2025年11月25日火曜日

御用発言者と御用メディア(植草一秀氏)/習主席がトランプと電話会談 台湾の件などで

 植草一秀氏が「御用発言者と御用メディア」と題したブログを出しました。
 かつては「メディア(当時は「新聞」)は社会の木鐸」という標語がありましたが、もはや死語になったようで、植草氏は「そのスタンスを明確に示す報道は皆無に近い」と述べます。
 高市氏の台湾有事発言に関連して、テレビ番組は専門家見解として台湾が中国の領土の不可分の一部という中国の主張を日本政府は承認していないと強調するので、視聴者はその通りに思い込み「中国の反発が不当である」と感じるのだろうが、その解説は間違っていると指摘します。
 1972年の日中国交正常化に当たり、日本政府は当初「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること」を承認しませんでしたが、中国に拒否されたため「日中共同声明」をまとめるに当たり、「台湾の中国帰属」が中国の「核心的利益」であることに同意するとともに、「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言 第八項に基づく立場を堅持する」としました。 11月18日日中友好を破壊する高市首相(植草一秀氏)
 ここに「ポツダム宣言 第八項(領土条項)」は、「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルべク」と規定していて、それは「満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」としています。
 原文では当時の「中華民国」が用いられていますが、日本政府が「一つの中国」を承認した以上、「中華人民共和国政府が中国を代表する唯一の正統な政府である」と認めたわけです。
 TV解説者がこうした明白な事実に基づかない間違った解説をすることは許されません。

 ところでNHKが「(24日夜に)中国 習主席がトランプ大統領と電話会談 台湾めぐり立場を強調」という記事を出しました。
 それによると、中国外務省は「習主席は台湾について中国の原則的な立場を説明し、台湾の中国への復帰が戦後の国際秩序の重要な要素だ」と強調した上で、「中国とアメリカはファシズムや軍国主義に肩を並べて立ち向かった。今こそ第2次世界大戦の勝利の成果をともに守るべきだ」と述べ、それに対してトランプ大統領は「アメリカは、台湾問題の中国にとっての重要性を理解している」と述べたということです。
 トランプ大統領は「いい電話会談だった。ウクライナとロシアの情勢やフェンタニル、大豆など多くの議題を話した」とSNSに投稿し、台湾について話題になったのかどうかについては言及しませんでしたが、「台湾問題の中国にとっての重要性を理解している」という発言はあったのでしょう。
 米国政府は一貫して「台湾問題」では慎重な態度を取っていて、判断力に衰えを見せたバイデン大統領が在任中に何度か「台湾有事」を口にした際には、ホワイトハウスはその都度、「米国の姿勢に全く変更はない」という実質的な「発言取消」を繰り返していました。
 要するに「台湾有事」に関わる問題は、高市氏が考えているように軽々しく扱ってよいものではないし、それによってトランプの歓心が買えるというようなものでもありません。
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御用発言者と御用メディア
              植草一秀の「知られざる真実」 2025年11月24日
日本の行く末が案じられる。高市首相の台湾有事発言。中国が強く反発しているが当然のことだ。
メディアは社会の木鐸として問題の背景を中立公正の立場から検証する必要がある。
しかし、そのスタンスを明確に示す報道は皆無に近い。

台湾問題について日本と中国は1972年の国交正常化の時点で明確な取り決めをしている。
日中共同声明に記された文言は次のもの。
二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する

台湾問題については三の記述が焦点になる。
日本国政府は、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること」を承認しなかったが、「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重する」とし
さらに、「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とした。

テレビ番組は専門家見解として、台湾が中国の領土の不可分の一部という中国の主張を日本政府は承認していないと強調する。
これを見た視聴者は「台湾が中国の一部との中国の主張」を日本政府は承認していないと思い込み、中国の反発が不当であると感じるだろう。この解説は正しくないしミスリーディングである

番組制作者が無知でコメントする人物の説明の不正確さを認識していないのか、不正確さを知りながらそのまま垂れ流しているのかは不明。
しかし、事実としてこの説明は極めて不正確である。
日中国交正常化交渉の際に、当初、日本政府は、「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重する」を提案した。
しかし、これを中国政府が拒否して、「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」
を書き加えることで決着した
この部分が重要だ。

日本が受諾したポツダム宣言(1945年7月26日)第八項(領土条項)が「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルべク」と規定している。
カイロ宣言は「満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」が対日戦争の目的の一つであると明記している。

日本政府は「一つの中国」を承認したから中華人民共和国政府が中国を代表する唯一の正統政府と認めた。
カイロ宣言にある「中華民国」を継承したのが「中華人民共和国」であるから、「ポツダム宣言第八項に基づく立場」とは、「中華人民共和国への台湾の帰属を認めるとする立場」を意味することになる。この文言が加わったことで中国が同意した。

この点を正確に伝えずに、「日本政府は台湾の中国帰属を承認していない」と説明するのは極めて恣意的かつ悪質である。
また、日中両国政府は1972年の日中共同声明および78年の日中平和友好条約で
「日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する。」
「両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。」などとした。

高市発言は台湾有事で米軍が展開されれば日本の存立危機事態になる可能性が高いとしたもので、具体的には日本が中国に対して宣戦布告するという意味になる。
これまでの日中両国政府が築き上げてきた友好信頼関係を根底から覆す暴言と言って間違いない。

社会の木鐸として冷静な考察を促すべきメディアが歪んだ情報を垂れ流して可燃性の高いナショナリズム感情を扇動する現実は慙愧に堪えない。

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中国 習主席がトランプ大統領と電話会談 台湾めぐり立場を強調
                    NHK NEWS WEB 2025年11月25日
中国の習近平国家主席は、アメリカのトランプ大統領と電話で会談し、中国が高市総理大臣のいわゆる「台湾有事」をめぐる国会答弁に反発を強める中、中国の原則的な立場を強調しました。一方、トランプ大統領は、会談についてSNSに投稿しましたが、台湾をめぐるやりとりには言及しませんでした。
中国の習近平国家主席とアメリカのトランプ大統領は日本時間の24日夜、電話会談を行いました。

中国外務省によりますと、習主席は台湾について中国の原則的な立場を説明し「台湾の中国への復帰が戦後の国際秩序の重要な要素だ」と強調しました。
その上で「中国とアメリカはファシズムや軍国主義に肩を並べて立ち向かった。今こそ第2次世界大戦の勝利の成果をともに守るべきだ」と述べたということです。
一方、トランプ大統領は「いい電話会談だった。ウクライナとロシアの情勢やフェンタニル、大豆など多くの議題を話した」とSNSに投稿しました。
ただ、中国側の発表では、トランプ大統領が「アメリカは、台湾問題の中国にとっての重要性を理解している」と述べたとしていますが、トランプ大統領の投稿では、台湾について話題になったのかどうかを含め、言及していません。

中国は高市総理大臣のいわゆる「台湾有事」をめぐる国会答弁に反発を強めていて、習主席としては日本の同盟国であるアメリカに対して中国の立場を強調した形です。
米中関係について、習主席は電話会談で「安定し、よい方向に向かっている。この勢いを維持し、正しい方向を堅持すべきだ」と述べ、トランプ大統領も「中国との関係は非常に強固だ」と投稿しました。

また、トランプ大統領は、習主席から来年4月に北京に招かれ、受け入れたことや、その後、来年中に習主席を国賓としてアメリカに招くことも明らかにしました。