2026年1月14日水曜日

14- 起きないはずの「台湾有事」を自ら起こそうとする高市首相の危うさ 古賀茂明氏

 元経産官僚の古賀茂明氏が、昨年7月1日~11月30日までにAERA DIGITALに掲載した記事の中で「政治関係」で3位の人気があった記事:起きないはずの『台湾有事』を自ら起こそうとする高市首相 『どう考えても存立危機事態』は中国に宣戦布告したような大失言!11月18日付)12月22日付で同誌に再掲しました。

 高市氏の台湾有事発言は、「中国の核心的利益である台湾」が中国の領土ではないと述べるに等しいもので中国政府を激怒させたのは当然のことです。しかし確信犯とでもいうべき高市氏は全く意に介さずに発言を撤回しなかったため、中国は年明けの6日にレアアースを含む「対日輸出規制強化品目」を公表しました。
 その詳細はまだ不明ですが、新潟日報に拠れば概略「レアアースは新規契約停止」、「既存契約の破棄も検討」、「輸出規制対象を軍事用途や軍事関連企業に加えて軍事力向上に資するその他一切の最終ユーザーと用途とする」等々 という内容で、甚大な被害が予想されます。

 先ずは11月18日付の古賀氏の記事と、併せて11月25日付の同氏の記事を紹介します。
 後者の記事に拠れば、驚くことに「高市ファン」以外の国民や国会議員の中にも「日中国交再開時」に問題点をどう解決したかの事実関係を理解していない人たちが大勢いるということです。暮れの25日に30人もの国会議員が台湾に行ったことはその現れです。
 問題の本質を理解しないで単に強がりを言うだけでは、中国の怒りはこの先いっそう増すばかりです。(全文約1万600字です)
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起きないはずの「台湾有事」を自ら起こそうとする高市首相 「どう考えても存立危機事態」は中国に宣戦布告したような大失言! 古賀茂明
                         AERA 2025/1/18
「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」
 中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事が11月8日にXでポストした文面だ。
 高市早苗首相は7日の衆院予算委員会で、台湾有事について、「いろいろなケースが考えられる」と説明した上で、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答弁した。
 台湾有事が存立危機事態に該当するかについて「個別具体的な状況に即し情報を総合して判断することとなる」などと抽象的な説明にとどめてきた従来の政府の立場から大きく踏み出した発言だ。
 10日に行われた衆院予算委員会で高市首相は、7日の答弁を撤回しない考えを示す一方で、政府の従来の見解を変更するものではないと釈明した上で、「反省点としましては、特定のケースを想定したことにつきまして、この場で明言することは慎もうと思っております」と「反省」という言葉を表明した。これは驚きだった。
 こうした高市首相の一連の発言について、2種類の相反する批判がある。
 一つは、これは戦争を始めるかどうかという極めて重大な判断についての話なので、軽々に断定するような言い方をすべきではないという、戦争を避けるためにする批判だ。
 もう一つは、あらかじめどういう事態が存立危機事態に当たるのかを具体的に説明することは、敵に手の内を晒すことになり、いざ戦争になるというときに日本側が不利になるという趣旨で、むしろ戦争に入ることを前提にする批判である。
 いずれも、日本側の視点でのみ語られていることに気づく。
 中国の薛剣駐大阪総領事の「斬首」発言についても、単純に「国外追放しろ」という反応がネット上に溢れ、これに気をよくした小林鷹之政調会長や自民党外交部会・外交調査会も「ペルソナ・ノン・グラータ⇒好ましからざる人物)を含むしかるべき毅然とした対応を強く求める」と気勢を上げた。その単純さに呆れてしまう。
 これに対して、木原稔官房長官は10日午前の記者会見で、薛総領事の国外退去について聞かれると、中国側には適切な対応と明確な説明を求めていると述べるにとどめた。かなり抑えた対応だ。
 一方、中国外務省の報道官は10日の記者会見で、高市発言が「台湾海峡への武力介入の可能性を示唆している」と批判し、薛総領事のXへの投稿についても謝罪などあり得ないという態度だった。

