2025年4月28日月曜日

学問軍事化へ政府介入 学術会議解体法案 衆院委で審議入り/学術会議 解体法案の狙い(7-終)

 日本学術会議を解体する法案の質疑が25日、衆院内閣委員会で始まりました。共産党の塩川鉄也議員は法案の撤回を要求し、現行の学術会議は、学術が政治に従属し戦争に協力した戦前の反省の上に立ち、科学者の総意によって設立されたと述べ、法案はその原点の否定だと批判しました。

 審議の中で学術会議解体法案の立法根拠の薄弱さや法案提出のプロセスの問題点が明らかになりました。立法根拠は「立法事実」とも呼ばれ ・立法目的を裏付ける事実 ・手段の合理性を裏付ける事実 ・社会の価値観や意識 がその要件になりますが、いずれについてもまともな回答はありませんでした。政府が無理やり悪法を作ろうとしていることの証明でもあります。

 併せてシリーズ「学術会議 解体法案の狙い(7) 学問の軍事利用が本音」を紹介します。今回でこのシリーズは終了です。
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学問軍事化へ政府介入 学術会議解体法案 塩川議員が狙い告発 衆院委で審議入り
                       しんぶん赤旗 2025年4月26日
 日本学術会議を解体する法案の質疑が25日、衆院内閣委員会で始まりました。日本共産党の塩川鉄也議員は法案の撤回を要求。現行の学術会議は、学術が政治に従属し戦争に協力した戦前の反省の上に立ち、科学者の総意によって設立されたと述べ、法案はその原点の否定だと批判しました。
 法案は現行法を廃止し、国の「特別の機関」である学術会議を特殊法人化。首相任命の「監事」や、外部者による「助言委員会」などを設け、政府が介入できる仕組みになっています。坂井学内閣府特命担当相は「国から補助金を入れるということで最低限の説明責任に関する仕組みを入れた上で、できる限り独立した組織に変えるものを目指した」と答弁しました。
 塩川氏は、国の機関でありつつ法律上独立性を担保され、政府への勧告権も持つ現行の制度を変える積極的理由は見いだしにくいとした内閣府の有識者会議の報告(2015年)に言及。なぜ現行法のもとで独立性を高める措置をとらず、新法を定める必要があるのかと追及しました。
 法案は、日本の平和的復興と人類社会の福祉への貢献を使命とすると明記した現行法の前文を削除しています。塩川氏は、現行法は日本国憲法23条「学問の自由」の具体化であり、法案は「憲法に立脚する学術会議の原点を真っ向から否定する」と強調しました。
 さらに、1949年の同会議発会式で吉田茂首相が、科学者の総意による設立と、政治的干渉を受けないための「高度の自主性」に言及していたと指摘。法案は、この学術会議の立脚点を否定し、現行法にはある独立性の保障規定を削除していると批判しました。
 学術会議は2017年、防衛装備庁の軍事研究委託制度には「問題が多い」とする声明を発表。塩川氏はその後20年に菅義偉首相が学術会議会員の任命を拒否した経過に触れ「学問研究の軍事利用推進の立場から、学問の自由を掲げ、科学者の自主性・自律性を尊重してきた学術会議に干渉・介入しようとしている」と法案の狙いを批判。坂井氏はまともに反論できませんでした。塩川氏は、任命拒否と法案いずれも撤回を強く求めました。


立法根拠の薄弱さ明白 学術会議解体法案の国会審議
                       しんぶん赤旗 2025年4月26日
 学術会議解体法案の立法根拠の薄弱さや法案提出のプロセスの問題点が、25日の衆院内閣委員会の政府答弁で明らかになりました。
 笹川武内閣府総合政策推進室室長は、政府が学術会議解体法案の立法の根拠とする「学術会議の発信」が不十分であることについて、「具体的なデータは議論していない」と客観的な事実を示せませんでした
 立憲民主党の梅谷守議員は「学術会議の発信が海外アカデミーと比べて著しく遅いとか少ないという客観的事実はあるか」と質問。笹川氏は客観的事実を示さず、「(学術会議の在り方に関する有識者)懇談会では発信が遅いという議論があった」と述べました
 政府参考人として答弁にたった光石衛学術会議会長は、法案策定の過程で与党側から意見を求められたかを質問され「私自身はこの間、与党の会議に呼ばれたことはない」と表明。光石氏に続いて答弁した坂井学内閣府担当相は「事務局長は出席している」と述べました事務局長は学術会議の構成員である学術研究者ではなく内開府の公務員です。いずれも立憲民主党の山岸一生議員への答弁。
 与党は当事者である学術会議の会長から意見を聞ことなく法案作成を進めいたことになります。高療養費の負担上限引き上げと類似の事態です。


