2023年6月17日土曜日

LGBT法4党案可決 田村智子氏批判「これが少数者守る法か」

 LGBTの人たちへの理解増進に向け、自民・公明両党と維新の会、国民民主の4党が与党案を修正した法律が、16日の参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。

 しかし修正案で新設された12条「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」は、少数者多数派の安心を脅かすことのないよう『わきまえろ』と求めるもの」(共産・田村氏)であり、決して性的少数派に対し「理解増進」を図るものでありません。
「差別は許されない」という文言を、「不当な差別はあってはならない」と書き換えたことも「正当?な差別」は認めるというもので法の精神を損なうものです。
「民間団体などの自発的な活動の促進」削除され、「学校での教育、啓発」に関しては、わざわざ「家庭・地域住民の協力を得つつ行う」が付加されました。これでは「多数派が許容する範囲で認める」乃至「強力な反対があれば行えない」ということになりかねず、法案はずたずたに後退させられました
 参院内閣委員会の審議では「公衆トイレや公衆浴場女性の安全が脅かされる」ということが危惧されたようですが、それは性暴力の防止、被害者支援の法整備上の問題であって的を外しています。
 しんぶん赤旗が参院内閣委員会で採決された経緯の関する3本の記事を出しました。
 併せて毎日新聞の記事「LGBT法『誰のための法なのか』 当事者ら、成立に不満と心配」を紹介します。
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LGBT法4党案可決 田村智子氏批判「これが少数者守る法か」
                       しんぶん赤旗 2023年6月16日
 LGBTQなど性的少数者の願いに逆行するLGBT法4党案の採決が15日の参院内閣委員会で、古賀友一郎委員長の職権で強行され、自民、公明、維新、国民民主の賛成多数で可決しました。日本共産党、立民、れいわは反対しました。
 共産党の田村智子議員は反対討論で、最大の問題は、維新、国民の案をベースに「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」との条文が持ち込まれたことだと主張。「マイノリティー(少数者)にマジョリティー(多数派)の安心を脅かすことのないよう『わきまえろ』と求める。これがマイノリティーの人権擁護の法律か」と批判しました。
 田村氏は、法案審議で取り上げられたトイレや公衆浴場などのスペースは、「誰にとっても安全であるべきだ」と強調。その上で、「女性の安全が脅かされている現状は、性暴力の防止、被害者支援の法整備と取り組みの不十分さが問題であって、LGBTの権利に関わる法案の焦点として語るなど、全くのお門違いだ」と批判しました。
 また、学校での教育・啓発は「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」行うとする条文も、“多数派が許容する範囲で”性的少数者の人権を認めることになりかねないと指摘。同条文を根拠に「学校の実践をやり玉に挙げるようなことはあってはならない」と主張しました。
 田村氏は、当事者の根底にある思いは「私が私として生きたい、ただそれだけだ」と述べ、「個人の尊重、ジェンダー平等、多様性の尊重へ私たちは決して絶望することなくともに歩み、必ず時代を動かす」と表明しました。


LGBT法4党案 田村智子議員の反対討論(要旨)
                       しんぶん赤旗 2023年6月16日
参院内閣委員会
 日本共産党の田村智子議員が15日の参院内閣委員会で行ったLGBT法4党案に対する反対討論の要旨は次の通りです。

 最大の問題は、第12条が、維新・国民案をベースに持ち込まれたことです。「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」― 法律の目的を百八十度転換し、マイノリティーにマジョリティーの安心を脅かすことのないようにと求める、これがマイノリティー人権擁護の法律なのでしょうか。審議でLGBTの方が直面する問題ではなく、トイレなど女性スペース問題ばかりが取り上げられたことに、12条の意味するところは明らかです。
 上野千鶴子氏など22人が呼びかけ人となり「LGBTQ+への差別憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」が発表されました。「女性の安全がトランスジェンダーの権利擁護によって脅かされるかのような言説は、トランスジェンダーの生命や健康にとって極めて危険なものになりかねません」との批判は、法案審議にも向けられたものと受け止めるべきです。
 トイレや公衆浴場は、だれにも安全であるべきです。女性の安全が脅かされている現状は、性暴力の防止、被害者支援の法整備と取り組みの不十分さが問題であって、LGBTの権利に関わる法案の焦点として語るなど全くのお門違いです。
 トランスジェンダーも深刻な性被害を受けているのに被害を認められず、支援や相談の対象にもならない、自分の性的指向・性自認による差別排除への不安を24時間、365日抱え続けている―参考人から示された生きづらさ、孤独、差別は命に関わる問題です。LGBTQ+の人権擁護、差別解消の緊急性は明らかなのに、審議でそこに焦点が当たらないのは異常です。
 学校での教育、啓発は家庭・地域住民の協力を得つつ行うとの条文も、多数派が許容する範囲で認めるということになりかねません。性的違和感を抱く子どもが学校を通じて理解あるおとなとつながる機会が奪われ、孤立を深めてはなりません。
 「差別は許されない」が「不当な差別はあってはならない」と書き換えられ、国に義務づけた調査研究が学術研究に置き換えられ、「民間団体などの自発的な活動の促進」も削除するなど、法案はずたずたに後退させられました
 国会の全政党に何度も足を運び、対話を続けてきた当事者のみなさんに心からの敬意を表します。根底にある思いは、私が私として生きたい、ただそれだけだと思います。その切なる願いに応えた理解増進、差別解消の取り組みは、全ての人が個人として尊重される社会を実現するでしょう。個人の尊重、ジェンダー平等、多様性の尊重へ私たちは決して絶望することなくともに歩み、必ず時代を動かします。


