2025年4月10日木曜日

アメリカ人を貧困に陥れ、世界に害を及ぼすトランプの不条理な貿易政策

 ジェフリー・D・サックスが掲題の記事を出しました。
 サックスは若くして国際貿易論の分野で業績を上げ、29歳でハーバード大学の教授となった俊英で、海外記事を紹介するブログにも頻繁に登場しています。
 記事の結論は「トランプ関税では貿易赤字と財政赤字を解消できず、物価を上昇させ、貿易による利益を浪費することでアメリカと世界を貧しくするだろう。アメリカは自国と世界に与えている損害のせいで世界の敵になるだろう」と明記されており、論理的で理解しやすい文章になっています(「経済」の仕組みに即して正確に理解するには相応の知識を要しますが)。

 国際ニュース解説者の田中宇氏が「高関税策で米覇権を壊す」という記事を出しました。
 田中氏は、トランプの目的は米覇権(その実態は「英国系の情報機関が主流となっている米国のデープステイト」)を壊滅させるのが目的で、米国の単独覇権体制を破壊し多極化するための一環であるとしています。併せて紹介します。
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アメリカ人を貧困に陥れ、世界に害を及ぼすトランプの不条理な貿易政策
                 マスコミに載らない海外記事 2025年4月 7日
                   ジェフリー・D・サックス 2025年4月3日
             The Unz Review
 2025年4月2日水曜日、ホワイトハウスのローズガーデンで行われた「アメリカを再び豊かにする」催しで、ドナルド・トランプ大統領は政権の関税計画に関する大統領令に署名した。
 基本的な経済的間違いで、ドナルド・トランプ大統領は世界貿易体制を批判している。アメリカの貿易赤字は、世界がアメリカを騙したことが原因だと彼は誤って主張し「何十年にもわたり、歴史上どの国も騙されたことのないほど彼らは我々を騙してきた…」などと繰り返し述べている。
 関税を課すことで貿易赤字を解消し、輸入を抑制して貿易収支を回復すること(あるいは他国がアメリカをだますのをやめるように促すこと)をトランプは目指している。だが、トランプ関税は貿易赤字を解消するのではなく、むしろアメリカ人を貧困に陥れ、世界の他の国々に損害を与えるだろう
 
 ある国の貿易赤字(より正確には経常収支赤字)は黒字国の不公平な貿易慣行を示すものではない。全く別のことを示している。経常収支赤字は、赤字国が生産より支出が多いことを意味する。つまり、投資よりも貯蓄が少ないということだ。
 アメリカの貿易赤字は、アメリカ企業支配階級の浪費尺度で、より具体的には、富裕層の減税と無駄な戦争に浪費された数兆ドルが組み合わさった結果生じた慢性的な巨額財政赤字の結果だ。赤字は、アメリカが、カナダやメキシコに売るより多くのものをアメリカに売っているカナダやメキシコや他の国々の不誠実さによるものではない。
 貿易赤字を解消するには、アメリカは財政赤字を解消する必要がある。関税を課せば(自動車などの)価格は上がるが、貿易赤字や財政赤字は解消されない。特にトランプ大統領は関税収入を、富裕層の寄付者に対する大幅減税で相殺する計画だからだ。更に、トランプ大統領が関税を引き上げると、アメリカは対抗関税に直面し、それがアメリカ輸出を直接阻害する。その結果、アメリカと世界の他の国々はどちらも損をすることになる
 
 数字を見てみよう。2024年に、アメリカは48兆ドルの商品とサービスを輸出し、59兆ドルの商品とサービスを輸入し、11兆ドルの経常収支赤字をもたらした。この11兆ドルの赤字は、2024年のアメリカの総支出(301兆ドル)とアメリカの国民所得(290兆ドル)の差だ。アメリカは収入より多くを支出しており、その差額を世界から借りている
 トランプはアメリカの財政赤字の原因を世界のせいにしているが、それは馬鹿げている。アメリカは収入より支出が多いのだ。考えてみよう。あなたが従業員なら、雇用主との経常収支は黒字だが、商品やサービスを購入する企業との経常収支は赤字だ。収入とまったく同じ額を使っているなら、経常収支は赤字だ。買い物三昧でクレジット・カードの借金が増え、収入以上の出費をしているとしよう。すると経常収支は赤字になる。店があなたをだましているのか、それとも、あなたの浪費が借金を生んでいるのか?
 ワシントンを支配する企業買収者や脱税者の無責任な財政が続く限り、関税では貿易赤字を解消できない。例えば、トランプ関税で海外からの自動車や他の商品輸入が大幅に減少したとしよう。すると、アメリカ人はアメリカ製自動車や輸出されるはずだった他の商品を購入することになる。輸入は減少するが、輸出も減少する。更に、トランプ関税に対抗して他国が課す新たな関税は、アメリカ輸出の減少を更に助長する。アメリカの貿易不均衡は残る。
 
