政府が18日にも日本学術会議解体法案の審議入りを狙うなか、学術会議は14日、都内で総会を開き、会員有志56人が国会に対して同法案の修正を求める決議案を提出しました。
決議案は、法案はこれまで学術会議が繰り返し主張してきた「活動の独立性」などナショナル・アカデミーとしての五つの必須要件を満たしておらず、会長が昨夏に示した ▽首相任命の監事や評価委員会の新設 ▽中期目標・中期計画の策定 ▽次期会員に特別な選考方法を導入▽外部者でつくる会員選定助言委員会の設置―など五つの懸念点も払拭できていないと指摘。5要件を全て満たし、懸念を全て払拭する法案修正を求めています。
また光石会長の総会声明案については、法案の成立を前提とした記述になっているとの指摘が相次ぎ、会員が当該部分の削除を求める修正動議を提出。幹事会で検討することになりました。
それを受けて学術会議は15日、引き続き都内で総会を開催し、政府提出の学術会議法案に抜本的な修正を求める決議案が採択されました。
同時に提案、議論されていた総会の声明案は、政府提出法案の成立を前提とした記述を削除するなど修正されて採択されました。しんぶん赤旗が報じました。
しんぶん赤旗は14日、『学術会議 解体法案の狙い』と題する解説記事の連載を開始しました。その(1)と(2)を紹介します。
(1)では、法案は現行の「日本学術会議法」とは完全に異質なものなのに、それを臆面もなく「日本学術会議法」と命名し、「現行の日本学術会議法は廃止する」と明記していることを明らかにしました。
現行法の前文の、「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」とするとの根本理念を全面削除し、政治権力からの独立を奪い、経済団体その他の民間の団体等が人事に介入できるようにするとともに、会員選考では自己選考方式が排除され、現在の学術会議との連続性を排除、遮断する仕組みとなっていることを明らかにしました。
そして前会員で千葉大学教授の栗田禎子氏と日本ジャーナリスト会議代表委員の藤森研氏の痛烈な批判を紹介しています。
(2)では、20年に菅義偉首相が行った6人の会員推薦候補に対する違法な任命拒否は、実は前の安倍政権によって計画・指揮された強権介入であり、具体的には警察出身の内閣官房副長官・杉田和博氏が指揮したものであることを明らかにしました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
学術会議法案 修正要求 総会で採択 組織の総意示す
しんぶん赤旗 2025年4月16日
日本学術会議は15日、前日に引き続き都内で総会を開催しました。政府提出の学術会議法案によって学術会議の独立性、自律性が脅かされるとして、抜本的な修正を国会に求める会員有志56人提出の決議案が採択されました。
同時に提案、議論されていた「修正の可能性も含め、十分に慎重な審議」を求める総会の声明案は、政府提出法案の成立を前提とした記述を削除するなど修正されて採択されました。 日本学術会議の総意として、ナショナル・アカデミーとしての5要件を充足することを求め、政府の法案の修正を求めることで大きくまとまりました。
会員有志は、法案が学術会議の活動や会員選考の独立性などナショナル・アカデミー5要件を満たしておらず、昨夏の幹事会声明が指摘した ▽首相任命の監事や評価委員会の新設 ▽中期目標・中期計画の策定 ▽次期会員に特別な選考方法を導入 ▽外部者でつくる会員選定助言委員会の設置―など五つの懸念を払拭していないと指摘。5要件を全て満たし、五つの懸念を全て払拭する法案の抜本的修正を提案していました。
56人案の提案者で学術会議法学委員会の川嶋四郎委員長は、法案の修正を国会にゆだねたいと考えて提案したと説明。学術会議のこれまでの主張を「一貫して主張し続けることこそが、社会に対する真の信頼を築く道であると確信している」と述べ、「学術の自由と誠実さを堅持する姿をみんなで共有して、国民のみなさんに示すことこそ大事だ」と表明しました。
会員からは「56人の提案は、学術会議が積み重ねてきた幹事会決定や総会決定、会長声明を国会の場でも議論の対象に加えてほしいという要求だ」などの発言がありました。
光石衛会長は「学術の振興を通じて、文化を育み、平和で豊かな社会をつくり、国民が安心して生きがいがあり、健康で文化的な生活をますます進めることをやりたい」と述べました。
学術会議 解体法案の狙い(1) 歴史・役割 黒塗りに
しんぶん赤旗 2025年4月14日
石破政権は日本学術会議を解体する法案の審議入りを18日にも狙っています。日本学術会議は14、15日に総会を開き、法案への対応も論議しますが、政府からの圧力も強まり事態は緊迫しています。問題は、学者の世界にとどまらず、市民の自由と平和の前途にも重大な関連を持っています。法案の危険性、内容とその背景、経過について考えます。 |
日本学術会議が発足して76年。いま学術会議を解体し、葬り去ろうとする政府による危険な企てが進められています。
石破政権が国会に提出した法案は臆面もなく「日本学術会議法」と命名されています。しかしその中身は、現在の学術会議法とは完全に異質なものです。法案の付則28条には「日本学術会議法」(1948年)を「廃止する」と明記。文字通り現在の学術会議を廃止すると宣言しています。
