2022年3月9日水曜日

プーチン大統領はウクライナ侵攻直前に何を語ったか?(NHK)

 プーチンは目下国際的に猛批判に晒され、頭がおかしくなっているのではという宣伝もおこなわれています。ウクライナで起きている悲劇を見ればやむを得ないものがあります。
 ところで4日付のWEB版NHK記事に「【演説全文】ウクライナ侵攻直前 プーチン大統領は何を語った?」(2月24日の演説)が載りました。
 批判の的になっている当事者の言い分も伝えるという、メディアのあるべき姿に則ったものです(やや遅まきでしたが)。
 それを読むと論旨は一貫していて頭がおかしいという批判は当たらないようです。
 思い込みが強いのではという見方はあり得ますが、すべて事実に即していて、それを言うのであれば西側の旧興産主義諸国への見方についても同じことが言えるでしょう。
 かなり長文ですが紹介します。
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【演説全文】ウクライナ侵攻直前 プーチン大統領は何を語った?
                     NHK NEWS WEB 2022年3月4日
2月24日に突然、ロシアがウクライナを侵攻。その日、侵攻直前に、ロシアの国営テレビはプーチン大統領の国民向けの演説を放送しました。プーチン大統領は何を語ったのか?
演説全文は次のとおりです。

プーチン大統領演説 2022年2月24日 NATOの“東方拡大”への危機感
親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。
きょうは、ドンバス(=ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州)で起きている悲劇的な事態、そしてロシアの重要な安全保障問題に、改めて立ち返る必要があると思う。
まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい。それは、私たちの特別な懸念や不安を呼び起こすもの、毎年着実に、西側諸国の無責任な政治家たちが我が国に対し、露骨に、無遠慮に作り出している、あの根源的な脅威のことだ。
つまり、NATOの東方拡大、その軍備がロシア国境へ接近していることについてである。
この30年間、私たちが粘り強く忍耐強く、ヨーロッパにおける対等かつ不可分の安全保障の原則について、NATO主要諸国と合意を形成しようと試みてきたことは、広く知られている。
私たちからの提案に対して、私たちが常に直面してきたのは、冷笑的な欺まんと嘘、もしくは圧力や恐喝の試みだった。
その間、NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。
軍事機構は動いている。繰り返すが、それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。

西側諸国が打ち立てようとした“秩序”は混乱をもたらしてきた
なぜ、このようなことが起きているのか。自分が優位であり、絶対的に正しく、なんでもしたい放題できるという、その厚かましい態度はどこから来ているのか。
私たちの国益や至極当然な要求に対する、無配慮かつ軽蔑的な態度はどこから来ているのか。
答えは明白。すべては簡単で明瞭だ。
1980年代末、ソビエト連邦は弱体化し、その後、完全に崩壊した。
当時起きたことの一連の流れは、今でも私たちにとってよい教訓となっている。
それは、権力や意志のまひというものが、完全なる退廃と忘却への第一歩であるということをはっきりと示した。
当時、私たちはしばらく自信を喪失し、あっという間に世界のパワーバランスが崩れたのだ。
これにより、従来の条約や協定には、事実上、効力がないという事態になった。
説得や懇願ではどうにもならない。
覇権、権力者が気に入らないことは、古風で、時代遅れで、必要ないと言われる。
それと反対に、彼らが有益だと思うことはすべて、最後の審判の真実かのように持ち上げられ、どんな代償を払ってでも、粗暴に、あらゆる手を使って押しつけてくる。
賛同しない者は、ひざを折られる。私が今話しているのは、ロシアに限ったことではないし、懸念を感じているのは私たちだけではない。
これは国際関係のシステム全体、時にアメリカの同盟諸国にまでも関わってくるものだ。
ソビエト連邦の崩壊後、事実上の世界の再分割が始まり、これまで培われてきた国際法の規範が、そのうち最も重要で基本的なものは、第二次世界大戦の結果採択され、その結果を定着させてきたものであるが、それが、みずからを冷戦の勝者であると宣言した者たちにとって邪魔になるようになってきた。
もちろん、実務において、国際関係において、また、それを規定するルールにおいては、世界情勢やパワーバランスそのものの変化も考慮しなければならなかった。
しかしそれは、プロフェッショナルに、よどみなく、忍耐強く、そしてすべての国の国益を考慮し、尊重し、みずからの責任を理解したうえで実行すべきだった。
しかしそうはいかなかった。あったのは絶対的な優位性と現代版専制主義からくる陶酔状態であり、さらに、一般教養のレベルの低さや、自分にとってだけ有益な解決策を準備し、採択し、押しつけてきた者たちの高慢さが背景にあった。
事態は違う方向へと展開し始めた。例を挙げるのに遠くさかのぼる必要はない。
まず、国連安保理の承認なしに、ベオグラードに対する流血の軍事作戦を行い、ヨーロッパの中心で戦闘機やミサイルを使った。数週間にわたり、民間の都市や生活インフラを、絶え間なく爆撃した。この事実を思い起こさなければならない。
というのも、西側には、あの出来事を思い出したがらない者たちがいるからだ。
私たちがこのことに言及すると、彼らは国際法の規範について指摘するのではなく、そのような必要性があると思われる状況だったのだと指摘したがる。
その後、イラク、リビア、シリアの番が回ってきた。
リビアに対して軍事力を不法に使い、リビア問題に関する国連安保理のあらゆる決定を曲解した結果、国家は完全に崩壊し、国際テロリズムの巨大な温床が生まれ、国は人道的大惨事にみまわれ、いまだに止まらない長年にわたる内戦の沼にはまっていった。
リビアだけでなく、この地域全体の数十万人、数百万人もの人々が陥った悲劇は、北アフリカや中東からヨーロッパへ難民の大規模流出を引き起こした。
シリアにもまた、同じような運命が用意されていた。
シリア政府の同意と国連安保理の承認が無いまま、この国で西側の連合が行った軍事活動は、侵略、介入にほかならない。
ただ、中でも特別なのは、もちろん、これもまた何の法的根拠もなく行われたイラク侵攻だ。
その口実とされたのは、イラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報をアメリカが持っているとされていることだった。
それを公の場で証明するために、アメリカの国務長官が、全世界を前にして、白い粉が入った試験管を振って見せ、これこそがイラクで開発されている化学兵器だと断言した。
後になって、それはすべて、デマであり、はったりであることが判明した。
イラクに化学兵器など存在しなかったのだ。信じがたい驚くべきことだが、事実は事実だ。
国家の最上層で、国連の壇上からも、うそをついたのだ。
その結果、大きな犠牲、破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった。
世界の多くの地域で、西側が自分の秩序を打ち立てようとやってきたところでは、ほとんどどこでも、結果として、流血の癒えない傷と、国際テロリズムと過激主義の温床が残されたという印象がある。
私が話したことはすべて、最もひどい例のいくつかであり、国際法を軽視した例はこのかぎりではない。

