2025年4月7日月曜日

トランプ関税暗雲は霧消するか(植草一秀氏)/金融知識が欠如しているホワイトハウス

 植草一秀氏が掲題の記事を出しました。
「トランプ関税」は当然ながら世界中に大混乱を巻き起こしました。関税率を引き上げて他国からの輸入を抑制することで米国の製造業を再興させるのが目的のようなのですが、それ以前に米国が再びインフレに見舞われることになるので、簡単に達成できるという見込みはありません。
 22年から23年にかけて米国FRB(日本銀行に相当)は驚異的なペースで利上げを断行し、米国はハイパーインフレへの突入を免れた後、24年に入って金融政策を「引き締め」から「緩和」に転換しました。。
 FRBは常に情勢を的確に判断し適正な金融政策運営を目指しますが、トランプは常に利下げを指向するのでFRBと対立する局面が到来するかも知れません。

 植草氏は適正な金融政策運営という基盤が崩壊すれば、米国経済は極めて不安定な状況に置かれるので、来年の中間選挙で敗北しトランプが失脚する恐れがあると述べます。
 そして関税率の引き上げは奏功しない可能性が高いので、トランプが路線転換を示すのは遠い未来でない可能性が高いと述べています。
 
 併せて〝マスコミに載らない海外記事″ の「金融知識が欠如しているホワイトハウス ー 関税がそれを示している」を紹介します。
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トランプ関税暗雲は霧消するか
               植草一秀の「知られざる真実」 2025年4月 3日
トランプ2.0が本格的に始動しつつあるが、連動して世界に暗雲が広がり始めている
トランプ大統領がウクライナ戦争を終結させる意思を有することは正しい。
そもそもトランプ大統領はウクライナ戦争を勃発させるべきでなかったとの判断を持つ。
米国大統領がバイデンだったから戦争が勃発した。トランプ大統領はこう判断している。

トランプ2.0が始動したら、早期に戦争を終結に持ち込む。この意思に沿って動いていると思われる。だが、さまざまな利害が絡み、簡単に着地はしない模様
トランプ大統領のアキレス腱になるのは経済政策である。とりわけ懸念されるのがFRB(⇒米国の日本銀行に当たる組織)との摩擦。
2022年から23年にトランプが大統領でなかったことは幸運だった。22年から23年にかけてFRBは驚異的なペースで利上げを断行した。この利上げによって米国はハイパーインフレへの突入を免れた

2024年に入ってFRB金融政策は「引き締め」から「緩和」に転換。
このなかでトランプが大統領への返り咲きを果たした。トランプは利下げを好む。利上げを嫌う。しかし、適正な金融政策運営には的確な情勢判断が必要不可欠。常に利下げを指向するトランプ大統領とFRBが対立する局面が到来するかも知れない

パウエル議長の任期満了は来年2月。次期FRB議長をどうするかの議論が早晩始動する。
FRBが経済運営の要。FRBの適正な金融政策運営という基盤が崩壊すれば米国経済は極めて不安定な状況に置かれることになる。
トランプ大統領はFRB対応に失敗して失脚する恐れがある。最大の警戒要因である。

足元では世界経済が不透明感に包まれている。
トランプ大統領の高率関税政策が始動したからだ。トランプ氏は4月5日に、すべての国からの輸入品に一律10%の関税を発動すると発表。
さらに、トップの座を奪われつつある中国からの製品に34%、欧州連合(EU)に20%、日本に24%の追加関税を課す措置を4月9日に発動するとしている。
米国の消費者がどう動くか。関税率引き上げ分が米国の小売価格に転嫁されると米国の消費者が高率関税を負担することになる

トランプ大統領の政策方針の基軸はMAGA(⇒右記)。米国を再び偉大な国にする。
大統領選では選挙のたびに勝敗が入れ替わる激戦州(swing state)が鍵を握る。
ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの中西部がかつての工業地帯。工業地帯の衰退が進行し、この地域の製造業再興が大統領選挙戦術上、重要な意味を持った
日本製鐵によるUSスチール買収に米国大統領が難色を示すのはUSスチールが最激戦州ペンシルバニアを地盤とする企業であることが強く影響している。
しかし、米国が関税率を引き上げて米国の製造業が本格的に再興するのかどうか

