2023年6月21日水曜日

この首相とデジタル相にもつける薬なし(日刊ゲンダイ)

 第211回通常国会は予定通り21日で閉会します。この国会では史上まれに見る悪法の数々が成立しました。大軍拡関連法や入管法など、それらの数々はまだ語り尽くされたわけではありませんが、終盤になって日々明らかにされたマイナンバーカード関連法のデタラメさも常軌を逸していました。国会終盤で岸田氏自身が演じた「解散騒動」の浅ましさも見過ごせません。

 岸田氏が自覚しているのかは不明ですが、この先岸田政権にとって多少はマシな解散の機会が訪れるのかといえば、「解散回避 行き詰まる政権 ~ 」でしんぶん赤旗政治部長 中祖寅一氏が述べた通り、ただ難題が待っているだけで政府は苦しくなる一方です。「悪政」が結果するところの必然です。

 日刊ゲンダイが「バカにつける薬はなしというが この首相とデジタル相にもつける薬なし」という記事で、この政権が将棋でいえばもはや『詰んでいる』ことを明らかにしました。
 同紙はまた「金子勝 天下の逆襲」のコーナーで、金子勝・慶大名誉教授が「マイナカードを巡るトラブルは日本の産業の衰退を象徴している」という記事を出しました。併せて紹介します。
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バカにつける薬はなしというが この首相とデジタル相にもつける薬なし
                       日刊ゲンダイ 2023年6月19日
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 解散権という伝家の宝刀を振りかざし、最高権力をさんざん弄んだ岸田首相は高揚感に浸っているという。
 通常国会の終盤、会期中に衆議院を解散するのではないかと、岸田の一挙手一投足に注目が集まった。岸田自身が思わせぶりな言動で解散風を吹かせ、大メディアがそれをあおる。与野党議員もメディアも右往左往している間に、防衛費増額のための財源確保法など重要法案が会期中にすべて成立。
 法案成立のメドがついた15日夕に、岸田はわざわざ記者団の前で「解散しない」と明言したわけだが、選挙カーやポスターの手配など、すでに選挙準備に走り出していた議員は少なくなかった。
 朝日新聞(17日付)によれば、岸田は周辺に「解散権という『首相だけの特権』を、目いっぱい使わせてもらった」と語ったという。「解散という影響力を残せたことが大きい」とも言っているそうだ。今回の騒動ですっかり味をしめた岸田は、今後も解散カードをチラつかせて求心力を高め、政権運営にも利用するつもりなのである。

岸田首相は総理の椅子がゴールで、そこに長く座り続けていたいだけなのでしょう。来年の自民党総裁選で再選されるためには、いつ解散するのが効果的かということしか考えていないから、解散権を弄ぶような真似を平気でする。G7広島サミットで支持率が上昇して以降、首相が解散を打つのではないかと与野党議員は浮足立ち、メディアも政局報道に終始して、政策論争は一向に深まりませんでした。
 入管法改正は問題点が改善されないまま成立し、LGBT理解増進法も会期内の成立を優先して審議に時間をかけることなく日本維新の会と国民民主党の修正案を与党が丸のみ。差別解消の理念が曖昧になってしまった国民不在の国会運営が続いています」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)

