2023年6月21日水曜日

21- バイデン政権の政治的な事情で戦争の継続を強いられるウクライナ(櫻井ジャーナル)

 櫻井ジャーナルに掲題の記事が載りました。同ブログは論点が多岐にわたるため簡単に要約するのは困難ですが、主要なテーマはタイトルの通り「バイデン政権の政治的な事情で戦争の継続を強いられるウクライナ」に関してです。記事は昨年2月にロシアがウクライナに侵攻するに至った経緯についても述べています。

 ウクライナは「ソ連」が崩壊した1991年に、南部や東部にロシア系住民が多く居住していた状態で独立国家となりました。それ以降、国のトップは両民族の融和について腐心して来ましたが、米国主導のクーデター(2014年)の後では、公用語からロシア語を排除されたり具体的に軍隊が差し向けられたりした結果 対立が劇化し内戦状態になりました。
 15年2月に独仏の仲介で結ばれた「ミンスク合意2」は実はマヤカシで、その後7年を掛けてウクライナは東部ドンバス地方のロシア系住民を殲滅する準備を整えました。そして22年3月に攻撃が開始される寸前にロシア軍が侵攻してそれを阻止したのでした。
 そうした経緯にもかかわらず、ロシアの行動が絶対に許されない非道な行為であると言い切れるのかは疑問です。
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バイデン政権の政治的な事情で戦争の継続を強いられるウクライナ
                          櫻井ジャーナル 2023.06.20
 ウクライナでの戦闘はジョー・バイデン政権の事情で政治的に続けられていると考える人がいる。軍事的にはロシア軍が昨年春の段階で勝利したのだが、米英の政治的な事情で続けられているのだ。そのためにウクライナは破壊され、ウクライナ人は殺されることになる
 すでにウクライナ軍の戦死者数は数十万人、ロシア軍はその1割と見られ、しかもアメリカ/NATOはウクライナへ供給する武器弾薬が枯渇している。5月に韓国がアメリカ経由でウクライナへ砲弾を提供したと伝えられてるが、ここにきてアメリカ政府は日本政府と155mm榴弾のウクライナへの供給することで話し合ったという。この報道が正しいなら、日本に声をかけねばならないほど戦況はアメリカ/NATOにとって悪いということだ。

 ウクライナの内戦は2014年2月にアメリカ/NATOがネオ・ナチを利用してクーデターを実行、ビクトル・ヤヌコビッチ政権が倒されてから始まる。ヤヌコビッチの支持基盤だった東部や南部の住民がクーデターを拒否したのだ。
 OSCE(欧州安全保障協力機構)によると、2022年2月17日にウクライナ側からドンバスへの攻撃が激しくなり、18日、19日とエスカレートしていた。その段階でドンバス周辺には親衛隊のほかアメリカやイギリスの特殊部隊やアメリカの傭兵も集結、攻撃態勢が整いつつあることは知られていた
 2月19日にはウクライナの議員として議会でクーデター計画の存在を指摘したことで知られているオレグ・ツァロフが 緊急アピール「大虐殺が準備されている」を出している。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領がごく近い将来、ドンバスで軍事作戦を開始すると警鐘を鳴らしたのだ。
 ツァロフによると、キエフ軍の作戦はロシア語系住民を狙った「民族浄化」を実行、キエフ政権の軍や親衛隊はこの地域を制圧、自分たちに従わない住民を虐殺しようとしていると主張している。またSBU(ウクライナ保安庁)がネオ・ナチと共同で「親ロシア派」の粛清を実行するともしていた。