アメリカは“うその帝国” 
NATOが1インチも東に拡大しないと我が国に約束したこともそうだ。繰り返すが、だまされたのだ。俗に言う「見捨てられた」ということだ。
確かに、政治とは汚れたものだとよく言われる。そうかもしれないが、ここまでではない。ここまで汚くはない。これだけのいかさま行為は、国際関係の原則に反するだけでなく、何よりもまず、一般的に認められている道徳と倫理の規範に反するものだ。
正義と真実はどこにあるのだ?あるのはうそと偽善だけだ。
ちなみに、アメリカの政治家、政治学者、ジャーナリストたち自身、ここ数年で、アメリカ国内で真の「うその帝国」ができあがっていると伝え、語っている。
これに同意しないわけにはいかない。まさにそのとおりだ。しかし謙遜する必要はない。
アメリカは依然として偉大な国であり、システムを作り出す大国だ。
その衛星国はすべて、おとなしく従順に言うことを聞き、どんなことにでも同調するだけではない。それどころか行動をまねし、提示されたルールを熱狂的に受け入れてもいる。
だから、アメリカが自分のイメージどおりに形成した、いわゆる西側陣営全体が、まさに「うその帝国」であると、確信を持って言えるのには、それなりの理由があるのだ。
我が国について言えば、ソビエト連邦崩壊後、新生ロシアが先例のないほど胸襟を開き、アメリカや他の西側諸国と誠実に向き合う用意があることを示したにもかかわらず、事実上一方的に軍縮を進めるという条件のもと、彼らは我々を最後の一滴まで搾り切り、とどめを刺し、完全に壊滅させようとした。
まさに90年代、2000年代初頭がそうで、いわゆる集団的西側諸国が最も積極的に、ロシア南部の分離主義者や傭兵集団を支援していた時だ。当時、最終的にコーカサス地方の国際テロリズムを断ち切るまでの間に、私たちはどれだけの犠牲を払い、どれだけの損失を被ったことか。どれだけの試練を乗り越えなければならなかったか。
私たちはそれを覚えているし、決して忘れはしない。
実際のところ、つい最近まで、私たちを自分の利益のために利用しようとする試み、私たちの伝統的な価値観を破壊しようとする試み、私たちロシア国民を内側からむしばむであろう偽りの価値観や、すでに彼らが自分たち側の国々に乱暴に植え付けている志向を私たちに押しつけようとする試みが続いていた。それは、人間の本性そのものに反するゆえ、退廃と退化に直接つながるものだ。こんなことはありえないし、これまで誰も上手くいった試しがない。そして今も、成功しないだろう。
色々あったものの、2021年12月、私たちは、改めて、アメリカやその同盟諸国と、ヨーロッパの安全保障の原則とNATO不拡大について合意を成立させようと試みた。
すべては無駄だった。アメリカの立場は変わらない。彼らは、ロシアにとって極めて重要なこの問題について私たちと合意する必要があるとは考えていない。自国の目標を追い求め、私たちの国益を無視している。
そしてもちろん、こうした状況下では、私たちは疑問を抱くことになる。
「今後どうするべきか。何が起きるだろうか」と。
私たちは、1940年から1941年初頭にかけて、ソビエト連邦がなんとか戦争を止めようとしていたこと、少なくとも戦争が始まるのを遅らせようとしていたことを歴史的によく知っている。そのために、文字どおりギリギリまで潜在的な侵略者を挑発しないよう努め、避けられない攻撃を撃退するための準備に必要な、最も必須で明白な行動を実行に移さない、あるいは先延ばしにした。
最後の最後で講じた措置は、すでに壊滅的なまでに時宜を逸したものだった。
その結果、1941年6月22日、宣戦布告なしに我が国を攻撃したナチス・ドイツの侵攻に、十分対応する準備ができていなかった。敵をくい止め、その後潰すことはできたが、その代償はとてつもなく大きかった。
大祖国戦争を前に、侵略者に取り入ろうとしたことは、国民に大きな犠牲を強いる過ちであった。最初の数か月の戦闘で、私たちは、戦略的に重要な広大な領土と数百万人の人々を失った。私たちは同じ失敗を2度は繰り返さないし、その権利もない。
世界覇権を求める者たちは、公然と、平然と、そしてここを強調したいのだが、何の根拠もなく、私たちロシアを敵国と呼ぶ。
確かに彼らは現在、金融、科学技術、軍事において大きな力を有している。それを私たちは知っているし、経済分野において常に私たちに対して向けられている脅威を客観的に評価している。そしてまた、こうした厚かましい恒久的な恐喝に対抗する自国の力についても。
繰り返すが、私たちはそうしたことを、幻想を抱くことなく、極めて現実的に見ている。
軍事分野に関しては、現代のロシアは、ソビエトが崩壊し、その国力の大半を失った後の今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している。この点で、我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない。
また、防衛技術などのテクノロジーは急速に変化している。この分野における主導権は、今もこれからも、目まぐるしく変わっていくだろう。
しかし、私たちの国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、それは何十年も先まで、もしかしたら永遠に続くことになるかもしれないし、ロシアにとって増大し続ける、絶対に受け入れられない脅威を作り出すことになるだろう。

