2025年3月24日月曜日

国立大を企業が支配 運営方針会議に財界人ずらり 利益相反の温床(しんぶん赤旗)

 政府は「学者の国会」とも呼ばれる「日本学術会議」を国の機関から切り離し、法人化する法案を7日 閣議決定し、今国会での成立を目指しています。
 日弁連会長声明にもあるように、「この法案が成立すれば、時の政治権力から独立した立場で、政府に対し、科学的根拠に基づく政策提言を行うナショナル・アカデミーとしての学術会議の根幹をなし、学問の自由(憲法23条)に由来する独立性・自律性が損なわれるおそれが大き」く、日本学術会議が政府や財界の意向を反映する機関に変貌する恐れが十二分にあります。

 事実、多くの大学関係者の反対を押し切って2312月に強行された国立大学法人法改悪によって、東大など大規模国立大5法人に設置が義務づけられた運営方針会議の委員に、大企業経営者や財界人が多数就任しています。しんぶん赤旗が報じました。
 大企業経営者が大学内で強力な権限を持つことで、政府・財界の大学支配が進むうえ、同会議が利益相反(企業出身委員が大学の利益より自社の利益を優先すること)の温床になる可能性は大です。
 しんぶん赤旗は「大軍拡へ大学総動員体制構築」とする解説記事で、学外者が実質的に大学の運営を支配する実態を報じているので、併せて紹介します。
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国立大を企業が支配 運営方針会議に財界人ずらり 利益相反の温床にも
                       しんぶん赤旗 2025年3月21日
 多くの大学関係者の反対を押し切って2023年12月に強行された国立大学法人法改悪(24年10月施行)によって東大など大規模国立大5法人に設置が義務づけられた運営方針会議の委員に、大企業経営者や財界人が多数就任していることが分かりました。大企業経営者が大学内で強力な権限を持つことで、政府・財界の大学支配が進むうえ、同会議が利益相反(企業出身委員が大学の利益より自社の利益を優先すること)の温床になるとの懸念の声も出ています。(佐久間亮) 



 運営方針会議は予算や決算、中期目標・中期計画といった大学の重要事項を議決し、執行を監督します。いわば大学の最高意思決定機関です。同会議の設置は、大学ファンドから支援を受ける国際卓越研究大学の認定要件にもなっています。
 卓越大1号となった東北大では、トヨタ自動車など大企業8社が出資する半導体企業ラピダスの東哲郎会長が運営方針会議の議長に就任。昨年11月に開かれた同会議の議事要録(発言者名なし)には「半導体やエネルギー、防災など社会の大きな課題の解決に向けて積極的に貢献いただきたい」という発言が記載されています。本紙は同大に発言者を尋ねましたが、現在まで回答はありません。
 名古屋大と岐阜大で構成する東海国立大学機構では、愛知県豊田市に本社を置くトヨタ自動車の内山田竹志元会長(現同社エグゼクティブフェロー、元経団連副会長)が運営方針会議議長に就いたほか、トヨタ学園監事やトヨタグループの自動車部品メーカー・アイシンの取締役を務める浜田道代氏が委員に就任。同機構は本紙の取材に「利害関係を有する場合やその恐れがある場合には、当該委員には議事に加わっていただかない」としています。
 しかし、名古屋大はトヨタ自動車はじめトヨタグループ企業と五つの「産学共同研究部門」を立ち上げています。運営方針会議が議決する予算や中期計画は共同研究を実施する学部や研究者の予算や処遇にも影響を与えるため、同会議の審議全般が利害関係に当たる可能性があります。
 京大の運営方針会議議長は、日本最大の軍事企業・三菱重工業取締役の平野信行氏(元経団連副会長)です。

 5法人の運営方針会議構成員52人のうち企業出身者は19人。占有率は2~4割です。そのなかには経団連副会長、元同副会長が各2人、元経済同友会副代表幹事、中部経済連合会副会長、関西経済連合会副会長、元関西経済同友会常任幹事各1人が含まれます。


【解説 ワイド】 大軍拡へ大学総動員体制構築
                        しんぶん赤旗 2025年3月21日
 東大など規模の大きい特定国立大5法人に運営方針会議の設置を義務付けた2023年の改国立大学法人法(国大法)の審議の際、盛山正仁文部科学相(当時)は、同会議の委員の人選は大学の自主性に任せると繰り返しました。
 改悪国大法が委員の選定を文科相の承認事項としたことが、菅義偉首相による日本学術会議の会員任命拒否事件を想起させ批判が集中したことで、「大学の自主性、自律性に鑑み、国立大学法人からの申し出に明白な形式的違反性や違法性がある場合や、明らかに不適切と客観的に認められる場合を除き、(大学側の人選を)拒否することはできない」と言わざるを得なくなったのです。
 盛山氏は一方で運営方針委員について「具体的には民間企業の経営の実務経験を有している方などを想定している」とも答弁。自主的選定を語ったそばから、企業経営者を起用すべきだというメッセージを大学関係者に発信しました。
 トヨタ自動車やソフトバンクといった日本のトップ企業の経営者、経団連副会長といった財界人が並ぶ5法人の運営方針委員の顔ぶれは、政府の意向が人選に強く反映したことをうかがわせます。実際、ある大学関係者は「委員の構成が大学の研究者に偏らないことなど、文科省から細かく指示が出ているようだ」と明かします。

