2025年4月28日月曜日

イスラエル―国内から問われる戦争の意義―召集を拒否する予備役兵たち

  現代イスラム研究センター理事長の宮田律氏が掲題の記事を出しました。

 イスラエルでは男女ともに18歳で兵役に招集され、男は3年、女は2年の軍役を経た後、男女とも40歳まで予備役の義務が課されます。
 常備軍の兵士はおよそ17万人に対し、ふだんは一般社会で生活し招集に応じて軍務に就く予備役はおよそ47万人にのぼります。この予備役制度がなければ、イスラエルは戦争を遂行することが不可能で、昨年10月にガザでの戦争が始まった時には、陸軍に29万人余の予備役兵士が集まりました。
 しかし現在は予備役を中心に徴兵拒否が広がり、3月中旬に予備役に応じる兵士は60%にまで減少しました。ガザでの戦闘が人質の解放ではなく、ネタニヤフ首相の個人的な権力への執着によって起こされていることなどが、その理由に挙げられています
 ガザ地区での軍事作戦でも予備役が主力となってきましたが、度重なる召集に応じたことで生活や仕事に深刻な影響が出ていることや、攻撃再開への反対などを理由に予備役の招集に応じない人が増えました。部隊によっては招集に応じる予備役が3割減っていて、一部の部隊では兵員の確保に苦しんでいるということで、正義のない戦争に対し今後は一層厭戦ムードが蔓延していくものと思われます。
 なお、予備役の徴兵拒否に対しては懲罰は下されていないようです。

 はじめにガザ地区へのイスラエルによる残虐行為を伝える2つのNHK記事を紹介します。
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国連 ガザ地区で“食料の備蓄が底をついた”搬入を強く求める
                    NHK NEWS WEB 2025年4月26










パレスチナのガザ地区では、先月から攻撃を再開したイスラエル軍が8週間近くにわたって支援物資の搬入を認めておらず、国連は「住民に配る食料の備蓄が底をついた」と明らかにし、一刻も早く搬入を認めるよう強く求めています。
ガザ地区では、イスラエルとイスラム組織ハマスとの間の停戦協議が行き詰まり、先月18日からイスラエル軍が攻撃を再開しています。
25日も各地で空爆が行われ、ガザ地区の保健当局は24時間で84人が死亡し、攻撃が再開されてからの死者が2000人を超えたと発表しました。
また、イスラエル軍は先月2日以降、8週間近くにわたってガザ地区への支援物資の搬入を認めておらず、現地では食料や医薬品の不足が深刻となっています。
現地で支援に当たっている国連のWFP=世界食糧計画は25日に「炊き出しをする団体に最後の食料を配り終え、備蓄していた食料は底をついた」と発表しました。
WFPによりますと、支援してきたパン屋は先月末にすべて閉鎖され、地区内の食料の価格はことし1月からの一時的な停戦期間中に比べ、10倍以上に値上がりしているということです。
ロイター通信が24日に撮影した映像には、多くの住民が炊き出しに集まり、容器を持った手を必死に伸ばしている様子が写っています。
WFPは、100万人を4か月間支援することができる量の食料をすぐに運び入れる準備が整っているとしていて、一刻も早く搬入を認めるよう強く求めています。


ガザ地区 “居住できる場所 3分の1もない” 国連機関が指摘
                    NHK NEWS WEB 2025年4月25日














パレスチナのガザ地区では、イスラエル軍による攻勢で住民が住むことができる場所は地区全体の3分の1にも満たなくなっていて、こうした場所も安全ではないと国連機関が指摘しました。イスラエル軍は人質解放に進展がなければ軍事作戦をさらに拡大する構えで人道状況のいっそうの悪化が懸念されます。
ガザ地区では25日、南部ハンユニスで住民が身を寄せるテントをイスラエル軍が空爆し、子ども3人や妊婦を含む一家5人が死亡したと地元メディアが報じたほか、前日にはイスラエル軍がガザ地区北部の一部で、新たに退避を通告するなどイスラム組織ハマスへの攻勢を強めています。
UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は25日、SNSでこの1か月間で新たにおよそ50万人が避難を強いられたとしたうえで、イスラエル軍が退避通告を繰り返し、住民が住むことができる場所は地区全体の3分の1にも満たなくなっていて、こうした場所も安全ではないと指摘しました。
一方、イスラエル軍のザミール参謀総長は24日「人質解放に進展がなければ軍事作戦を拡大する」としたうえで、「ハマスには戦争を始めた責任があり、ガザ地区の住民の悲惨な状況にも責任がある」と述べ、軍事的な圧力を強める構えで、人道状況のいっそうの悪化が懸念されます。


