4月22日に開かれた衆院消費者問題特別委員会では、公益通報者保護法改正案(通称・斎藤知事案件)についての「参考人意見陳述」が行われました。
その中で奥山俊宏・参考人(上智大学教授)は、兵庫県の斎藤知事が百条委員会や第三者委員会の結論、さらに主管者の消費者庁の見解を無視して、内部通報者に懲罰を加えたまま その取り消しに応じようとしないことを問題視し、厳しく知事を批判する発言を行いました。
これについても「西脇亨輔チャンネル」は分かりやすく解説しています。
また「動画 スズセンの教育コラム729」は「奥山教授・魂の参考人招致」と銘打って、発言の文字起こしを行っていますので紹介させていただきます。
動画「スズセンの教育コラム729」 ↓
「兵庫問題:衆議院 消費者問題特別委員会 奥山教授 魂の参考人招致」
因みに斎藤知事は、第三者委員会で出された「(外部及び)内部通報者の元県民局長」への「懲罰を直ちに取り消すべきである」との勧告を現在も無視しています。
斎藤知事は、いまだに外部通報は保護の対象外で内部通報しか保護の対象にならないという「根本的に間違った認識」を持ち続けています。しかし消費者庁が出している解説書にはどちらも保護の対象になると明記されていて、それは争う余地がないものです。
片山元副知事も以前に斎藤知事と同じ発言をしていましたが、それは解説書の「脚注」を読み落としていたもので、そもそも法の理念から言って内部通報と外部通報とで「保護の有無が異なる」などということはあり得ないことです。
以下に文字起こし文を紹介します。 【発言者 奥山俊宏・上智大学教授】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「兵庫問題:衆議院消費者問題特別委員会 奥山教授 魂の意見陳述
(前 略)
元県民局長がこのようにプライバシー属する真偽不明の事柄をあれこれ非難され、ここまで激しい人格攻撃を受けなければならなかったのはなぜでしょうか。知事のパワハラなど問題行為を内部告発したからです。権力者の不正を暴く情報の伝え手について、異性との関係のあることないことをあばき立てられるのは古今東西よく見られる現象です。告発者を貶しめその信用を傷つけ告発内容から目をそらさせ、論点をすり替え、さらに見せしめにするのが狙いの卑劣な攻撃です。
(中 略)
元県民局長に対する個人攻撃は今も続いています。政府が今般の公益通報者保護法改正案を閣議で決定した3月4日の次の日、しかも兵庫県議会の全会派が一致して元県民局長について適切な救済回復の措置を行う必要があると考るとの百条委員会報告書を承認した当日の3月5日、兵庫県の斎藤知事は記者会見で元県民局長について次のように述べました。
倫理上極めて不適切なわいせつな文書を作成されていた。兵庫県当局者が公の場でこのように明らかにしたのは、これが初めてのことでした。元県民局長の側に対する不当な嫌がらせであるという風に私は考えます。
兵庫県は現在公益通報者保護法11条とその指針に従った体制整備の措置を取る義務を負っています。すなわち公益通報者の処分の撤回など適切な救済回復の措置を取る義務、広域通報者の探索を行った知事や職員に対して懲戒処分その他適切な措置を取る義務を負っています。兵庫県は現状これらの義務措置を取っていません。
だから兵庫県議会の百条委員会はその報告書で現在も違法状態が継続している可能性があると指摘し、その是正を提言したのですけれども、斎藤知事はこれに従おうとしません。選挙で選ばれたからと言って何をしても許されるというわけではありません。法令には従わなければならない。斎藤知事が知事選挙で多数から票を得たことを理由として自分の違法行為に向き合うのを拒否するのだとすれば、それは法の支配に対する挑戦・反抗だと言って過言ではない振る舞いです。もし仮にそれがまかり通るのならば今後の日本社会にとって危険な兆候になると思われます。国にとって国会にとってそれを是正しようとする姿勢を示す必要性は極めて大きい、そういう風に私は考ます。
政府提出の公益通報者保護法改正案を拝見いたしました。公益通報者の範囲を広げ保護の実効性を高める内容となっており、是非成立させてさせていただきたいと感じます。しかしながらこの法案が閣議で決定された3月4日より後に兵庫で起きたことを踏まえますと、たとえ法案が成立して施行されたとしてもなお兵庫県のような体制整備義務違反を公権力によって是正させるための方策がこの法律には見当たらない。
そのようないわば欠陥が残ることに強い問題意識を持たざるを得ません。改正案では内部公益通報への対応の業務従事者を指定する第11条1項の義務への違反についてのみ、消費者庁の立ち入り検査権限、是正命令権、是正命令に従わない場合の刑事罰の導入が打ち出されています。しかし兵庫県が問われているような11条2項の体制整備義務違反についてはその対象から外されています。
私としては従事者指定にとどまらず、その他の体制整備義務への違反についても同様の強い権限を消費者庁に持たせるべき、もし必要があれば最後の手段としてそれを使るようにするべきだという風に考ます。
また兵庫権県など地方自治体は公益者の20条で行政措置や行政処分の適用から除外されています。これは改正法案でも変わっていません。兵庫県の事例を教訓としてとらえるとすれば、これは現実離れした適用除外であり、こうした適用除外はやめるべきであると考ます。
改正法案には公益通報者保護法に違反する解雇と懲戒処分に刑事罰を課すとの規定が盛り込まれています.兵庫県が元県民局長に定職3ヶ月の懲戒処分を課したのと同様の公益通報者への違法な処分を思いとどまらせ抑止する力にある程度はなるだろうという風に思います。しかし実際には刑罰権の発動はかなりハードルが高い実情があります。
たとえば告発文書の内容について真実相当性がないと過失で思い込んでしまったことでその告発文書の配布を保護されるべき公益通報に該当しないと誤って認識してしまい、懲戒処分を課してしまったというような場合、これは過失であって故意がないため罪とならないため懲罰できないということとなります。
さらに申し上げれば日本の検察は確実にできるものだけを起訴し、その他は不起訴にするのが通例です。最後の手段として刑事罰を用意しておくのはとても良いことだと思い、この改正法案を評価したいと思います。
けれどもその刑事罰の手前で、行政措置や行政処分の手立てを増やして柔軟な対応を可能にするのが望ましい。その観点からも体制整備義務違反に対する立ち入り検査、是正命令を可能とする修正の意義は大きい。そうした法案修正をすることによって斎藤知事のような振る舞いを容認しないとの国会の意思を示すこともできます。不正を目の前にして、報復を恐れて公益通報するかどうか躊躇する人たちに対する前向きなメッセージにもなります。
情報の伝え手を攻撃するのではなくその情報の中身を吟味し必要な是正へと結びつける。そんな方向に意識を振り向ける。そんな私たちでありたい。そのためのガードレールとして公益通報者保護法をより良くしていきたい。兵庫県の斎藤知事のような振舞いをまかり通らせるような法律ではなく、公益通報を萎縮させるような法律ではなく、そうではないと示すような法律にしたい。
兵庫で起きてるような不幸な顛末を2度と繰り返させないとの決意を示すような法律にしたい。そんな法律が実現すればとても素晴らしいと思います。
ご清聴ありがとうございました。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。