2013年1月30日水曜日

経済政策は意味が不明 首相の所信表明演説


 28日に行なわれた首相の所信表明演説は、野党から一様に「中身がない」、「内容が空疎」だと斬り捨てられました。翌29日の「植草一秀の『知られざる真実』」ブログに「『頑張った人が報われる』という胡散臭いフレーズ」と題する論評が載りました。 

植草氏ははじめに首相が演説では注意深く隠したものの、「7月参院選で改憲勢力が参院3分の2を確保すると憲法改正が一気に推進される」として、憲法「改正」の主な点を挙げたうえで、自民党が改正するとの意志を持つのなら「参院選までに徹底した論議を尽くさねばならない」としました。
①天皇元首化、国旗、国歌の尊重義務、②基本的人権と一切の表現の自由が「公益及び公の秩序を害しない」範囲に限定、③「緊急事態」下で国民の権利を制限、④国防軍として戦争遂行が可能
 外交・安保」については、日米同盟の一層の強化というのは対米従属に他ならず、国防軍の創設等は米国主導の戦争に日本を引き入れる道筋であるとし、総選挙で自民党を支持した国民は全有権者の16%に過ぎないことを踏まえて、国民は安倍政権の暴走を抑止しなければならない、としました。 

 首相が最も時間を割いた「経済政策」では、冒頭の「デフレと円高の泥沼から抜け出せず、50兆円とも言われる莫大な国民の所得と産業の競争力が失われ、どれだけ真面目に働いても暮らしが良くならない、日本経済の危機」という意味がまず不明で、「頑張る人が報われる社会を目指す」という言葉が多用されるものの、うわべだけの言葉で終わりどのような意味で使っているのかが判明しない、としています。

経済のプロ中のプロである植草氏が意味不明とすることを、演説で堂々と述べるのも困った話です。正しいにせよ間違っているにせよ、せめてそれが判断できる内容(論理構成)を備えていて欲しいものです。 

首相がかつてもしばしば口にした「頑張る人が報われる社会を目指す」も全く同様です。私たちの記憶にあるのは、あの新自由主義の中で単に成功した人が自動的に『頑張った人』にされ、経済的弱者=社会的弱者が無条件に『頑張らなかった人』だと極めつけられた不条理ではないでしょうか。没論理性の極みと言うべきものでした。

 小泉(竹中)⇒安倍と続いたあの風潮が前回は安倍氏の挫折で中断したのは幸いでしたが、今度はどうなるのでしょうか。

 以下に植草氏のブログの要約版(中見出しや下線も含め事務局)を掲示します。なお同氏のブログは会員制のため、前半部しか一般公開されません。
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「頑張った人が報われる」という胡散臭いフレーズ
 植草一秀の『知られざる真実』 2013129

前半部要約版
(前略)安倍晋三氏は128日、所信表明演説を行った。(中略) 

◇参院選を終えると政治情勢は一変
 本年夏の参院選を終えると政治情勢は一変する。参院選直後には消費税大増税を最終決定するタイミングを迎える。また、参院でも改憲勢力が3分の2を突破すれば、憲法改正が一気に推進されることになるだろう。参院選までは牙を隠し、国民に受けの良い経済対策を前面に出す戦術が鮮明に浮かび上がる。 

◇憲法が「改正」される
 7月参院選で改憲勢力が参院3分の2を確保すると憲法改正が一気に推進される。(中略)自民党が昨年4月に公表した憲法改正草案である。 

 天皇を元首とし、国旗、国歌に対する尊重義務が明記される。
 (中略)「天賦人権説」が否定され、公益及び公の秩序に反する場合には基本的人権が制限を受けることが明記されている。

 「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」についても、公益及び公の秩序を害する場合には、これを認めないとすることが条文に明記される。
 その運用によっては、「公益及び公の秩序を害する」との名目下で集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由が制限されることになる。

 さらに(中略)新たに「緊急事態」の章が設けられ、(中略)「緊急事態」の名の下に国民の権利が著しく制限される事態が生じることが懸念される。

 焦点のひとつの「平和主義」に関しては、自衛権が明確に肯定されるとともに、自衛隊が「国防軍」という名の軍隊に衣替えされ(中略)日本が戦争に加担し、戦争を遂行できる国に変質させられる。 

 (中略)国の基本法である憲法について、自民党がこれを改正するとの意志を持つなら、(中略)参院選までに徹底した論議を尽くさねばならない 

◇米国主導の戦争への道筋
 安倍氏の所信表明演説では、外交・安保について(中略)次のように述べた。「何よりも、その基軸となる日米同盟を一層強化して、日米の絆を取り戻さなければなりません。」
 (中略)その基本姿勢は対米従属として国民から強く批判されているものである。外交における対米従属、憲法改正における自衛権の明文化および国防軍の創設は、米国が主導する戦争に日本を引き入れる道筋である。
 総選挙で自民党を支持した国民は全有権者のわずかに16%に過ぎなかった。主権者国民はこの点を踏まえて、安倍政権の暴走を抑止しなければならない。 

◇もっとも時間を割いた経済政策
 (中略)安倍氏の演説を聞く限り、国民生活が改善される姿はまったく浮かび上がってこない。安倍氏は経済再生にこだわる理由について、まず、「長引くデフレや円高が、『頑張る人は報われる』という社会の信頼の基盤を根底から揺るがしていると考えるから」だと述べた。(中略)

 演説の冒頭部分で経済問題について総括した部分では次のように述べた。「デフレと円高の泥沼から抜け出せず、50兆円とも言われる莫大な国民の所得と産業の競争力が失われ、どれだけ真面目に働いても暮らしが良くならない、日本経済の危機。」 日本経済の現状をこのように認識したうえで、「今こそ、額に汗して働けば必ず報われ、未来に夢と希望を抱くことができる、真っ当な社会を築いていこうではありませんか」とした。
結論として安倍氏が目指すべき方向として示した言葉は次のものだ。
 「世界中から投資や人材を惹きつけ、若者もお年寄りも、年齢や障害の有無にかかわらず、全ての人々が生きがいを感じ、何度でもチャンスを与えられる社会。」

 どこに問題が所在するのか、その問題にどう取り組むのか。いずれにおいても安倍氏の発言は、焦点がずれていると言わざるを得ない。

 「頑張る人が報われる社会を目指す」という言い古された言葉が多用され、しかも、この言葉がかつてと同様に、単なるうわべだけの言葉で終わっている。これでは、小泉・竹中政治の二番煎じとしか言いようがない。安倍政権の経済政策がかつての小泉・竹中政治の延長上にあることを示す所信表明演説の中身である。
 
 「頑張った人が報われる」という言葉をどのような意味で使っているのかが判明しない。演説冒頭の「デフレと円高の泥沼から抜け出せず、50兆円・・・・日本経済の危機」(前掲の部分は意味不明である。
   50兆円というのは、日本の名目GDPがピーク時である1997年の523兆円から2011年には468兆円へと50兆円以上も減少したことを指しているのだろうか。これを「国民の所得と産業競争力が失われた」ことだと理解しているのだろか。そして、この現状を「どれだけ真面目に働いても暮らしが良くならない」状況だと言っているのだろうか。
   意味が分からない。(後略)