イスラエル―国内から問われる戦争の意義―招集を拒否する予備役兵たち
                       note 宮田律 2025年4月14日
                        現代イスラム研究センター理事長
 イスラエルでは3月18日にネタニヤフ首相が停戦合意を破って戦闘を再開すると招集を拒否する予備役兵たちが増加している。
 ハマスの奇襲攻撃があった23年10月7日以前からイスラエルではネタニヤフ首相らが推進する司法改革に反対して空軍を中心に予備役の招集に応じない動きがあった。司法改革はイスラエル最高裁の判断を国会(クネセト)の多数決で覆すというものだったが、この司法改革は、ネタニヤフ首相の汚職に対する有罪判決を無効にするネタニヤフ氏の策動で、民主主義への脅威と見なした軍人たちは強硬に反対した

 ハマスの奇襲攻撃があってから徴兵拒否した10代の若者もいたが、彼は逮捕され、30日間の勾留を経験した。イスラエルの徴兵拒否の場合、その刑罰は拒否の理由によって判断されるが、徴兵拒否者が多くなれば、軍の秩序を保つことができず、戦闘が不可能になる可能性がある。イスラエルでは男女ともに18歳で招集され、男は3年、女は2年の軍役を経た後、男女とも40歳まで予備役の義務がある。この予備役制度がなければ、イスラエルは戦争を遂行することが不可能になる。一昨年10月にガザでの戦争が始まった時、陸軍には10万人の正規兵と、295、000人の兵士たちが集まったと軍隊は発表した。
 特に予備役を中心に徴兵拒否が広がっているのは、ガザでの戦闘がイスラエル人人質の解放を考えるものでないこと、戦争がネタニヤフ首相の個人的な権力への執着によって起こされていることなどがその理由だ。また、予備役の招集によってイスラエル経済は危機的な状態に陥り、ハマスの攻撃以来イスラエルでは6万社余りの中小企業が予備役の招集によって社員を軍隊にとられたたために倒産している。さらに、イスラエルでは超正統派が軍隊に召集されてこなかったという不公平感もあった。

 イスラエルの右派勢力は懲役拒否がイスラエル軍を弱体化させるものであると主張し、危機感を募らせるようになっている。イスラエル・メディアは停戦合意が破られ、ガザでの戦闘が開始されてから予備役に応じない兵士が大幅に増加したことを報じている。
 イスラエル国営放送のKANによれば、3月中旬に予備役に応じる兵士は60%にまで減少したと伝えた。その拒否の数は1982年のレバノン戦争以来最大と見られている。かりに予備役に応じたのが50%から60%ということになれば、少なくとも10万人余りの兵力をイスラエル軍は失ったことになる。
 イスラエルでは10月7日のハマスの奇襲攻撃を国家に対する危機と見なして予備役に応じる者が多かったが、戦闘が長期化するにつれ、イスラエル兵の間にも疲弊感が生まれつつある。予備役兵の招集拒否については刑罰も軽い。最近拒否したために罰せられた予備役兵はわずか1人で、しかも2週間の執行猶予付きだった。予備役の徴兵拒否者たちに厳罰を処したら政府に対する反発が広がり、反政府運動が拡大することをイスラエル政府は恐れている

 徴兵拒否者たちはガザの人道状況に必ずしも配慮しているわけではないが、戦争によって人質を解放するというネタニヤフ首相ら右派政治家たちの主張を信用しなくなっている。4月10日、約1,000人の空軍予備役兵が、戦争を終わらせるための人質取引を要求する公開書簡を発表し、これに海軍の数百人の予備役兵と軍事情報収集部隊の8200部隊の隊員たちが加わった。ネタニヤフ首相は、「徴兵拒否は徴兵拒否だ。たとえそれが暗黙のうちに、そして洗練された言葉で言われたとしても」と応じ、徴兵拒否が国家への裏切りであることを訴えた。

 ヘブライ大学の社会学者のヤエル・ベルダによれば、予備役に応ずる意欲の低下は、何よりもまず経済的な懸念から生じている。彼女は、予備役兵の48パーセントが10月7日以降、収入が大幅に減少したと報告し、41パーセントが、予備役の期間が長引いたために解雇されたり、仕事を辞めざるを得なくなったりして、政府に搾取されたという思いを強くもっている。また、イスラエルの戦争体質やネタニヤフ首相たち政治指導者たちの腐敗や非民主的姿勢、極右の台頭などに嫌気がさしてより良い移住先を探すようになる人々が増えている。実際に移住しても連れ戻されたりする人は目下のところいない。また、ネタニヤフ首相が個人的な利益のために国を破壊していると考える人も少なくない。軍への信頼がなくなった時、イスラエル国家は終わりを告げるだろう。


