題になっていたのに、野党は怠慢して対策に動かず、衆院選の争点にもせず、「年収の壁」の方に関心を逸らして点数を稼ぐばかりだった。明らかに、徳永エリの発言に典型的なように、野党はコメ価格高騰に容認姿勢(=金子勝・鈴木宣弘)であり、生産者の農家の利益の方を重視する政治的立場で一貫していた。農協や自民党農水族と一体だった。農村票に配慮し忖度していた。だから、コメ価格高騰を抑制する政治が全く起動しなかったのであり、私はそれを「オリエント急行殺人事件」の比喩で風刺したのだが、今回ようやく、参院選で自民党が惨敗する恐怖を前に、背に腹を代えられなくなって小泉進次郎が登板、コメ価格を下げようとする政治が初めて出現し、国民の喝采を浴びている。本来、いま小泉進次郎が行っている政策こそを野党が要求し、備蓄米流通の具体案を提示し、国民の支持を集めるべきだった。
国会は国政調査権を持っている。現在、衆院は野党が多数であり、その権力を行使していくらでもコメ価格問題に対処することはできた。不当な投機事案がないか実態解明すべく、関係者を呼んで喚問すればよかった。農家、農協、卸、小売、農業経済学者、消費者(シングルマザーや子ども食堂運営者)を国会に呼び、質問して意見を聴き、いわゆる「流通の目詰まり」とか「需給バランスの崩れ」の真相を聴取・究明すればよかった。議員団を現地に派遣して徹底調査すればよかった。通常なら、例の「合同ヒアリング」なる活動を野党が立ち上げ、マスコミを集め、官僚や関係者を座らせ、賑々しい政治活劇の幕が演じられるものである。NHKの7時のニュースやテレ朝の報ステで編集されて放送され、視聴者国民の留飲を下げ、政府の政策に変更を加える契機になっていたものだった。今回、野党は、コメ価格問題について国会で何もせず、合同ヒアリングもせず、調査団派遣もしなかった。コメ価格問題は野党に等閑され無視されていた。価格高騰は是認され放置されていた。
日本共産党も同じであり、無言で知らんふりしているか、金子勝らと同じ抽象的で一般論的な政府批判の言説でお茶を濁している。農協に忖度している。現在の暴騰したコメ価格を下落させ適正化させようという意思がなく、物価高で困窮する弱い消費者を救おうという態度がない。呆れる。