2013年1月3日木曜日

憲法を争点にし切れなかったメディアにも大きな責任・・と


「憲法メディアフォーラム」という、憲法に関するニュース・情報発信のサイトがありますが、そこの元日号に、衆院総選挙の結果についての編集委員座談会の記事が載りました。
護憲運動が今後いかにあるべきかについても語られています。
 座談会議事録の全文は下記でご覧になれます。
座談会の記事のURL :  http://www.kenpou-media.jp/pdf/20130101.pdf
  (フォーラムのURL: http://www.kenpou-media.jp/ ) 

ここでは座談会議事録を半分程度に圧縮して紹介します。
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憲法を争点にし切れなかったメディアにも大きな責任
憲法の闘いを強めよう
憲法メディアフォーラム 201311 

衆院総選挙の結果は、自民党が公明党と併せて320議席を獲得するという、極端な結果に終わった。この選挙をどう見るか、これから大切なことは何か。憲法メディアフォーラム編集委員の間で話し合った。 

A:大手メディア部長    B:地方紙デスク        C:元大手民放デスク
D:地方紙記者         E:元大手メディア幹部 

▼「極右」の勝利

司会:まず、選挙結果をどう見るか。多党乱立の結果とか、小選挙区制とか、いろいろ言われているが、なぜ、こんなことになったのか、の感想から聞きたい。

B:「自民圧勝」の事前予想の通りになったので驚きはない。自民と維新、「みんな」を合わせると、今回の選挙は「極右の勝利」と位置づけるしかないと思う。

A:今回は民主党にお仕置きするのが主眼で、その中で既成大政党の安定感を求めるなら自民党、それでは飽き足らず「何かやってくれそう」との期待を込めるなら維新、というふうに分かれたのかもしれない。

E:維新は全国で票を得ているし、護憲勢力にとっては脅威だよ。参院選では今回の自民党票が維新に流れることもありうるだろう。

A:海外から「日本は右傾化している」と見られているが、大多数の日本人はそのことを意識していないように思える。そのことが問題なのではないか。

B:極右の勝利というのは、国際的には異常なことだ。われわれメディアも含めてそれを客観的に見ることができていない。

C:民主党には残念ながら政権を担う実力がないことが明らかになったのではないか。だから退場させたのだ、と考えたい。今回、自民党が圧勝したといっても、得票は減っている。

▼目立った選挙制度のゆがみ

A:こんどの選挙は、現行の小選挙区制と比例代表並立制の問題点が、広く認識されることになったことも意義があったかもしれない。

D:多党乱立なのに小選挙区制、という矛盾した選挙制度が、大量の死票を生み出したことは間違いない。有権者が「選んだ」のでなく「選びたくなかった」選挙だったのではないか。

E:もうひとつ、東京都知事選だ。市民運動が統一候補として宇都宮候補を担ぎ出し、知名度がない上に、ばらばらの選挙戦だったが、100万票近くを取った。猪瀬の400万票との差が大きすぎるが、「統一」の中で、いろんな人が加わってきているのは今後の展望を明るくしていると思う。

A:そうかなあ、4倍――3位の松井、4位の笹川の票も合わせれば保守系で約500 万票だから5 倍――の開きをどう埋めるか。この現実を直視していくことから始めなければいけないと思う。

▼マスコミの姿勢に問題

司会: ところで、マスコミはどうだったのか。随分早々と「自民優位」が報じられた。予測報道にも問題がありそうだ。

:うん。JCJは毎年、128日には集会を開いて、新聞の戦争責任を考えているが、7日の運営委員会で、「憲法改正が公約として語られている選挙に、何も言わないでいていいのか」と議論になって、アピールを出した。

A:マスメディアは早い時期から「民主vs 自民・公明vs 第三極」の構図を打ち出していた。これによって共産党や社民党の護憲主張が見えづらくなった。結果として、憲法の論戦が深まることがなかった。

B:新聞の世論調査報道は、少なくとも今回に限っては選挙結果を誘導したよ。

D:各党の主張を紹介することで手一杯。政策論議を深められる環境になかった。その点、テレビ東京の開票特番で池上彰が鋭い質問を各党代表らにぶつけて、ネット上では話題になっていた。視聴率的にも健闘していたようだ。

B:報道についての検証が必要だ。言論機関の労組として、これから憲法が問題になるとき、どう政治問題に取り組むかは、議論しなければいけないね。

▼戦争の予感も…

司会:いずれにしても、安倍内閣ができた。夏の参院選までは、タカ派的な言動は極力避けて、参院選で再び大勝することを狙っている。安倍政権は何を考えているのだろうか?

