田中宇氏が「金融が破綻しそう」という記事を出しました。
国債の価格と金利は逆相関の関係にあり、国債の価格が上昇すると利回りが低下し、下落すると上昇します。「トランプ関税」宣言で暴落した株式市場から逃避してきた資金で米国債が高騰(金利は低下)しましたが、その後も株価は続落しているのに、逆に金利はじりじりと上昇(国債の価格は低下)しているということです。
これは中国などが米国債を手放しているからと考えられ、世界は予想よりも早くドル(や米国債)離れを始め、ドルから日本円、スイスフラン、金地金など ドル以外へのシフト(資金流出)が進み出したということです。
トランプは、高関税を避けるために各国が一斉に米国の要求を飲む方向に向かい、6月頃には赫々たる戦果を挙げられると思っていたようですが、それは見込み違いになりました。
文中に「トランプは、世界がドルを見捨てるように画策しているように見える(隠れ非ドル化屋)」という文言が出てきます。
これは田中氏独特の「多極化」論に基づくもので、もしもトランプが米国を単独覇権から多極化に移行させようとして行ったのであるのなら それは成功ということになる訳です。
「耕助のブログ」に「トランプ関税はいかにして家を焼き尽くしているか」という記事が載りました。
記事は「トランプが本当に望んでいるのは、自分がどんな口実でどんなレベルの関税を課すかを一方的に決めるという『鉄壁の仕組み』であり、国際法もヘチマもない。実際にトランプは世界貿易機関(WTO)を葬り去ろうとしているのだ」、「トランプ関税の影響には、米国内のインフレ上昇、全地域の企業への深刻な打撃、そして何よりも貿易相手国としての米国の『信頼性』の完全な崩壊が含まれることは自明だ」、「トランプは家の中から、家を燃やしている。台頭しつつある主権を持つグローバル・マジョリティは喜べ、そして、高速鉄道の『脱ドル列車』に乗れ」と述べます。
日本は依然としてグローバル・マジョリティに与しようはしませんが。
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金融が破綻しそう
田中宇の国際ニュース解説 2025年4月11日
4月2日にトランプ米大統領が世界に対する高関税策を発表して以来、米日など世界の株価が激しく上下・乱高下している。中国は徹底抗戦する構えで、米中間は報復関税のかけ合いに入っているが、他の多くの諸国はトランプと交渉したがっている。
4月10日にトランプが、交渉のために中国以外の世界に対して高関税策を延期すると、株価は問題解決を期待して大きく反騰した。(‘A Deal Is Going To Be Made With Everyone’: Trump Speaks After Dropping Most Tariffs For 90 Days)
しかし、債券の動きは株と違う。高関税策の発表後、暴落した株式市場から逃避してきた資金で米国債が高騰(金利低下)し、基準である10年米国債の金利は4%を割る異様な低さになった。
だがその後、株価が続落したのに金利は下がらず、逆に、じりじりと反騰(債券が下落)している。これは世界の投資家が、ドルや米国債の安定度に不安を持ち、米国債を敬遠し始めている兆候だ。
米国債の約半分は米国以外の海外勢力が保有している。トランプは、まさに彼らに高関税の喧嘩を売った。世界が米国債を持ちたくなくなり、金利が上昇するのは自然な反応だ。(Are Treasuries Losing Their 'Safe Haven' Status?)
