2025年1月8日水曜日

リニアとMRJとコンコルド/失われた30年という現実(植草一秀氏)

 植草一秀氏が掲題の記事を出しました。
 三菱重工国産ジェット機MRJは開発に巨大な労力と資金を注ぎましたが失敗し、同社は1兆円超の損失を出しました。
 仏・英などが共同で開発した超音速旅客機コンコルドは当初から赤字が予想されていまし。それを敢えて商業飛行に踏切りましたが採算が採れずに廃業に追い込まれました。
 そして21世紀版のコンコルドと見られているのがリニア中央新幹線であり、JR東海は27年度開業を公表していましたが撤回し、現実に未着工の静岡工区をはじめ、その他の工区も著しく遅滞していて、現時点で開業は見込めていないことを明らかにしました。
「ストップリニア !? 訴訟」の川村晃生原告団長(慶大学名誉教授)は以下の7つの問題点を挙げています。
JR東海の財務不安定性 ・残土処理 ・南アルプストンネル掘削の難度 ・都市部大深度工事の難度 ・静岡工区問題 ・全面的な工事遅延 ・膨大なエネルギー消費

 特に南アルプストンネルはフォッサマグナ(日本列島がアジア大陸から離れる際にできたと考えられる「大地溝帯」で、西縁:糸魚川-静岡構造線、東縁:直江津-平塚線で囲まれる一帯)を貫通するのでその危険性は計り知れず、現に南アルプス山系自体は、世界でも類例を見ないスピードで隆起しているということです。
 工事中であれ運開後であれもしもリニア経路で断層にズレが生じればリニアは粉砕されます。

 植草氏は以上を説明した上で、リニア中央新幹線は当初JR東海の民間事業(工費5・5兆円)でしたが、16年に安倍晋三首相は財政投融資3兆円を決め、今後どこまで費用が膨張するか不明であるとして、JR東海が自己責任で事業を実施しているならまだしも、国民の血税が投下されている以上国民が口を差しはさむべき事業であり、25年のリニア中止決断が強く求められると述べています。

 併せて植草氏による記事失われた30年という現実を紹介します。
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リニアとMRJとコンコルド
                植草一秀の「知られざる真実」 2025年1月 8日
リニアとMRJとコンコルド。「失敗するものが一時的に良くなるように見える場合でも、そのまま失敗した方がダメージは小さい」
三菱重工業は国産ジェット機開発に巨大な労力と資金を注いだ。しかし、失敗した。
撤退は早ければ早いほど痛手は軽微になる。
三菱航空機の累損が8850億円、親会社である三菱重工業の関連資産の評価損が1430億円。1兆円の損失を生んだ事業だった。撤退の判断が遅れた分だけ損失額は膨らんだ。

コンコルドは開発段階から開業後の赤字が予測されていた。しかし、動き出した船体を止めることは難しい。商業飛行に突入したがあえなく廃業に追い込まれた。
21世紀版のコンコルドと見られているのがリニア中央新幹線。JR東海は2027年度開業を公表していたが撤回した。現時点で開業は見込めない
静岡工区が着工されていない。しかし、静岡のために工期がずれ込んだというのはウソである。
静岡以外の工区も著しく遅滞している。

リニア中央新幹線の建設に反対し、「ストップリニア !? 訴訟」の原告団長を務める川村晃生慶応義塾大学名誉教授による解説をご覧いただきたい。
2023年6月24日、「たんぽぽ舎」における川村晃生氏と広瀬隆氏による講演
「川村晃生「行き詰まるリニア、窮地のJR 東海」ストップリニア!訴訟を原告738名で提訴」【「原発大暴走を斬る+リニア新幹線を斬る 」】
    ⇒ https://www.youtube.com/watch?v=_Hxdel9H-2s
川村氏は7つの問題点を挙げている。
1.JR東海の財務不安定性
2.残土処理
3.南アルプストンネル掘削の難度
4.都市部大深度工事の難度
5.静岡工区問題
6.全面的な工事遅延
7.膨大なエネルギー消費

当初、リニア中央新幹線はJR東海の民間事業だった。ところが、2016年11月に財投資金3兆円の投下が決定された。安倍晋三首相とJR東海葛西敬之氏による談合決着だった。
工費は当初5.5兆円とされたが財投資金が3兆円上乗せされた。今後、どこまで費用が膨張するか不明である。
巨大債務にJR東海が耐えられるか。JR倒壊に社名が変更される可能性がある。