性的少数者への差別解消へ 法整備は一刻を争う 田村智子氏に参考人
                       しんぶん赤旗 2023年6月16日
参院内閣委
 日本共産党の田村智子議員は15日、参院内閣委員会のLGBT法4党案の審議で、性的少数者が抱える困難という原点に立ち返った議論が必要だと述べ、参考人への質疑を行いました。参考人は、性的少数者への差別を解消するための法整備は「一刻を争う状況だ」と訴えました。
 性的少数者のための法整備を目指す「LGBT法連合会」の神谷悠一事務局長は、カミングアウトしていない大多数の当事者は「気付かれないようひっそりと暮らしている」と指摘。差別や偏見を恐れ、プライベートの生活などありのままに話せない苦しさは、24時間365日続いていると強調しました。
 一方、カミングアウトした人たちも、職場や就活などで差別や不利益を被っており、トランスジェンダーが性暴力の標的になっていると説明しました。
 田村氏は、法案が学校での教育について「家庭及び地域住民らに協力を得る」としていることについて質問。神谷氏は、親の理解が最も困難で、学校で理解ある先生と出会うことが孤立を防ぐと強調しました。
 田村氏は、修正で追加された「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との条文について質問。神谷氏は、「国民の間に分断を生む。いじめや差別の原因となる無理解を擁護し、差別を温存するために活用される懸念がある」と指摘。法案の基本理念である基本的人権を享有し個人として尊重されることに反し、「百八十度真逆の効果をもたらす」と語りました。
 田村氏は、これまでの審議で当事者の苦悩が議論されておらず、法案採決はできないと主張しました。


LGBT法「誰のための法なのか」 当事者ら、成立に不満と心配
                         毎日新聞 2023年6月16日
 「誰のための法律なのか」――。16日成立した、性的少数者に対する理解を広げるための「LGBT理解増進法」。度重なる修正に当事者には「法律によって逆に差別を助長しかねない」との懸念が残る。性的少数者の差別や偏見をなくすため、どのように実行力を高めるかが課題となる。
 「『差別を許さない』との文言を入れて、一歩踏み出そうと始まった法律だったはず。議論が進むにつれて、多数派のための法律かと問いたくなるほど内容が後退した。結局、政治家は声の強いところにしかなびかないのではないか」
 性的少数者を支援する福岡市のNPO法人「カラフルチェンジラボ」代表理事、三浦暢久さん(45)は新法に不満を隠さない。
 新法は合意形成の過程で修正が重ねられ「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」との条文も加えられた。学校での性の多様性に関する教育も「家庭や地域住民の協力を得る」としている。
 性の多様性を祝う「九州レインボープライド」を運営し、学校や企業で性的少数者の理解を広げるための講演などを続ける三浦さんは「一部の人が反対すれば(路上で)パレードができなくなったり、学校での講演ができなくなったり、活動が抑制される恐れがある。条文はその口実を与えかねない」と心配する。
 性的少数者のカップルを公的に認める佐賀県の「パートナーシップ宣誓制度」に基づき2021年9月に宣誓し、男性パートナー(47)と暮らす浦川健二さん(38)は「私たちは特別扱いされたいのでなく、誰もが生きやすい社会になってほしいだけ」と強調する。
 浦川さんのパートナーは「パートナーシップ制度の導入後、佐賀で反対運動や混乱はなく、全国的にも性的少数者への理解は広がりつつある。国が動かないから地方が制度を導入するなどして動いてきたのに、余計に混乱が生じかねない。理解を広げることが阻害されるのであれば、法律はないほうがいい」と訴える。
 東京都内で同性パートナーと0歳の子供の3人で暮らすひとみさん(43)=フルネームは非公表=は新法成立を「一歩前進」と一定の評価をしながらも、複雑な思いを抱える。
 脳裏に浮かぶのは1年ほど前、パートナーの出産のため産婦人科を探した時のことだ。ある病院から「病院としては断らないが、同部屋の方に配慮してほしい」と受け入れに難色を示された。「『一般の人の理解が進んでいない』という理由で断り文句に使われる可能性がある」と懸念する。
 16日の参院本会議では、採決時に自民党議員3人が退席した。「当事者に対する真摯(しんし)な姿勢がみられない。この問題について触りたくないという思いの表れだと思う。想定内だけどショックだ」と受け止める。
 ひとみさんは約5年前、福岡市内に住む70代の母親にカミングアウトし、現在は理解が進まない現状を変えようと親子で講演活動をする。小中学校で講演すると、子供から「相談できない」「親にも言えない」とSOSを訴える手紙が届くこともある。「カミングアウトできず自死を考えるほど苦しむ子供もいる。国全体で理解増進させる取り組みが必要だ」と強調。その上で「新法成立はゴールではなくスタート。同性婚の法制化や教育環境の整備につながれば」と語気を強めた。【竹林静、城島勇人】