とくに、米国と関税戦争に入った中国は、世界最大級の米国債保有をしていただけに、米国債を手放す動きを加速している。
これまで米国と一心同体だった欧州も、フランスのマクロン大統領が安保策として、財界に対米投資の縮小を要請するなど、トランプの米国を敬遠している(仏財界はマクロンの要請を断ったが)。(French Business Leaders Reject President Macron's Demand To Divest from USA)
これまで親米だった印度も、経済面で米国から離れて中露などBRICSとの関係を強化している。BRICSは数年前から、ドルや米金融に依存しない非米型の国際金融システムを構築してきた。(India may turn to new partners due to US tariffs – ex-commerce secretary)
これまでは、米金融が大儲けできる投資先だったので、BRICSは自前のシステムを作りつつ米国にも旺盛に投資していた。米国側の「専門家」たちは「BRICSは、自前のシステムがうまくいかないからドルに頼らざるを得ないんだ」と嘲笑し、高をくくっていた。(De-Dollarization Was Always More Of A Political Slogan Than A Pecuniary Fact)
しかし、今後は短期間に激変しうる。世界は、予想より早くドル離れ(非ドル化)しており、国際金融システムは不透明な領域に入ったと、ドイツ銀行が警告を発している。
ドルや米国債から、日本円、スイスフラン、金地金などドル以外への資金流出が起きている。(Global financial system entering ‘unchartered territory’ - Deutsche Bank)(YEN, FRANC, GOLD RIP HIGHER - Safe havens surge despite cool CPI)
トランプは就任直後の2月初めに「BRICS諸国が非ドル化やドル離れを画策するなら、制裁として100%の高関税をかけて潰してやる」と言っていた。その時は「100%の高関税」がケバケバしく、単なる脅し文句に見えた。
しかし今すでにトランプは、BRICSを主導する中国からの輸入品に最高125%の高関税をかけている。すでにトランプは「非ドル化に対する制裁」を発動している。ならば、中国などBRICSは何も恐れる必要がなく、好きなように非ドル化をやれる。(Why’d Trump Just Repost His Threat To Impose 100% Tariffs On BRICS Countries?)
もしこれから10年米国債の金利が5%を越えて上昇し続けたら、世界はそれをドル崩壊の兆候とみなす。ドイツ銀行の警告も、この流れを指している。米国のジャンク債の金利は、この数日で7%から8%に跳ね上がり、米国債よりも急速に悪化している。
これまではジャンク債の金利が低かったので、潰れそうな企業でも低金利で資金調達でき、ゾンビ化するだけで潰れず、雇用が何とか守られていた。ジャンク債の金利が上がると企業倒産が急増し、実体経済が悪化して不況色が強まる。(Schiff Warns "The World Is Getting Rid Of Dollars" As Gold Hits New Record High)
トランプは、世界がドルを見捨てるように画策しているように見える(隠れ非ドル化屋)。中国が関税戦争をやめないなら、次は米国の株式市場に上場している中国企業(全部で286社)を上場廃止に追い込むかもとトランプ政権が言っている。中国企業を追い出したら、米国株は暴落が加速する。
トランプはいったん米国を潰していく(多極型世界の米州の極として再起する)。
(Chinese companies could be removed from US stock markets)
金融崩壊が始まると、米連銀(FRB)がQT(造幣減で債券放出)をやめて、QE(過剰造幣して債券買い支え)を復活すると予測されている。連銀がQEを再開したら、いったん金利が下がり、株価が反騰する。
しかし、BRICSなど世界の米金融への敬遠や非ドル化の動きは変わらない。むしろ(欧日など軽信者以外の)世界は、QE再開を見て、米国が金融破綻に瀕していることを感じ取り、非ドル化に拍車をかける。("End Of An Era": Deutsche Bank Warns If Treasury Market Disruption Continues, Fed Will Have To Start QE)
そのようなドル崩壊の流れになるのかどうか、今後の1-2週間で見えてくる。5月9日にモスクワで(対ナチス)戦勝記念日の祝賀会があり、プーチンは非米側諸国から広く要人たちを招待している。習近平もモディも行く。
