飯舘村の悲しみを同村の酪農家が写真で伝える「写真展・飯舘村」が、東京で開かれています。
相馬郡飯舘村は福島第一原発から北西方向に位置し、濃厚な放射能プルームにより村全体が汚染されたためにすべての住民が立ち退きを余儀なくされ、現在も福島県内各地に設けられた仮設住宅や県内外の借り上げ住宅などに分かれて、避難生活を続けています。
原発事故の2か月後には隣接する相馬市の酪農家が、「原発で手足ちぎれた酪農家」などと黒板に書き残して自殺しました。
酪農家だった長谷川さんは、原発事故の数日後から震災や原発事故の被害に関連するほぼすべての現場で撮影を始め、原発事故で酪農家が強いられた原乳の廃棄や酪農業の休止、仮設住宅での避難生活、村で始まった除染の様子など、1万枚以上の写真を撮影しました。そしてその中から50枚を厳選して展示しました。
珍しく長文で情緒的な文体のNHK NEWS webニュースですが、それだけに政治は「いま一体何をしているのか」と問いかけるものがあります。
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飯舘村の悲しみ 酪農家が写真で伝える
2013年1月11日
原発事故の影響で避難生活を続けている福島県飯舘村の酪農家が、震災直後から避難生活に至るまでの過程をみずから撮影し続けた写真を集めた「写真展・飯舘村」が、東京で開かれています。
被災の酪農家が原発被害の実態捉える
写真を撮影したのは、福島県飯舘村の酪農家、長谷川健一さん(59)です。
飯舘村前田地区の区長も務める長谷川さんは、畑で農作業中に震災の被害に遭いました。
「これは記録して伝えていかなければいけない」と思い、数日後から震災や原発事故の被害に関連するほぼすべての現場で撮影を始めました。
それから1年10か月。
原発事故で酪農家が強いられた原乳の廃棄や酪農業の休止、仮設住宅での避難生活、村で始まった除染の様子など、撮影した写真は1万枚以上に及びました。
今回の写真展は、飯舘村への取材で長谷川さんと知り合ったフォトジャーナリストの勧めで、実行委員会を立ち上げて準備を進めました。
展示された50枚の写真は、1万枚もの中から長谷川さんが実行委員会のメンバーと一緒に選びました。
県外に避難することになった孫と妻が別れる様子を捉えた写真は、4世代が同居していた長谷川さん一家が3か所に分かれて生活することになった状況を象徴する1枚です。
また、原発事故から約2か月後に相馬市の仲間の酪農家が自殺したとき、「原発で手足ちぎれた酪農家」などと黒板に書き残した文字を撮影した写真もあります。
長谷川さんは「原発事故はたったひとつきで、私たちが先祖から積み上げてきた村での生活を土台から根こそぎ崩壊させました。原発事故は人やその人生をこれほどまでに変えてしまうことを、写真展を通して知ってほしいです」と話しています。
打撃を受けた酪農家たち
原発事故で酪農家は大きな打撃を受けました。
原発事故の約一週間後、村で搾った原乳から国の暫定規制値を超す放射性物質が検出されたため、原乳を一時出荷できなくなりました。
しかし、乳を搾らないと牛は乳房炎になってしまうため、酪農家は乳を搾っては捨てる作業を強いられました。
さらに牛の移動が制限されたため、酪農家たちは、飼育を続けることを断念し、4月末に酪農を休止することを決め、牛の処分が始まりました。
その後、原乳から放射性物質が検出されなくなって5月下旬に移動制限は解除されたため、牛を処分せずに済むことになりましたが、すでに約300頭のうち60頭ほどが処分されていました。
当時、飯舘村より原発に近く、立ち入りが禁止された警戒区域では、牛が餓死し、野生化した豚に食べられるといった状況もありました。
処分される牛を仲間の酪農家が泣きながらトラックで送り出す現場に何度も立ち会った長谷川さんは「苦労していい牛を育て上げた酪農家としてこれほどつらいことはない。こんな悲しいことを二度と起こしてはいけない」と話しています。
原発事故に翻弄された飯舘村
飯舘村は、福島県の北東部にある人口6000人余りの村です。
原発事故の直後は、村南部の一部地域に屋内待避の指示が出されただけでした。
しかし、ほかの地域に比べて高い放射線量が計測され、原発事故から約1か月後、放射線の積算量が年間20ミリシーベルト以上に達すると予測される「計画的避難区域」に村全域が指定され、すべての住民が村外への避難を求められました。
住民たちは現在、福島県内各地に設けられた仮設住宅や県内外の借り上げ住宅などに分かれて避難生活を続けています。
去年7月には3つの区域に再編され、長期にわたって居住が制限される「帰還困難区域」や、引き続き避難を求める「居住制限区域」、それに住民の早期帰宅を目指す「避難指示解除準備区域」になりました。
村長は去年12月、来年秋か遅くとも再来年春には「帰村宣言」を出したいと村議会で表明しました。
しかし、来年3月までに除染を終わらせるとした国の作業は大幅に遅れ、住民が村に帰る具体的な見通しは立っていません。
今回の写真展は、14日まで、東京の全労済ホール「スペース・ゼロ」(渋谷区代々木2-12-10)で開かれています。
入場は無料です。
また、写真展はこのあと、愛知県や島根県、新潟県、青森県などでも開かれます。