消える平和
現行法の前文は「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される」とその根本理念を明記しています。政府案はこれを全面削除。文化、平和の文字が消えました。
現行3条の「日本学術会議は、独立して…職務を行う」という規定も消失。政治権力からの独立が奪われます。「職務」が「業務」に変わり、内閣総理大臣が任命する「監事」や内開府に置かれる「評価委員会」からの監督を受ける中での「自主性・自律性」への「配慮」に切り替わっています。
「国の特別の機関」である学術会議を「法人とする」とし、前文削除と一体に国の機関として政府に科学的助言を与えるという地位を否定しています。
会員選考の方式も、総会決議によるとする一方で、会員候補の選定委員会の選考に関し会員以外からなる「選定助言委員会」が介入。候補者選定委員会は大学や研究機関のほか「経済団体その他の民間の団体等の多様な関係者から推薦を求める」など「幅広い候補者を得るために必要な措置を講じる」とされます。コ・オプテーションという「会員による自己選考方式」が変質します。
さらに驚くべきことが。新組織の来年(2026年)の発足を念頭に、発足時および発足3年後の会員の選考方式を特別に規定。「候補者選者委員会」が設けられ、大学、研究機関のほか経済団体等の推薦を得つつ候補者を選考するものとされ、現在の会員は発足時の会員の推薦をできません。
連続性排除
また6年ごとの半数改選を前提に、発足3年後(29年)の新会員候補の推薦も、発足時の選考委員会が実質的に行う仕組みに。すなわち、発足時と発足3年後の会員選考では自己選考方式が排除され、現在の学術会議との連続性を排除、遮断する仕組みとなっています。
11日の国会内での集会で広渡清吾元学術会議会長は「今の学術会議会員は次の学術会議会員を選ぶことに絶対に関与させないものだ。現在の学術会議と新法人を完全に断絶させる」と指摘。まさに日本学術会議の歴史、役割、実蹟を黒く塗りつぶすものです。広渡氏は「本当に私たちも頑張らないと、この動きを止めることはできない」と述べました。
自由の侵害 学問から
日本学術会議は、科学者のコミュニティーとして「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図る」「科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させる」(会議法3条)とし「国の機関」でありながら「独立して」その職務を行ってきました。
学術会議の解体の動きに対し、栗田禎子学術会議前会員・千葉大学教授は学問の自由の観点から厳しく批判します。「学問の自由は、個人にとっての自由であると同時に、それを社会的・制度的に担保していくことが必要な自由です。戦前の天皇機関説事件(別項)。や滝川事件(同)などの歴史を見ても、学問の自由は、個人の力だけでは絶対に守れない」と指摘。日本国憲法で保障された「学問の自由」を守るための制度的裏付けとして二つの柱があり、一つは大学の自治、もうーつが学術会議の存在で、科学者コミュニティーが権力から独立してものを言える仕組みだといいます。
真理の探究
「大学の自治が形骸化され、さらに科学者コミュニティーの代表である学術会議まで解体、政府に従属させられてしまえばいくら『個人が何を研究しても自由だ』と言われても社会的に意味ある形で発信していく場所がなくなってしまう」と栗田氏は述べます゜さらに「学問の自由とは、真理を探究し、科学的真理以外のいかなる権威も認めないもので、政治権力や経済的な力に対しても歯向かう力、勇気と確信を人間に与えるものです。真理探究の営みをねじ伏せようとする動きに対抗するシステムがどうしても必要なのです」と強調します。
◇
天皇機関説事件
1935年に、美濃部達吉東大名誉教授の「天皇は国の最高機関」とした説が、「国体」に反し不敬であるとして攻撃を受け、排撃された事件。美濃部氏は貴族院議員を辞職し、右翼に
銃撃されました。
滝川事件
1933年に起こった弾圧事件。自由主義的な学説の滝川幸辰(ゆきとき)京都帝国大学法学部教授を、危険思想の持ち主として文部大臣が休職を要求し、最終的には免官となりました。
◇
歴史は、学問の自由が侵害されたのちに、表現の自由、思想信条の自由など、市民社会の精神的自由の全体が侵害されることを教えています。
元朝日新聞論説委員で日本ジャーナリスト会議代表委員の藤森研さんは民主主義の観点から、学術会議解体の動きを批判します。
政権が介入
「内閣法制局、日銀、検察庁そして学術会議など、政治権力の中に国家機関として独立性を持った機関がビルトイン(組み込まれている)されていることが非常に重要です。政治的立場や物事を考える視点がそれぞれ違う機関をもって国家機関を形成するのが民主主義の知恵です。政治権力内でも、独立性のある機関が権力内でいろいろな相互チェツクを行う。権力の分立が反射的に市民の自由を担保するのです」