学術会議 解体法案の狙い(7 学問の軍事利用が本音
                       しんぶん赤旗 2025年4月24日
「戦前、戦争へ向かう道程で、共産主義者、社会主義者を弾圧し、学術・学問分野を抑え、労働組合や諸団体、自由主義者、宗教者と押さえ込んで行った。現在の学術会議の解体問題は、自由抑圧の深刻な段階です。これを止めないと、日本社会全体の自由が壊されてしまう。今、新しい『滝川事件』『天皇機関説事件』の最中(さなか)だと思っています」
 軍学共同反対連絡会共同代表の一人、赤井純治新潟大学名誉教授はこう語ります。
 1931年の満州事変のあとの33年、京都帝国大学(現京都大学)の滝川幸辰教授の刑法学説が「自由主義的」だとして文部省に攻撃されます。学生を含む激しい抗議も起こりましたが、同氏は京大を追われます。35年には、東京帝国大学の美濃部達吉名誉教授が主張した「天皇機関説」が「不敬」だとして排撃されます。同説は天皇を法人たる国家の最高機関と位置づけるものでした。美濃部氏は貴族院を追われ、その支持者も攻撃されます。二つの事件を挟み、自由な言論の抑圧と抑制が広がり、37年に日本は日中戦争に突入します。
 
障害を除去
 現在の日本学術会議解体の動きの背景には、同会議が2017年に発表した「軍事的安全保障に関する声明」があります。安全保障技術研究推進制度=防衛装備庁による軍事研究の有償委託に応じることに慎重であれと呼びかけた「声明」を安倍政権は障害とみて、20年には菅政権のもとで会員候補6人の任命拒否が起きました。
 学問の軍事利用の障害を除去する-この本音をあからさまに代弁したのが18日の衆院本会議での日本維新の会の三木圭恵議員の発言です。
 三木氏は、日本学術会議の戦争目的の科学研究は絶対に行わないとの声明(I950年)、軍事目的の科学研究を行わないとの声明 (67年)、そして2017年の声明を挙げ、「学術会議はわが国の防衛に関する研究を拒否し続けている」と非難。「今日の安全保障の厳しさを直視するなら、国防に問する研究も(中略)学術会議の目的にかなう」とし「かたくなな軍学共同反対のスローガンを改め、科学者がわが国の防衛や平和の維持に寄与できるようにしていただきたい」と求めました。自民党席からは喝采″の拍手がわき起こりました

 学問の特質は真理の探究にあります。科学的真理に対し権力者は、自らの支配に役立つ「真理」を独占し、利用する衝動を持ちます。その最悪の例が戦争技術の発展であり、核兵器の開発です。同時に権力者は、自らの支配に反する「真理」や倫理を徹底的に排撃する衝動を持ちます。戦前の治安維持法こそその典型で、最も厳しく弾圧されたのが「国体の変革」、すなわち民主主義の実現でした。
 これに対し、真理の探究は、あらゆる既成の権威と抑圧を打ち破って前進する本質を持ちます。時の権力と学問の自由との鋭い緊張が生まれる必然性があり、大学の自治やナショナルアカデミーの独立など学問の自由のための特別な制度的保障と市民のたたかいが求められます。軍事研究に反対する倫理の大本には、歴史の教訓と戦力不保持を定めた憲法9条があります。

声を上げて
 赤井氏が指摘するように、学問の自由が破壊されるとき、精神的自由全体の防波堤が突破されます。「新しい戦前」を許さない-赤井氏はここが一つの正念場です。市民も含め、大学・研究・学問に関わっている人は声を上げてほしい」と語ります

            (おわり=この連載は田中佐知子、中祖寅一が担当しました)