NATOによるウクライナ領土の軍事開発は受け入れがたい 
すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化し、危険になってきている。しかも、ここ数日、NATOの指導部は、みずからの軍備のロシア国境への接近を加速させ促進する必要があると明言している。言いかえれば、彼らは強硬化している。起きていることをただ傍観し続けることは、私たちにはもはやできない。
私たちからすれば、それは全く無責任な話だ。
NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは、私たちにとって受け入れがたいことだ。もちろん、問題はNATOの組織自体にあるのではない。それはアメリカの対外政策の道具にすぎない。
問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ、そこに、私たちに敵対的な「反ロシア」が作られようとしていることだ。それは、完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO諸国の軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。アメリカとその同盟諸国にとって、これはいわゆるロシア封じ込め政策であり、明らかな地政学的配当だ。
一方、我が国にとっては、それは結局のところ、生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である。誇張しているわけではなく、実際そうなのだ。
これは、私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。彼らはそれを超えた。
そんな中、ドンバスの情勢がある。2014年にウクライナでクーデターを起こした勢力が権力を乗っ取り、お飾りの選挙手続きによってそれを(訳注:権力を)維持し、紛争の平和的解決を完全に拒否したのを、私たちは目にした。8年間、終わりの見えない長い8年もの間、私たちは、事態が平和的・政治的手段によって解決されるよう、あらゆる手を尽くしてきたがすべては徒労に帰した。
先の演説でもすでに述べたように、現地で起きていることを同情の念なくして見ることはできない。今やもう、そんなことは到底無理だ。この悪夢を、ロシアしか頼る先がなく、私たちにしか希望を託すことのできない数百万人の住民に対するジェノサイド、これを直ちに止める必要があったのだ。まさに人々のそうした願望、感情、痛みが、ドンバスの人民共和国を承認する決定を下す主要な動機となった。
さらに強調しておくべきことがある。NATO主要諸国は、みずからの目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している。彼らは(訳注:民族主義者ら)、クリミアとセバストポリの住民が、自由な選択としてロシアとの再統合を選んだことを決して許さないだろう。当然、彼らはクリミアに潜り込むだろう。それこそドンバスと同じように。戦争を仕掛け、殺すために。
大祖国戦争の際、ヒトラーの片棒を担いだウクライナ民族主義一味の虐殺者たちが、無防備な人々を殺したのと同じように。彼らは公然と、ロシアの他の数々の領土も狙っていると言っている。全体的な状況の流れや、入ってくる情報の分析の結果が示しているのは、ロシアとこうした勢力との衝突が不可避だということだ。
それはもう時間の問題だ。彼らは準備を整え、タイミングをうかがっている。今やさらに、核兵器保有までも求めている。そんなことは絶対に許さない。
前にも述べたとおり、ロシアは、ソビエト連邦の崩壊後、新たな地政学的現実を受け入れた。
私たちは、旧ソビエトの空間に新たに誕生したすべての国々を尊重しているし、また今後もそのようにふるまうだろう。それらの(訳注:旧ソビエト諸国の)主権を尊重しているし、今後も尊重していく。
その例として挙げられるのが、悲劇的な事態、国家としての一体性への挑戦に直面したカザフスタンに対して、私たちが行った支援だ。しかしロシアは、今のウクライナから常に脅威が発せられる中では、安全だと感じることはできないし、発展することも、存在することもできない。2000年から2005年にかけ、私たちは、コーカサス地方のテロリストたちに反撃を加え、自国の一体性を守り抜き、ロシアを守ったことを思い出してほしい。
2014年には、クリミアとセバストポリの住民を支援した。2015年、シリアからロシアにテロリストが入り込んでくるのを確実に防ぐため、軍を使った。それ以外、私たちにはみずからを守るすべがなかった。

ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力からの支援要請 
今もそれと同じことが起こっている。きょう、これから使わざるをえない方法の他に、ロシアを、そしてロシアの人々を守る方法は、私たちには1つも残されていない。この状況下では、断固とした素早い行動が求められている。
ドンバスの人民共和国はロシアに助けを求めてきた。これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。
また、ロシア国民を含む民間人に対し、数多くの血生臭い犯罪を犯してきた者たちを裁判にかけるつもりだ。
ただ、私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない。私たちは誰のことも力で押さえつけるつもりはない。同時に、ソビエトの全体主義政権が署名した文書は、それは第二次世界大戦の結果を明記したものだが、もはや履行すべきではないという声を、最近、西側諸国から聞くことが多くなっている。
さて、それにどう答えるべきだろうか。第二次世界大戦の結果は、ナチズムに対する勝利の祭壇に、我が国民が捧げた犠牲と同じように、神聖なものだ。しかしそれは、戦後数十年の現実に基づいた、人権と自由という崇高な価値観と矛盾するものではない。
また、国連憲章第1条に明記されている民族自決の権利を取り消すものでもない。
ソビエト連邦が誕生した時も、第二次世界大戦後も、今のウクライナの領土に住んでいた人々に、どのような生活を送っていきたいかと聞いた人など1人もいなかったことを思い出してほしい。私たちの政治の根底にあるのは、自由、つまり、誰もが自分と自分の子どもたちの未来を自分で決めることのできる選択の自由だ。
そして、今のウクライナの領土に住むすべての人々、希望するすべての人々が、この権利、つまり、選択の権利を行使できるようにすることが重要であると私たちは考えている。
これに関し、ウクライナの人々にも言いたい。2014年、ロシアは、あなた方自身が「ナチス」と呼ぶ者たちから、クリミアとセバストポリの住民を守らなければならなかった。
クリミアとセバストポリの住民は、自分たちの歴史的な祖国であるロシアと一緒になることを、自分たちで選択した。そして私たちはそれを支持した。繰り返すが、そのほかに道はなかった。

目的はウクライナの“占領”ではなく、ロシアを守るため 
現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である。
どんなにつらくとも、これだけは分かってほしい。そして協力を呼びかけたい。できるだけ早くこの悲劇のページをめくり、一緒に前へ進むために。
私たちの問題、私たちの関係を誰にも干渉させることなく、自分たちで作り上げ、それによって、あらゆる問題を克服するために必要な条件を生み出し、国境が存在するとしても、私たちが1つとなって内側から強くなれるように。私は、まさにそれが私たちの未来であると信じている。
ウクライナ軍の軍人たちにも呼びかけなければならない。
親愛なる同志の皆さん。あなたたちの父、祖父、曽祖父は、今のネオナチがウクライナで権力を掌握するためにナチと戦ったのではないし、私たち共通の祖国を守ったのでもない。
あなた方が忠誠を誓ったのは、ウクライナ国民に対してであり、ウクライナを略奪し国民を虐げている反人民的な集団に対してではない。その(訳注:反人民的な政権の)犯罪的な命令に従わないでください。直ちに武器を置き、家に帰るよう、あなた方に呼びかける。
はっきりさせておく。この要求に応じるウクライナ軍の軍人はすべて、支障なく戦場を離れ、家族の元へ帰ることができる。もう一度、重ねて強調しておく。起こりうる流血のすべての責任は、全面的に、完全に、ウクライナの領土を統治する政権の良心にかかっている。
さて、今起きている事態に外から干渉したい思いに駆られているかもしれない者たちに対し、言っておきたい大変重要なことがある。私たちに干渉しようとする者は誰でも、ましてや我が国と国民に対して脅威を作り出そうとする者は、知っておくべきだ。
ロシアは直ちに対応し、あなた方を、歴史上直面したことのないような事態に陥らせるだろうということを。
私たちは、あらゆる事態の展開に対する準備ができている。そのために必要な決定はすべて下されている。私のことばが届くことを願う。
親愛なるロシア国民の皆さん。
国家や国民全体の幸福、存在そのもの、その成功と存続は、常に、文化、価値観、祖先の功績と伝統といった強力で根幹的なシステムを起源とするものだ。
そしてもちろん、絶えず変化する生活環境に素早く順応する能力や、社会の団結力、前へ進むために力を1つに集結する用意ができているかどうかに直接依存するものだ。
力は常に必要だ。どんな時も。しかし力と言っても色々な性質のものがある。
冒頭で述べた「うその帝国」の政治の根底にあるのは、何よりもまず、強引で直接的な力だ。
そんな時、ロシアではこう言う。「力があるなら知性は必要ない」と。私たちは皆、真の力とは、私たちの側にある正義と真実にこそあるのだということを知っている。
もしそうだとしたら、まさに力および戦う意欲こそが独立と主権の基礎であり、その上にこそ私たちの未来、私たちの家、家族、祖国をしっかりと作り上げていくことができる。
このことに同意しないわけにはいかない。
親愛なる同胞の皆さん。
自国に献身的なロシア軍の兵士および士官は、プロフェッショナルに勇敢にみずからの義務を果たすだろうと確信している。
あらゆるレベルの政府、経済や金融システムや社会分野の安定に携わる専門家、企業のトップ、ロシア財界全体が、足並みをそろえ効果的に動くであろうことに疑いの念はない。
すべての議会政党、社会勢力が団結し愛国的な立場をとることを期待する。
結局のところ、歴史上常にそうであったように、ロシアの運命は、多民族からなる我が国民の信頼できる手に委ねられている。
それはつまり、下された決定が実行され、設定された目標が達成され、我が祖国の安全がしっかりと保証されるということだ。