世界は台湾を見捨てて中国をとった
 こうした中国側からの批判について、木原官房長官は、11日の記者会見で、「台湾を巡る問題が対話により平和的に解決されることを希望するというのが、わが国政府の一貫した立場だ」と述べ、日本政府の台湾に関する立場は1972年の日中共同声明(後で解説する)のとおりで変更はないと述べ、中国との意思疎通を強化し、双方の努力で課題と懸案を減らしていく方針をわざわざ表明した。木原氏は、高市首相と思想的に非常に近く、右翼的言動で知られる人なので意外だった。
 明らかに日本側が押し込まれているのがわかったが、それは、高市首相の発言が大変な外交上の失態だったからだ。
 高市発言は、「中国側から見れば」、日中間の公的な約束に反するもので、ほとんど国交断絶しても良いほどの意味合いを持つ重大発言だったからだ。
 実は、日本のマスコミも野党も高市発言の真の問題を正確には伝えていない。少し複雑な話だが、なるべく手短に解説してみたい。
 まず、台湾を国家承認しているのは12カ国にとどまり、その他の世界のほとんどの国は台湾を国家として認めていない。国連も1971年の決議により、中国(中華人民共和国)を唯一の代表とした。言い方は悪いが、日本も米国も国連も含めてほぼ世界中が、過去に台湾を見捨てて中国をとったということだ。

 次に日本の立場だが、中国と国交正常化をした1972年の日中共同声明第3項には、
「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する
日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する
と書いてある。
 第1文は単純に中国の立場を書いたものだ。
 第2文の前半は、1文で書いた中国の立場を「理解し尊重」はするが、これを完全に認めたとは書いていない。あくまで「尊重する」までだ。
 第2文の後半、ポツダム宣言の話は、日本が、植民地支配していた台湾を、中国すなわち中華人民共和国に返還することを認めるという内容だ。これにより、日本は台湾について一切の権益を失い、台湾は中国に帰属することを認めたということがよりはっきりする。つまり、第1文の中国の立場をより強める内容である。「尊重する」だけでは弱いので中国側を説得するために付け加えられたと解説されている。

台湾が中国の領土の一部であることを「理解し尊重する」
 以上を総合すると、日中間で合意した共同声明は、台湾が中国の領土の一部であるとする中国側の主張を日本側は無条件ではないものの、事実上認めたと外形的に見えると言って良いだろう。
 ちなみに、米国は、上海コミュニケ(1972年)において、「米国は、台湾海峡の両岸のすべての中国人が、中国は一つであり、台湾は中国の一部であると主張していることを認知している(acknowledge)米国政府はその立場に異議を唱えない」と表明した。acknowledgeに比べて、日本の「尊重する」という表現は一歩前に出ている印象を与える。
 台湾が中国の領土であることを日本が完全に「認めた」ということになると、台湾に対する中国の武力行使は国際法上内戦の一環(正統政府による反乱政権に対する制圧行動)として正当化され、それに対して他国が干渉することは、中国の国内問題への違法な干渉であり、認められないということになる
 しかし、日本政府などは、日本は単に「理解し尊重する」と言っただけで認めるとは言っていないので、この主張は正しくないと主張する。
 その際、必ず引き合いに出されるのが、大平正芳外務大臣(当時)の1972年衆院予算委員会における「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、『基本的には』中国の国内問題であると考えます」という答弁だ。これも長くなるので日本政府の解釈だけを伝えると、「基本的には」と述べているとおり、将来中国が武力により台湾を統一しようとした場合は例外であり、わが国の対応については、立場を留保せざるを得ないということだと解説される。
 しかし、この解釈は、中国に対しては有効ではない。それを認めたら、台湾が完全に中国の領土であるとは言えなくなるからだ

 以上を日本側にある程度理解を示しつつまとめると、日本が植民地支配していた台湾を中国に返還すべきだという当時の約束に日本は同意した。日本は、台湾が中国の領土の一部であることについても理解し尊重すると約束した。
 日本は、台湾が平和的に中国に統合されることも認めると言ってきた。
 ただし、中国が武力を行使して台湾を統一する場合についてまで、これを認めるとは言ったことはない。しかし、これに介入することを正当化する根拠はどうやっても見つからないということになるのではないだろうか。
 高市発言は、これまでの日本側の立場から大きく逸脱していることは否定できない
 特に、台湾有事を具体的に想定し、戦艦などが出てきた場合は、「どう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と明言したことは大変な失言だ。

