石破内閣の目論む高額療養費制度改悪で、政府が譲歩する(=自己負担額の引き上げを〈凍結〉する)ことを表明すると報じられました。
参院選を控え制度改悪の凍結を受け入れると思われたのですが、実際は違っていて25年8月の自己負担引き上げは予定通りに実施し、26年以降の措置について今秋に結論を得る考えであることが表明されたのでした。
「今年の8月には実施するがその先のことは後で考える」というわけで、立ち止まりはおろか何の修正もないものでした。「まずは25年分の引き上げを凍結する」というのが当然の対応で、それが何よりもまず行うべきことです。
高額療養費制度改悪について、国民の命綱を断ち切る制度改悪を安易に容認することは許されません。野党第一党として立民がどのような対応を示すのかを国民は凝視しなければなりません。政府が「凍結」に応じないなら立民は徹底抗戦する必要があります。
植草一秀氏の二つの記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あまりに杜撰な高額療養費改悪
植草一秀の「知られざる真実」 2025年2月27日
予算審議で最重要のテーマは高額療養費制度。根源的なセーフティネット。誰しも重篤な疾病にり患する。その際の治療費が高額になる可能性がある。
国民皆保険制度の根幹はすべての国民が必要十分な医療を受けられることを保障すること。
高額療養費制度は高額な医療を受けなければならないときに、本人負担に上限を設けるもの。
現在の上限でさえ負担は極めて重い。
しかし、この制度が存在することにより必要十分な医療を受ける道が辛うじて確保されている。
この制度を改変して本人負担の上限を大幅に引き上げることが提案されている。
国民の命綱を切る暴政だ。制度変更には十分な論議が必要。
政府は本人負担を大幅に引き上げることにより健康保険の保険料をわずかに引き下げることができると主張する。
しかし、わずかな保険料引き下げと本人負担の据え置きのどちらを主権者である国民が選択するか。これが重要だ。
圧倒的多数の国民がわずかな保険料の引き下げよりも本人負担の据え置きを選択することは間違ない。
本ブログ、メルマガでも懸命な情報発信を続けてきたが、主権者の反発はすさまじい。
この状況を踏まえて石破内閣がいったん制度改悪を凍結する腹を固めた模様。適正な対応である。
財政民主主義の基本に基づき、本人負担の据え置きを決定するべきだ。人命に直結する話。
批判が沸騰したことから政府は制度変更を一部見直すことを表明。
多数回該当の制度利用者の本人負担を据え置くことを表明したが目先をごまかす弥縫策であることは明白だった。
高額療養費制度の全利用者は現在795万人。そのうち多数回該当の利用者は155万人。
現在、多数回該当の利用者が多数回該当の要件を満たし続ける限り、本人負担を据え置くとしていた。
例えば年収が650万円で毎月の治療費が13万8000円の人の場合、現行の本人負担の上限は80200円で上限を超えるため、本人負担は8万200円に軽減されてきた。
直近12ヵ月で3回以上適用された場合、4回目からは本人負担の上限が4万4400円に軽減されている。これが多数回該当の負担軽減である。政府は多数回該当の利用者が多数回該当の要件を満たす限り、本人負担を4万4400円に据え置くとしている。
この利用者は負担が増加しない。
しかし、2027年8月からは本人負担の上限が13万8600円に引き上げられるため、2027年8月以降に新たに治療を受けて治療費が月に13万8000円かかる人は高額療養費制度を利用できないことになる。つまり、この人は年収が650万円で毎月13万8000円の治療費を支払わなければならなくなる。
現在多数回該当で、今後も多数回該当であり続ける人だけが毎月の負担額が4万4400円で済むということになる。
同じ年収で月に13万8600円の本人負担の治療を受けている人が、現在多数回該当の人は本人負担が4万4400円で済み、新たに治療を受け始めた人は高額療養費制度そのものを利用できずに、毎月13万8000円の治療費を払い続けなければならないことになる。
完全に〈法の下の平等〉に反する措置だ。
売り尽くしセールの会場があって、会場内にいる人にだけ廉価販売を行い、こちらのセール会場に新規入場をできない措置を取る。
この会場にいる人は会場内に居続ける場合にだけ廉価で購入できるが、ここからいったん退場すると、もう廉価での購入ができなくなる。
新たに購入する人には新規市場が用意され、新たに購入する人はこちらの会場にしか入れない。
同じ商品が新規会場では3倍の値段で売られているが、必需品なのでどうしても買わなければならない。こんな制度が提案されていたわけだ。
高額療養費制度の利用者795万人のうち、現在、多数回該当の利用者は155万人。
この人たちだけが本人負担軽減の適用対象になる。
厚労省は、155万人の多数回該当の利用者が3年後には激減している(死亡する)ことを想定して現行の本人負担水準で据え置くとしている。国民の命綱を断ち切る基本は何も変わらない。まずは制度改悪を完全に凍結することを確認することが最重要になる。
気鋭の政治学者・政治思想家である白井聡氏との共著が好評販売中です。
『沈む日本 4つの大罪 経済、政治、外交、メディアの大嘘にダマされるな!』
