しんぶん赤旗の連載シリーズ「学術会議 解体法案の狙い」(3)(4)を紹介します。
(3)の概要
防衛装備庁が15年に発足しました。これを機に、「安全保障技術研究推進制度」を利用することで学術機関との共同研究の気運が拡大し、その予算額は15年度は3億円だったのが24年度には104億円へと、「軍事技術への取り組み」が急拡大しました。
こうした動きの中で日本学術会議は、17年3月に「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表し、67年の「軍事目的のための研究を行わない声明」を継承することを明言しました。
しかし軍事研究強化を指向する防衛省や産業界、自民党などは、逆に学術会議を敵視する動きを強め、「任命拒否」問題(20年)を経て、学問・研究の軍事利用の動きを22年に加速させました。
(4)の概要
日本学術会議法(48年制定)は、教育基本法、国立国会図書館法などと並び、憲法と同じく「前文」を有する法律で、岡田正則早大教授によれば、これら3法は「憲法を具体化するために前文に理念が書かれている」のです。学術会議解体法案は、現行の日本学術会議法にあるこの前文を削除しています。これは「平和」や「文化」の理念を抹消するものです。
また解体法案では、現在の学術会議を国の機関から外し特殊法人にするとしています。
内開府は「国の機関から外れれば独立性が高まる」と喧伝しますが、それは明らかなマヤカシで、「国の機関でありつつ法律上独立性が担保されており、かつ、政府に対して勧告を行う権限を有している現在の制度は、学術会議に期待される機能に照らして相応しいもの」です。
逆に国家機関としての立場を失えば、今後学術会議が何を勧告しようとも「政府は何の痛痒も感じなく」なります
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学術会議 解体法案の狙い(3) 軍学共同への抵抗敵視
しんぶん赤旗 2025年4月17日
「任命拒否」とその直後から強まった日本学術会議の改変・解体の動きには連続性があった-。その背景は何か。
カネで誘導
「この10年の聞に、軍学共同-軍事部門と学術機関の共同研究が拡大されてきました。背景にあるのは米国の世界戦略の一翼を担いたい政治家たちの野望と、兵器の輸出でーもうけしたい経済界からの要求です」-。こう語るのは軍学共同反対連絡会の共同代表の一人である多羅尾光徳東京農工大学准教授です。同連絡会は、2016年に大学や研究機関での軍事研究に反対する団体、研究者、市民によって結成されました。
防衛装備庁が15年に発足。同年度から始めた「安全保障技術研究推進制度」(安枝研制度)によって同庁から大学や研究機関への委託研究が動きだします。大学予算の削減で研究費の不足が深刻となる中、カネで軍事研究へと誘導する「研究者版経済的徴兵制」とも言われました。予算額は15年度に総額3億円だったのが、24年度には104億円まで拡大しています。
委託研究のテーマには、「水中航走体の性能を大幅に向上させる基礎研究」「極超音速技術に関する基礎研究」など、潜水艦や極超音速ミサイルに関する技術研究を含め、軍事技術に関するテーマが並んできました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、公募に応じて極超音速で飛行可能なスクラムジェットエンジンの研究に取り組んできた経緯があり、一部の大学も参加しました。
声明の影響
こうした動きの中で日本学術会議は、17年3月に「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表します。「声明」は、学術会議が1950年に発した「戦争を目的とする研究は絶対にこれを行わない」とする声明と、67年発表の「軍事目的のための研究を行わない声明」を「継承する」と明記。安枝研制度は「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ…(中略)…政府による研究への介入が著しく、問題が多い」とし、制度への参加に慎重な姿勢を示したのです。
多羅尾氏は「『声明』のおかげもあり、安技研制度に応募する大学は2023年までは10件前後と低調で推移し、応募するのは公的研究機関や民間企業が大半を占めていました。ただ24年度は大学からの応募が一気に44件に増えています」と指摘します。
こうした中、防衛省や産業界、自民党などから学術会議を敵視する動きが強まります。
軍事協力に引き込む
2017年11月末の日本防衛学会研究大会で、元三菱重工航空宇宙事業本部顧問の西山淳一氏が「学術会議の議論は全然論理的じゃない」と露骨に嫌悪感を示し、防衛装備庁の初代長官だった渡辺秀明氏が「若干時間がかかる。辛抱するしかない」とぼやいていたのを「赤旗」は取材していました。