日中共同声明の趣旨を根本から覆す?
 存立危機事態とは、日本と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け、日本の存立が脅かされ、国民の生命に明白な危険がある状況を指す。
 日本が中国と戦争する事態について具体例を挙げて公に示し、しかもそれが「中国の領土である」台湾に関する事態であること、さらに、日本が攻撃されなくても中国を攻撃できるというのだから、日中共同声明の趣旨を根本から覆すものだと中国が受け取っても仕方ない
 さらに、発言の仕方も尋常ではない。「どう考えても」存立危機事態になり得るケースだと断言したのだ。戦争に前のめりだという印象を与える。
 このような発言をされた中国が、非常に強い抗議の「姿勢」を示したのは当然だ。
 それを高市首相がどう受け止めたかは定かではないが、外務省は非常に深刻に受け止めたようだ。前述のとおり、「反省点としては、特定のケースを想定したことについてこの場で明言することは慎もうと思っている」という表現で、さりげなく「反省」の意思を首相の言葉に盛り込んだ。
 また、前述のとおり、木原官房長官が、1972年の日中共同声明を再確認したのも中国側の批判に応えた格好だ。なんとか事態を沈静化させたいという願望が透けて見えた。
 しかしその期待に反し、中国側は、その後も日本の駐中国大使を呼び出して抗議し、高市発言の撤回を求め、非常に派手な言葉で日本に警告を重ねて発した。さらに、中国国民に日本渡航を控えることや日本への留学を慎重に検討するように呼びかけるなど、言葉だけでなく実際に両国関係に影響を与える行動にまで踏み込んだ。
 ところで、私は、今回の事態についてのマスコミの対応に非常に強い不信感を抱いた。なぜなら、当初、台湾問題についての本質論をほとんど解説せず、また薛総領事の発言を「とんでもない」と単に国民の反感を煽ることに終始した。高市首相の発言の真の問題を掘り下げることはほとんどしていない
 その結果、今日でも、先に述べた日中間における台湾問題の歴史やこの問題の国際的な意味合いなどを国民は理解できていない
 また、アメリカのトランプ大統領が、今回の薛総領事の発言について聞かれても、一切中国批判をしなかったことの意味もまともに伝えなかった。
 トランプ大統領は、今中国と戦っても勝ち目がないことをこれまでのディールで思い知り、今は戦うのではなくうまく折り合っていくしかないという判断で台湾問題に「首を突っ込む」ことを避けたのだが、それをマスコミは理解していないのだ。トランプ氏の言葉を一つ一つ取り上げても意味がありませんからね、などと馬鹿にした解説が目立った。
 私には、トランプ氏の反応がよく理解できる。

中国悪玉論で盛り上がるのは日本とアメリカだけ
 高市発言を聞いて、私がまず恐れたのは、このまま高市首相が台湾有事=日本有事と言い続けた場合、中国は日本に対するレアアースの供給を止めるということだった。そうなれば、日本経済全体が大混乱に陥る。中国から見れば、日本による事実上の宣戦布告の予告みたいなものだから十分に大義はある
 もう一つ、より本質的な問題がある。
 それは、本当に台湾有事が起きるのかということだ。実は、台湾有事を起こすのも止めるのも日本の決断次第だという話は、7月15日配信の本コラム「なぜか『台湾有事』をどの政党も口にしない異常事態…参院選は隠れた『戦争絶対反対派』の政治家を発掘して当選させよ」に書いたのでそれを読んでいただきたい。
 そこに書いたとおり、台湾有事は、日本が起こさないと決めれば起きない
 一方で、台湾有事が起きると叫ぶ人たちは、本当に中国との戦争になったらどうするのかということを誰も本気で考えていない。本当に中国と戦うなら、武器弾薬よりも兵士の確保が最優先だろう。だが、徴兵制の議論はされていない。無謀な戦争でも一度始めたらやめられないことは歴史が証明している。
 日本の世論は、今や中国悪玉論で盛り上がっているが、そんな国は日本とアメリカだけだ。台湾でさえ、そんな考えで固まっているわけではない。しかも、現在のトランプ政権は、台湾有事から一歩引いて構えている。こんなに愚かな国会議員を選んだ国民も問題だが、その国民が洗脳された最大の原因はマスコミにあるということも指摘しなければならない。
 テレビでは、中国を止めるには抑止力が大事で、そのために台湾有事に日本が参戦するということを中国に知らせなければならないなどという驚くべき短絡的な議論が平然と行われている。中国と戦うことを前提にした議論だ
 おそらく、台湾有事参戦論が盛り上がる日本に乗せられて、意を強くした台湾の頼清徳政権が、さらに台湾有事の危機を煽り、米国の国会議員の支援を求める動きが強まるだろう。
 米国政府は、台湾への先端武器の売却を遅らせることなどで、頼政権に自重を促すメッセージを発しているようだが、高市首相の台湾支援の姿勢は、これを打ち消す効果を持っている