A:当面は、しゃにむに改憲手続きを押し進めるよなことはしないだろう。やっぱりこの問題は参院選次第だ。護憲の側も、何より、憲法が改悪されかねないことを争点に浮上させること。

B:次の総選挙までに「戦争」が起きるのではないか、という恐怖を感じている。戦争は、起きるときはすぐ起きる。フォークランド紛争は、アルゼンチンのフォークランド(アルゼンチンではマルビナス諸島)上陸で、イギリスはあっという間に戦争に突き進んだ。尖閣で何かあれば、安倍政権はあっという間に武力衝突に突き進むのではないか。憲法改悪のハードルなど吹き飛んでしまう。

D:憲法改正の発議は、衆議院ではできる体制が整いつつあるわけで、自民党改憲案の徹底分析が必要だろう。

E:安倍内閣は当面、参院選までは、タカ派色を極力消して、景気浮揚を第一にやるだろう。明文改憲にはいろんなハードルがあるから、一方では、解釈改憲を進める。米国と一緒に戦争をするためには、集団的自衛権の行使ができるように、政府解釈の変更と、国家安全保障法をつくって、強引にやれるようにする。そんなことが当面の目標ではないか。

B:JCJのアピールに「日本国憲法は、戦争の惨禍と、2000万の人々の犠牲で生まれた、世界と歴史に対する約束でもある」という言葉があるが、いま壊されようとしているのは、こういうものの考え方なんだよ。

C:新内閣の顔ぶれを見ると、いろんな問題がありそうだ。放送局に対する行政指導も復活する可能性がある。

▼問われるメディアの「立ち位置」

司会:日本を戦争ができる国にするために、安倍内閣が戦略的にやってこようとしているとすれば、われわれの側も、これから、国民に何を訴え、どう行動していくかが重要になる。どう考えるか?

A:少々驚いたんだが、「若い層にはナショナリズムに訴えないと支持が得られないから、維新は意識して右派を演じている節がある」と言う。「いま、リベラルでは受けない。まして左派では…」というわけ。尖閣の空域に中国機が来たり、中国の反日デモで日の丸が燃やされるなど事件が起こると、簡単に「だから『力』が必要」との機運が高まる危険がある。例えば自衛隊が国防軍になっても、徴兵制になるとは限らない。出てくる変化は、米国のような戦争の民間請け負いかもしれない。戦場で仕事をする派遣社員が日本にも出てくる。そういう等身大で理解できる危険を訴えていくことじゃないか。

B:大事なのは、今の憲法の「ありがたさ」を具体的に、わかりやすく伝えることだと思う。多くの人は日本国憲法で育てられたのに、親の恩を忘れるがごとく、が現状だ。若い母親向けには「あなたの息子が戦地に取られてもいいのか」「娘の将来の恋人が戦場に行くのを許すのか」というのはもちろんだが、維新になびいているような若い人と話をしなければならないと思う。

C:国民は簡単には改憲を認めないと思うが、極右勢力が巨大な権力を手にしたという現実は無視できない。「9条選び直しの統一戦線」をどう構築していくか、真剣に考えなければならない。やっぱり、「護憲」ではなく、「9条選び直し」だと思う。選挙前日に藤森研さんが、多くの学生が独自武装論を主張するようになった、と報告していた。「憲法を守ろう」「9条を守ろう」という主張は簡単には心に響かない。国連憲章と憲法9条に基づく日本の外交、安全保障を真に選び直すという作業、実践をしていかなければならない。そうでないと、護憲勢力は旧時代の思考停止した教条主義とみなされる。

D:メディアは、もっと日本の地域の問題、現実の被災地、沖縄の声を拡大して伝える役割を強化すべきだよ。

E:「第3極」報道への批判が目立ったが、逆に言えば、左の側、社会民主主義的勢力が、メディアに注目されるような取り組みを十分できなかったことが、保守の中の「第3極」を際立たせてしまった、という反省も必要だ。メディアを敵視しても事態の改善は図られない。「緑の党」的な連帯と広がりを真剣に追求すべき時ではないか。

C:福島では原発維持を言う候補は一人もいなかったというし、沖縄でも自民党候補はすべて普天間基地の辺野古移設に反対して当選した。地域の課題と、政権選択や国全体の方針、方向の議論が整合しない状況が続き、政党の地方組織と中央の対立がますます顕在化していくだろう。直接行動や、個人的には街頭運動の比重が強まることに期待したいね。ネット言論の重みも増しそうだ。憲法の問題が突きつけられているが、いま、各メディアは自分の「立ち位置」をより明確にすることが迫られているのではないか。