2025年12月11日木曜日

11- 高市早苗首相発言による「波及効果」

 マスコミに載らない海外記事に掲題の記事が載りました。高市首相の台湾有事発言は、世界政治の舞台に波紋を広げていて収まる気配はありません。
 中国政府は「発言を取り消せば片付いた」と控えめに示唆しているにもかかわらず、高市首相は発言を撤回するどころか「穏便な」説明さえ拒否しています。彼女の念頭にあるのは国内の高市ファンのことだけなのでしょう。首相たるものがそんな感覚でいるとは恐るべき軽薄さです。
 中国が 日本の態度が第二次世界大戦終結時点で日本に課せられたものを逸脱していると指摘する2通もの文書を国連事務総長に提出していることを思えば、いつまでも「井の中の蛙」的な対応に終始して済む事柄ではありません。
 小泉防衛相の言動も高市氏と同次元のものでむしろ火に油を注ぐものです。
 高市ファンに大満足を与えることが一番大事とは恐るべき政権が誕生したものです。
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高市早苗首相発言による「波及効果」
                マスコミに載らない海外記事 2025年12月 9日
                  ウラジミール・テレホフ 2025年12月7日
                        New Eastern Outlook
 2025年11月7日の台湾問題に関する高市早苗首相発言に端を発したスキャンダルは、今もなお波紋を広げており、収まる気配はない。
 彼女の発言が世界政治の舞台に引き起こした「水面の波紋」は消えるどころか、新たな当事者たちに広がり続けている

日本の防衛大臣、台湾に近い島を訪問
 高市首相が以前、中国が台湾問題で軍事的解決を選択し、ひいては日本にとって「存立危機事態」となる可能性について発言したことに既にNEOは触れている。今や高市首相発言が経験の浅い政治家の単なるうっかり失言だったという希望は消え去りつつあるようだ。女性初の首相に就任し、まさにその道を歩み始めたばかりの彼女は、理論上、経験豊富な男性政治家が巧妙に仕掛けた罠に真っ向から陥った可能性もある。例えば、議題と無関係の国会行事で、予期せぬ質問を投げかけられたかもしれないのだ。

 高市首相発言によって引き起こされた、この地域の二大国間の関係悪化を反転させる可能性は今のところ示唆されていない。
 だが高市首相は発言を撤回するどころか「穏便な」説明さえ拒否している。しかも、中国政府はそうした説明があれば事は片付いたと控えめに示唆しているにもかかわらず、このような対応をとっているのだ。
 高市首相発言が偶然の失言だったという仮説は、二週間後の出来事により更に揺るがされた。小泉進次郎防衛大臣は、台湾東岸に最も近い日本最西端の有人島で人口1500人の小さな与那国島を視察した。更に重要なのは「我が国への武力攻撃の可能性を低減するため」と自ら述べた通り、同島にミサイルを配備する計画を彼が発表したことだ。
 具体的にどのようなミサイルを指しているか彼は明らかにしなかった。日本は現在、幅広い海上・地上配備型ミサイルを開発しており、与那国島に配備されれば、中国沿岸部から最短距離でも500キロ未満であるため、中国の複数の省が射程内に入る可能性がある。日本からの既に薄っぺらな脅威に対する中国国防省の反応は、予想以上のものだった。

 二国間関係の悪化が更に進む前に、日本外務省全権大使による北京緊急訪問という形で状況改善の試みがあったことは特筆に値する。しかし、この試みは成果を上げなかった。もしこの二つの展開が日本による「アメとムチ」戦略の試みなら、世界第二位の大国に対するこのような姿勢は適切とは言えない。