あなたたちからの支持と、祖国愛がもたらす無敵の力を信じている。 

09- 最大ゆ党 維新躍進のカラクリ(6)(7)(日刊ゲンダイ)

 シリーズ「最大ゆ党 維新躍進のカラクリ」の(6)、(7)を紹介します。

 著者の冨田宏治教授は「維新の支持層は、税や社会保険料などの高負担に不満を募らせ、自分たちの払ったお金を食い潰す「年寄り」「病人」「貧乏人」への敵意や憎悪を持った「勝ち組」意識を抱く中堅サラリーマン層をコアとする人々」と見做しています。
 この回取り上げられた元TV局アナウンサーの長谷川豊氏は、〈自業自得の人工透析患者なんて全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!! ~ 〉などの発言が囂々たる非難を浴びて、TV局を辞めていたのですが、維新は17年10月の衆院選で千葉1区で彼を公認候補者にしたのでした(落選)。まさに「勝ち組」に依拠する維新らしい選択でした。
 長谷川氏は19年7月の参院選でも維新から比例区の候補として公認を受けましたが、今度は被差別部落に関する発言により自ら公認を辞退したのでした。人権感覚に大いに問題のある人でした。
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最大ゆ党 維新躍進のカラクリ(6)
維新支持層を浮かび上がらせた「長谷川豊発言」貧富の格差を分断へと転化
                    冨田宏治 日刊ゲンダイ 2022/03/08
 コロナ禍のもと大阪の街に深刻な医療崩壊をもたらし、失われなくてもよい多くの命を奪った維新をいったい誰が支持しているのだろう。昨年10月の総選挙では大阪府下で実に171万5862人もの人々が維新に投票しているのだ。ちまたでは相も変わらず「貧困と格差に喘ぎ、現状打破を求める若年貧困層」が維新を支持しているという都市伝説めいた「定説」が幅をきかせている。維新政治が新自由主義の権化ともいうべきものである以上、こんな「定説」が成り立つ余地などないことは少し考えればわかるはずだ。
 こうした「定説」に対し筆者は、維新の支持層は、税や社会保険料などの高負担に不満を募らせ、自分たちの払ったお金を食い潰す「年寄り」「病人」「貧乏人」への敵意や憎悪をあおられた「勝ち組」意識を抱く中堅サラリーマン層をコアとする人々にほかならないと論じてきた。
 これは、「大阪都構想」をめぐる2度の「住民投票」や府市ダブル選挙、府市クロス選挙などへの参与観察によって筆者のたどり着いた結論だ。詳細については拙著「維新政治の本質─組織化されたポピュリズムの虚像と実像」(あけび書房)を参照いただきたいのだが、これは宣伝。
 こうした議論を展開するにあたって筆者は、元フリーアナウンサーで2017年衆院選に維新の公認候補として千葉1区から立った長谷川豊氏の次のような発言を取り上げることにしている。維新支持層とは、こうした発言に喝采を送らないまでも、「ホントだよな!」と共感を抱く人々だと考えられるからだ。
〈自業自得の人工透析患者なんて全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!〉(2016年9月19日のブログから)

■弱者への敵意や憎悪を扇動
 長谷川氏はこの発言への囂々たる非難を受けて、テレビの世界から姿を消した。維新はその長谷川氏を拾い上げ、公認候補として衆院選に擁立したというわけだ。こうした発言は、貧困と格差の拡大の中で、「病人」「年寄り」「貧乏人」への敵意や憎悪をあおり、格差を分断へと転化しようとするものにほかならない。
 こうしたあおりによって、自らの新自由主義的「改革」がもたらした貧富の格差を分断へと転化し、それを繰り返される選挙を通じて固定化し、組織化すること。これこそが組織化されたポピュリズムとしての維新政治の本質なのである。 =つづく


最大ゆ党 維新“躍進”のカラクリ (7)
なぜ「勝ち組」サラリーマンらが日本維新の会を熱烈支援するのか
                    冨田宏治 日刊ゲンダイ 2022/03/09
「長谷川発言」に喝采を送り、あるいは共感を抱くのは、いったいどのような人々なのか。そこに浮かび上がってくるのは、「貧困と格差に喘ぎ、現状打破を求める若年貧困層」といった「定説」とは対照的な「勝ち組」意識を抱いた中堅サラリーマン層や自営上層の人々の姿である。
 彼らは都心のタワーマンションや郊外の戸建て住宅に暮らし、かなり高額な税金、社会保険料、介護保険料、年金などを負担している。しかし、医療、子育て、福祉などの公的サービスの恩恵を受ける機会は必ずしも多くない。
 彼らは日頃からジョギング、アスレチックジムなどで体を鍛え、有機野菜や減塩レシピなど健康に留意した食生活を送り、医療機関の世話にならないよう自己管理を怠らない。したがって、飲酒や健康によくない食生活など自堕落な生活の果てに自己責任で病気になった「自業自得の人工透析患者」たちが、もっぱら自分たちの負担している健康保険によって保険診療を受け、実費負担を免れていることに強い不満と敵意、さらには怨嗟や憎悪すら抱いているのだ。

