アメリカがパキスタンなどでテロリストを狙って上空から行っている無人機による攻撃について、国際法に違反している可能性があるとして国連が実態の調査に乗り出しました。
無人攻撃機はブッシュ大統領時代に開発され、オバマ大統領になってからテロ対策として、パキスタンをはじめイエメン、ソマリア、リビアなどで積極的に使用されるようになりました。
特にパキスタンでは、アフガン国境から侵入する武装勢力を駆逐するためと称して大々的に用いられ、オバマ大統領就任以降2012年1月までの期間に民間人282~535人(うち60人以上は子供)が犠牲になりました(攻撃の回数は延べ260回で4日に1回の割合)。
ひそかに他国の領空を侵犯(主権の侵害)し、アメリカがテロリストと称するその当人かどうかも未確認のままに、しかも殆どは周囲の人たちを巻き添えにするミサイル攻撃を行って殺害する行為が犯罪でない筈もありません。
そうした手法はアメリカの意図とは逆にテロ拡大の温床ともなり、和平へのさらなる障害を作り出すもので、パキスタン当局も「違法で逆効果」と批判しています。
アフガンでの無人攻撃機をニューメキシコの基地から操縦する任務に従事したある軍人の述壊が、たまたま昨年末「マスコミに載らない海外記事」のサイトに「無人機操縦者の苦悩」と題して掲載されました。それを読むと無人機による攻撃の実態を垣間見ることが出来ます。
以下にHNKニュース、(10月1日付)しんぶん赤旗の社説および「無人機操縦者の苦悩」記事の一部要約文※を紹介します。
※ 記事の要約は事務局が行いました。記載したURLをクリックすれば全文をご覧になれます。
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米の無人機攻撃 国連が実態調査へ
NHK NEWS web 2013年1月25日
アメリカがパキスタンなどでテロリストを狙って上空から行っている無人機による攻撃について、国連は、市民が大勢巻き込まれたり国際法に違反したりしている可能性があるとして実態の調査に乗り出しました。
アメリカは、パキスタンやアフガニスタンそれにイエメンなどでテロリストを狙って上空から無人機による攻撃を行っていますが、パキスタンでは、国家の主権を侵害しているうえに市民を殺害しているなどとして批判が高まっています。
これについて、国連の人権高等弁務官事務所は、専門の調査チームを設け、無人機による攻撃で市民がどのくらい巻き込まれ犠牲になっているのか被害の実態調査に乗り出したと発表しました。
さらに、調査では、アメリカがどのような法律の枠組みで無人機の攻撃を実行しているのか検証し、国際法に違反していないかどうかも調べ、年内に報告書を提出するとしています。
これについて、パキスタン外務省の報道官は記者会見で、国連による調査を歓迎したうえで、とりわけ市民の被害の実態が明らかになることに期待感を示しました。
ただ、アメリカ政府は、無人機の攻撃を極秘の作戦と位置づけ情報の公開を拒んでいて、国連の調査にアメリカがどこまで協力し実態が明らかになるのかは不透明です。
【主張】 無人機攻撃 戦争行為がテロ拡大の温床に
しんぶん赤旗 2012年10月1日
米国がテロ対策として、パキスタンをはじめイエメン、ソマリア、リビアなどで、遠隔操縦の無人機によるミサイル攻撃を行ってきたことに、国際的にも米国内にも批判が強まっています。無人機による攻撃は、特殊作戦を重視するオバマ政権のもとで大きく強化されてきました。他国の主権を侵して殺害行為を重ねることは、米国の意図とは逆にテロ拡大の温床ともなり、和平へのさらなる障害をつくりだすものです。
子どもまで犠牲に
パキスタンのザルダリ大統領は国連総会での演説で、テロとの闘争でパキスタンほど犠牲を払っている国はないと強調し、こう続けました。「無人機による攻撃と(それによる)市民の犠牲は、この壮大な闘争に向けた国民の支持を得るのを複雑にしている」。パキスタンの立場を反映した微妙な物言いながら、米国に対する批判は明確です。