 日本と台湾が共振して、台湾有事を日台が引き起こすという最悪のシナリオが見えてきた。まだ可能性は低い今のうちに、この芽を摘んでおくことが死活的に重要だ。


「台湾有事」発言の高市早苗氏が首相である限り日本経済はボロボロになる 一刻も早く「ポスト高市」を真剣に議論すべきだ 古賀茂明
                         AERA 2025/11/25
 台湾有事と存立危機事態に関する高市早苗首相の発言で日中関係が最悪の危機に陥ったにもかかわらず、その直後の世論調査では高市内閣の支持率はさらに上がっている。
 中国側の対抗措置による被害が実際に国民に降りかかっても、内閣支持率はあまり下がりそうにない。ましてや、すぐに高市おろしが始まることは考えられない。
 11月中旬、ある自民党国会議員の重鎮A氏と著名なコメンテーターB氏と会食した。その際、A氏は、今回の中国との対立の深刻さが自民党議員の間でもよく理解されていないと教えてくれた。ほとんどの議員は、不勉強で、何が問題かを理解できないという。
 A氏によれば、党内に、日頃から勉強するよりも党幹部の顔色を窺って忖度発言をすれば良いという行動パターンが広く染み渡ってしまった。ポストと選挙での公認や比例順位での優遇などを獲得するには勉強よりもゴマすりだと考える。逆に自ら勉強しても、首脳陣と異なる意見を言えば、勉強したことが評価されるどころか逆に命取りになるだけで全くペイしないという事実もある。

 確かに、言われてみれば、今回の高市発言がとんでもない暴言だということがわかっている議員はほとんどいないとしか思えない。何しろ、自民党の政策の取りまとめを行う小林鷹之政調会長は、「首斬り発言」をした中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事をペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)として国外追放にしろという趣旨の発言をした。中国の激しい反発の理由を理解していれば、そんなことは決して口にできないはずだ。
 一方、茂木敏充外相は、今回の問題の深刻さを正しく理解できる数少ない議員の一人ではないかと私は見ていた。政策通で第2次安倍政権でも外相を務めている。当然日中関係、台湾問題にも詳しいはずだ。しかし、その茂木外相が高市発言の撤回は不要と明言した。非常に重い意味を持つ。
 茂木氏は、頭は良いが、狡賢いという評価がある。この問題がこじれれば、高市氏の政権運営が困難になるとの計算があるのだろう。同時に高市支持層の右翼のご機嫌をとれば自分への支持も高まると考えたのかもしれない。
 私に自民党議員の堕落を嘆いて見せたA氏は、自民議員の大半は、「馬鹿」か「自己中」だと吐いて捨てるように断言した。

右翼層だけでなく国民に広く支持された高市発言
 しかし、こうして嘆く間にも事態は悪化の一途を辿っている。中国との関係を正常化するために、どうすれば良いのだろうか。大きく分けて二つの選択肢があるという議論になった。
 一つは、中国にレアアースの輸出を止めてもらって、日本経済を谷底に突き落とす。そうなれば、さすがに高市首相は発言撤回に追い込まれるのではないか。
 もう一つは、高市氏の路線を変えるのは難しいので、高市氏そのものに交代してもらう。つまり、高市を変えるのではなく高市を代えるということだ。
 著名なコメンテーターB氏は、「古賀さん、レアアース止めてもらいましょうよ。それくらいやらないと高市さんにはわからないでしょ」と言った。
 だが、世論が、「中国けしからん! 高市がんばれ!」という方向に傾いたら、愚かな高市首相は、それに迎合する可能性があると考えると、やはり、クビにするしかないという話になった。
 しかし、自民党内で高市おろしが起きるとしてもまだ相当時間がかかりそうだ。一方、立憲民主党の野田佳彦代表は、内閣不信任案を出すための努力は何一つしていない。怖くてそんなことはできないのだ。
 3人の会食は、結局来年の夏頃までこのままいくのだろうかという話で終わってしまった。