■弱者はシロアリ、公務員も加担
 だいたい大阪の街の「地べた」にへばりつくように住んでいる「年寄り」「病人」「貧乏人」たちは、税金も、社会保険料も、介護保険料も、年金もほとんど負担していない。もっぱら彼らの負担した税金、保険料、年金をシロアリのように食い潰しつづけている。さらにそれを管理する公務員たちも、高給を取るばかりか、さまざまな無駄遣いや不正を働きながら、労働組合運動まで行って、この食い潰しに加担している。
 少子高齢化による医療、福祉への公的負担の激増により国や府の財政危機が進むなか、このままでは日本は滅びかねない。それに引き換え「身を切る改革」や「官から民へ」のスローガンを掲げ、自己責任と市場原理主義にしたがって、閉塞した現在のシステムを打ち壊そうとしてくれている維新は、自分たちの希望を託せる唯一無二の改革勢力にほかならない、といったところだろう。
 こうして見てみると、「勝ち組」中堅サラリーマン層が長谷川発言に共感し、こうした人物を候補に担ぐ維新を熱烈に支持する感情も、あながち理解不能ともいえまい。
 こうして長谷川発言は、「貧困と格差に喘ぎ、現状打破を求める若年貧困層」などと言われてきた維新支持層についての「定説」が、実体のない都市伝説に過ぎないことを白日の下にさらしてくれているのである。(つづく)

2022年3月8日火曜日

日本はウクライナ危機にどう向き合うべきか 山本太郎 × 伊勢崎賢治

 れいわ新選組は、1日(衆院)と2日(参院)の『ウクライナ侵略非難決議』に反対しました。その理由は『異常な事態を終わらせようという具体性を伴った決議ではない』からで、「れいわはあらゆる議案に内容が不十分であれば反対する。誤解を恐れて妥協はしない」とツイートしています。筋は通っているもののこの時勢下で敢えて反対するのは勇気のいることです。
 ユーチューブ れいわ新選組チャンネル(字幕入り)(2月27日)【山本太郎 in JAZZ
LIVE SHOW #2】に、平和学研究者の伊勢崎賢治氏を迎えての対談が公開されました。
 伊勢崎氏は、東京外国語大総合国際学研究院教授で、自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会呼びかけ人。 NGO・国際連合職員として世界各地の紛争地での紛争処理、武装解除などに当たった実務家としての経験を持ち、「紛争屋」を自称しています( ウィキペディアより)。
 5日付の毎日新聞に「『プーチン悪玉論』で済ませていいのか 伊勢崎賢治さんの知見」とする記事が載りました。残念ながら有料記事ですが、記事は「苦り切っていた。東京外大教授の伊勢崎賢治さん。国連メンバーなどとして世界各地で民兵の武装解除などを進めてきた国際法と紛争解決のプロである。今回のロシアのウクライナ侵攻、さぞプーチン大統領にお怒りかと思いきや、ちょっと違った。むしろその矛先は『プーチン悪玉論』が覆う日本などに向けられていた」と書き出されています。
 「悪魔化されているプーチン側にもそれなりの理由が国際関係の議論上にはある」というのが伊勢崎氏の一貫している見解です。
 長周新聞に対談を書き起こした記事が載りましたので紹介します。
追記)動画をご覧になる方へ・・・動画は51分間で、伊勢崎賢治氏のトランペット演奏(約5分間)から始まり、その後しばらく「音楽談義」が行われた後15:00辺りから、「日本はウクライナ危機にどう向き合うべきか ~ 」の本題に入っています(対談途中の 30:00~34:32 にジャズ演奏が挟まっています)。
 動画の発行日は2月27日になっていますが、対談が行われたのはロシアがウクライナ侵攻を行った翌日のようです。
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日本はウクライナ危機にどう向き合うべきか 山本太郎×伊勢崎賢治(東京外大教授)緊急対談 緩衝国家における平和構築
         https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/22870
                          長周新聞 2022年3月3日
 れいわ新選組の山本太郎代表と東京外国語大学教授(平和構築学)の伊勢崎賢治氏が、戦争状態に陥っているウクライナ情勢をめぐって対談した。伊勢崎氏は、2000年に国連PKO上級幹部として派遣された東ティモール(インドネシアから独立)で現地の県知事を務め、01年からは国連シエラレオネ派遣団の武装解除部長として内戦終結に貢献。03年からは日本政府特別代表としてアフガニスタンでの武装解除を担当した。対談の模様はユーチューブのれいわ新選組チャンネルで公開(2月27日)されている。その一部を要約して紹介する。
  ⇒動画 字幕入り【山本太郎 in JAZZ LIVE SHOW #2】 ゲスト:伊勢崎賢治 氏
        URL: https://youtu.be/NJQtiY8Ph8A 