危機の深刻化と拡大
 高市首相発言を契機に悪化した地域二大国間の関係改善の可能性は、現時点では全く見えていない。南アフリカで開催されたG20サミットの際に予定されていた李強中国首相との会談は実現しなかった。日中韓3カ国首脳会談は当初2026年1月に予定されていたが、無期限延期となった。この3カ国協議メカニズムが三年の中断を経て2024年5月に再開されることは、各国に存在する長年の深刻な問題がようやく解決される兆しと目されていただけに、これは特に注目に値する。
 しかし今日、日中両国の人的交流、特に観光業において新たな障害が立ちはだかっている。また長らく主に中国が輸入してきた日本の水産物輸出にも新たな規制が課されつつある
 過去二年間、この分野の状況は二国間関係の現状を示す信頼できる指標となってきた。関係改善の兆しが見えてきたことで、福島第一原発の損傷した原子炉冷却に使用された処理水放出に起因する日本の海水、ひいては水産物の品質に対する中国当局の懸念は薄れた。現在、中国当局は輸入停止の正当化として、「不完全な」書類だけでなく、「高市首相の台湾問題に関する誤った発言が中国国民の憤慨と非難を招いた」ことを挙げている。

 日本に対する中国国民や専門家の言説の急激な強硬化も見逃せない。彼らは第二次世界大戦と戦後初期の様々な事実データを用いている。特に注目されているのは、1947年の平和憲法を改正しようとする日本の試みだ。この問題に関する論評は、議論の余地ない一般的な警告で締めくくられている。「戦争を好む者は滅びる」。だが問題は「戦争を好む者」が、生き残ることを期待し、何年もの間、何の罰も受けずに公然と行動していることだ。

 現アメリカ大統領は、政治的特異性や個人的欠点はあるものの、そのような範疇には当てはまらないようだ。東アジアの二大国間対立が急速にエスカレートしていることに、彼は心から警戒しているようだ。両首脳と直接会談してからわずか1ヶ月後、ドナルド・トランプは電話をかけた。一部報道によると、高市首相との会談で、彼は日中関係の現状に対する「懸念」を表明し「エスカレーションを避ける」よう促したという。しかし、この対立は世界政治の舞台に広がり続け、既に国連の場にまで及んでいる
 この問題は、11月下旬、中国の王毅外相とフランス大統領の外交顧問エマニュエル・ボンヌとの電話会談、そして中国訪問中のジョナサン・パウエル・イギリス国家安全保障問題担当大統領補佐官と王毅外相との会談の際に浮上した。注目すべきは、ボンヌ自身もそのわずか一か月前に中国を訪問していたことだ。

台湾での反応
 台湾問題を巡る大国間の地政学的駆け引きにおいて、台湾が受動的駒として扱われているわけではないことは改めて強調しておくべきだろう。しかし、これは北京が主張する「台湾問題」の実態とは程遠いもので、単に歴史的経緯と「誤解」により、台湾は中国の行政管轄下にないだけだと主張している。
 しかし、中国は台湾の活発な国内政治のあらゆるニュアンスを綿密に監視しており、台湾の主要政治勢力の中で、現在野党となっている国民党を明確に支持している。孫文と、その後継者蒋介石と、現在の党指導部の時代から、国民党は「一つの中国」原則の堅持を宣言してきたが、もちろんそれは独自条件に基づくものだった。国民党は日本との関係構築の必要性を否定していないものの、複数の国民党議員や馬英九前総統(2008年から2016年まで総統を務めた)は、高市発言に対し、基本的に「中国本土との関係は我々自身で管理する」と慎重な批判を示した
 一方、台湾現政権の代表たちは、民進党の頼清徳総統をはじめ、高市首相発言と前述の日本防衛計画の両方に十分な理解を示している。一方、国民党と連立政権を組む台湾人民党は、日中対立の高まりの中で、仲介役としての役割を担っている。
 現在、これは世界政治の安定に対する大きな脅威の一つとなっているため、更なる進展を継続的に監視する必要がある。

ウラジミール・テレホフはアジア太平洋問題専門家

記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/12/07/a-ripple-on-effect-following-sanae-takaichis-remark/