2025年1月15日水曜日

トヨタ 労災隠し? しんぶん赤旗が内部資料を入手 「とりあえず健保で受診を」と指導

 トヨタ自動車が、工場内で労働者が業務中に腰痛などの疾病を負った際、「とりあえず健康保険」での受診を指示して労災をすぐに使わせないようにしていることが同社のマニュアルなどでわかりました。関係者は「労災にさせない隠ぺいのシステムがトヨタのルールになっている」と語ります。しんぶん赤旗が報じました。

 トヨタの自動車製造の現場「けんしょう炎、バネ指、腰痛、膝・足痛と何かしらの症状をみんな抱えている。反復行動が多く、電動工具を1日に何千、何百回と使う中で指が曲がらなくなる。車の中での作業は中かがみ。腰痛がない人はいないのではないか」と社員Aさんは語ります。
 Aさんは10年ほど前 仕事中膝の靱帯損傷し、激痛が走りました上司の指示で整形外科を健保で受診すると医療費の3割自己負担になりました。労災だと本人負担がないにもかかわらずにです。また膝の痛みがひどく出勤できなかった時には上司から「年休をとるか、欠勤扱いにするか」の二者択一を迫られました労災では給与の約80%の休業補償(休業4日目から)が支給されるのにです。
 それだけでなく、「労災なのに健保で受診していた場合、それまで健保の保険者が負担してきた医療費を返還しなくてはならず」、本人に経済的負担が生まれます。
 Aさんは「『とりあえず健保』にしてしまうと、労災に切り替えるのは困難で、泣き寝入りした同僚も多い」と語ります。Aさんが2回目の受診の際に労災に切り替えることを上司に通告すると、5人の上司から個室で「労災にならない」「会社でケガや疾病が起きても病院では健康保険を使い、その後会社が調査して、労災かどうか判断する」などと言われ、「健保に戻すよう」にと(別の場でも何度も)繰り返し迫られました。
 労災を発生させるのは会社側の手落ちなので、パワハラまがいの圧力を掛けて極力それを防ごうというのがことの真相で、同紙の取材に対してトヨタ広報部「健康保険の使用を強要するといった運用は行っておらず、従業員本人の希望に寄り添った対応をしております」と文書で回答したのは、著しく実態と乖離しています
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トヨタ 労災隠し? 本紙が内部資料を入手 「とりあえず健保で受診を」と指示 厚労省「望ましくない」
                       しんぶん赤旗 2025年1月13日
 トヨタ自動車が、工場内で労働者が業務中に腰痛などの疾病を負った際、「とりあえず健康保険」での受診を指示して労災をすぐに使わせないようにしていることが12日、本紙が入手した同社のマニュアルなどでわかりました。関係者は「労災にさせない隠ぺいのシステムがトヨタのルールになっている」と語ります。(矢野昌弘)


【写真説明】トヨタ自動車の「〈最新〉労災手続きマニュアル」の表紙










【写真説明】「とりあえず健康保険…」にチェックするよう指示するマニュアルの処理要領(一部加工)


 本紙が入手したのは「〈最新〉労災手続きマニュアル」という冊子。トヨタの「安全健康推進部 総括G」の監修となっています。初版は2005年で、改訂を重ねています。
 同マニュアルによると、従業員が「疾病」を発症すると、工場内にある「健康管理室」にまず行きます。同室での指示で、外部の病院で受診する場合、「治療依頼書」をトヨタから渡されます。「依頼書」には「保険扱い」という欄があり、労災か健康保険のどちらで受診するか、チェックすることになっています
 同マニュアルは「『とりあえず健康保険でお願いします』の枠内に✓(チェック)印を打つ」としています。別のページにも「健保(暫定)で受診」と記されていました。

 社員Aさん(愛知県豊田市内の工場勤務)は10年ほど前の仕事中、膝に激痛が走りました。外部の整形外科で膝の靱帯(じんたい)損傷と診断されました。自身のケガは労災だと思っていたものの、上司の指示があり、健保で受診しました
 上司の対応に次第に不信感を持ったAさんは、労災への切り替えを病院に自ら申し出ます。複数の上司らと2回にわたり、健保に戻すよう個室で迫られました。約1年後、労働基準監督署はAさんのケガを労災と認定しました
 厚生労働省労災保険業務課はトヨタが「とりあえず健保」と指示することについて、「違法とはいえないが、本人が労災を希望しているのに、会社が止めるのは望ましくない。本人の意思が尊重されるべき」だといいます。
 また「(労災なのに)健保で受診していた場合、それまで健保の保険者が負担してきた医療費を返還していただく」と述べ、本人に経済的負担が生まれると指摘します。