ところが第2次安倍政権以降、内閣法制局、日銀、NHK経営委員などの人事に政権が介入して自分の言いなりにする動きが続いてきました。検察庁法の改定にも踏み込み、権力犯罪の摘発をコシトロールしようとしましたが、激しい世論の批判でとん挫しました。
藤森氏は「今度の学術会議の改変の動きもそうした流れのうえにあるもの。私たちが平和と民主主義のために大切にしてきたものがまた崩されようとしている」と指摘。「みんなで、よってたかって止めなければなりません」と語ります
問題の発端は2020年10月の菅義偉首相による6人の候補に対する違法な任命拒否です。その理由・根拠は明らかにされないまま、組織解体の動きが強まる異常な流れです。任命拒否は、安倍政権によって計画されたものであることが明確になってきました。 (つづく)
学術会議 解体法案の狙い(2) 「任命拒否」と同じ流れ
しんぶん赤旗 2025年4月15日
学術会議解体の動きは2020年の菅義偉首相による6人の推薦候補に対する任命拒否に端を発し、その真相の解明のないまま自民党と自公政権により組織改編・組織解体へと問題を「すり替え」られてきた結果です。
日本学術会議法(日学法)7条2項は、学術会議が会員候補を推薦し「内閣総理大臣が任命する」と規定しています。この任命は「学会や学術集団からの推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎない」(中曽根康弘首相=当時、1983年)とされており、推薦された候補の任命拒否はできないものとされてきました。現行制度になってから任命拒否は一度もされたことがなかったのです。
違法性明白
菅首相は「人事を通じて一定の監督権を行使することができる」「推薦の通りに任命する義務があるとまでは言えない」という2018年の内部文書を持ち出し、内閣法制局とも相談したなどと正当化しましたが、行政府内部の協議で、国会答弁を覆すことはできません。どんなに言いつくろっても「任命拒否」の違法性は明白でした。
「任命拒否の理由と根拠を示せ」という当然の要求に対しても、「(任命拒否は)総合的・俯瞰的な活動のため」とか「人事に関することなので答えられない」という対応を繰り返し、今に至っているのです。違法性は解消されておらず、当事者のみならず学者、研究者の研究、発信に対する重大な萎縮効果をもたらしています。
一気に改編
同時に、任命拒否の直後には自民党内に「政策決定におけるアカデミアの役割に関する検討プロジェクトチーム」が発足し、20年10月14日に初会合を開催。12月には「提言」をまとめ、学術会議の国家機関としての独立性を否定し、政治や経済に奉仕する「科学」という方向を打ち出したのです。任命拒否から組織改編の動きは、すでに政権・与党内、支配層の中で共有されていた流れを一気に表面化させたものだったといえます。
任命拒否の理由と根拠を巡り、当事者や法律家らによる情報開示請求の取り組みが2021年4月から始まりました。
副長官から
その結果今日までにいくつかの重要な事実が浮き上がっています。
ーつは「R2.9.24」(令和2年9月24日)の手書きの文字と「『外すべき者』(副長官から)」との書き込みのある黒塗り文書から黒塗りが外され、任命拒否された6人の名前と肩書が記されていたことが判明したことでした。「副長官」とは警察出身の杉田和博氏とみられます。
もう一つは「R2.6.12」(令和2年6月12日)という書き込みだけ開示し、あとは黒塗りとされた文書について、任命拒否された6人が自己情報の開示請求を行ったところ、黒塗り部分に各自の名前が書かれていたことが分かったことでした。これは官邸サイドから学術会議事務局に伝達されたものです。
20(令和2)年6月12日は、まだ学術会議内で会員候補の推薦候補の選考中だった時期です。とすれば、官邸サイドはその日以前に学術会議側の選考情報を入手し、6人を「外せ」とする意思を示し純然たる内部選考過程に介入していたことになります。
すなわち、任命拒否は菅首相によって行われましたが、安倍政権によって計画・指揮された強権介入であり、これをはね返して6人を含む推薦をした学術会議に対する強権発動だったのです。
伝達の内容
日本共産党の小池晃書記局長は3月6日の参院予算委員会で、20年6月12日付の文書をめぐり「学術会議に対して6月の時点で6名を外すという働き掛けがあったのか」と質問。学術会議事務局は、20年の候補推薦の意思決定過程で「任命権者側から日本学術会議事務局に令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る事項として伝達された内容を記録したものである旨を説明した文書が存在する」と答弁しました。小池氏は「働き掛けがあったとすれば選考手続きへの政治介入だ」と批判しました。
小池氏は、石破首相が昨年8月に出した著書『保守政治家』の中で任命拒否問題について、「従来の内閣が推薦候補者全員をそのまま任命するとしてきたのであれば、なぜそれが変わったのかについては、政府側が十分な説明を尽くす必要がある」「どういう手続きが踏まれたのかも明確しておいた方がいい」と書いていると指摘。「自らの発言に責任を持つのであれば、任命拒否の理由を明らかにすべきだ」とただしました。石破首相は「当時の総理が法にのっとって適切に判断した」と官僚答弁を繰り返しました。 (つづく)