2023年6月3日土曜日

まともな難民審査参与員に当たらなければ認定されないという「事実」

 移民法改悪案では、21年4月の衆院法務委で難民審査参与員・柳瀬房子氏が参与員が難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができない」と発言したことを、入管庁が難民申請が濫用されている根拠(立法事実)のひとつにあげてました。
 ところが参院法務委における審議の中で、柳瀬氏が対面審査した数が「1年半で500件」に上る膨大なものであることが明らかにされました。5月30日の閣議後の会見で、記者から「それは不可能では」と訊かれたことに対して、齋藤法相は一旦は「可能だ」と開き直りましたが、同日の夜になって法務官僚から「『可能』ではなく『不可能』」の言い間違いだったと訂正が入りました。
 「不可能」を「可能」と言い間違えたとすると、前後の「文脈」とつじつまが合いませんが、それでも「可能」とするのでは「収拾がつかなくなる」ので苦し紛れの訂正発言になったのでした。

 参与員の総数は111人です。その中で柳瀬氏の審査数は21年には全体件数6741件の約20%に当たる1378件で、22年は同じく全体件数4740件25%に当たる1231件を、それぞれ1人で担当するという異常なものでした。勤務日数や従事時間から単純計算すると、柳瀬氏は1日あたり40件程度、1件あたり6分程度しか審査に時間をかけていなかったことになります。これらはすべて当事者を招いての「対面審査」であり、その上ほかの参与員との「評議」を行う必要があるのですがそれが実行された筈はありません。
 法相の「不可能」発言は柳瀬氏の発言が信用できないことを明らかにするもので、そうした人物の発言を改悪案の「立法事実」にした法務省入管庁の責任こそが問われます。
 これまで立法の根拠のことを「立法事由」等ではなくではなく「立法事実」と呼んできたのは、立法が「想定される事由」に基づくべきではなく、具体的に改善されるべき「事実」が存在することが要求されているからです。その「立法事実」が虚偽に満ちていることが明らかになった以上、少なくとも法案は出し直されるべきです。

 それにもかかわらず2日、公明党の杉委員長は来週6日に採決することを参院法務委理事懇談会で職権で決めましたNHK)。
 共産党の志位和夫委員長は1日に記者会見し、政府が立法事実としていた柳瀬房子難民審査参与員の発言が完全に崩壊したのが現状だとし、法案は撤回してやり直すのが当たり前なのに、右から左へ強行していく「悪政4党連合(自公維国)」の責任は極めて重いと強調しました。
 
政府・与党が参院法務委で入管法改悪案の採決を狙って緊迫した1日、国会周辺には午前中からたくさんの市民が集まり「採決反対」「友だちいじめる政治家いらない」と怒りの声をあげ続けました。しんぶん赤旗が報じました。
・毎日新聞は、現在の難民審査参与員制度は参与員によるバラツキ大きすぎて、まともな参与員に当たらないと認定されないという実態があること、難民申請者に対して「拷問を受けた証拠」を求めたり「何故現地で警察や裁判所に訴えなかったのか」と問い詰めていることや参与員が再審査で認定の意見書を作るには、複数の不認定の理由の一つ一つに反論するために数十時間の作業になる(不認定の場合は『異議無し』と書けばいい だけ等の実態を報じました。
 要するに参与員に委託するのに「難民認定の明確な基準が示されていない」ということで、まずは早急に「批判に堪える」マニュアルを作成すべきです。
LITERAは「 ~ 難民審査のデタラメが発覚! それでもマスコミは批判せず、強行採決を許すのか」とする記事を出しました。
 3つの記事を紹介します。 
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入管法改悪 採決巡り緊迫 「外国人の人生を何だと」 国会周辺抗議
                        しんぶん赤旗 2023年6月2日 



「外国人の人生をなんだと思っているのか」と訴える、ミャンマー人のミョーチョーチョーさん(左端)=1日、参院議員会館前




 政府・与党が参院法務委員会で入管法改悪案の採決を狙い、緊迫した1日、国会周辺には午前中からたくさんの市民が集まり「採決反対」「友だちいじめる政治家いらない」と怒りの声をあげ続けました。