 本紙の取材にトヨタ自動車広報部は、同マニュアルがあることを認めました。「とりあえず健保」については「業務起因性が必ずしも明確でない疾病の場合、労基署が業務起因性を認定するまでの間、被災者が費用を全額負担せざるを得ない場合がある」とし、「本人の意思を確認しながら、暫定的に健康保険での受診を推奨」していると文書で回答しました。
 Aさんは「いったん『とりあえず健保』にしてしまうと、労災に切り替えるのは困難だ。泣き寝入りした同僚も多い」と語ります。

“ケガは自己責任が 『トヨタ愛』なのか”パワハラ面談 労災押さえ込み
軽自動車より重い台車 牽引し靱帯損傷

 自動車の世界的メーカー、トヨタ自動車が、業務中に疾病を負った労働者に労災でなく健康保険での受診を半ば業務命令のように指示していましたマニュアルだけでなく、上司によるパワハラまがいの面談をする徹底ぶりです。そこからは、“世界のトヨタ”のひずみが浮かびあがってきました。

症状みな抱える
 同社の工場で働くAさん=40代=は、約10年前、台車を1人で牽引(けんいん)して、工場内を行き来する担当でした。台車は1台200キロにもなり、それを連結して7台、さらに多数の部品箱を乗せて、人力で牽引していました。
 「軽自動車よりずっと重かった。綱引きの要領で満身の力で、1日80回も牽引して運び続けた」と語ります。経路には、下り坂があり、一つ間違うと下敷きになる危険な仕事でした。
 長距離走で鍛えた体力に自信を持っていたものの膝の靱帯(じんたい)を損傷。痛みを訴えるAさんに上司がかけた言葉は「長距離走でケガをしたんだろう?」。別の上司も「長距離走で足を痛めたんだよな」と強い語気で、仕事外のケガにしようと迫ってきました。

 トヨタの自動車製造の現場はどうなっているのか―。
 Aさんは「けんしょう炎、バネ指、腰痛、膝・足痛と何かしらの症状をみんな抱えている。流れてくる車の組み立てなので、反復行動が多く、電動工具を1日に何千、何百回と使う中で指が曲がらなくなる。車の中での作業は中かがみ。腰痛がない人はいないのではないか」と語ります。

 上司の指示でAさんが整形外科を健保で受診すると、さまざまな不都合がありました。まず医療費の3割自己負担です。労災だと本人負担はありません。
 そしてAさんが膝の痛みがひどく出勤できなかった時、上司から「年休をとるか、欠勤扱いにするか」の二者択一を迫られました。一方、労災では給与の約80%の休業補償(休業4日目から)が支給されます

トヨタのルール


【写真説明】労災に切り替えて有給休暇中のAさんの元に職場の上司からのライン。文面の通りに安全衛生の個室に行くと、上司らに囲まれ、健保での受診を強く迫られました(画像一部加工)




 Aさんは靱帯を損傷してから3週間後、2回目の受診の際、労災に切り替えることを上司に通告します。以降、健保に戻すよう、複数の上司からの指導がありました。
 そして、上司5人とAさんの個室での“面談”が行われました。上司らは「打った、切ったではないので労災になりません」「会社でケガや疾病が起きても、病院では健康保険を使う。その後は会社が調査して、労災かどうか判断します」と、口々に語りました
 Aさんが「判断するのは労働基準監督署じゃないのですか」と反論すると、「だから~、それがトヨタのルールなんだ。あなたも従業員であるならばルールに従うべきだ」と上司。こうした“面談”が2回ありました。別の場でも「トヨタのルールがそういうことだよね。俺らはWe Love TOYOTAでやっている」と何度も健保に戻すよう迫ってきました。

 本紙の取材にトヨタ広報部は「健康保険の使用を強要するといった運用は行っておらず、従業員本人の希望に寄り添った対応をしております」と文書で回答しています。
 Aさんは「自分の部署で労災が起きると、災害指定職場として上司は対策が求められ、管理責任も問われ、昇進・評価にかかわるから上司は健保にさせたいのだと思う。パワハラまがいの指示で、労災を受けなかった同僚がたくさんいる。ケガは自己責任が『トヨタイズム』なのか」と憤ります。

 厚生労働省の労災保険相談ダイヤルでは「労災の申請は本人の意思表明があればよい。労災の認定がされていない段階でも、労災指定病院に行けば、本人負担なしで受診できる」と案内しています。