また、内閣府が学術会議の推薦と内閣総理大臣の任命との関係について「推薦の通りに任命すべき義務があるとまで言えない」という「内部文書」をまとめたのは18年11月13日。同文書は、同年9月以降、学術会議事務局と内閣法制局との頻繁なやりとりでまとめられたものです。20年の「任命拒否」への流れをうかがわせます。
国家戦略ヘ
20年の「任命拒否」問題を経て、学問・研究の軍事利用の動きは22年に加速します。同年5月には「安全保障等の様々な分野で今後利用可能性がある先端的な重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用」をうたった経済安全保障法が成立。同年12月には「安保3文書」が,閣議決定されます。
3文書の最上位に位置する「国家安全保障戦略」は「官民の先端技術研究の成果の防衛装備品の研究開発等への積極的な活用、新たな防衛装備品の研究開発のための態勢の強化等を進める」としたうえで、イノベーションの成果を安全保障分野で積極活用するため「広くアカデミアを含む最先端の研究者の参画促進等に取り組む」としたのです。文字通り「学問」の軍事動員を国家戦略として追求するものです。
これに先立つ同年6月、自民党国防議員連盟(会長=衛藤征士郎元防衛庁長官)が政府に提出した「産官学自一体となった防衛生産力・技術力の抜本的強化についての提言」(「自」=自衛隊)は、「日本学術会議による累次にわたる『軍事目的のための科学研究を行わない』旨の声明が示すとおり、学術界からは徹底して『軍事』は忌避されてきた」とし「日本学術会議において防衛研究の意義に関して予断を排した議論を徹底的に行う」などと学術会議を敵視、同会議を軍事協力に引き込む姿勢をあらわにしました。
策動続ける
自公政権は23年には学術会議の人選に介入する法案の国会提出を狙いましたが同年4月に断念。しかし、その後も法改定の動きを続けてきました。
こうして、「任命拒否」から学術会議解体の動きの背景には、一貫して学問・研究の軍事利用の動きがありました。これを拒否する学術会議の姿勢が大きな障害になったのです。
(つづく)
学術会議 解体法案の狙い(4) 前文削除で出発点否定
しんぶん赤旗 2025年4月18日
政府が18日に審議入りを狙う日本学術会議解体法案は、現行の日本学術会議法にある「前文」を削除しています。
日本学術会議法(1948年制定)は、教育基本法(47年)、国立国会図書館法(48年)などと並び、憲法と同じく前文を有する法律です。行政法が専門で、2020年に菅義偉首相(当時)に任命拒否された学術会議会員候補のー人でもある岡田正則・早稲田大学教授は、これら3法について「憲法を具体化するために前文に理念が書かれている」と言います。
学術会議法の前文は次のように宣言しています。「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される」
戦前の反省
学術会議は49年の第1回総会で、発足にあたり「これまでわが国の科学者がとりきたつた態度について強く反省し」と述べ、前文に明記されている使命を果たす決意を表明。戦前、科学者が政治に従属し戦争に動員された反省から、学術会議は出発しました。
岡田氏は「前文の削除はこうした学術会議の歴史の出発点と理念を否定することを意味している」と指摘します。現行法前文にあった「平和」「文化」の文言は、解体法案には見当たりません。代わりに法案の基本理念に盛り込まれているのが「経済社会」の言葉です。
法案では、現在の学術会議を国の機関から外し、特殊法人にするとしています。
岡田氏は、現在の国家機関としての位置づけについて、前文と同じく戦前の反省に立ち「政府や学術が軍事に傾くことを防止するためには、国の機関として学術会議が役割を果たすことが不可欠だという認識に基づいたもの」だと強調。前文を削除し国家機関から外す法案には、憲法を具体化する組織だった学術会議を「憲法破壊の組織に変質させる狙いがある」と警告します。
何度も検討
内開府は「国の機関から外れれば独立性が高まる」と喧伝しますが、現行怯には、独立して職務を行うと明記されています。
学術会議の設置形態は、今回に限らず何度も検討されてきました。内閣府の下に置かれた「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」は2015年、「国の機関でありつつ法律上独立性が担保されており、かつ、政府に対して勧告を行う権限を有している現在の制度は、日本学術会議に期待される機能に照らして相応しいものであり、これを変える積極的な理由は見出しにくい」とする報告書を担当相に提出。学術会議自身も21年の総会で、同じ結論を記した報告書を決定しています。
裁判所や会計検査院も、国の機関でありながら、政府から独立して職責を果たす機関です。岡田氏は、政府と対等の国家機関としての立場を失った学術会議が今後何を勧告しようと「政府は痛くもかゆくもないだろう」と見通します。 (つづく)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。