1月5日付東京新聞、北陸中日新聞がリニア工事の遅れを大報道した。
なぜか、名古屋が拠点の親企業である中日新聞はこの重要ニュースを報じていない。




















18工区で27年に工事が完了しないことが明らかにされた。












工事に着手できていない南アルプストンネル=静岡工区の問題は単なる水問題でない
静岡県の大井川流域の住民が生活用水、農業用水、工業用水としての水に特段の警戒感を保持していることは事実。静岡県の川勝平太知事が静岡県民の意思を代表して静岡工区の工事着工を認めてこなかったことは大いなる業績である。しかし、水の問題以外にも重大な問題が存在する。それは、南アルプストンネル工事が未曾有の危険を伴う工事になること

南アルプスを構成する土壌が軟弱地盤であると見られている。山系全体を破壊する恐れも指摘されている。
また、南アルプス山系自体が世界でも類例を見ないスピードで隆起している事実がある。
リニア新幹線はフォッサマグナを貫通する。リニア経路で断層にズレが生じればリニアは粉砕される。
南アルプストンネルでは地表から2000メートルの深さのトンネルが掘削されることになっているが、発生土の処理方法も確定していない。

リニア中央新幹線の南アルプストンネル ルート断面図















品川-名古屋が開業しても採算が取れない可能性が高い。
JR東海が自己責任で事業を実施しているならまだしも、国民の血税が投下されている。
国民が口を差しはさむべき事業である。2025年のリニア中止決断が強く求められる

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失われた30年という現実
                植草一秀の「知られざる真実」 2025年1月 5日
世界は変わる。変わる世界を認識し、自らを変えなければ変化に対応することはできない。
世界のなかで取り残される日本。経済成長のない10年、20年、30年が経過した。
その原因はどこにあるか。

2012年12月に政権交代があった。「アベノミクス」が叫ばれた。
2013年7月の参院選で「ねじれ」が解消。安倍政治が長期間存続した。
私は2013年6月に「アベノリスク」(講談社)を上梓した。 https://x.gd/GpXCp 
「日本を融解させる7つの大罪」として以下の問題を提示した。
第1の罪 インフレ 第2の罪 増税 第3の罪 TPP参加 第4の罪 原発再開 第5の罪 シロアリ公務員温存 第6の罪 改憲 第7の罪 戦争へ

安倍政治によって日本の悲劇が生じることを予言した。
安倍政治は「成長戦略」を掲げたが、日本は成長しなかった。安倍政治が掲げた「成長」は「大企業利益の成長」であって、「国民利益の成長」ではなかった
日銀が掲げた「インフレ誘導」2年以内に消費者物価上昇率を2%以上に引き上げると「公約」したが実現しなかった。

拙著で私は2%公約が実現しない可能性が高いと記述した。
短期金融市場に資金を注入しても金融機関の与信が増えなければマネーストックは増大しない。
マネーストックが増大しなければインフレは実現しない。このことから2%公約の達成が困難であると記述した。

2023年に4%インフレが発生したのは日銀の政策誘導によるものでない。
海外のインフレが日本に波及したと同時に、日銀が日本円暴落誘導を実行したからだ。
4%インフレを容認することはできない。
日銀はインフレ抑止に舵を切るべきだったが、黒田日銀は最後までインフレ誘導の旗を振った。
その結果、4%インフレを招いてしまった。

「賃上げ」を誘導すると主張されたが、労働者にとって重要なのは名目賃金の上昇ではない。
名目賃金が上昇してもインフレがこれを上回れば実質賃金は減少する。
過去27年間に実質賃金が小幅増加したことが5回ある。そのすべては物価下落の局面。
物価下落=デフレの局面でのみ実質賃金が小幅増加した。

元々、インフレ誘導は実質賃金を引き下げるために発案された。
1990年代以降、世界の大競争激化のなかで先進国産業の価格競争力が低下した。
新興国に対抗するために労働コスト引き下げが求められた。
「賃上げ」は可能だが「賃下げ」は困難である。実質的に賃金コストを抑制するには、インフレが生じる際に賃上げをしなければよい。そうすれば実質賃金の切り下げが可能になる。
このためにインフレ誘導が提案された。インフレ誘導は労働者のための施策ではなく、実質賃金切り下げを狙う資本のために提案された政策だった。

ここに「アベノミクス」の欺瞞性があった。
「アベノミクス」の柱である「成長戦略」は以下の五つを柱にした。
1.農業自由化
2.医療自由化
3.解雇自由化=労働規制撤廃=実質賃金引き下げ
4.法人税減税
5.特区創設
このすべては、「大企業利益の成長」戦略であり、「労働者不利益の成長」戦略だった。
「法人税減税」の裏側は何か。「消費税大増税」である。
「大企業利益の成長」だけを追求して日本経済の長期低迷を招いてきた。
この経済政策全体を根底から改変しなければ日本経済は浮上しない。
経済政策の抜本転換が2025年の課題である。

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