2013年1月19日土曜日

原発訴訟はなぜいつも国側が勝利するのか


19日の東京新聞に、井戸謙一弁護士にインタビューした記事が載りました。井戸氏は、志賀原発2号機の運転差し止め訴訟で2006年に、原告勝訴の判決を言い渡した元裁判長です。
20数件もある原発訴訟で住民側がこれまでに勝訴したケースがたった2件に過ぎないことについて、同氏は次のように語っています。
「裁判官の発想は保守的で、原告敗訴の裁判の流れができると、その枠内で無難に仕事をしがちだ。深刻な事故は起こらないだろうとの甘い考えもあった。(前例に沿わない判決を書くことで)自身の処遇を案じたり、組織内の目を気にしたりする人もいると思う。」 

柏崎刈羽原発訴訟で、新潟地裁の裁判官として関わった西野喜一新潟大学教授も、昨年の「週刊現代528日号」、「原発訴訟の一般論として」と前置きして国寄りの判決が出る理由について次のように語っています。
(1) 裁判官は原発の技術面について素人なので、安全基準に合致していれば安全と言わざるをえない。
(2) 3人の裁判官で原発推進という国策を変えるような判断はできない。原発を止め産業界に大きな不利益が生じたら、責任が取れるか?
(3) 原発推進という国策に反する判決を出しても、上級審で覆され自分のキャリアに傷がつく。
要するに「安全基準に合致した装置だから安全」と言う国側の主張を鵜呑みにし、国策に反する判決は下さずに、それによって自分のキャリアを傷つけないようにするということで、権力を追認し併せて我が身の栄達も図るわけです。 

また多くの原発訴訟を手掛け、脱原発弁護団全国連絡会代表でもある河合弘之弁護士は、原発訴訟で原告の敗訴が続いた理由として、判事たちの次の3つの判断特性を挙げています。
(1) ありもしないことを大げさに言う人たちだという原告・住民への偏見。
(2) 「権威のある御用学者」の安全発言への信頼。
(3) 監督官庁が言うから確かだという行政に対する過度の信頼。 

その一方で、昨年1月に最高裁が開いた原発訴訟をめぐる裁判官の研究会では、福島原発事故を踏まえて、これまでは原発訴訟のほとんどで「手続き上適法」などとして訴えを退けてきたことを反省し、今後は安全性をより本格的に審査しようという論議が相次いだということですが、果たして改革は実行されるのでしょうか。
2012831日付「原発訴訟の審理が改善される可能性が」

 以下に東京新聞の記事を紹介します。
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東海第二原発訴訟 国民の声受け止めよ
東京新聞 2013119 

 東海村の日本原子力発電(原電)東海第二原発の運転差し止めなどを求めて住民らが訴えた裁判の第一回口頭弁論が17日、水戸地裁であり、被告の国と原電は争う姿勢を示した。東日本大震災後の司法は原発の安全をめぐる三者の主張をどう判断するのか。北陸電力志賀原発2号機(石川県)の運転差し止め訴訟で2006年、原告勝訴の判決を言い渡した元裁判長で、現弁護士の井戸謙一さん(58)に訴状や答弁書から見通しを聞いた。(妹尾聡太) 

― 国は遠方の住民に原告の資格(原告適格)があるか分からないと指摘した
 「実質的には無意味な主張だ。私たちは原発から七百キロ離れた住民の差し止め請求も認めた。水戸地裁が全員の原告適格を否定することはあり得ない。国は反論が難しいと考えて時間稼ぎをしたいのかもしれないが、逃げようがなく、正面から受けて立たざるを得ない」 

― 原告が運転停止命令を求めた部分は「他に方法がある」などと却下を主張した
 「国は他の原発訴訟でも同じことを言っているが、この考え方はほとんどの学説で否定されている。こんな主張しかないのかという感じだ」 

― 原電は原発の安全性を主張した
 「耐震設計に関する部分が争点になると思う。原電がどう説明するかだが、『国の安全審査指針に適合するから安全だ』とは言えないだろう。緊急対策の評価のほか、地震で福島第一原発がどう損傷したかや、それに伴う耐震設計指針の見直しなども関係する」 

― 高度な専門分野の議論を裁判官が判断できるのか
 「スペシャリストでなくゼネラリストに最後の判断をさせるのが日本の裁判の仕組み。当事者の主張が理解できたなら、遠慮なく判断すればいい。安全性やリスクの評価は難しいが、裁判官の仕事は『何パ― セントの確率なら安全か』といった数字による線引きではなく、事故の深刻さや電力の必要性などさまざまな事情を見て、社会的に許容できるかを判断することだ」 

― 原発訴訟での原告勝訴は他に「もんじゅ訴訟」の名古屋高裁金沢支部判決(03年)だけ
 「裁判官の発想は保守的で、原告敗訴の裁判の流れができると、その枠内で無難に仕事をしがちだ。深刻な事故は起こらないだろうとの甘い考えもあった。(前例に沿わない判決を書くことで)自身の処遇を案じたり、組織内の目を気にしたりする人もいると思う。私は勝訴判決を書いても全く冷遇されなかったが、変わったやつだとは思われただろう」

― 東京電力福島第一原発事故で司法は変わるか
 「原発の『安全神話』に害されていたとして司法は厳しく批判された。まだ目に見える変化は表れていないが、裁判官にも『二度とこんな事故を起こしてはいけない』との思いがある。裁判で国民の訴えを正面から受け止め、正面から判断することが大事だ。最初から結論ありきの印象を与えては、司法は国民の信頼を回復できない 

<いど・けんいち> 1954年、堺市生まれ。79年に裁判官任官、2011年3月末で依願退官した。滋賀県彦根市在住。関西電力大飯原発(福井県)などの運転差し止め請求訴訟のほか、福島の子どもたちの「集団疎開」を求める仮処分申請の弁護団にも加わる。