世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
ここで米国の「台湾関係法」というのは別に法律のグループを差すものではなく 1979年に制定された1本の法律で、その内容は
「台湾を防衛するための軍事行動の選択肢を合衆国大統領に認める。米軍の介入は選択肢の一つで、米国による台湾の防衛を保障するものではない」
という「戦略的あいまいさ」を有するものです。
トランプは2日、米国と台湾の公的な交流に関する指針を定期的に見直し、更新することを義務付ける「台湾保証実施法案」に署名しました(ロイター通信)。これは「台湾関係法」を補強するものです。
この法案成立を受け中国外務省は「台湾問題は中国の核心的利益の中核であり、米中関係で越えてはならない第1のレッドライン。米国と台湾地域の間のいかなる公的な接触にも断固として反対する」と抗議しました。
先の米中電話会談で米国と中国は世界の「G2」であり極めて良好な関係にあると誇り、高市氏に「日中間でゴタゴタを起こすな」と釘を刺したばかりなので この展開は意外ですが、トランプには これによって現在の米中関係が壊れることはないという自信があるのでしょう、
ところで高市氏の「台湾有事」は別掲の記事で述べられている通り、「取り消す」ことでしか解決できないものですが、その後も内閣支持率が高く推移していることから「自分は正しかった」と思い込んだのか「取り消す」意向はないようです。
そもそも国民の内閣支持率はメディアに姿勢によって簡単に操作できるので、高市氏の受け止めは間違っているとともに国民の側にもメディアに踊らされているという落ち度があります。
それは兎も角として これまで世に倦む日々氏は、27年までに「台湾有事」が「発生する」という見方でしたが、トランプと習近平氏の良好な関係を見て、「一気に逆転して 緊張緩和の方向へと進む展望を示している」と述べました。
それ自体は大いに喜ばしいことですが、世に倦む日々氏は 高市発言の狙いは「台湾関係法の日本版の制定へ向けての布石だと推測できる」として、「存立危機事態の発生と認定の具体的要件として台湾有事を設定し、国内世論で多数支持を固めて既成事実化し、野党とマスコミの根回しもした上で、米国と同じ台湾関係法を立案上程し可決成立させる肚だ」と推測します。
トランプは別として、米国のデープステイトが「台湾有事を口実に」という肚であるなら、いずれ日本にそうさせたいことは容易に頷けることです。
それが日本滅亡のシナリオであることを理解できない人間がトップに居れば、容易にその方向に向かうことになるわけで実に恐ろしいことです。
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高市発言の狙いは何だったのか - 台湾関係法の日本版
世に倦む日日 2025年12月3日
先週(11/24)のトランプによる仲介外交が効いたのか、中国の日本に対する対抗措置が止まっている。短期ビザ免除の停止やレアアースの禁輸にまでエスカレートするかと予想された対日経済制裁が、米中電話会談以降は追加発動されなくなった。この問題に対して、国際社会は慎重な態度で臨んでいるように窺え、日中どちらかの立場に立って意見表明する外交行動を控えているように見える。トランプの対応に準拠している。日本はアメリカの支持を得られず孤立化したが、世界全体が中国の原則論の攻勢を支持表明したわけではなく、関与を忌避して局外中立を保った状態にある。ここでも、あの中国側の横柄で粗暴な外交態度が明らかに悪影響を及ぼしていて、日本の世論だけでなく世界の世論の支持調達戦において中国は自滅を招く結果となった。中国の原則的正義がよく浸透していない。それがため、高市早苗は打撃を受けることなく平然と開き直りを続けられている。
ただ、今回の政治で判明した一つの成果として、トランプの在任中は米中間で台湾をめぐって軍事衝突が起こる可能性がきわめて低い事実が看取された点がある。トランプは、昨年7月の時点では「中国が台湾に侵攻すれば北京を爆撃する」と物騒な挑発を飛ばしていた。が、今年11/2 には「在任中に中国は台湾に軍事侵攻しない」と言い、台湾有事に対する認識を大きく切り換えていた。少なくとも、4月に訪中して米中ディールの果実を得るまでは、中国に配慮した親和外交を続けるだろうし、台湾問題で中国を刺激する行動は避けるだろう。4月訪中が実現して、習近平訪米という段階に進めば、米中蜜月は明確な国際政治の与件となり、G2時代の表象が説得的に浮上する地平となる。7年前のペンス演説以来、4年前のデービッドソンの議会証言以降、米中関係を支配してきた新冷戦の構図と台湾有事の想定は、一気に逆転して、緊張緩和の方向へと進む展望を示している。
