2019年11月29日金曜日

アベ政治の食い物にされた教育行政の惨状 その2 (寺脇 研氏)

 寺脇 研氏によるシリーズ「アベ政治の食い物にされた教育行政の惨状」の6と7を紹介します。このシリーズは今回で終了します。

 これまでの「共通1次試験」~「センター試験」は700の会場で行われましたが、それでも離島や山間部に住む者にとっては宿泊の必要があるなど地域格差があったし、受験料も国公立を目指す場合1万8000円と決して安くはなかったのですが、それらは不可避的なものとして大きな問題とされたことはありませんでした。試験の公平性に疑いがなかったからと考えられます。
 しかし民間試験はそうではなく、(700よりはるかに少ない)会場数も受験料も民間の試験実施者の都合で決められた上に採点の公平性は全く期し得ないものなので、大反対が起きたのは当然でした。実施企業のベネッセコーポレーション唯一の営利企業他は公益法人など)下村博文元文科相や文科省とのズブズブの関係が周知されたことも勿論影響しました。
 しかも国語、数学の記述試験の採点にベネッセの子会社を選定した理由は競争入札で、教育的見地と無縁のものでした。
 萩生田文科相2024年度実施を目指し「今後1年をめどに結論を出す」と述べましたが、5年以上議論し導入準備が全く評価できない結果だったのに、それをたった1年で納得できる結論を出せるかは大いに疑問です20年度実施と初めから時限を切ったのが拙速を招いた愚を、再び犯してしまう可能性高いと見られています

 寺脇氏は、いずれにしても共通テストを民間に委託するのは無理で、各大学が行う2次試験との役割分担を時間をかけて改めて議論すべきであるとしています。英語4技能とか記述式とか、民間の手を借りなければならない種類のものは、各大学がその責任において2次試験に導入すればよく、受験生も、志望する大学からの要求であれば納得しやすいだろうとしています

 シリーズとは別に27日の日刊ゲンダイに「文科省やはりベネッセありき数学記述式死守に躍起の愚」とする記事が載りました。
 何としてもベネッセを除外したくない文科省は、数学の記述問題は実施したい意向のようなのですが、ではどんな問題になるのか ・・・「お笑いの記事」です。併せて紹介します。
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アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 6
共通1次から40年 なぜ「地域・経済格差」は問題視されず?
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/23
  寺脇  京都造形芸術大学客員教授
1952年、福岡市生まれ。ラ・サール中高、東大法学部を経て、75年に文部省(当時)入省。初等中等教育局職業教育課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任し、2006年に退官。ゆとり教育の旗振り役を務め、“ミスター文部省”と呼ばれた。「危ない『道徳教科書』」など著書多数。前川喜平元文科次官との共同企画映画「子どもたちをよろしく」が2月公開予定。

 従来のセンター試験では全国約700カ所の会場を使い、受験生の便宜を図ってきた。それでも、離島や山間部に住む者にとっては、宿泊の必要があるなど地域格差がなかったわけではない。受験料も、国公立を目指す場合1万8000円と決して安くはない。それでも、前身の共通1次試験以来40年間にわたり、地域格差や経済格差が大きな問題とされたことはなかった。
 それは、公が行う試験だからだろう。国会で決めた法律に基づいて行われるということは、いわば国民的合意によるというわけであり、いくぶんの格差があったとしても受容する範囲内と感じられる。民間試験はそうではない。会場数も受験料も試験実施者の都合で決められ、大学入試センターも文科省も口出しできない仕組みだ。事実、今回明らかになったように会場数ははるかに少ないし、受験料も高額だったりする上、大学入学共通テストの受験料にさらに上乗せされる。

 どう考えても、入試センターで新しい英語試験を行う方が受験生にとっては安心ではないか。予算がかかるとしても、それは必要なコストだ。時間がかかって英語力向上が遅れてしまうというのなら、それが完成するまでの期間は、2次試験において各大学がそれぞれの判断で独自試験を行うなり民間試験を活用するなりすればいい。
 にもかかわらず、準備も議論も不十分なまま導入を実施しようとしていたのである。その過程では、入試センターが選定した試験実施7団体のうちTOEICが参加を辞退するなどの一幕もあった。また、唯一の営利企業(他は公益法人など)であるベネッセコーポレーションは、下村博文元文科相や文科省との利害関係の深さが週刊誌報道などで指摘されている。そうした疑念が起きないよう「李下に冠を正さず」の姿勢も必要だった。

 ベネッセに関しては英語だけでなく、2020年度から新しく実施予定の国語や数学の記述問題の採点を子会社に全面委託することも問題視されている。採点に大量のアルバイトを使うというのが受験生を不安にさせた。採点基準は当然、出題する入試センターが決めるものの、そのすり合わせのために問題を事前にベネッセ側に示す点には、漏洩の心配が生ずる
 このため、記述問題についても導入中止を求める声が高まってきている。共通テスト初実施まで1年余りに迫った現時点でこれほどの問題続出は、異例の極みとしか言いようがない。


アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 7
経済原理の政治主導…「24年度実施」は再び同じ愚を犯す
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/24
 国語、数学の記述問題には、民間企業に採点を丸投げすることだけでなく、受験生を混乱させる要素がある。個別大学への出願の目安となる「自己採点」が難しいというのだ。大学入学共通テストの成績は、大学側には2次試験前に届くのだが、受験生本人には4月に通知されるので、自己採点してそれに見合う出願先を考えなければならない。成績によっては2次試験を「門前払い」されてしまうからだ。
 こうした不安を解消するために、文科省は国公立大学に対し、国語記述問題の成績を「門前払い」の判断材料に使わないよう要請すると報道されるなど、にわか対応策に追われているようだ。ドタバタ劇はまだまだ続きそうである。記述問題の採点にベネッセコーポレーションの子会社を選定した根拠は、なんと競争入札。教育的見地と無縁の経済競争原理に基づいて政治主導で拙速導入しようとしたことのツケは大きい

 英語民間試験に関しては、導入延期を決めた萩生田文科相が、2024年度実施を目指し「今後1年をめどに結論を出す」と述べている。5年以上議論した導入準備が、問題噴出で延期せざるを得ないほどズサンだったというのに、たった1年で結論を出せるのか。20年度実施と初めから時限を切ったのが拙速を招いた愚を、再び犯してしまう可能性は高い
 この際、共通テストと各大学が行う2次試験との役割分担を、時間をかけて改めて議論してみてはどうか。これまでの大学入試センター試験は、マークシートを採用して公平公正に採点できる方式を使い、受験生全員の5教科の基礎基本学力を測り、大学側に提供してきた。その上で各大学は、自らの開設する学部学科の専門性に沿って必要な学力を2次試験で測る。
 民間試験を導入すれば、センター試験に比べ地域格差、経済格差が大きくなるのは当然だ。英語4技能とか記述式とか、民間の手を借りなければならない種類のものは、各大学がその責任において2次試験に導入すればいい。受験生も、志望する大学からの要求であれば納得しやすいだろう。
 そして新しい共通テストは、出題を工夫してセンター試験の弊害といわれてきた暗記に頼る受験対策では対応できないような問題を用意し、これからの高校教育に求められる「主体的・対話的で深い学び」によって得られる学力を測れるようにすることにこそ全力を注ぐべきだと思う。 (おわり)


文科省やはりベネッセありき「数学記述式」死守に躍起の愚
日刊ゲンダイ 2019/11/27
 問題山積で来年度からの実施が疑問視されている「大学入試共通テスト」の国語と数学の記述式。臨時国会最終盤の大きな争点になっているが「国語は引っ込め、数学は残す」との落としどころが浮上している。
「国語は言葉の解釈の幅が広いこともあり、採点は、複数の採点者が議論しながら時間をかけて行います。50万人規模の採点を短期間で公平に行うのは物理的、技術的に不可能です。加えて、自己採点も難しい」(高校の国語教師)
 文科省は、国公立大学に共通テストの国語記述式試験を合否の判断材料としないよう要請する検討をしている。オススメできる代物ではないことは文科省も分かっているのだ。中止を求める声を抑えつけるのは簡単ではなく、実施見送りが現実味を帯びる。

 英語民間試験に続いて、国語記述式まで頓挫すれば、共通テストがらみの民間委託は数学記述式だけになってしまう。
数学まで見送ると、ベネッセに顔向けできない。文科省は何が何でも、数学記述式だけは死守しようと躍起になっている。記述式導入ありきで、いっそう採点しやすい問題になるとみられています」(文科省関係者)
 採点しやすい問題――。18年度に行われた共通テストの試行調査「数学I・数学A」の記述式問題を見て驚いた。例えば、第1問[1](あ)では、<「1のみを要素にもつ集合は集合Aの部分集合である」という命題を、記号を用いて「記述せよ」>という問題が出されている。答えは、{1}⊂Aなのだが、思考力や表現力が必要な論述からは程遠く、知っていて、書ければ解ける。選択肢から選ぶ「マークシート式」で問うのとほとんど変わりはない。思考力や表現力を問うという記述式の趣旨は完全に破綻している

■マークシートと変わらず無意味
「入試改革を考える会」の予備校講師・吉田弘幸氏が言う。
「文科省は、数学の記述式について“採点の精度”を強調して、実施しようとするでしょう。しかし、採点しやすさを追求するあまり、マークシートと変わらない問題になってしまっています。多額の費用をかけて記述式を導入する意味はもはやありません」
 国・数の記述式の採点業務は、ベネッセの100%子会社「学力評価研究機構」が、来年度から23年度まで約61億円で請け負っているが、今年度の契約費用は約1億900万円だ。文科省が優先すべきはベネッセのビジネスより受験生だろう。傷が浅いうちに国・数両方の見送りを決めるべきだ。