無人機攻撃はしばしば誤爆を伴い、女性や子どもへの犠牲も後を絶たず、米国への反感を高めています。米ピュー・リサーチ・センターの世論調査によれば、オバマ政権下の米国を「敵」とみなすパキスタン国民は年々増え、今年は74%にのぼっています。
重大なのは、無人機攻撃は対象国の主権を乱暴に侵害する戦争行為でありながら、ひそかに遂行されることで戦争のハードルを低めていることです。オバマ政権は昨年(2011年)リビアで、国連安保理の明確な同意も米国民の意思確認もないまま、無人機攻撃によって実質的に軍事介入しました。圧倒的な軍事力にものをいわせて、他国で勝手に理不尽な軍事行動を展開するなど許されることではありません。
無人機攻撃はパキスタンにとどまらず、イスラム諸国を中心として世界中に反米感情を広げています。同センターの別の世論調査によれば、無人機攻撃に過半数の国民が反対している国は調査対象の20カ国中17カ国にのぼり、米国の対外政策への支持はイスラム諸国でわずか15%です。イスラム教の預言者ムハンマドを冒涜(ぼうとく)したとされる映像をきっかけに、イスラム諸国で反米感情が広がったことには、米国自身の行動も反映しているとみるべきです。
オバマ政権は、同時多発テロ首謀者のウサマ・ビンラディンをパキスタン国内で特殊作戦によって殺害したことを、対外政策の最大の成果としています。「法の裁き」の外での殺害を誇る姿勢からは、国際的な批判を受け入れて無人機攻撃をやめるという方向づけはみられません。
見過ごせないのは、無人機による攻撃が世界に拡散しかねないことです。無人機の軍事利用が偵察などの目的で急速に広まっています。そのなかで、各国が無人機攻撃に踏み出す危険があり、米国の攻撃がそれを刺激していることに、米政府内にさえ懸念の声があると伝えられます。(後略)
無人機操縦者の苦悩
(マスコミに載らない海外記事) デア・シュピーゲル 2012年12月24日
(最初の20%ほどの部分を要約して表示)
クラスをトップで卒業したある兵士(ブライアント)は、ニューメキシコにあるアメリカ空軍の特殊部隊に勤務し、無人機の遠隔操縦者になり何十人もの人を殺害したが、ある日もうこれ以上その行為を続けることが出来なくなった。
彼はそれまで摂氏17度に保たれ、ドアを開けることができない、長方形の窓のないトレーラーほどの大きさのコンテナの中で、5年以上働いていた。彼と同僚達は14台のコンピュータ・モニターと4つのキーボードを前に座り、彼がニューメキシコでボタンを押すと地球の裏側で誰かが死んだ。
プレデター無人機が10,000キロ以上も離れたアフガニスタン上空で8の字型を描いて旋回していた時、陸屋根の泥作りの家のヤギを入れておくのに使われている小屋が標的になった。砲撃命令を受けて、彼は左手でボタンを押し、屋根にレーザーで標識を付けた。彼の隣に座っていたパイロットが無人機のヘルファイア・ミサイルを発射させた。
命中するまでには16秒がかかり、無人機に取り付けられた赤外線カメラで撮影した画像が衛星で送信され、2から5秒の時間差で彼のモニターにあらわれる。
あと7秒という時点では、地上には誰も見あたらなかった。その時点であれば、彼はまだミサイルをそらすことができる。
あと3秒になったとき突然一人の子供が角をうろついていたのが見えた。
ゼロ秒に、彼は画面上で閃光を見た。爆発だ。建物の部分が崩壊した。あの子供も消えた。彼は胃がムカムカした。
見えない戦争
その日、彼はコンテナを出ると、いきなりアメリカに踏み入った。乾いた草原が水平線まで拡がり、畑と液肥の香りがした。
そこでは何の戦争も起きてはいない。現代の戦争は従来の自由な戦争ではなく、世界中の様々な場所にある小さなハイテク・センターから制御される戦争だ。
米軍は、アメリカ合州国内のいくつかの空軍基地と、東アフリカの国ジブチの一つも含めた海外の場所から、無人機を制御している。CIAはバージニア州ラングレーの本部でパキスタン、ソマリアとイエメンでの作戦を制御している。 (後略)