世界は分業体制で成り立っている。それぞれの産業の比較優位は時代の変遷に連動して変化する。
食料は生存のために不可欠な財であり、国家は食料の自給を実現するために農業を中心とする一次産業を手厚く保護する。これは国民の生命と命を守るために正当な対応。日本はこの点をおろそかにしており、道を間違えている。

他方、製造業の立地は比較優位を元に変遷する。関税率の引き上げは奏功しない可能性が高い
株式市場はトランプ関税政策の負の影響を読み込み始めている。
トランプ大統領は2026年中間選挙で大敗すれば完全にレームダック化する。
トランプ大統領が路線転換を示すのは遠い未来でない可能性が高い。
           (後 略)
 
 
金融知識が欠如しているホワイトハウス - 「関税」がそれを示している
                マスコミに載らない海外記事 2025年4月 5日
                    Moon of Alabama  2025年4月3日

2025年全国金融リテラシー月間に関する大統領メッセージ- ホワイトハウス、2025年4月1日
 アメリカの経済的繁栄の基盤は、アメリカン・ドリームを実現するためう、情報に基づいた財務上の決定を下すための知識と手段を備えた社会だ......

 このメッセージを私は歓迎する。
 金融知識教育は上層部から始めなければならない。トランプ政権閣僚には、十分な情報に基づいた金融上の決定を下すための知識と手段が明らかに欠如している。
 彼らがどのようにしてこれら数字を導き出したのか、これが唯一の説明だ。


 中国はアメリカ製品に67%の関税を課していない(73%だ)。EUはアメリカ製品に39%の関税を課していない(52%だ)。数字はでたらめだ。
 すると、それらは一体どこから来たのだろう? アメリカ通商代表部による公式説明はここにある。これはでたらめだ。

James Surowiecki @JamesSurowiecki - 2025年4月3日 0:22 UTC·
これらの偽関税率がどこから来ているのか分かった。彼らは、実際に関税率と非関税障壁を計算したと主張しているが、そうではない。その代わりに、各国について、その国との貿易赤字を、その国のアメリカへの輸出で割っただけだ
 つまり、インドネシアとの貿易赤字は179億ドル。インドネシアからアメリカへの輸出は280億ドル。17.9ドル÷28ドル=64% で、トランプはこれがインドネシアがアメリカに課している関税率だと主張している。これはとてつもないデタラメだ。
…  トランプにしても、彼らが「貿易赤字を輸入で割り、それが関税率だと国民に伝える」と言ったのが信じられない。そして、その完全にでっち上げた税率を半分に減らして、関税を設定すると決めたのだ。これは実に愚かで欺瞞的だ。
…  実際は私が思っていたより酷い。関税率を計算する際に、トランプ側近は物品の貿易赤字のみを使用した。つまり、アメリカが世界とのサービス貿易で黒字を出しているにもかかわらず、トランプにとって、それら輸出は計算されないのだ。

この最後の点は中国にとって、そして特にEUにとって重要な点だ。

EUとアメリカ間の物品およびサービスの貿易は、2023年に1.6兆ユーロという驚異的な額に達した。これは毎日44億ユーロ相当の物品およびサービスがEUとアメリカの間で大西洋を渡っていることを意味する。
...  2023年の二国間物品貿易総額は8,510億ユーロに達した。EUはアメリカ市場に5,030億ユーロの物品を輸出し、3,470億ユーロを輸入した。これによりEUの物品貿易黒字は1,570億ユーロとなった。
 2023年のEUとアメリカ間の二国間サービス貿易総額は7,460億ユーロだ。EUはアメリカに3,190億ユーロのサービスを輸出し、アメリカから4,270億ユーロ輸入した。この結果、EUのサービス貿易赤字は1,090億ユーロとなった。
...  EUとアメリカの物品とサービスの貿易は均衡しており、2023年のEUのアメリカへの輸出とアメリカのEUへの輸出の差は480億ユーロで、EUとアメリカの総貿易額の僅か3%に相当する。