 学生をはじめ、参院議員会館前には多くの市民が駆けつけました。国会内へより声が届きやすい国会図書館前にも人が集まり、「石橋(通宏)議員、頑張れ」「仁比(聡平)議員、頑張れ」と野党議員を激励。この日の採決がなくなったことが分かると、大きな拍手が起きました。
 大学4年生の学生(21)は、「何もしないで改悪案が採決されてしまえば、絶対に後悔すると思って国会前に来ました」と語ります。この日、法務委員会を傍聴したとも話し、「入管法改悪に賛成している議員の態度がひどかった。忘れません」。
 弁護士の児玉晃一さんは、立法事実すら崩れているなか、「改悪案の採決はありえない」と強調。移住者と連帯する全国ネットワーク代表理事の鳥井一平さんは、「全国でさらに声を上げていこう」と呼びかけました。ミャンマー人のミョーチョーチョーさんは「日本政府は外国人の人生をなんだと思っているのか」と訴えました。
 日本共産党、立憲民主党、社民党、れいわ新選組の国会議員が次つぎ参加。共産党の仁比氏は、市民と野党が力をあわせて奮闘し、「入管行政というブラックボックスに風穴を開けつつある。審議は尽くされていません。みんなで頑張りましょう」と語りました。


難民審査は「参与員ガチャ」 現役参与員が語る不認定が「楽」な闇
                             毎日新聞 2023/5/31
 「現在の難民審査参与員制度は参与員によってあまりにばらつきがある。まともな参与員に当たらないと認定されない。まるで『参与員ガチャ』だ」――。
 入管法改正案の審議が国会で続く中、出入国在留管理庁による1次審査で難民不認定となり、不服を申し立てた外国人を再審査する難民審査参与員制度のあり方が課題に浮上している。
 5月23日の参院法務委員会に参考人として出席した元参与員の阿部浩己・明治学院大教授は、委員会後の記者会見で「参与員は(難民認定の)専門家ではない。有識者と名前はついているが、難民認定については全く経験していない。審査の研修すら受けていない。あくまでそれぞれの分野での専門家だ」と指摘した。
 毎日新聞は現役の難民審査参与員4人に取材し、匿名を条件に、制度に対する課題を語ってもらった。

参与員により経験や知識に大きな差
 入管庁のホームページによると、参与員は法律または国際情勢に関する学識経験者の中から任命され、3人で班を構成。難民申請が却下された申請者に対して口頭意見陳述や質問等の審理手続きをする。非常勤の国家公務員で、参与員が多数決で決めた意見を法相が尊重して、難民と認定するかどうか最終判断する。

 法曹関係者で、難民認定すべきだとの意見を積極的に出しているという参与員A氏は、難民認定の明確な基準が参与員に示されていないことを問題視し、参与員による判断のばらつきがあると指摘する。「国際人権法や難民条約の何に、どう沿って判断をするかなどの基準が入管から示されていない。運用は班に任され、班によって相当判断が違う」と話す。
 学識経験者の参与員B氏は「裁判官や検事出身などの法曹関係者は、申請者の国家がきちんと機能しているという前提で話を進める。難民が来るのは破綻した国家から。申請者に対して『どうして警察や裁判に訴えなかったのか』と問い詰めるが、国によっては警察が迫害主体になっていたり、裁判が政治にまみれていたりする紛争国や途上国に対する見識をお持ちでない」と語る。

 別の学識経験者の参与員C氏は「口頭意見陳述で、ある国際協力に携わってきた参与員は、自分の経験だけで申請者の訴えに『そんなことはあり得ない』と詰めていた。はなから難民該当性を否定にかかっているように見えた」と訴える。
 B氏は参与員の知識や経験不足を解消するために、入管庁に参与員へのトレーニングや審査事例の共有を求めてきたが、実現していないという。「植民地支配の歴史や紛争地の現状に対する知識が不足していたり、途上国に関わった経験が全くなく、紛争地を想像できなかったりする法曹関係者がほとんど」と指摘する。