 その後、事態は予想どおり厳しさを増している。中国人に対する日本への渡航や留学の自粛の勧告などが出たが、その後も日本側が高市発言撤回を拒否し続けると、すぐに日本産水産物の輸入停止措置が取られた。
 高市発言の約10日前、10月28日配信の本コラム「高市首相は真の保守政治家ではなく『右翼的ポピュリスト』! 世論に迎合して戦争準備に突き進む『軍国主義政権』誕生の危機」では、高市首相は、韓国との関係を維持するために靖国参拝はしないが、「右翼的ポピュリスト」として、韓国との関係を悪化させずに右翼層の支持を高める方策として、台湾問題を利用する可能性が高いと指摘した。今回の高市発言はその予想に沿ったものだが、それが右翼層などに限らず国民に広く支持されているように見える。

なにはともあれ高市発言は撤回するしかない
 こうなると、高市首相を止めるものはなくなる恐れがある。なにしろ、ここまできても、自民党議員だけでなく、マスコミも中国が怒っている原因を正しく理解できておらず、したがって、高市発言を「筋論として撤回すべきだ」という世論を形成することができない。圧力に屈するのかどうかというレベルの議論に終始している。
 自民党内では渡航自粛はむしろ歓迎などという右翼層に迎合する意見が出たり、渡航自粛は時間が経てば効果は薄れる、水産物輸入停止も中国依存を断ち切る良い機会だ、などという浅薄な議論が語られたりする状況だ。
 つまり、レアアースを止められなければ弱気になる必要はないということになっているのだ。もちろん、中国はレアアース輸出規制について、いつどのような形で発動するかを綿密に検討している。最も効果的に使いたいのだ。
 いずれにしても、高市発言は撤回するしかない。問題はレアアースの規制発動から撤回までにどれくらいの時間がかかるかだ。高市首相のもとでは、直ちに撤回とはならないだろう。その間、高市首相は、すべての責任を中国側になすりつけるべくさまざまな宣伝戦を仕掛けるはずだ。その結果国民世論は、対中強硬論にさらに傾き、それが高市氏を支えると同時にその行動を縛り、方向転換を困難にしていく。その結果、本当に日本経済がボロボロになるまで撤回できないかもしれない。

 そもそも、この問題の本質は高市首相の存在そのものだ。首相の発言は失言だと捉える向きもあるが、その根底には首相の「信念」がある。中国は悪である、中国は叩き潰すべきだ、太平洋戦争は間違っていなかった、中国侵攻も台湾支配も侵略ではなく正当な行為だ、という歴史修正主義の思想だ。
 首相になれば、そうした個人的な信念を封印して「現実主義的対応」を図ることもあり得たが、高市首相にそれを期待しても無理だということが早くも露呈した。
 このまま高市政権が続けば、日本の国益は大きく害されることは確実で、戦争という最悪の結果につながる恐れさえ想像される。
 今とるべき選択肢は、高市首相を退陣させることだ。そして、新首相が、高市発言を高市氏に代わって撤回すること、従来の日中関係の基礎となる重要4文書は全て守ることなどを宣言すれば、中国側はすぐに矛を収めるだろう。