 関税によって貿易赤字がなくなるわけではないが、アメリカ国民は外国生産者から、より安価に入手できるはずの高価なアメリカ産品を買わざるを得なくなる。関税は、経済学者が貿易の利益と呼ぶもの、つまり国内外の生産者の比較優位に基づいて商品を購入する能力を浪費することになる。
 関税により自動車価格と自動車労働者の賃金は上がるが、その賃金上昇は国民所得の増加ではなく、経済全体でのアメリカ人の生活水準低下によって支払われることになる。アメリカ労働者を支援する本当の方法は、国民皆保険や労働組合結成の支援やグリーンエネルギーを含む近代的インフラへの予算支援など、トランプが好むものと正反対の連邦政府の措置を通じてであり、これらは全て、最も裕福なアメリカ人と企業部門への減税ではなく増税によって賄われる
 裕福な選挙資金提供者が減税や租税回避(タックスヘイブン経由)や脱税を推進しているため、連邦政府は総支出を税収で賄えない。DOGE政府効率化省IRS⇒米国国税庁監査能力を弱体化させたことを忘れないよう願いたい。現在、予算赤字は約2兆ドルで、アメリカ国民所得の約6%に相当する。予算ギャップが慢性的に高いため、アメリカの貿易収支は慢性的赤字のままだ。
 DOGEを通じて無駄と乱用を削減し、財政赤字を削減するとトランプは述べている。問題は、DOGEが財政浪費の本当の原因を誤って伝えていることだ。財政赤字は、不当に解雇されている公務員給与や、将来の繁栄がかかっている政府の研究開発費によるものではなく、むしろ富裕層の減税や、アメリカの絶え間ない戦争への無謀な支出や、イスラエルの絶え間ない戦争へのアメリカの資金提供や、750の海外アメリカ軍基地、肥大化したCIAや他の諜報機関や、急増する連邦債務への利払いの組み合わせによるものだ。
 最も裕福なアメリカ人に対するさらなる減税に道を開くため、トランプ大統領と共和党議員はメディケイド、つまり最も貧しく弱い立場にあるアメリカ人を標的にしていると報じられている。彼らは近いうちに社会保障とメディケアにも狙いを定めるかもしれない。
 
 トランプ関税は貿易赤字と財政赤字を解消できず、物価を上昇させ、貿易による利益を浪費することでアメリカと世界を貧しくするだろう。アメリカは自国と世界に与えている損害のせいで世界の敵になるだろう
記事原文のurl:https://www.unz.com/article/trumps-absurd-trade-policies-will-impoverish-americans-and-harm-the-world/ 
 
 
高関税策で米覇権を壊す
                  田中宇の国際ニュース解説 2025年4月7日
トランプ米大統領が、世界各国に対して各種の高関税策をかけ始めている。その目的は「米経済覇権体制=グローバリズムの解体・破壊」、別の言い方をすると「世界経済の多極化」だ。米覇権が低下すると、世界は自然と多極化する(すでにしている)。だから、米覇権の破壊と多極化は同じものだ。
1980年代の米英金融自由化(経済の債券化。ビッグバン。プラザ合意)以来、世界は、米国(米英欧)が金融、その他の世界は製造業、という役割分担があり、米金融の利益率が世界の製造業より高い状態が維持され、この要素が米(英)覇権の中心になっていた。US tariffs hit Europe, China harder than expected, recession risks rise: Barclays