イスラエル 地元世論調査で停戦支持約7割に 兵役拒否も広がる
                     NHK NEWS WEB 2025年4月12日
イスラエルとイスラム組織ハマスとの間では、ことし1月中旬から6週間の停戦が実現しましたが、停戦延長に向けた協議の行き詰まりから、イスラエルは先月18日にガザ地区への攻撃を再開しました。
それ以降、イスラエルでは攻撃の再開が人質の命を危険にさらすなどとして、停戦を求める世論が広がっています。
先月公表された地元メディアの世論調査ではすべての人質の解放と引き換えにハマスとの恒久的な停戦を支持する人は69パーセントにのぼり、支持しないと回答した21パーセントを上回っています。
イスラエル最大の商業都市テルアビブでは連日、政府への抗議集会が行われていて、今月5日も多くの人が集まり、ハマスとの協議を進め、人質の解放を目指すべきだと訴えていました。

参加していた女性 人質を取り戻す唯一の方法は戦争を終わらせることだ。これ以上多くの人を殺害しても人質は帰ってこないし、間違っている。ハマスとの協議をしなければいけない」
参加していた男性 「もうこの状況に疲れた。イスラエルの市民とガザの住民が代償を支払っていて、もうたくさんだ。ネタニヤフ首相らは政治的生き残りのために戦争を終わらせたくないのだと思う」

一方、ネタニヤフ首相はガザ地区での攻撃の再開は停戦協議においてハマスへの圧力を強めるためだとして強硬姿勢を崩していません。
また、ハマスと恒久的な停戦に合意した場合、極右政党が連立政権から離脱すると主張していることから、ネタニヤフ首相が連立政権を維持し、首相の座にとどまるために軍事作戦を続けているとする批判も出ています。

兵役を拒否する人が増加
パレスチナのガザ地区でおととし10月に始まったイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が長期化する中、イスラエル軍の予備役の招集に応じず、兵役を拒否する人が増えていて、軍事作戦への影響も指摘されています。
イギリスのシンクタンク、国際戦略研究所が発行する「ミリタリー・バランス」によりますと、イスラエル軍は常備軍の兵士がおよそ17万人なのに対し、ふだんは一般社会で生活し招集に応じて軍務に就く予備役はおよそ47万人にのぼります。
これまでのガザ地区での軍事作戦でも予備役が主力となってきました。
複数のイスラエルメディアはイスラエル軍が先月18日にガザ地区への攻撃を再開してから ▽たび重なる招集に応じたことでふだんの生活や仕事に深刻な影響が出ていることや、攻撃再開への反対などを理由に予備役の招集に応じない人が増えていると報じています。
部隊によっては招集に応じる予備役が3割減っていて、一部の部隊では兵員の確保に苦しんでいるなどと伝えています。
また、イスラエル軍の空軍や情報部門の予備役のグループがガザ地区での戦闘の継続よりも人質の解放を実現させるべきだと訴える書簡を相次いで公表しています。

招集に応じないことを決断「自国を守るための戦争ではない」
イスラエル北部に住む予備役のユバル・ベンアリさんは教育支援の団体に勤めていましたが、去年の夏以降、3度にわたり、軍の招集に応じてガザ地区やレバノンでの軍事作戦に参加してきました。
ベンアリさんは当時の状況について「国民のため、長期間任務にあたっている友人たちのために招集に応じていた」としたうえで、「ガザ地区ではパトロールや監視にあたったが、破壊の規模に衝撃を受けた」と説明しています。
しかし、先月末ガザ地区での任務の最中に指揮官から新たな地上作戦を行うと伝えられ、攻撃の再開は人質の解放にはつながらないとの思いから今後の招集に応じないことを決断したといいます。
ベンアリさんは協議を通して人質の解放を実現するよう訴えていました。

ユバル・ベンアリさん 「新たな地上作戦を行うと分かりもう十分だ、もう関わることはできないと思った。これは自国を守るための戦争ではなくまったく別のものだ。招集に応じたのは間違いだった。政府は、軍事作戦の再開はハマスに圧力をかけるためだと言っているが、効果があるとは思えない。貴重な時間と貴重な人質の命が奪われるだけだ。政府を止めなければいけない」