高市早苗の 11/7 の国会での発言は、決して失言とか不注意とかの類ではない。岡田克也からの質問の事前届を受けて、この機に「台湾有事=日本有事」を既成事実化するべく策して投擲した意図的な政治だ。日本政府の認識と方針として「台湾有事=日本有事」を固め、自衛隊に「全軍攻撃態勢を整えよ」と指示した軍令の布告である。だからこそ午前3時に外務防衛官僚を呼びつけ、従来の曖昧答弁を転換するぞと言い、それは危険ですと咎めて抵抗する官僚たちをどやしつけて持論を貫徹させたのだった。高市はこの命題を安保3文書に入れ込む思惑なのだ。驚くのは、存立危機事態宣言して自衛隊に出動命令を出す決定要件の中に、米軍が中国軍と交戦開始したという前提さえ入れなかった点で、すなわち、中国が台湾と軍事衝突した場合には、すぐに自衛隊に戦闘参加させると言っている点だ。米軍お構いなしで自衛隊に戦争を始めさせるのである。それが高市の台湾有事の正体なのだ。
前回も書いたが、つまりまさに、安倍晋三が2013年頃に吠えていた頃の尖閣有事の戦略に戻っている。自衛隊が先に中国軍と衝突して、そこに米軍を引き込んで、日米vs中国の全面戦争にするという構図に回帰している。高市政権は安倍政権のコピーであり、高市早苗にとって安倍は絶対神だから、この行動に出るのは自然の理で本然の姿だろう。トランプのアメリカが中国に宥和姿勢を見せ始めた今、高市にとって、日本が中国との緊張を煽り、国内の戦争態勢を猛スピードで固めることは焦眉の課題なのだ。米中接近の新展開を妨害し、G2体制が固まる前に、日本が軍事行動を起こし、中国と戦争を始める意思なのに違いない。時間を浪費していたら、中国は技術力でも軍事力でもアメリカと肩を並べてしまう。その段階に至ったら、もはや中国と戦争などできず、中国共産党を打倒するという安倍右翼の夢が潰えてしまう。
高市早苗の狙いは何だったのか。問いのヒントとなりそうな情報を発見した。2022年に森本敏がインタビューで答えた記事がネット上に載っている。そこで森本敏は、「日米台の政府担当者が非常事態にどのような協力ができるのか今まで協議したことがないのが一番の問題」だと嘆き、台湾有事を想定したシミュレーションや訓練についても「台湾を入れないと何にもならない」と指摘していた。台湾有事で日米が中国と戦争するなら、台湾を入れて作戦計画を練り、共同で戦略構想を具体化しないと意味はないのだ。現実には、アメリカは台湾に軍事顧問団を派遣していて、桃園の拠点に特殊作戦協力団を常駐させている。ロシア軍侵攻前のウクライナと同様に、米軍が台湾軍を秘密裏に訓練している実態がある。アメリカから台湾への武器売却(軍備拡張)の頻度と規模も、恐ろしい勢いで増えていて、遠藤誉が纏めた統計では、バイデン政権の2年間で70億ドル、第2次トランプ政権で10.3億ドルとなっている。
3年間で日本円で1兆2500億円。うち14.8億ドル(2310億円)が無償だが、3年間だけで1兆円分を国防予算で購入している。その前には、2020年に地対艦ミサイル400発を含む23.7億ドル(3700億円)の武器供与の情報もある。人口2341万人で年間予算14兆円の台湾にとって、この武器購入は重い負担だろう。それはともかく、中国との間で「一つの中国」の原則を認め、台湾とは国交断絶しているアメリカが、このように台湾に夥しく武器売却し、軍事顧問団まで投入する措置ができるのは、台湾関係法という国内法を制定しているからである。この法律が台湾への軍事支援を可能にしているからだ。すなわち、今回の高市発言の狙いは、台湾関係法の日本版の制定へ向けての布石だと推測できる。存立危機事態の発生と認定の具体的要件として台湾有事を設定し、国内世論で多数支持を固めて既成事実化し、野党とマスコミの根回しもした上で、アメリカと同じ台湾関係法を立案上程し可決成立させる肚だ。
おそらく、来年には報道1930で反中工作の日米同盟参謀が登場し、台湾関係法の議論が始まるだろう。来年の通常国会、遅くとも臨時国会で法案を提出する予定ではないか。法案を成立させた暁には、すぐさま台湾との間で2+2(外務・防衛担当閣僚会合)を開き、台湾軍と自衛隊・米軍でのハイレベルの軍事会議を定例化し、台湾有事の作戦と態勢について認識と計画を共有して行くだろう。台湾軍・自衛隊・米軍三者での、海上地上含めた実戦を想定した軍事演習の実施へと歩を進め、三軍統合の大本営をいつでも設置できるよう準備を進めるだろう。併せて、邦人の避難計画についても具体的な動きが始まると思われる。これが高市早苗の肚の中にある構想で、この台湾関係法の政策を実行して行く最初の一手が、首相就任後初の国会論戦での岡田克也への答弁だった。いわばローンチ(⇒新商品の発売)である。このプロセスを通じて、米軍はヨリ後方の位置に下がり、自衛隊が前面に立つ構えが明確になるはずで、台湾有事は誰の目にも日中戦争の性格が濃くなるだろう。