この米金融覇権体制は、米国が世界から商品を旺盛に輸入する替わりに、世界は対米輸出で儲けた資金を米金融界に預託(投資)し、米国が資金面で世界を席巻する仕組みだった。
覇権放棄屋(隠れ多極主義者)のトランプは今回、世界から米国への輸入品に高関税をかけ、米金融覇権体制を潰しにかかった。関税を取られる分、世界は対米輸出の儲けが減る。連動して、世界から米国への金融投資も減るので、株高を支えていた構図が崩れ、株価の世界的な暴落になっている。Trump says his tariff policies ‘will never change'

トランプは破壊活動的な高関税策をずっと続けるので、株価は反騰しにくく、下落傾向が長引く。米国債は株式からの資金逃避で上がっているが、これから世界が米国債を買わない傾向を強めると反落(金利上昇)しうる。
フランスのマクロンは、米国に投資するなと財界に要請した。欧米の分断はトランプの目標だ。世界が米国に投資しなくなると、DS⇒デープステート・陰の政府の一部である米金融界が破綻する。マクロンはDS(英傀儡)なのに、ハメられてトランプのDS潰しに加担してしまった。
トランプの高関税策に理解を示すようなことを言っているスターマーの英国の方が巧妙だ。
Macron calls on EU companies to freeze investments in US)(Starmer to announce end of globalization

米覇権が1980年代に金融化して以来、米金融は、世界から投資を集め続けるため、株高や債券高(金利低下)を維持する必要があった。米金融は40年間バブル膨張し続けた。
米金融の最盛期は1985年の金融自由化から2000年のITバブル崩壊あたりまでで、その後はいろんな手段を駆使した延命期に入った2008年のリーマン危機で債券化の延命が限界になり、その後は中央銀行(FRB)のQE(過剰造幣)や、米政府の財政赤字増加による注入といった、当局による不正(異次元)な資金注入での延命策になった。(米連銀がQEやめないので実体経済が破綻してるのに株が上がる)(Europe prepares response to Trump tariffs as global markets plunge

公的な経済統計の算出方法を歪曲して、景気や雇用、物価を粉飾して金融相場の吊り上げを維持する策も横行・拡大した。米金融覇権を維持するため、当局と金融界、マスコミ権威筋が手段を選ばず大ウソをついて株や債券の高値を演出し続けた
これらの不正が万策尽き、高値が維持できなくなったタイミングで、トランプが再登場し、高関税策を発動して米金融覇権の構造を破壊し始め、金融相場の大崩壊が始まった。('Immense consequences': Trump's tariffs ignite worldwide backlash, spiraling uncertaintyひどくなる経済粉飾

トランプの高関税策は、米国の製造業を復活させる経済ナショナリズム策として打ち出されているが、製造業の復活は、成功するとしても何年もかかる。世界各国は、米国に代わる輸出先を開拓せねばならない。
リーマン危機やウクライナ戦争は、米欧系以外の諸国(BRICSなど非米側)に、米欧抜きで結束して発展していく道を歩ませ、世界経済は非米化が進んでいる。70億人以上の巨大市場である非米側が、これから米国に代わる輸出先になる。長期的に、世界経済は今より発展する。だが、それも時間がかかる。(Here's what's really behind Trump's tariffs - and how they may backfire

トランプの高関税策は、世界経済を米国依存のグローバリズム(米覇権体制)・金融主導(金融支配)から解放し、非米化・多極化・実体経済(非金融)中心に引き戻していく起爆剤になる。長期的には、トランプ革命の全体が、世界にとって2度の大戦以来の画期的な出来事・覇権転換だ。これがいわゆる「新世界秩序」「大リセット」の本質でもある。(Trump's new tariffs pave way for new world order, says top EU lawmaker

しかし短期的には、まずリーマン以上の金融危機(リーマン危機で起きるはずの崩壊がQEなどの延命策で先送りされていた事態の終わり)や、世界的な大恐慌がこれからしばらく続く。
その間に、欧州の没落、中東の(イスラエル中心の)再編など、政治面での覇権構造の転換が進行する。(JPMorgan sounds global recession alarm

トランプは、金融危機や大恐慌を引き起こすとわかっていながら高関税策を発動した。マスコミ権威筋(グローバリスト=米覇権運営体=DS=英国系の傀儡)は、トランプは馬鹿だと非難している。
だが実のところトランプは馬鹿でない。彼は、2015年から明言している目標である「DS=米覇権を潰す」を、用意周到かつ大胆に進め、年初の再就任以来、今のところ全戦全勝で成功している。
米覇権運営体(諜報界)には最初(終戦時)から、英国系と隠れ多極派(ロックフェラーとか)の暗闘があり、トランプは隠れ多極派を継承し、ケネディやニクソンやレーガンが道半ばで終わった英国系潰しに成功している。高関税策の目的は英国系(=米覇権)潰しだ。(US trade tariffs flawed, increase recession risk: Invesco's Paul Jackson