(ビジネス社) https://x.gd/3proI ぜひご高覧賜りたい。
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」https://foomii.com/00050
のご購読もよろしくお願いいたします。
続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第4016号
「最優先の財政支出は命守る予算」でご購読下さい。
メールマガジンの購読お申し込みは、こちらからお願いします。(購読決済にはクレジットカードもしくは銀行振込をご利用いただけます。)なお、購読お申し込みや課金に関するお問い合わせは、support@foomii.co.jpまでお願い申し上げます。
高額療養費改悪凍結という誤報
植草一秀の「知られざる真実」 2025年3月1日
石破内閣が高額療養費制度改悪で譲歩するとの報道がなされた。
自己負担額の引き上げを〈凍結〉することを表明すると報じられた。
国民の命綱を断ち切る政策に対する批判が沸騰した。
参院選も控え、石破内閣が制度改悪凍結を受け入れると思われた。ところが、実際は違った。
2025年8月の自己負担引き上げを予定通りに実施。26年以降の措置について今秋に結論を得る考えであることが表明された。政府の〈凍結受け入れ〉はフェイクニュースだった。
2025年8月の自己負担上限引き上げは予定通りに実施するとの方針が示された。
そうなると2025年度予算案の修正は不要になる。
問題は立憲民主党の対応。これで立憲民主党が予算案の採決に応じるなら、立民の闘争は完敗に終わる。〈やるやる詐欺〉の首謀者になる。
高額療養費制度改悪に対する主権者の関心が一気に高まった。政府の存在意義の根幹に関わる問題だからだ。
国民の誰もが必要十分な医療を受けることができる権利を保障する。これが〈生存権〉保障の根幹。
十分な論議もなく本人負担を大幅に引き上げることは国民の命綱を切ることを意味する。
論議が不十分であったことを認め、まずは25年分の引き上げを凍結する。当然の対応だ。
政府が修正に応じないなら立民は徹底抗戦する必要がある。
折しも政治とカネの問題では新たな事実が浮かび上がった。
政治資金規正法違反で有罪が確定した旧安倍派の会計責任者だった松本淳一郎元事務局長に対して、衆院予算委員会が2月27日に非公開の聴取を実施。
旧安倍派はいったん停止したパーティー券の資金還流=キックバックを2022年8月の幹部会合で決定したとされる。松本氏は22年7月に「ある幹部」から資金還流再開を求められたと証言。松本氏は再開を求めた「ある幹部」の名前を明らかにしなかったが「現職議員ではない」と説明した。
22年8月の幹部会合に出席した議員は現在も現職の西村康稔、世耕弘成両氏、落選した下村博文氏、政界引退した塩谷立氏の4名。
「現職議員でない」との条件に基づけば「資金還流再開を求めたある幹部」は下村氏と塩谷氏のいずれかということになる。
同時に松本氏は聴取で、幹部4人が国会で「8月の会合では結論が出なかった」と説明したことに関し、「なぜ、ああいう発言をしたのか、疑問に思う」と述べたという。
さらに、衆参の政治倫理審査会で、旧安倍派議員が不記載は派閥の会計責任者の指示だったと相次いで証言したことについて、「指示したつもりはない。事務局長に就任する前から派閥にいた議員はそれまでのやり方を踏襲していた」と述べたと報じられた。
この点に関して朝日新聞は松本氏が東京地検特捜部の任意聴取に対する供述で、還流の再開を求められた幹部として、下村博文・元文部科学相の名前を挙げていたことが分かった、と報じた。
自民党裏金事件発生の経緯は明らかにされていない。
そのなかで、裏金事件発生の核心部分の事実が明らかにされ始めている。
28日の衆院予算委員会で立民の野田佳彦代表は旧安倍派幹部の国会への参考人招致を求めたが、石破首相は応じなかった。
下村氏等の旧安倍派幹部を国会に参考人として招致すべきことは当然。その上で証人喚問も必要になる。
高額療養費制度改悪について、国民の命綱を断ち切る制度改悪を安易に容認することは許されない。野党第一党として立民がどのような対応を示すのかを主権者国民は凝視しなければならない。
気鋭の政治学者・政治思想家である白井聡氏との共著が好評販売中です。
『沈む日本 4つの大罪 経済、政治、外交、メディアの大嘘にダマされるな!』
(ビジネス社) https://x.gd/3proI ぜひご高覧賜りたい。
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」https://foomii.com/00050
のご購読もよろしくお願いいたします。
続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第4018号
「高額療養費改悪どうする立民」でご購読下さい。
メールマガジンの購読お申し込みは、こちらからお願いします。(購読決済にはクレジットカードもしくは銀行振込をご利用いただけます。)なお、購読お申し込みや課金に関するお問い合わせは、support@foomii.co.jpまでお願い申し上げます。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。