学外委員が過半数
 大学自治は、憲法23条の学問の自由の保障と一体不可分とされます。その核心は、大学の内部問題は大学内で自主的に決定し、政府や財界など外部勢力の干渉を許さないことにありま
す。
 しかし5法人のうち京大と大阪大は国大法改悪後に策定した内規で、学長を含めた運営方針会議の構成員の過半数を大学の構成員以外(学外委員)とすると規定。東北大は、運営方針委員の過半数を学外委員とするとしたうえで、議決には学外委員1人以上の賛成が必要とし、学外委員に事実上の拒否権を与えています。東海国立大学機構も学外委員に拒否権を与えています。その結果、東大を除く4法人で学長を含む運営方針会議の構成員の過半数を学外委員が占
める事態になっています。
 東北大の宮田康弘理事(元第一生命保険常務執行役員)、東大の菅野暁理事(みずほフィナンシャルグループ系列の資産運用会社・元アセットマネジメントOne社長)、京大の小幡泰弘理事(文科省からの出向)が学内委員となっていることにも疑問の声が上がります。3氏を事実上の学外委員として数えると、5法人すべてで学外委員が運営方針会議の構成員の過半数を占めます。
 また、東大以外の4法人の学内委員は総長と理事のみ。執行部以外の教員は入っていませル。大学の重要な構成員である学生や職員を起用した法人はゼロです。
 東大は運営方針委員に卒業生枠を殷けたものの、同枠で選ばれたのは経団連副会長の野田由実子ヴェオリア・ジャパン会長です。同社はフランスに本社を置く水道事業会社の日本法人。野田氏は公共サービスを民間委託する民間資金活用事業(PFI方式)を日本に普及した第一人者と呼ばれ、21年には同社を中心とした事業体が宮城県の水道民営化の受託先となっています。

大学ファンド構想
 運営方針会議の構成が企業経営者に偏る大本には、政府の大学ファンド構想があります。運営方針会議はもともと同構想のなかで政府・財界による大学支配の要として考えだされたものです。運営方針会議の設置と学外委員への強力な権限付与は、大学ファンドから支援を受ける国際卓越研究大学の認定要件になっています。
 大学ファンドは、公的資金10兆円を金融市場で運用し、その収益で大学を支援する仕組み。政府は、卓越大に選ばれれば最長25年にわたって巨額の支援が受けられるといいます。卓越大1号となった東北大の25年度の助成額は154億円を想定しています。
 巨額の助成金と引き替えに、卓越大は毎年3%以上の事業成長や注目度が高い論文(トップ1%論文)の増産、1兆円超の独自ファンド造成など非現実的にもみえる目標を政府に誓います。その目標達成に向けた工程表「体制強化計画」を議決し、執行状況を監督する役割を担う
のが運営方針会議です。
 改悪国大法が定める運営方針会議の構成は学長と運営方針委員3人以上です。学外委員の比率などは書かれていません。しかし自公政権は、国大法ではなく、卓越大の認定要件に〝学内委員のみの賛成で運営方針会議の議決が成立しない仕組みの構築″を挿入。構成員の過半数を学外委員とすることや学外委員に拒否権を与えることを求めました。
 大学予算を削減して大学を「もう限界です」(国立大学協会声明、24年6月)という状況に追い込み、大学ファンドの巨額の助成金に飛びつかざるを得ない状況をつくることで、大学を企業に奉仕する存在へと変容させようとしています。
 その未来像が東北大の方針に表れています。体制強化計画の政府認可に向け同大が24年6月に発表した文書は、企業との「共創事業拡大のための基本戦略」として「社会課題の解決、産業競争力の強化を図るために、大学自身が民間の研究・開発・事業創出の一翼を担う」と明記。「そのために、国際的な産業の動向、市場成長の状況、本学の強みなどの総合的分析」を通して「重点戦略分野を選定」したとし、重点戦略分野の第一に半導体を挙げます。同大の運営方針会議の議長は半導体企業ラピダスの東哲郎会長体制強化計画自体が利益相反の種を内包しています。
 政府・財界による大学支配のたくらみは、政府が今国会で成立を狙う日本学術会議解体法案と同様、大軍拡路線のもとでの学術総動員体制構築の一環でもあります。   (佐久間亮)


教育・基礎研究が後退  東北大名誉教授 井原聰さん
 東北大では昨年、物質を原子レベルで観察することができるナノテラスという施設が稼働を始めました。この技術は半導体開発とも深く関係します。運営方針委員に半導体企業の経営者が入る一方、利益相反のチェック体制は見えてこない。非常に問題です。
 同時に、運営方針委員になった企業経営者たちは、自社に利益を誘導するというよりも、もっと大きな枠組みで大学を企業支配に組み込んでいく役目を負っています。大企業が自社の中央研究所を次々解体してきたもとで、大学を企業のための研究所へ変えていく改革を進めるでしょう。
 運営方針会議という大学自治に真っ向から対立する組織のもとで、自治の根幹にある教育や基礎研究はますますないがしろにされていくと思います。