 それにもかかわらず、トランプ大統領はEUからの全商品に20%関税を課すよう命じた。EUの当然の対抗措置は、アメリカの全てのサービス輸入に20%以上の関税を課すことだろう。
 またトランプ大統領は、全ての国からの輸入品に最低10%の関税を課すよう命じた。南極の無人島ハード島とマクドナルド島のペンギンが作った製品には、今後10%の追加料金が課されることになる。
 これらの数字の背後には経済的根拠は皆無だ。

 

アルノー・ベルトラン @RnaudBertrand -·2025年4月3日 午前4:16
これらk関税計算がいかに無意味かを示すために、年間GDPが僅か24億ドルのアフリカ最貧国の一つ、レソトの例を挙げてみよう。トランプ計画により、レソトはリストに載っている全ての国の中で最も高い50%の関税率を課せられる。
…  実際のところ、レソトは南部アフリカ関税同盟(SACU)メンバーとして、この地域の貿易ブロックが確立した共通の対外関税構造を適用している。
…  従って、これら5か国がアメリカ製品に課している関税が全く同じなため、アメリカはこれら全ての国に50%の関税を課さなければならない、そうだろう? いや、そうではない。南アフリカは30%、ナミビアは21%、ボツワナは37%、エスワティニはわずか10%で、これは全ての国の中で可能な限り低い税率だ。
 レソトについて具体的に見ると、毎年レソトからアメリカは約2億3,600万ドル相当の商品(主にダイヤモンド、繊維、アパレル)を輸入している一方、レソトに輸出している商品は約700万ドル相当に過ぎない(https://wits.worldbank.org/CountryProfile/en/Country/LSO/Year/2022/TradeFlow/EXPIMP/Partner/by-country )。
 なぜ輸出が少ないのか? 繰り返すが、これは極貧国で、国民の56.2%が1日3.65ドル未満 ( https://databankfiles.worldbank.org/public/... )、つまり年間1,300ドル未満で暮らしているのだ。彼らにはアメリカ製品を買う余裕が全くなく、そのような収入では誰も iPhoneやTeslaを買うつもりはない...
 関税の実際の計算方法は、単純で経済的に意味のない計算式に基づいているようだ。アメリカとある国との貿易赤字を、その国のアメリカへの輸出で割り、これを「アメリカに課せられる関税」と偽って宣言しているのだ。
 そして、昨夜の演説でトランプが行ったように、あなた方は寛大にも、彼らにその「関税」の半分を課すことでのみ「報復」すると宣言するのだ。
 従って、レソトの場合、計算は次のようになる。(2億3,600万ドル - 700万ドル)÷2億3,500万ドル=97%。これがレソトがアメリカに課すとみなされる「関税」で、その半分、つまり約50%がアメリカが「報復」するものだ。
 これが全く意味をなさない理由は非常に簡単にわかる。

 

 レソトはダイヤモンドを採掘し販売できるため、アメリカより比較優位がある。しかし、アメリカ製品やサービスを購入する購買力が欠けている。トランプ政権の計算は、こうした基本的な事実を無視している。
 ちなみに、ベラルーシ、ロシア、北朝鮮に対して、関税は導入されていない。これは制裁措置のためで、アメリカはこれらの国々とは貿易関係がないと言われている。(原子力発電所用に濃縮ウランを購入する以外は?)
 この愚かな行為が自分の顔の前で爆発するのをトランプ政権は予想していたのだろうか?
 これはスムート・ホーリー関税法の拡大版だ。

記事原文のurl:https://www.moonofalabama.org/2025/04/white-house-lacks-financial-literacy-tariffs-show.html