 アメリカ/NATOは2014年から8年かけてドンバスを要塞線で囲んでいたと言われている。そこには内務省親衛隊の中核だったアゾフ特殊作戦分遣隊(アゾフ大隊)が拠点にしていたマリウポリ、あるいは岩塩の採掘場があるソレダルも含まれている。
 ドンバスで住民浄化を実行、救援に入ってくるロシア軍を要塞線の中へ誘い込み、そこで身動きが取れない状態にした上でクリミアを別の部隊に攻撃させ、制圧するという計画だったのではないかという見方もある。
 軍事的な緊張が高まる中、ロシア政府の動きは速かった。ツァロフがアピールを出した3日後にロシアのウラジミル・プーチン大統領がドンバス(ドネツクやルガンスク)の独立を承認、2月24日にロシア軍はウクライナを巡航ミサイル「カリブル」などで攻撃を開始、航空基地を破壊されたと言われている。同時にウクライナの生物兵器研究開発施設も狙われた
 ロシア軍はターゲットを破壊しただけでなく、部隊を派遣して重要文書を回収しているそうした文書の中には、ゼレンスキーが2022年1月18日に出した指示に基づいて親衛隊のニコライ・バラン上級大将が1月22日に攻撃の指令書へ署名、ドンバスを攻撃する準備が始まっていたことを示すものが含まれていた。2月中に準備を終え、3月に作戦を実行することになっていたとしている。
 ロシア軍のミサイル攻撃でドンバス周辺に集結していたウクライナ側の部隊が壊滅的な打撃を受け、戦いの勝敗は決した。勿論、ロシア軍の勝利である。それ以降、アメリカ/NATOとロシアの戦いという様相を強めた。
 ロシア軍の第1撃で自国軍が壊滅的な打撃を受けたウクライナ政府は停戦を模索する。イスラエルの ナフタリ・ベネット が仲介役になった。その交渉で両国は条件面でほぼ合意している。3月5日にベネットはモスクワでプーチンと数時間にわたって会談、ゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけた。その足でベネットはドイツへ向かい、オラフ・シュルツ首相と会っている。
 ウクライナの治安機関SBU(事実上CIAの下部機関)のメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺したのはその3月5日だキリーエフを殺害することでアメリカ政府は停戦を許さないという姿勢を示したと言えるだろう。
 ベネットによると、恐怖から掩蔽壕に隠れていたゼレンスキーはロシア政府がゼレンスキーを殺害しないと保証したことを確認した2時間後にゼレンスキーはオフィスで「私は恐れない」と宣言したという
 今年5月3日にクレムリンを2機のドローン(無人機)が攻撃したものの、撃墜されて大きな被害はなかったようだ。その日、ゼレンスキー大統領はフィンランドを訪問し、フィンランドのほかスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランドの首相と会談した。ロシアの報復を恐れて逃げ出したと言う人もいる。
 ロシアのトリー・ペスコフ大統領報道官は5月4日、攻撃目標を決めたのはアメリカ政府であり、ウクライナ政府は命令を実行しただけだと語り、アナトリー・アントノフ駐米露大使は「もしドローン(無人機)がホワイトハウス、議会、あるいは国防総省に突入した場合、アメリカ人はどのように反応するだろうか?」と問いかけ、「罰は厳しく、避けられない。」と語っている。適切と思われる場所と時期に報復する権利を留保するとペスコフは宣言した。
 ウクライナのキリーロ・ブダノフGUR(国防省情報総局)局長は「この世界のどこにいてもロシア人を狙い殺し続ける」と語ったと5月6日に伝えられた5月28日からロシア軍はキエフに対する大規模な攻撃を実施、GUR本部も破壊されたが、29日からブダノフ局長が姿を見せていない。
 その前からウクライナ軍のバレリー・ザルジニー総司令官やオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官に関する情報も途絶え、負傷した、あるいは死亡したという噂も流れている。
 ウクライナではゼレンスキー大統領が掩蔽壕に隠れたり国外へ逃げ、バレリー・ザルジニー総司令官、オレクサンドル・シルスキー陸軍司令官キリーロ・ブダノフGUR局長は姿を消した。29日に2機のヘリコプターがキエフからポーランドへ向かい、ポーランドからドイツへ第86航空医療後送中隊のC-21Aが重傷者を乗せて飛んだという。この重傷者がブダノフだとも言われている。

 5月3日に行われたクレムリンに対するドローン攻撃後、アメリカ/NATOはウラジミル・プーチン露大統領が姿を消したと宣伝していたのだが、実際はすぐに姿を現わしている。
 最近では6月13日にさまざまな分野の記者と約3時間にわたって会談し、15日にはアルジェリアのアブデルマジド・テブン大統領と会談、16日にはSPIEF(サンクトペテルブルク国際経済フォーラム)で基調講演を行っている。
 そうした状況であるにもかかわらず、6月17日にイギリスの「ジャーナリスト」オーウェン・マシューズはスペクテーター誌に「プーチン大統領はどこにいるのか? ロシアのリーダーはコントロールを失いつつある」というタイトルの記事を書いた。この人物、取材していないどころか「マトリクス」の中に入り込んでいるようだ。元CIA分析官のラリー・ジョンソンも指摘しているように、この記事は現実と乖離しすぎている

 マシューズは傭兵会社だとされているワグナー・グループを妄想の中心に据えている。この戦闘集団を率いているとされる人物は料理人のエフゲニー・プリゴジン。この人物はセルゲイ・ショイグ国防大臣や2022年7月までロシア国営の宇宙開発会社「ロスコスモス」でCEOを務めていたドミトリー・ロゴージンを批判していたが、軍事組織としては不自然だという見方もある。
 ロシア軍は昨年5月、ウクライナ北東部のハリコフ州から撤退したのだが、これは戦力不足が原因だとされ、西側の有力メディアは「反転攻勢」だと喜んでいた。
 しかし、この地域はステップ(大草原)で、隠れることが困難。ロシア軍は制空権を握り、高性能ミサイルも保有しているため、ウクライナ軍は壊滅的な打撃を受けたロシア軍の撤退はトラップだった可能性が高い。ロシア軍はウクライナ軍が地下要塞を築いていたソレダルへ兵力を集中させていた。
 ソレダルやバフムート(アルチョモフスク)で戦ったロシア軍の地上部隊はワグナー・グループが中心。プリゴジンは3月29日、彼らはバフムートを事実上、制圧したと語っているが、5月5日には部隊を5月10日にバフムートから撤退させると宣言した。十分な弾薬が供給されず、多くの死傷者が出ているとしているのだが、すでにロシア軍はその80から90%を制圧したと推測され、ワーグナー・グループの任務は終わろうとしていた
 そして5月20日にプリゴジンはバフムートの「解放」を宣言、25日から部隊を撤退させると発表した。その際、彼はセルゲイ・スロビキン上級大将とミハイル・ミジンチェフ上級大将に謝意を表している。
 スロビキンは昨年10月、ドンバス、ヘルソン、ザポリージャの統合司令官に任命された軍人であり、ミジンチェフはネオ・ナチのアゾフ特殊作戦分遣隊(アゾフ大隊やアゾフ連隊とも言われる)が占領していたマリウポリの解放作戦を指揮していた。
 ミジンチェフは反クーデター派の住民を人質にし、暴行を働き、虐殺していたネオ・ナチを支持してきた人びとに嫌われている。5月4日からワグナー・グループの副司令官に就任しているが、実際の司令官はミジンチェフだったのではないかという見方もある。
 プリゴジンの発言はアメリカ/NATOを混乱させることが目的だった可能性が高く、それをアメリカ/NATOの政治的な宣伝に利用しているのがマシューズだと言えそうだ。