 山本太郎 さまざまな国で武装解除や停戦交渉など紛争解決にかかわってこられた伊勢崎さんの目からみて、今のウクライナでの停戦はハードルは高いと思われるか?
 伊勢崎賢治 大変難しい状況だ。私はウクライナには行ったことがないので本当は語りたくないが、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)との狭間にあるような「緩衝国家」に対しては昔から問題意識を持っているので、その観点から語りたい。
 三つの点を整理したい。今プーチン大統領がやっていることについて、日本のメディアは「侵略である」としている。これは国際法違反だ。「武力侵攻である」という意見もある。これは以前に米国もやっているし、旧ソ連時代にもアフガニスタン侵攻があった。私はいわゆる日本人のなかで起きている「侵略戦争か、そうではないのか」という呼び方の議論はしたくない。犠牲になる人がいることは同じだからだ。
 一番訴えなければいけないのは、侵略であろうが侵攻であろうが、今回の出来事は国際社会の限界を示している。国際法の世界では、人類は戦争が起きないようにとり決めをしながら日夜努力してきた。今は国連憲章が一番力をもっている。
 今回のケースには難しい問題があって、ウクライナという一つの国の中にロシア系の分離独立派の人たちがいて、プーチンは侵略する前にその地域の独立を認めた。その「独立」した地域(人たち)から頼まれて軍事侵攻したという形をとっている。これが国際法の一つの限界だ。国連憲章で認められている集団的自衛権にあたる、という言い分だ。
 山 本 そういうケースであれば、あのようなことも可能になると…。
 伊勢崎 国際法的にはスレスレだ。それでも一つの主権国家の中に分離独立を訴える人たちがいたとして、それを軍事的に支援するというのはどうかという話はある。分離独立、民族自決といえば格好いい。植民地からの独立は、国連憲章でも保障されている権利だ。ほとんどの被植民地はそれで独立した。東ティモールもインドネシアから分離独立しようとした。当時は冷戦時代で、独立派は「アカ」と呼ばれていた。日本も米国も欧州も「あいつらはアカだからインドネシアが正しい」といっていた。
 山 本 共産主義者ではなく、独立派を「アカ」と?
 伊勢崎 確かに共産主義的な理念で建国するんだということを(東ティモール独立運動の)リーダーがいっていたことはある。ソ連が支援したからかもしれない。だが、主権国家に楯突くものは「アカである」と当時はいわれた。結果的には(主要国は)応援し、(独立を)祝福もした。だから分離独立、民族自決というのは結構厄介な問題だ。あんまり無制限に認めてしまうと内戦になってしまう。
 例えば日本でも、私は沖縄の人たちにシンパシーを感じて沖縄独立運動を主張した人間の一人なのだが、そうなると日本の世論としては国家の概念が変わり、これを中国が支援したりすると内政干渉にもなりかねないという論議になる。格好いい割には大変問題のある概念でもある。
 山 本 逆に分離独立という動きを偽装して…ということも可能になるということか?
 伊勢崎 その通りだ。それは逆に米国がラテンアメリカなどでやってきたことでもある。キューバなどの政権を倒すために、その国のいわゆる民主化グループを支援するという形でCIAもいろんなことをやった。リーダーの暗殺までやるわけだ。
   【写真説明】2014年1月、親露派のヤヌコヴィッチ大統領弾劾を求める大規模
        な騒乱が起きたウクライナの首都キエフ。背後で米国NEDが資金援
        助をおこなっていた。
 ウクライナもそのなかの一つだ。米国は民主化支援という形でCIAとは別に(全米民主主義基金=NEDなどを使って)政権転覆をやった経緯がある。その一つが「オレンジ革命」(2004年)だ。これも国際法スレスレだ。
 これから国際法が発展するとしたら、私が国際社会に訴えられることは、どんな場合でも国連加盟国の施政領域で軍事侵攻はしてはいけないという国際協定を結ぶとか、どんなに悪いとみなされる国で分離独立派を応援するにしても軍事供与してはいけないというとり決めをするという方法があり得ると思う。
 山 本 国際法スレスレのところで今回のような事態にまで発展してしまった。それをこの先どうやって歯止めを掛けていくかというところまで考えていかなければいけないということか。

NATOの東方拡大
 伊勢崎 私が勤める大学にもウクライナ人の教え子がいる。今泣いている。日本在住のウクライナ人は2000人ほどいる。だから、こういうことをいうのは勇気のいることだが、私が教えているのは平和構築であり、国家間の争いを止めたり、起こさないという学問だ。今プーチンが悪魔みたく扱われている。僕の教え子にとってもそうだろう。だが平和構築学の観点からいえば、なぜ悪魔が悪魔になってしまうのかという理由を考えなくてはいけない。敵にも理由がある。それは、あの地域での米国、NATOの振る舞い方にも一つの問題があるということだ。
 山 本 NATOが拡大されていったことか。
 伊勢崎 そうだ。プーチンは、冷戦が終結した直後の1990年にNATOとロシアとの間には「NATOは1インチも東方(ロシア側)に拡大しない」という約束があったと主張しているが、それはあまり話題にされない。ウソじゃないかと思う人もいるのでは?
 山 本 むしろ今メディアを含めて世界でロシア包囲網をつくっている感じで、向こう側(ロシア)の言い分があまり聞こえてこない。
 伊勢崎 米国の大学では公文書のアーカイブがある。米国では日本みたいに自衛隊日報を隠したり、勝手に処分したりしない。政府の文書は、それが機密文書であっても国民の財産なので政府が勝手に破棄できない。だから米国では外交文書といういわゆる密約にあたるものでも一定の年月を経ると公開される。それを大学の研究者が整理している。
 そこで「1インチも東方拡大しない」という約束があったことは証明されている。ゴルバチョフが中心になったペレストロイカ、東西冷戦の終焉というのは、別に欧米がソ連をやっつけたわけではなくソ連がみずから変革した。ソ連内には西側諸国に対する強硬派も多かったので、ゴルバチョフが潰されないように、当時のブッシュ米大統領やサッチャー首相(英国)、コール首相(西ドイツ)などが、彼を気遣って約束したことが機密文書に書かれている。当時、東西ドイツの統一をソ連が認めるかわりに、NATOはポーランドも含めてNATO加盟国にしないことなど、「1インチも拡大しない」という言葉として文章に残っている。
 そもそもNATOはソ連に対抗する軍事同盟だ。ソ連崩壊後は敵がいなくなるため必要なくなる。だから当時の首脳たちは、NATOを軍事同盟ではなく、ロシアを含めて「母なるヨーロッパ」という概念にもとづく政治フォーラムにするというビジョンがあった。だが、その約束をどんどん破って東方に拡大したのがNATOだった。