 A氏も「難民条約について知識を持っていない参与員がいることは確か。参与員の中に共通の認識がない」と語り、研修がないことに対して危機感を募らせる。

あまりに低い難民認定率
 現役参与員のD氏は「難民該当性を決定的に証明することは難しい」と語る。一方、A氏はDV(ドメスティックバイオレンス)の被害者が決定的な証拠を持っていないことと同じように「拷問など、証拠がないのは当たり前。当局が拷問してその記録を本人に渡すわけがない。客観的に証言が不自然ではないかが判断基準」と話す。

参与員にとっては、不認定が「楽」
 A氏は「嫌な言い方をすれば、不認定の方が参与員にとって楽」と審査のシステムに疑問を呈す。
 B氏は「不認定になった1次審査の書類には、複数の不認定の理由が書いてある。再審査で認定の意見書を作るには、それに一つ一つ反論することが求められる。数十時間の作業になる」と語る。不認定の場合は、「入管の用意する書類に『異議無し』と述べればいいだけ」という。事前に資料を精査したり、意見書を執筆したりする時間も含めて期日1回分の報酬は2万円強だという。
 C氏は「こんなアルバイトみたいなことなら気楽にやろうって人が当然増えてくる」と指摘する。
 現在審議中の入管法改正案では、3回目以降の難民申請者は強制送還が可能になる規定がある。A氏は改正案を率直に「怖い」と語る。「2回、3回と申請して認定される人もいる。(改正案では)難民認定されるべき人が取りこぼされてしまう」と話す。
 C氏は「国から独立した、専門知識を持ちトレーニングを受けた人による新たな機関が必要だ」と訴えた。【白川徹】


“難民見殺し”入管法改正案の根拠となった難民審査のデタラメが発覚! それでもマスコミは批判せず、強行採決を許すのか
                            LITERA 2023.06.01
 現在、参院法務委員会で審議されている入管難民法改正案(以下、入管法改正案)だが、完全に「立法事実」の根幹が崩れる事態となっている。
 今回の入管法改正案では、送還を拒否するために難民認定制度を濫用している外国人がいるとし、難民申請を3回以上おこなった場合は強制送還できる規定を盛り込んでいる。その根拠のひとつとなっているのが、難民審査参与員を務めている柳瀬房子氏の国会発言だ。
 難民審査参与員は民間出身の識者などが法務省から委託され、入管庁職員による一次審査で難民不認定となった人の不服申し立てを二次審査として審査を担当する。柳瀬氏はNPO「難民を助ける会」名誉会長で、この制度が発足した2005年から難民審査参与員を務めているが、その柳瀬氏が2021年の衆院法務委員会において「(参与員が)難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができない」と発言。この柳瀬発言を政府は難民申請が濫用されている根拠のひとつとして主張してきた。つまり、この柳瀬発言が今回の政府による入管法改正案の立法事実となっているのだ。

 ところが、その柳瀬氏が参与員としておこなってきた審査数が異常なものであることが判明。というのも、2022年は審査件数が4740件あったうち、柳瀬氏が担当した審査数は、なんと全体の約25%にあたる1231件。2021年も全体件数6741件に対して1378件も審査を担当。勤務日数や従事時間から単純計算すると柳瀬氏は1日あたり40件程度、1件あたり6分程度しか審査に時間をかけていなかったことになるというのだ。
 難民申請をおこなう人たちは、逃れてきた国の情勢も抱える事情もさまざまであり、さらには人命がかかった問題であることを踏まえれば、とてもこのような短時間で処理できるようなものでは断じてない。また、全国難民弁護団連絡会議(全難連)が参与員を務める弁護士10人に調査した結果、審査件数が年平均36件だったことや、元参与員である阿部浩己・明治学院大学教授が参院法務委員会で「年50件」と語った数字と照らし合わせても、柳瀬氏の審査件数の突出ぶりは異常としか言いようがない。しかも、参与員は111人いるのに、なぜか全体の25%もの審査を柳瀬氏1人が担っているのだ。
 つまり、入管庁にとって都合の良い審査をおこなう柳瀬氏を、入管庁が偏重していることは明々白々であり、まともな審査がおこなわれているとは到底言えない。そして、そのような人物の発言が根拠となっている時点で、立法事実は破綻しているに等しい。