不信任案提出で解散はヤクザの論理
 岸田は解散カードを野党牽制にも使い、与党側は「立憲民主党が内閣不信任決議案を提出すれば、それが解散の大義」などというトンデモ理論を盛んに発信していたが、これは常軌を逸している。憲法順守を完全に逸脱しているのだ。
 憲法69条は、内閣不信任決議案が可決されれば、衆院解散か内閣総辞職をしなければならないと定めている。あくまで可決が前提条件なのである。
 歴代内閣は与党に有利な時に解散を打ってきたが、それは憲法7条に「内閣の助言と承認により天皇が行う国事行為」のひとつとして「衆議院を解散する」と書いてあることに目を付けて“発明”した屁理屈であって、「7条解散」は今もグレーゾーンだ。だからこそ、時の政権が恣意的に解散を打つ場合には“大義”が重視されてきた
 野党が不信任案を提出したら解散なんて、69条と7条をゴチャゴチャにした上に、野党に責任転嫁する無理筋なのだ。目が合っただけで「やんのか、コラ!」と凄んでボコボコにするVシネマのヤクザと変わらない。
 こんな屁理屈に与党内からも異論が上がらないことが、政治の劣化を如実に表している。生殺与奪を握られた議員は右往左往するばかり。そういう権力の横暴を批判することもなく、「不信任案提出が焦点」「提出なら解散も」と垂れ流す大メディアの思考停止も恐ろしい

再選戦略のために増税論議を避け、何もかも先送り
 岸田が解散・総選挙を考えるなら、本来は国民に問うべきテーマはいくらでもある。
 敵基地攻撃能力の保有など戦後の平和主義をかなぐり捨てる安保政策の転換。そして異次元と謳う少子化対策。そのどちらにも国民の負担増は避けられない。東日本大震災における福島第1原発の過酷事故をなかったことにするかのような原発回帰の是非も、国民の意見を聞くべきだろう。 
 岸田は15日に解散見送りを明言した際、「先送りできない課題に答えを出していくのが岸田政権の使命だ」とか豪語してカッコつけていたが、防衛費も少子化対策も肝心の財源問題はすべて先送りしているのだから笑止千万だ。
 GDP比2%に防衛費を増やすための増税の開始時期は、昨年末の税制改正大綱で「24年以降の適切な時期」としていたのに、16日に閣議決定された「骨太の方針」では「25年以降のしかるべき時期」に後ろ倒し。3.5兆円規模の異次元の少子化対策も、当面は「つなぎ国債」で賄うという。
 来年の総裁選に向けた再選戦略で増税を争点にすることを避け、解散時期のフリーハンドを得たいのだろうが、国民に対してあまりに不誠実だ。

「岸田首相は今国会での解散を見送ったというより、『できなかった』が正しいのではないでしょうか。自民党の情勢調査でかなり厳しい数字が出たという話も聞く。解散権を弄ぶ傲慢や、秘書官に就けた長男の不祥事、庶民生活を苦しめる物価高騰を助長するような政府・日銀の動きなどで、国民は岸田政権に対する不信感を高めています。
 極めつきがマイナンバーカードをめぐる混乱です。私も先日、マイナカードを返納してきましたが、全国的に返納希望者は後を絶たない状況になっている。河野デジタル相は何でもかんでもマイナカードに紐づけようとしていますが、それは思想統制や徴兵制にもつながりかねません。そのうえ、誤って他人名義の口座を登録した事例などが次々と発覚しても、河野大臣は役所や国民のせいにしてきた。エラソーな上から目線の答弁は反感を買う一方です」(政治評論家・本澤二郎氏)

「意味不明」で「フルスロットルのバカ」
 コラムニストの適菜収氏も、日刊ゲンダイ連載でこう書いていた。
今更、絶望するほどおぼこではないが、デジタル担当相の河野太郎の立ち居振る舞いを見ていると、吐き気を覚える
河野は一連のトラブルはマイナンバーカードの構造的な問題ではなく、人為的なミスによるものだと言い張っていたが、これは構造的かつ人為的な問題だ。そして問題の根源こそ、スタンドプレーに走り、責任を他人に押し付けてきた河野である
質問にもまともに答えない。政府の対応が批判されると、河野は「日本だけデジタル化に背を向けることはできない」と意味不明なことを言い出した。フルスロットルのバカ。デジタル化が問題なのではなく、国民にまともな説明もせずに、おかしな方向に暴走していることが政治不信を招いているのだ