「そんな諜報界の身勝手な派閥争いのために、世界が不況にされ、あたしのNISAが大損させられたの??」と非難する人がいそうだ。
長期的・巨視的に見ると、諜報界の暗闘がなくて英国系が米覇権を好き放題に延命すると、米覇権を維持するために、米国のライバルになりうる中露印などBRICS・非米側の諸勢力が次々と政権転覆されたり経済破綻させられ、ほかを潰して米英が延命する事態になる。Trump tells Americans 'it won't be easy'

英国系は、戦後ずっとアフリカ諸国の発展を阻害し、アフリカの人々に貧しい状態を強要し続けた。そういう展開が中露印などに拡大する。中国はアヘン戦争後の混乱に引き戻される。
これは、世界経済や人類の幸福の観点から、阻止すべきことだ。英国系(米覇権)が延命のために他の世界を破壊しないよう、トランプ(隠れ多極派)が英国系を潰している。株の暴落は必要なことだ(あなたの雇用やNISAが犠牲になるのは仕方がない)とトランプが言っている。Futures Tumble As President Trump Delivers "Declaration Of Economic Independence"

戦後の日本は、外務省を筆頭に、ゴリゴリの英国系傀儡だ。英国系が中国やロシアをアフリカみたいな貧しい永久混乱に陥れてくれるなら、傀儡も居心地良い。しかし実際は、英国系が隠れ多極派にしてやられ、中国は発展して米国をしのぐ大国になり、ロシアはウクライナ戦争に勝ってしまい、挙句の果てにトランプが英国系を潰しているColbert Begs The Deep State To Stop Trump

トランプは高関税策を「米国は解放された」と言っている。この言葉の真意は「米国は、英国系に牛耳られて単独覇権体制を強要されていた事態から解放された」である。
そして日本も、喜んで英国の傀儡になっていた事態から解放される。中国の属国・傀儡になるのでなく、日本が独自に非米側との関係網を作っていく必要がある
中国はすでに一帯一路を構築しており、日本よりはるかに進んでいるが。それに、英国系が潰されるのに何も対応しない無能・小役人な日本外務省は、中国の属国になって事足れりとするのだろうが。けっこう絶望的ではある。Futures Tumble As President Trump Delivers "Declaration Of Economic Independence"

これまで英国系は、巧妙にしぶとく延命してきた。トランプに潰されたまま、もう蘇生しないのか。英傀儡である米民主党が復活するとか??。
いやいや。その点も、隠れ多極派(リクード系とか)は、すでに手を打ってある。昨年夏、米大統領選挙戦の本格化直前に、米民主党の上層部で、バイデンに立候補を取り下げさせ、副大統領のカマラ・ハリスを大統領候補に据えるクーデターがあった。
あれは民主党内のリクード系がやったことらしい。ハリスは、関係者ならみんな知っている超無能な人だ。ハリスは昨秋の選挙で惨敗しただけでなく、2028年の次期大統領選に再出馬する意欲を見せている。ハリスは、絶対に勝てない。民主党は、今の支持率20%から挽回できない。Kamala Harris Hints At Future Political Run: 'I'm Not Going Anywhere'

民主党ではバラク・オバマが、勝てる候補を探して立候補させて復権しようと動いている。ハリスは、オバマの動きを阻止する。そして再度の惨敗。オバマは、リクード傀儡のブッシュが破壊した米覇権を立て直そうとしてリクード系に邪魔されて失敗した現職時代から、リクード系に負け続けている。
米国を大恐慌に陥れても、民主党がダメダメなので、二大政党制の米国では、トランプ陣営(バンスが後継者?、もしくはプーチン・メドベージェフ方式か?)が負けない。そのためにハリスが用意された。(無能なハリスを有能と歪曲する

高関税策は、経済でなく国際政治の策だ。これまで「経済分析」と言われてきたものの多くは詭弁だった。この点については、あらためて考える。