小泉、茂木、小林…ポスト高市の候補
 そこで問題になるのが、ポスト高市の候補だ。先の自民党総裁選で争った小泉進次郎防衛相は、今回の騒動で高市首相を擁護する立場を取った。問題の本質を理解しているようには見えず、高市発言を簡単に取り消すことはできないだろう。また、総裁選の決選投票前のあまりにも中身のない演説ぶりに落胆した自民党議員は非常に多く、小泉氏を推す声が多くなるとは考えにくい。
 茂木外相も前述のとおり、高市発言撤回拒否を明言した外相なので今回は不適任。小林政調会長も高市首相と同じ極右なので問題外だ。
 最有力候補として残るのが林芳正総務相である。先の総裁選第1回投票では3位。終盤の追い上げは印象的で、また行政手腕、安定感、敵の少なさという点で高い評価を得ている。また、ハト派の伝統を持つ旧宏池会のプリンスでもあり、中国との関係でも親和性がある。
 ところが、その林総務相に「政治とカネ」疑惑が浮上しているのはご承知のとおりだ。致命的ではなくても、政治資金問題で傷を負ったままで首相に就任するのは難しくなった。自民内からはこんな声が聞こえる。
「林さんは入閣すべきでなかった。高市さんは、昨年総裁選敗北後、外に出て着々と次に備えて準備した。林さんにないのはそういう執念だ。ボンボンで苦労知らず。いつも陽の当たる場所しか歩かない。だから今回も何も考えず受けたのだろう。淡々としているのは良いが、それだけでは天下を取ることはできない。やっぱり“タンタンメン”はダメだなあ」
 ポスト高市が不在という状況。高市氏は意外としぶとく首相の座に居座るというシナリオはなお現実的なように見える。
 実は、石破茂前首相を支持する自民党の「良識派」議員の間では、ある構想が共有されていたそうだ。彼らは、総裁選の決選投票では、反高市ということで小泉氏に投票したが、結果は惨敗だった。
 総裁選を終え、彼らは失意の中で考えた。まず一致したのは、高市氏が日本をさらに右傾化し、財政規律を無視して日本経済がめちゃくちゃになることが明らかになるのは意外と近い、2年間の任期満了まではもたず、早ければ1年以内に高市おろしのチャンスが来るということだ。
 もちろん、彼らにとっての最善手は石破前首相の再登板だが、1年程度で石破復活となると抵抗が強く、それは難しい安倍晋三元首相の再登板でも5年かかった

何がなんでも高市首相を辞任させよ!
 そこで、ポスト高市のつなぎ役が必要だということになり、白羽の矢が立ったのが林氏だった。来夏から秋、あるいは再来年春の統一地方選の前後に高市おろしの風が吹く時、林氏を立てれば、党内は一斉に林氏に靡くという読みだった。ところが、林氏のスキャンダルでこの目論見は「ムリ」という判断に傾いている。
 一方、高市首相の暴走で日中関係の悪化はとどまるところを知らない。これ以上進めば、日本経済への打撃は破壊的なものになる
 しかも、高市政権と他の右翼勢力の影響もあり、ネット上では嫌中意識がさらに高まっている。放置すれば、対中戦争を国民が望むという恐ろしい状況に陥る可能性さえ出てきた。
 良識派グループの一人は、「もはや林氏をつなぎにしている余裕はない。夏までに石破氏再登板の勝負に出る準備をするしかない」と語った。
 では、当の石破氏はどう考えているのか。新聞、テレビ、ネット番組などに頻繁に登場し、持論を熱心に語る石破氏は、鋭い高市批判も展開している。石破氏らしい動きではある。
 しかし、「石破辞めるなキャンペーン」の参加者の一部からは、「思い出や言い訳はもう聞き飽きた。評論家はやめて自ら立つ覚悟を見せるべきだ」という批判の声が出始めた。これ以上具体的な行動をしないまま時が過ぎれば、せっかく広がった無党派層から生まれた熱心な石破支持の活動家たちが休眠状態になってしまうだろう。
 私の経験から言えば、人々は、「何かが起きる」「自分にも何かできる」と思うと、活発に動き出すが、何も起きそうもないとなると、一気に活動が鈍るものだ。
 石破氏は、「今は研鑽を積む時だ」などと言っているそうだが、それが本当なら、今日本を襲っている、80年ぶりの危機についての感度が鈍っているのではと疑いたくなる。それとも「死んだふり」をしているのだろうか。
 石破氏は、一刻も早く、「I’m ready」というメッセージを国民に示し、動き出すべきだ。その際、自分が首相になるためではなく、日本を救うためというミッションの変更が必要である。
 自民内だけでなく、公明党や他の野党議員と連携することも必須だろう。誰が首相になるかは最後に決めれば良い。もちろん、石破氏が最有力候補になるのは確実だ。
 とにかく、何がなんでも高市首相を辞任させ、さらに右傾化した国民を説得して日本を平和への軌道に戻す。それだけに集中して全力をあげてもらいたい
 国民がこれに応えて動き出せば、まだ日本にチャンスが訪れる可能性があると信じたい。