台湾関係法の中身をなす法制整備について、森本敏は2022年の時点で着手を要請していた。自民党の政権が岸田文雄から石破茂という流れにならず、もっと早く高市早苗の右翼政権が誕生していれば、今頃はすでに台湾関係法が施行され、森本敏が絵に描いたとおりに進行していたかもしれない。無論、中国側の激怒は凄まじく、日中政府間はほとんど断交同然の破局になるに違いなく、経済的な打撃の深刻さは想像もできない。ここまで行けば、戦争を始めて決着をつける以外に道筋がなく、後戻りするのはきわめて困難だ。中国側も、対話で問題解決するという選択肢を断念するだろう。それ以上に、日本の中は中国との戦争を早く始めろという怒号一色になり、マスコミだけでなくネットの中も、誰も反戦論など唱えられない空気に染まっているはずだ。反戦の立場だった左派が、次々と転向して中国打倒の気炎を上げる右派になる。日本共産党やれいわ新選組もどう転んでいるか分からない。スパイ防止法の拡大解釈運用で、反戦派は容赦なく摘発され弾圧される。
ここで、なぜ私が森本敏の3年前のインタビューを見つけたのか、森本敏に着目したのか、その理由を述べると、今度の対中戦争(台湾有事)の指揮を執る最高指揮官は誰だろうかと想像したからである。戦争するには指揮官が要る。一人がすべてを決める。指示と命令を出す。他はそれに従わなくてはいけない。プロ野球と同じで、戦うチームは監督の采配と統制に従う。例えば、イラク戦争を指導した米軍の指揮官はラムズフェルドだった。第二次大戦では、ドイツはヒトラー、ソ連はスターリン、英国はチャーチル、アメリカはルーズベルトが最高指揮官である。日本は昭和天皇がすべて決めた。開戦の決定も終戦の決定も昭和天皇が行っていて、真珠湾攻撃もそうだし、東條英機を据えて対米戦争を敢行させたのもそうだ。対米敗戦を悟って、近衛文麿を再び起用し、ソ連仲介の講和工作を図ったのも昭和天皇だ。戦争責任を逃れて、近衛と東條におっ被せたのも昭和天皇だ。国家の戦争は単独の指揮官が全権を持って指導する。指揮系統が二つ三つに割れては勝てない。
今度の対中戦争(台湾有事)は誰が指揮官を担うのだろう。という素朴な疑問が念頭に上る。在日米軍に統合司令部が新設され、統合司令官が任命されたけれど、何やら官僚的なポストの臭いが強く、どこまで中国との戦争を指導できる資質と胆力を持った者なのか不明だ。とても戦争の意思決定に耐えられそうに見えない。今年79歳で逝ったアーミテージが生きていれば、アーミテージが実質的にその役割を担っただろう。すなわち、日米同盟軍の参謀長だが、アーミテージ亡き後、誰がそれを担うのか。思い浮かぶ人物像がなく、敢えて選べば森本敏に視線が向く。高橋杉雄では軽輩すぎるだろう。とても米軍部隊を動かせるとは思えない。佐藤正久など論外。森本敏は日米同盟の重鎮だが、しかし森本敏の指揮に米軍兵士が従うだろうか。軍の命令に従うことは命を預けるという意味だ。日米同盟軍の参謀長と言う以上、やはり米国人である必要がある。だが、アーミテージに匹敵する将軍がいない。今年、ナイとアーミテージが揃って死んだ事実は日米同盟軍にとって重い。
この問題は、日米同盟軍あるいは日米台連合軍による対中戦争の帰趨に関わる問題ではないかと、つまり脆弱性の一つではないかと私は密かに思っている。戦争指導するトップにカリスマ性がなく、全軍を統率する能力に欠き、部下からの信頼が薄ければ、戦争は戦い抜けないし勝てないものだ。関連して、戦争目的と軍事目標を日米台でどこまで一致させられ、利害と意思を分裂させず最後まで団結できるかも課題だろう。緒戦から勝ちっぱなしで講和まで至れば問題ないが、負け戦の局面が出現し、兵士の犠牲が多く出始めると三者間の意思統一が難しくなる。この点は、安倍晋三が尖閣有事を煽っていた頃から、10年以上前から、日米同盟側の不安材料として考察していた問題だった。台湾には台湾の論理と事情と立場がある。「同じ中国人同士で殺し合うのか」という反戦論が根強い。アメリカにも事情と意向がある。「東アジアの戦争で若い米兵が血を流すのか」という拒絶がある。日米台が一致結束して最後まで戦い抜けるかは、誰が指揮官になって采配するかに大いに関係する。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。