米国のバイデン大統領はG7終了後の会見で、NHKの記者の質問に答えて「米中間で直近に雪解けが始まるのを皆さんが目撃することになるだろうと思う」と述べました。
ジャーナリストの高野孟氏はこの事実をホワイトハウスのHPで確認したあと、本来であれば1面トップの大見出しで「米大統領が対中『雪解け』を明言」と打つビッグニュースなのにどこもそうしなかったとして、「 ~ 日本の大メディアは米中対立を望んでいる?」という記事を出しました。
日本のメディアは戦前にそうであったように「好戦的」なのでしょうか。それとも「台湾有事」を想定して日本の軍事費を5年掛けて倍増させようとしている岸田首相の立場を忖度して大々的に報じなかったのでしょうか。いずれにしてもメディアが採るべき態度ではありません。
そもそも「台湾有事」は米国の好戦派が画策しているもので、台湾の独立派はいまやインテリ層の一部に浸透しているだけで台湾を火の海にしてまで断行する意思はないと言われています。要するに米国が強調する「台湾有事」自体が絵空事ということです。
岸田首相は、安倍元首相が敷いた路線に「悪乗り」して、「安倍氏さえも出来なかったことを自分が…」などとうそぶくのではなく、米国による壮大な虚構の中に組み込まれた「大軍拡」路線から早急に撤退すべきです。
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永田町の裏を読む 高野孟
バイデン大統領の重大発言をスルー…日本の大メディアは米中対立を望んでいる?
高野孟 日刊ゲンダイ 2023/06/14
先般のG7広島サミットをめぐる報道で気になっていたことが2つあり、1つはバイデン米大統領の挙動不審。いくつかの会議や晩餐会を途中退席して電話をかけまくっていて、当時はまだ連邦政府の債務不履行問題が未決着で気もそぞろだったのではないかという指摘。
もう1つは、その中でも彼が会見で「中国との雪解けは近い」と述べたという解説を目にしたが、もしそうなら新聞1面トップを飾るはずのこの重大発言がサミット関連記事には見当たらなかったことである。
このようにマスコミの報道ぶりがどうも怪しいという場合に、我々ジャーナリストが行う基本動作のひとつは、できるだけ本人なり原文なり「元」に当たること。バイデンに電話するわけにもいかないから、ホワイトハウスのHPで5月21日のG7終了後の大統領の会見全文を読んだ。
米国のこうした公式記録が凄いと思うのは、大統領の言い間違いや言い直しもそのまま忠実に再現し、また聞き取りにくいところはそのように表示して、会見場に居合わせなくともほぼライブ感に近い様子に接することができることにある。
それで、この日のバイデン会見を読んでの第1の印象は、岸田を「大統領」と呼んだり、韓国のユン大統領を「ルン」と言ったり、1兆7000億ドルを17億ドルと何度も言い間違えたりして「この人、認知症は大丈夫か」と思わせるほどなのだが、残酷なことに、ホワイトハウスや国務省の広報官僚はそれをそのまま表記し、本人が気付いて訂正しなければ[ ]内に正しい表記を挿入するというリアリズムに徹する。
第2に、やはりバイデンの頭は債務不履行問題でいっぱいで、その証拠に、会見記録全文の単語数で53%はそれに占められていた。次に多いのはウクライナ情勢に関するやりとりで主には米CBS記者との「F16戦闘機を供与することの是非」をめぐるやりとりだった。
第3に、質問者が結果的に5人に限られるなか、日本人で質問したのはNHKだけで、彼は米国の対中姿勢が硬軟の間で揺れ動いているようだが本当はどうなのかと聞いた。
それに答える中で、確かにバイデンは、偵察気球撃墜などで中国との対話が中断したが「直近に雪解けが始まるのを皆さんが目撃することになるだろうと思う」と答えている。私の報道感覚ではこれは当然、1面トップの大見出しで「米大統領が対中『雪解け』を明言」と打つところだが、この場にいた記者は誰もそう思わなかったようだ。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。