4月中の展開が早ければ、ロシアの戦勝記念日の会合が、BRICSなど非米側による米国(ドル)潰しの戦勝祝賀会になる。プーチンが含み笑いしている。(Modi likely to attend Victory Day parade in Moscow)
トランプ関税はいかにして家を焼き尽くしているか
耕助のブログNo. 2499 2025年4月11日
How Trump’s Tariff Tizzy is burning down the house
by Pepe Escobar
サーカス団長のトランプ自身が「解放の日」と名付けた関税騒ぎは、グローバル・ノースとグローバス・サウスを問わず世界中で「虐殺の日」と見られている。
この事実上無秩序な経済解体作戦は、中国に関税戦争を仕掛けるのは妙案だという歪んだ幻想から始まっている。数兆ドルの追加関税を徴収しても地球上の他の国々が米国に売ることを多少なりとも「奨励」され、その関税がアメリカの再工業化につながるふりをするのと同じくらい賢明なものだ。
悲劇の仮面をつけたターボ資本主義の自称サーカス団長は、無防備な市民の預貯金口座から盗んだお金で再武装して「復讐」を盛り上げようとするヨーロッパのチワワのように哀れなものかもしれない。
マイケル・ハドソンは重要な問題点を指摘している:
制裁と脅しだけが米国に残された手段である。もはや米国は他の国にウィン・ウィンの状況を提供することはできず、金融取引であれ貿易取引であれ、アメリカはどのような国際的な取引においても純利得者でなければならないとトランプは言った。そしてもしアメリカが、どのような取引でも「あなたが負けて私が勝つ」と言うのなら、そのマフィアの恐喝的な駆け引きは「アート・オブ・ディール(取引術)」を反映しているとは言えない。
ハドソン教授はトランプの交渉戦術を見事に表現した:
経済的に提供できるものがあまりない場合、あなたにできるのは、他国を傷つけない、制裁しない、相手の利益に反することをしないと提案することだけだ。
今、トランプ関税によって、実際トランプは他国を傷つけることを 「提案」している。そして彼らは、アメリカの「外交」という「戦略」から「逃れる」ために、あらゆる種類の対抗戦術に投資するだろう。
アジアへの貿易戦争
トランプ関税はすべての人、特にEUを攻撃する(トランプによればEUは「アメリカを苦しめるために生まれた」と言う。違う。EUは1957年、アメリカがヨーロッパを支配下に置くために作ったのだ。) EUは年間約5,030億ユーロをアメリカに輸出しており、一方で約3,470億ユーロを輸入している。トランプはこの黒字にノンストップで発狂している。
EUのウルズラ・フォン・デア・ライエンがすでに宣伝しているように対抗措置の復讐が待ち受けているのは必至であろう。ちなみにEUはあらゆる兵器製造業者のスポンサーである。
それでもトランプ関税は何よりもアジアに対する貿易戦争である。中国(34%)、ベトナム(46%)、インド(26%)、インドネシア(32%)、カンボジア(49%)、マレーシア(24%)、韓国(25%)、タイ(36%)、地震に見舞われたミャンマー(44%)、台湾(32%)、そして日本(24%)に「相互」関税が課された。
トランプ関税の前に初の快挙が達成されている。トランプは中国、日本、韓国が協調して対応するという一生に一度のコンセンサスを作り上げたのだ。
日本と韓国は中国から半導体原材料を輸入し、中国は日本と韓国からチップを購入するだろう。つまりトランプ関税はこれまであまり協力的ではなかったこの3国間の「サプライチェーン協力」を強固なものにするだろう。
トランプが本当に望んでいるのは、彼のチームがすでに開発した、トランプがどんな口実でどんなレベルの関税を課すかを一方的に決める、鉄壁の仕組みだ:為替操作を回避するためでも、付加価値税に対抗するためでも、安全保障上の理由でも、何でもいい。国際法もクソもない。実際上、トランプは世界貿易機関(WTO)を葬り去ろうとしているのだ。
南太平洋のハード島の関税をかけられたペンギンでさえ、トランプ関税の認定された影響には、アメリカ国内のインフレの上昇、特定の地域に固定されない企業への深刻な打撃、そして何よりも、信頼できる貿易相手国としてのアメリカの「信頼性」の完全な崩壊が含まれることを知っている。製造業をオフショア化し、過剰レバレッジのヘッジファンド、ウォール街のデリバティブ、シリコンバレーの全体主義的監視の山に食い尽くされたレンティアFIRE帝国(マイケル・ハドソンが見事に分析したように、金融化、保険化、不動産化)は、最後には自分自身を攻撃することを決めたのである。
詩的正義が適用される。家の中から、家を燃やしている。台頭しつつある主権を持つグローバル・マジョリティは喜べ:そして、高速鉄道の脱ドル列車に乗れ。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。