2025年12月18日木曜日

18- 深刻なレアアース問題(賀茂川耕助氏)

 海外記事を紹介する「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。
「レアアース問題」はこれまでも何度か取り上げてきました。今回の著者ではなかったと思いますが、「半年ごとにレアアースの状況を分析する必要がある」とそれを課題にしている識者もいます。
 今回は「ガリウム」に特化した記事です。原記事には7つのグラフ(英文)が掲載されていますが添付は省略しました。興味のある方は原記事にアクセス願います。
 それにしてもこの種の記事を読んでつくづく思うことは、中国という国が長期的な視野に長けているということであり、それが現在見事に結実している点です。
 高関税を世界に宣言したあのトランプでさえ、中国から「レアアース」戦略を突きつけられると一も二もなく屈服させられました。そして結果的に一国が強者として世界を蹂躙する事態を防止することにつながりました。喜ばしいことです。
 問題はそんな意識が皆無の高市政権です。もしも日本が「レアアース禁輸」の仕打ちを受ければ、現在の花形である「自動車産業」もダメになるかも知れません。そうなったら高市氏は流石に退場に追い込まれることでしょう。それは喜ばしいことですが。
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深刻なレアアース問題(賀茂川耕助氏)
                耕助のブログNo. 2750  2025年12月16日
The China rare earths problem isn’t as bad as we think. It’s much worse: a look at gallium
   中国のレアアース問題は我々が考えるように深刻ではない。もっと深刻だ:ガリウムを
   例に考えてみよう           Inside China Business
中国がほぼ全てのレアアース金属と重要鉱物において、深く永続的な独占権を握っていることは今や周知の事実である。しかしそれらの各鉱物が、サプライチェーンを構築しようとする西側諸国に特有の課題を突きつけている。たとえばガリウムだ。それは防衛分野や民生分野で使用される最先端電子機器の重要な構成要素である
しかしガリウムは、ボーキサイトからアルミニウムを精錬する過程で副産物として生産される。何億トンものボーキサイト鉱石を精錬してアルミニウムを抽出する過程で初めて、技術者は数百トンのガリウムを抽出できる。
欧米諸国の製錬所の大半は閉鎖され、現在のボーキサイト採掘とアルミニウム精錬は中国、ロシア、インドが支配している。米国でガリウム生産を「国内回帰」させる取り組みには二つの欠陥がある。第一に、米国の製錬所はそもそもガリウムの抽出を試みたことがない。第二に、微量のガリウムを生産するためには、ボーキサイト産業とアルミニウム製錬産業を再構築する必要がある。
今や世界中がレアアース問題を知っている。そして中国がほぼ全てのレアアースのサプライチェーンを支配していることもだ。
これらレアアースの一つ一つが、重要鉱物や金属と共にサプライチェーンを取り戻そうとする西側諸国にユニークで巨大な課題を突きつけている。そう言うこと自体にもいくつかの注意点や条件が必要だ。なぜならそれらの金属の多くは、西側諸国には元々存在せず、今も存在しないからだ。
今日はガリウムに注目する。これはレアアース金属ではないが重要鉱物である。中国によるガリウム支配への対策が困難な点は、他の金属と同様である。
中国はガリウムを事実上独占しており、これは国防総省や兵器メーカーにとって重大な問題だ。

この報告書が発表されたのは、北京が軍民両用目的のガリウム輸出を停止した時期と重なる。したがってワシントンとNATOがサプライチェーンのリスク分散を必要としていることに気づいたのは遅すぎた。中国は世界のガリウム供給量の98%を生産しており、その原料は鉱山から採掘される。ガリウムはボーキサイト(アルミニウム鉱石の主原料)の精製過程で副産物として得られる。
中国には巨大なアルミニウム採掘・加工産業が存在するが、西側諸国にはない。ボーキサイトが採掘・精錬された後で技術者はガリウムを抽出できる。しかしボーキサイト採掘の目的はアルミニウムである。数年前、北京はアルミニウム採掘業者に対し、ガリウムを廃棄せず抽出するよう義務付けた。その結果、10年間で中国のガリウム生産量は22トンから444トンに急増した
400トンは多くないように思えるし、確かにアルミニウムと比べれば微々たる量だ。しかしガリウム供給量が20倍になったことで他国の市場を崩壊させ、欧州やカザフスタンの供給業者は操業を停止し、中国は世界唯一の生産国となった。
この二つのグラフが問題を示している。一つ目は中国以外の国々のアルミニウム生産量だ。2005年以降、世界の他の地域を合わせた年間生産量は約2500万トンである。一方中国は2005年以降、800万トンから4000万トン超へと5倍に増加した。このグラフは世界のガリウム生産量を示している。再び青色で示された世界全体の生産量はほぼゼロまで落ち込み、中国は逆の方向へ進んでいる:
こうして中国は全てを掌握したNATO諸国でガリウムを採掘していた製錬所は全て閉鎖され、米国防総省は新たな供給源を必死に探している。兵器メーカーはミサイル防衛、レーダー、電子戦、通信機器の半導体にガリウムを必要としている。その理由は、ガリウムの化学的特性がこれらの用途に最適だからだ。高温、高電圧、高周波はガリウムベースのチップにとって全く問題はない
ガリウム化合物の応用技術も軍事・産業分野で開発され、導入されている。ガリウムヒ素はGPSシステム、精密誘導弾、スマートフォンに使用される。窒化ガリウムは最先端レーダー、ステルス技術、ミサイル防衛システム、そして米海軍艦艇自体に必要だ。民間企業も5G基地局、太陽光発電、電気自動車向けにチップを必要とする。その理由は国防総省が高性能用途に好む理由と同じだ:効率性と耐久性である。