齋藤健法相みずから立法事実を否定! 柳瀬・難民審査参与員の発言を「不可能」と
 しかも、ここにきて、柳瀬氏のこれまでの発言に対し、齋藤健法相もその不可能性を認めざるを得ない事態となっている。
 というのも、柳瀬氏は2019年11月11日に開催された「収容・送還に関する専門部会」において「私は約4000件の審査請求に対する裁決に関与し、そのうち約1500件では直接審尋をおこない、あとの2500件程度は書面審査をおこなった」と発言しているのだが、その後、2021年4月21日の衆院法務委員会では「(これまで)2000人の人と対面でお話している」と発言。つまり、約1年半のあいだに対面審査をおこなった数が500件も増えているのだ。
 この不可解な発言の変遷について、入管法改正案問題を追っているNPO「Dialogue for People」代表でフォトジャーナリストの佐藤慧氏は、5月30日の閣議後会見で齋藤法相に「この数字がもし正しいとしても、1年半で500人の対面審査をおこなうなど、とても真っ当な審査をしたとは思えないが」と質問。すると、齋藤法相はこう述べた。
「我々の審査の仕方は事前に書類を送って見ていただくということをやっている。それを含めての処理数なので、一般論として申し上げれば、1年6カ月で500件の対面審査をおこなうことは可能だと思っている

 言っておくが、1年半で500件もの対面審査は、まずもって物理的にほぼ不可能であるし、もし事実なのであれば法相自ら対面審査の杜撰さを認めているようなものなのだが、問題はこのあと。「Dialogue for People」によると、この会見の同日夜、〈法務省から「“可能”ではなく、“不可能”の言い間違いだった」と訂正の連絡があった〉というのだ。
 前述したとおり、齋藤法相は会見で「事前に書類を送って見ていただくということをやっている」と主張した上で「1年半で500件の対面審査は可能」と述べており、これを「不可能」の言い間違いとするのは文脈的にありえない
 だが、重要なのは、齋藤法相も「1年半で500件の対面審査」は「不可能」であると認めた点にある。ようするに、柳瀬氏の発言は“虚偽”だった可能性を齋藤法相が認めたのだとすれば、大臣自ら立法事実を否定したようなものだからだ。

メディアは入管法改正案の問題点をなぜ報じない? デタラメだらけの反人権法案の強行採決許すな
 もはや立法事実が崩壊し、審議に耐えうる状態ではなく廃案にするほかない入管法改正案。少なくとも柳瀬氏の証人喚問は必須と言えるが、問題は、入管法改正案がテレビではほとんど大きく取り上げられていないということだ。
 実際、入管法改正案をめぐっては、5月21日に東京・渋谷で7000人が参加した大規模な反対デモがおこなわれたが、テレビのニュース番組はG7サミットの話題一色で、まったく報じられず。衆院で可決された際や日本維新の会の梅村みずほ参院議員による暴言問題については報じられたものの、法案そのものの問題点に踏み込んだ報道をおこなっているのはTBSの『報道特集』や『news23』くらいのもので、柳瀬氏の問題も『news23』は取り上げたものの、NHKの『ニュースウオッチ9』もテレビ朝日の『報道ステーション』もスルーしつづけている。また、30日の参院法務委員会では、またしても維新の鈴木宗男参院議員が「国益なくして人権なし」などと信じがたい暴言を吐いたが、もちろんそれも報じられていない。
 この入管法改正案は、国連人権理事会の専門家らも「国際人権基準を満たしていない」として日本政府に抜本的な見直しを勧告しており、国際社会に対し、反人道・反人権国家であると宣言するようなシロモノだ。しかも、立法事実が破綻するという事態になっているというのに、それさえもテレビは伝えようとしない。このままでは、本来難民として保護すべき対象の人々が、命の危険が待っている国に強制送還されてしまうかもしれないのに、である。
 重要な問題点を報じないまま、人を見殺しにしようという法案をこの国が押し通すことを、テレビはこのまま黙認するのか。本日6月1日の参院法務委員会での強行採決も危ぶまれているなか、問題を報じないメディアの姿勢にも注視する必要がある。(編集部)