 共同通信社が17、18日に実施した世論調査では、現在の健康保険証を来年秋に廃止してマイナンバーカードに一本化する政府方針に関し、延期や撤回を求める声が72.1%に上った。
 岸田内閣の支持率は40.8%と、前回(5月27、28日)調査から6.2ポイント下落。不支持率は41.6%で支持率を上回った。異次元の少子化対策の財源について、具体策は年末に示すという岸田の説明に「納得できない」も72.7%に達した。
 毎日新聞が17、18日に行った調査でも内閣支持率は33%と前回(5月20、21日)調査から12ポイントも下落。不支持率は58%だった。サミット効果が剥落した格好だ。今国会で解散を打てる状況ではなかったが、この先に上がり目もない。マイナカードの混乱は拡大の一途で、それにつれて支持率が下がっていくことも必至。後々、「あの時に解散していれば……」と悔やまれることになりそうだ。

 ⇒適菜収「それでもバカとは戦え」河野太郎とマイナカード…システムよりも自分の頭の中を検証しろ


金子勝の「天下の逆襲」
マイナカードを巡るトラブルは日本の産業の衰退を象徴している 
                         日刊ゲンダイ 2023/06/20
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 日本の産業の衰退ぶりが、国民生活で目に見える形で出てきている。新型コロナ流行時には、日本製ワクチンや治療薬はほとんど開発されなかった。電力自給問題でも、日本の風力、太陽光発電のメーカーはほぼ壊滅状態だ。目下のマイナンバーカードを巡る問題も、日本のIT産業の衰退を象徴する出来事と言える。
 マイナカード事業の中核を担う「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」には、総務省と関係が深い“御用企業”からの出向者が名を連ねている。政府はトラブル発生の原因を「ヒューマンエラーだ」と言い張っているが、時代遅れのシステムの欠陥を隠し、責任を利用者に押しつけようとする姿勢がさもしい。
 マイナポータルの利用規約では損害賠償をしない免責条項がある。しかも、ヒューマンエラーではないものを、ヒューマンエラーだと言っているのだから、タチが悪い。例えば、マイナンバーと公金受取口座の誤登録を巡って、政府は一般利用者の登録ミスが原因としている。国民のせいだと言っているわけだ。
 しかし、利用者がクレジットカードなど登録手続きでミスした場合、普通は端末の画面上で「警告」が表示されるはずだが、そういう仕組みさえない。顔認証トラブルでマイナ保険証がフリーズして10割負担になったのも「システムエラー」だ。26年に新しいカードに替えるという。なんで急ぐのか。

 マイナカードの誤紐付けで、他人の年金記録が閲覧される事態も起きたが、これも、誤登録をチェックできない仕組み自体に問題がある。米国でも年金支給を巡るトラブルは起きているが、少なくとも米国の公的年金は一元化されており、社会保障番号により容易に確認できる仕組みになっている。
 しかし、日本の年金制度は職業や年齢別に分立しており、負担率も運営の仕組みもそれぞれが大きく異なる。転職や、年を重ねるごとに頻繁な変更を余儀なくされる。「デジタル化効率化」につながらない。
 そもそもスマホでなくカードを作ることが、なぜデジタル化なのか。カードを紛失すれば、預金から何から丸裸になってしまう。ドイツでは、ナチスがユダヤ人を管理するために番号を割り振っていた経験から、情報を分散管理する方針を取っている。国民の情報を一元化し「利便性」を高めれば、セキュリティーは弱まる。だからこそ、分散管理が重要なのだ。

 カード化はたばこのtaspoと同じ利権のにおいがプンプンする。必要なのは、J-LISに巣くう御用企業の時代遅れなOSとの決別だ。独自のOSをイチから作り上げるくらいの気概がなければ、日本のIT産業は永遠に先進国には追いつけない。

金子勝 淑徳大客員教授
1952年6月、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て現職。慶応義塾大学名誉教授。文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」などにレギュラー出演中。近著「平成経済 衰退の本質 」など著書多数。新聞、雑誌、ネットメディアにも多数寄稿している。