システムごとにガリウムは至る所で使われている。ガリウムチップは数十のRFシステム⇒高周波システム)レーダーを駆動する。照明、LIDAR、レーザー用の光電子機器。宇宙船、急速充電、データセンター、電力網管理用の電力機器。そしてクリーンエネルギーもだ。
ガリウムが機能する全ての応用分野を検証すると、それらを構築するには中国からの供給か、自国での製造技術確立が必要だということがわかる。しかしこれは鶏が先か卵が先かの問題だ。ガリウムはボーキサイト採掘と製錬から得られるが、その理由はアルミニウム産業のためであり、我々にはそれがないのだ。
かつてアメリカは世界有数のアルミニウム生産国だった。米国には28のアルミニウム製錬所が数十年にわたり操業していたが次々と閉鎖された。以下は米国のアルミニウム生産量(緑の棒グラフ)と製錬所閉鎖(黒線)を示す図表である:
生産量は1980年にピークを迎え、その後ゆっくりと確実にゼロへ向かって減少している。別の図表(米国と中国の比較)では、世界生産に占める割合が明確に逆方向に動いている:
そして忘れてはいけないのは、そもそも米国では、ボーキサイト鉱石からガリウムを分離する産業は最初から存在しなかった。
中国対その他の世界の比較では、米国防総省の請負業者にとって良い知らせはほとんどない。中国、インド、ロシアのアルミ生産量は合計で約70%を占めるBRICS諸国がNATOのミサイルやステルス機増強を支援する気がないのは言うまでもない。
北京は早くから、自国の巨大アルミニウム事業がガリウムに与える影響、そしてガリウムが今世紀のあらゆる技術を駆動する上で持つ重要性を理解していた2021年からの五カ年計画において、ガリウムは技術面で西側諸国に挑戦する戦略の核心だった。
今日、その競争は終わった。中国は今や、これら全ての技術において先駆者優位性を享受している。高度な産業用途や、資金に制限がなくエンジニアがシリコンではなくガリウムを要求する軍事グレードの装備において、中国は米国、欧州、日本を大きく引き離した
その後、国防総省向けの製品を製造する可能性のある者への中国産ガリウム輸出禁止が発令され、武器メーカーや民間企業のトップたちはその脆弱性に気づき始めた。あらゆる金属の中でガリウムは経済的脆弱性と供給混乱の可能性の両面で最も高い位置にある。高価な製品の多くがガリウムに依存しており、中国は容易に供給を遮断できるからだ:

報告書は一連の提言で締めくくられており、第一に国防総省の支援による米国でのガリウム抽出・精製への投資を挙げている。
ここで湧く疑問は、アナリストたちは自らの報告書を読んだのだろうかということだ。ガリウムの処理はアルミニウム採掘・製錬の過程でしか行われず、米国ではもはや誰もそれをやっていない。廃墟となった製錬所周辺には、ガリウムを抽出する手間すら省かれた加工済み鉱石の山が放置されている可能性はある。今の計画は、それらの岩石を再び粉砕することなのかもしれない。
しかしそれは我々の技術者にとって未経験の作業だ。北京がアルミ製錬所にガリウム回収を義務付けた事実を思い出すべきだ。彼らが指示されるまでガリウム分離をしなかったのは、それがたいへんな作業だからだ。何億トンものボーキサイトからわずか400トンのガリウムを抽出するには膨大な時間と費用がかかる。中国のアルミ生産者は手間が割に合わないと判断したため、北京は「ガリウムを回収せよ、さもなければ許可を取り消す」と通告したのだ。いま世界は一変し、彼らはガリウムを独占している。

参考資料とリンク:
中国・EU・米国にとっての国家安全保障上重要鉱物https://elements.visualcapitalist.com/the-critical-minerals-to-china-eu-and-u-s-national-security/
中国が世界の重要鉱物に及ぼす支配力
https://www.visualcapitalist.com/how-much-control-china-has-over-the-worlds-critical-minerals/
6. 2021年世界一次アルミニウム生産量
https://www.congress.gov/crs-product/R47294
米国の一次アルミニウム生産の減少と二次アルミニウムの成長https://www.lightmetalage.com/news/industry-news/smelting/decline-of-u-s-primary-aluminum-production-and-the-growth-of-secondary-aluminum/
ガリウム供給網のリスク低減:中国の重要鉱物支配力を弱体化させる国家安全保障上の根拠
https://www.csis.org/analysis/de-risking-gallium-supply-chains-national-security-case-eroding-chinas-critical-mineral
重要鉱物レビュー
https://apps.usgs.gov/minerals-information-archives/articles/usgs-critical-minerals-review-2021.pdf
鉱物資源供給の混乱に対する産業脆弱性を評価するモデルhttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0301420722003348
ミネラルモノポリー:中国のガリウム支配は国家安全保障上の脅威であるhttps://features.csis.org/hiddenreach/china-critical-mineral-gallium/

https://www.youtube.com/watch?v=wYfe7ARFab8