日弁連と43の弁護士会・連合会が「生活保護基準の引き下げ」に対し強い反対を表明しました。
日弁連会長声明では、社会保障審議会の部会報告は生活保護基準の引き下げに対してむしろ慎重な姿勢を示していると指摘し、報告書と矛盾する引き下げは厚生相の「裁量の逸脱・乱用」にあたると強調しました。
社会保障審議会の部会報告書に生活保護基準の引き下げへの言及がないことは、25日のダイヤモンドオンラインに掲載された“みわ よしこ”氏の論文「生活保護10%引き下げへの疑念・・・・」でも詳細に論じられています。
厚労省が作成した「生活保護の支給レベル」の評価は、ホームレスや今のところは餓死をぎりぎりで免れている人々までを含めた下位10%(そのなかに生活保護受給者自身が含まれている)の人たちの生活レベルと比較したものでした。ホームレスや餓死寸前の極貧層の人たちは当然国が救いの手を差し伸べるべき対象ですが、そうした極貧層まで含めたレベルと比較することが、憲法25条の理念に適う筈もありません。
何より憲法で保障されている権利が、その時々の政権の方針や恣意的で不正確な統計などで曲げられるべきではありません。まして2015年以降には消費税を10%に上げ、物価は3%アップするわけです。生活保護費を8%アップする必要こそあれ、逆に10%近くも下げようという発想はどうしたら出てくるのでしょうか。
昨年の消費増税の3党合意は社会保障を充実させるためだった筈です。それが蓋を開けてみると社会保障とは無関係な項目にはふんだんに使う一方で、肝心な社会保障費が逆に削減されるのでは、これほど国民をバカにした話もありません。一体どう言い訳をするのでしょうか。
以下にしんぶん赤旗の記事とダイヤモンドオンライン掲載の
“みわ よしこ”氏論文の要約文(事務局で作成)を紹介します。
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生活保護基準引き下げ反対 日弁連と43弁護士会・連合会
しんぶん赤旗2013年1月28日
日本弁護士連合会(日弁連)と、全国52弁護士会のうち42の弁護士会と1弁護士連合会が、生活保護基準の引き下げに反対する会長声明や意見書を発表していることが、27日までに日弁連の集計でわかりました。
日弁連は25日に山岸憲司会長の声明を出し、「生活保護基準の引き下げに強く反対する」と表明しました。
会長声明は、政府が引き下げの根拠にしようとしている社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会報告は、生活保護基準の引き下げに対してむしろ慎重な姿勢を示していると指摘。貧困が親から子へと連鎖することを防ぐ観点から、同報告は子育て世帯に対する大幅な引き下げに「明確な警鐘を鳴らしている」としています。
そのうえで、同報告と矛盾する引き下げを厚労相が行えば、厚労相の「裁量の逸脱・乱用があり違法であるとの司法判断がなされる可能性がある」と強調しています。
鳥取県弁護士会は松本美惠子会長の声明(11日)で「憲法が保障する個人の尊厳および生存権が侵害されようとしている」と批判。
東京弁護士会は斎藤義房会長の声明(10日)で「貧困と格差が拡大している今日であるからこそ、生活保護が積極的に活用されなければならない」と主張しています。
みわ よしこ※ ダイヤモンドオンライン 2013年1月25日
※フリーランス・ライター
(要約版)
2013年1月18日、厚生労働省・社会保障審議会の生活保護規準部会が報告書を取りまとめ、以後マスメディアは「この報告書を受けて、政府与党と厚生労働省は生活保護基準を引き下げる方向とした」と報道している。しかしこの報告書から「生活保護基準は引き下げられるべき」と読み取ることは可能だろうか?
「生活保護基準引き下げ」という結論は報告書のどこにもない
2013年1月18日、社会保障審議会・生活保護基準部会(以下「基準部会」)の第13回が開催され報告書※が取りまとめられ1月21日に公開された。
報告書がほぼまとめられた第12回基準部会では、「引き下げとなると、たとえば『子どもに習い事を諦めさせる』というような影響が考えられるので、いきなり引き下げるというわけにはいかない」という議論もされていたという。第13回基準部会では提出された報告書案をほぼ追認し、若干の意見を追加する形で70分ほどで終わった。
基準部会報告書には、生活保護基準を「引き下げるべし」とは全く示されていない。むしろ、「厚労省の今回の検証手法は十分か?」、「基準を見直す場合の多大な影響に十分な配慮をすべきではないか?」、「貧困の世代間連鎖を防止する観点からの配慮は十分か?」、「基準額の見直しによる影響が今後の検証に影響するのではないか?」といった内容の、「引き下げるという結論は慎重に」という意図の感じられる文言が、そこかしこに見受けられるのである。
「働いたら得」な制度を「働いたら損」な制度へ?
