植草一秀氏が掲題の2つの記事を出しました。
『大政翼賛報道の恐怖』:高市首相の「台湾有事発言」が中国政府を大いに憤慨させ、既に大変な経済的制裁(旅行制限だけでも約2兆円)を受けていますが、それらが解消される見込みは皆無という状況にあります。
なぜ高市氏は発言を取り消すかまたは責任を取って退陣しないのでしょうか。
現状は、高市氏の発言が間違っていることの明白性は既に論じ尽くされているにも拘らず、TVメディアは逆に高市氏の肩を持つことで高市ファンを勇気づけていて、高市氏もそれに力を得て居座っています。
この「メディアが体制側になびく特質」を、植草氏は「大政翼賛報道」と称しています。こんな風に国民のごく一部の論調が、メディアの姿勢によって大勢を占めてしまうのは実に恐ろしいことです。
『「お米券」の裏側にある利権構造』:鈴木農水相は「米価は市況に任せるべき」を持論にして米価高騰に対する対策は何も打とうとせず、何と「お米券の配布」なるものを出してきました。
それを全否定したのが大阪交野市(かたのし)の山本景市長で、「お米券方式では中間業者による手数料が20%近く(⇒500円券の実質価値が400円程度に落ちる)掛り無駄が大きいので絶対に配りません」とXで発信しました。
植草氏は、「お米券方式」こそが「利権財政支出」の典型的な一類型で、政府は財政資金を「利権」にするためにできるだけ不透明で複雑な財政支出方法を用いるのだと説明し、真の財政改革とはこのような「利権財政」を排除することであると主張します。
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大政翼賛報道の恐怖
植草一秀の「知られざる真実」 2025年12月 6日
日本の集団的自衛権行使について。日本政府は日本国憲法の規定により集団的自衛権の行使は容認されないとしてきた。
1972年10月政府見解「わが憲法の下で武カ行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」
これが50年以上にわたり維持されてきた集団的自衛権行使に関する日本政府の立場。
2014年に安倍内閣が憲法解釈を変更して集団的自衛権行使ができるとした。
憲法解釈は憲法の実体の一部。一内閣が憲法解釈を独断で変更してしまうことは許されない。
憲法破壊行為=壊憲である。集団的自衛権行使容認が憲法違反である疑いが強い。
2015年には憲法解釈を具体化する法律を制定。「安保法制」=「戦争法制」制定が強行された。
集団的自衛権行使が可能になる要件を定めた。
そのひとつが「存立危機事態」。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」とされた。
「存立危機事態」を認定すれば集団的自衛権を行使できるとされた。
憲法違反を許さない立場に立てば、集団的自衛権行使容認自体が憲法違反である。
違憲の疑いは濃厚に存在する。
この問題を措いて、厳しい制約条件の下での集団的自衛権行使を容認するとしても、その要件は厳正なものでなければならない。
しかし、高市首相の答弁にはこの問題に対する精密さがなかった。
「台湾を統一、まあ、中国北京政府の支配下に置くような」場合に、「それが戦艦を使って、武力の行使もともなうものであれば、どう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます」と述べた。
「台湾有事は日本の存立危機事態=集団的自衛権行使」と受け取られる発言を示した。
台湾有事とは台湾において台湾と中国政府との間で武力衝突が生じること。
「台湾において台湾と中国政府との間で武力衝突が生じる」場合に「どう考えても日本の存立危機事態になり得る」と述べた。
日本と中国との過去の外交文書等において、日本は台湾の中国帰属を論理的に認めている。
その上で、1973年衆議院予算委員会で大平外相は、「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には中国の国内問題であると考えます」と答弁している。
また、日本と中国は日中共同声明(1972年)、日中平和友好条約(1978年)で
「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認」してきた。
日本が台湾有事で存立危機事態を認定し、集団的自衛権を行使することは、中国に対して宣戦布告する意味を有する。
過去の外交文書等の積み重ねを踏まえれば、高市首相発言はこれらの歴史的積み重ねを破壊するものである。このことから高市首相は発言を撤回すべきである。