また、生活保護の「勤労控除」について厚生労働省は廃止の方向としていることが2012年11月ごろより報道されている。「勤労控除」とは、勤労収入を得れば実質的に可処分所得が増える仕組みである。
報告書の10ページには、以下のような記載がある。
「勤労控除については、現行の趣旨・目的に照らして、特別部会(生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会)の提言も踏まえ、現行の仕組みが勤労意欲を効果的に高めるものであるか議論した」、「就労にかかわる特別控除を見直すことについては、本部会として概ね異論はないとされたが、生活保護の基準と大きく関わる部分であり、仮に新たな就労促進のための仕組みが創設された場合には、施行後、その成果について検証していくべきものと考える」 ・・・・
ここからは「現行の仕組みでは効果は不十分な可能性がある」、「見直しは必要である」、「見直した場合の効果については検証が必要である」ということ以上に踏み込んだ意図を読みとるのは困難である。
にもかかわらず、勤労控除は廃止される方針なのである。
「生活保護基準引き下げ」の根拠はいったい何なのか?
この報告書を受けて、政府は「生活保護基準引き下げ」という方針を打ち出している。その根拠とされているのは、報告書の「検証」である。この検証により、生活保護基準と一般低所得世帯の消費実態が比較された。単に「多いか少ないか」という比較ではなく、「年齢に応じてどのように異なるか」、「世帯人員に応じてどのように異なるか」、「個人単位で消費する食費や衣類費と、世帯単位で消費する水道光熱費等では、どう異なるか」、「地域でどう異なるか」といった比較である。
報告書8ページには、「【参考】基準額と一般低所得世帯の消費実態との比較」として、4枚のグラフが掲載されている。これらから筆者が確実に読み取りうることは、「必要な費用は、年齢によってはそれほど大きな違いがないらしい」、「食費・衣類費に関しては、3人家族で単身者の3倍になるわけではなく、2倍程度」、「水道光熱費に関しては、食費・衣類費ほどではないが、やはり人数に対応して増える」、「地域による差は、現在の生活保護制度で考えられているより少ないらしい」などである。
これらのグラフをどう考えれば、「生活保護基準を引き下げるべし」という話になるのか、やはり理解できない。
以下のような解釈も可能だ。
「就学前の子どもに対する生活保護費は、現在でも全然足りていない。生活保護世帯の乳幼児は、一般低所得世帯程度の水準ほどにも、幼児向けの絵本や教材や玩具を与えてもらえない。一般低所得世帯では、病気のリスク、働けなくなって収入を失うリスクに直結するから食費に対しては必要以上の節約は避ける。ただ単身者には食費が高くなりがち。3人家族が単身者の3倍ということはないが節約しても1.7倍程度は必要。でも生活保護基準は現在でもそれより低い。都市での生活コストは住居費をはじめとして大きいが、地方では付き合いその他に費用が必要だから田舎暮らしのコストは決して安くない」 ・・・・・
報告書には「引き下げるべし」とは全く書かれていない。
見直しは、「合理的」な「根拠についても明確に」した上で、当事者たちへの「影響についても慎重に配慮されたい」と書かれている。
恣意的な解釈や安易な引き下げ方針を、強く戒める文言とも読める。
一般低所得者と比較しての統計的検証から結論を導いてよいのか?
今回の生活保護基準検証で示されたグラフは、「一般低所得層の生活を示す数式が作れて傾向が示せました」という以上のことを意味していない。その数式や、そこから示される傾向は、どの程度妥当なのか。どの程度、実態を反映しているのか。そこまで読み取ることはできない。
報告書の9ページに以下のような記載がある。
「具体的にどのような要因がどの程度消費に影響をおよぼすかは現時点では明確に分析ができない」、「特定の世帯構成等に限定して分析する際にサンプルが極めて少数となるといった統計上の限界」、「これが唯一の手法ということでもない」と、この検証の妥当性や適応範囲について限界があることを述べ、「今後、政府部内において具体的な基準の見直しを検討する際には、(中略)検証方法について一定の限界があることに留意する必要がある」とある。
この文言から、「この検証方法を使って、ゆめゆめ『結論ありき』で結論を導いたりしないように」というメッセージが読み取れる。
生活保護世帯との比較対象にホームレスなどの困窮者を含めてよいのか
今回の検証で生活保護世帯との比較に用いられた「一般低所得世帯」は、「第1十分位」の層=「全国民のうち、世帯あたり年収の低い方から10%」であり、ここには生活保護世帯・生活保護世帯より所得の少ない世帯と生活保護世帯より所得のやや多い世帯のすべてが含まれている。
生活保護基準を検証しようとするならば、第1十分位から、生活保護水準以下の世帯を除去して検討する必要がある。そうしなくては、ホームレスや今のところは餓死をぎりぎりで免れている人々も含めれば、当然、「生活保護基準のほうが上」という結論にしかならない。
ところが今回の検証ではそれを除外する操作はされなかった。OECD各国では第1五分位=下位20% が主流だという。
報告書からは、極めて控えめにではあるが「そうした層を含めてはいけなかった」と読み取れる。