ところが、日本の情報空間では「高市首相は発言を撤回すべき」との正論に対する攻撃が激しく展開される。さまざまな主張、見解は存在し得る。
そのなかで、「高市首相は発言を撤回すべき」との主張は十分に説得力のあるもの。
高市発言擁護が正しく高市発言撤回要求論が間違っているとの論証はなされていない。
それにもかかわらず、高市擁護、高市批判見解への攻撃の主張だけを主要メディアが取り上げるのはおかしい。この空気の広がりこそが日本の危うさを象徴するものである。
続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第4272号
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「お米券」の裏側にある利権構造
植草一秀の「知られざる真実」 2025年12月7日
大阪交野市(かたのし)の山本景市長が「お米券は絶対に配りません」とXで発信して話題を呼んだ。最大の問題は経費率が高いこと。
週刊新潮インタビューで山本市長はこう述べた。
「お米券とは、全国米穀販売事業協同組合が発行する『おこめ券』と、JA全農が発行する『おこめギフト券』」の2種類があるのですが、どちらも1枚500円で440円分の米が購入できる、というもの。差額60円分は券の印刷代や流通経費、マージンなどに充てられるので、この段階で経費率は12%。
さらにこの券を住民に郵送するとなると、名簿を作り、切手を貼るなどの作業が生じ、業者に委託することになる。とすると、経費率は20%程度まで上がってしまい、極めて効率が悪い。『プレミアム商品券』を配ったこともあるのですが、これも経費は20%程度かかった。
券を配るという方法では、どうしても少なくない経費が発生し、その分の恩恵が住民に行き渡らなくなるわけです。」
高市内閣が編成した18.3兆円の補正予算。
〈生活の安全保障・物価高への対応〉への予算配分8.9兆円のうち、〈足元の物価高への対応〉が2.9兆円。そのうち〈重点地方交付金の拡充〉が2兆円で、そのなかに〈食料品の物価高騰に対する特別加算4000億円〉が計上された。
政府が自治体に示した資料には「食料品の物価高騰に対する特別加算」の具体例として、
「プレミアム商品券」、「電子クーポン」と並列して「いわゆるお米券」が記載されており「お米券推し」が示されている。
こうした「商品券」の類ではなく「現金給付」を行う場合でも、銀行振込等で10%程度の経費率が発生してしまうという。
こうしたことから山本景市長は市町村が運営する水道と下水道の基本料金を免除することを提案する。水道及び下水道の基本料金を免除するかたちで交付金を使うとシステムを改修するだけで実施できる。そうなると経費はほとんどかからない。山本市長は経費率を1%程度に抑制できるという。素晴らしい提案である。
コメの価格高騰が大騒動に発展したが高騰したコメの代わりに他の穀物を摂取する選択肢もある。生活文化の違いによっては米以外の穀物を主食にする場合もある。
「お米券」には全国米穀販売事業協同組合が発行する「おこめ券」とJA全農が発行する「おこめギフト券」の2種類があるが、発行元が2団体に絞られており、山本市長は
「これでは限られた業界への利益誘導だと言われても仕方ない」と指摘する。
貴重な財政資金。可能な限り効率の良い使い方を検討すべきことは当然。
ところが現実は逆行している。その理由を洞察することが重要。
政府は財政資金配分を「できるだけ複雑に実施する」ことを目指す。
なぜか。「経費率が高い」というのは、そこに「中抜き」が発生することを意味する。
山本市長が「差額60円分は券の印刷代や流通経費、マージンなどに充てられるので、この段階で経費率は12%。さらにこの券を住民に郵送するとなると、名簿を作り、切手を貼るなどの作業が生じ、業者に委託することになる。とすると、経費率は20%程度まで上がってしまう」と述べたが、この経費がその委託事業を行う事業者の収入になる。
政治権力と関係の深い事業者が事業を受託して財政資金で利潤を得ることになる。
これが「利権財政支出」の典型的な一類型。
政府は財政資金を「利権」にするためにできるだけ不透明で複雑な財政支出方法を用いる。
真の財政改革とは、このような「利権財政」を排除することである。
続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第4273号
「財政政策における最重要施策」 でご高読下さい。
(後 略)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。