 山 本 当時黙らせた強硬派の魂がそのまま今に蘇っている状態ということか?
 伊勢崎 そこでプーチンがあらわれたわけだ。ここで注目したいのは、NATOが東欧諸国を引き込むときに結んだ地位協定だ。NATO地位協定は、日米地位協定のように2国間協定ではないので主語がなく、派兵国と受け入れ国という言葉しかない。立場が逆になることもある。お互いの軍の自由を認めていない。派兵国の軍隊はすべて駐留受け入れ国の法律に従い、環境基準も訓練のやり方もすべて受け入れ国の基準に従う。このような対等なNATO地位協定を、仇敵である旧ソ連圏の国々にも与えて引き込んでいった。日本よりも好条件を与えている。これを日本人としてどう考えるか?
 山 本 日本の場合は(米軍の)やりたい放題だ。でも、西側(欧米側)がロシアとの密約を反古にしてきたことから考えると、今起きていることは一方的にロシア側が悪いというだけでは片付けられない。もちろん戦争を始めてしまったのは最悪のケースだと思うが。

日本人としてどう見るか
 伊勢崎 国際法の限界としての武力行使という点。さらに悪魔化されているプーチン側にもそれなりの理由が国際関係の議論上にはあるという点。では、昨日起きたこと(ロシアの軍事侵攻)をわれわれ日本人としてはどう捉えるべきか。その視点を持つべきだと思う。
 今与党の政治家には「明日は我が身だ」「だから日米関係をもっと強くしなければいけない」とか「日本もNATOに入らなければならない」と発言するものもいる。
 だが、日本はウクライナと同じく緩衝国家という立場にある。こちらはアジアだが、同盟国の米国は1万㌔も海の彼方にあるわけだ。
 ウクライナはNATO加盟国ではない。一方、日本は米国の軍事同盟に入っている。だから緩衝国家でありながらNATOの一員としてやってきた国々のことをわれわれは勉強するべきだ。ノルウェーやアイスランドがそうだ。ノルウェーは冷戦時代にNATO加盟国として唯一ソ連と国境を接した。その隣国のフィンランドは、ロシア寄りの中立国だ。中立を掲げることによってロシアとも西側ともうまく付き合ってきた。スウェーデンもNATO非加盟国だ。
 これらの国は、日本人にはあまり知られていない工夫をしている。中立を掲げることもあるが、中立ではなくNATO加盟国のノルウェーは、ノーベル平和賞の国であり、オスロ合意など世界のいろいろな紛争の信頼醸成の場になってきた。それはロシアに接しているという地政学上の条件があるからだ。
 ノルウェーはロシアを刺激しないように、つい最近まで国内にNATO軍も米軍も入れない方針をとってきた。ノルウェーの北側にあるバレンツ海はロシアの原子力潜水艦も行き来するので、NATOや米軍にとっても重要な国だ。それでも米国の資金援助でレーダー施設をつくったとしても、それはノルウェーのものであるとし、ロシアとの国境地帯ではノルウェー軍も軍事訓練をおこなわない。そのようにしてロシアと付き合ってきた。
 これが2014年のロシアによるクリミア併合で変わってくる。ノルウェーでは史上初めて米原子力潜水艦が国内に寄港した。それまで世論は二分して争ってきたが、クリミア併合によってロシアへの恐怖心から軍事同盟強化という声が大きくなっているという。フィンランドも中立国をやめてNATOの加盟国になろうという意見も出始めている。
   【写真説明】NATOに加盟したポーランドに配備されたミサイル防空システム(米
        レイセオン社製)
 山 本 そうなるとロシアは孤立していく。
 伊勢崎 こういうなかで日本はどう考えるか。私は日本は緩衝国家ではなく、「緩衝材国家」と呼んでいる。自分の意志がないからだ。バルト三国も含めNATO加盟国でありながら緩衝国家の国々は、NATO地位協定だからお互いに対等だ。駐留する外国軍にも勝手なことをさせない。主権国家だからこそ緩衝国家になれる。だが、われわれ日本は自由がない。米国のいいなりになっていることがまずいということがわかっていない。自国内で外国軍が勝手なことをして、一番先に報復されるのは緩衝国家だ。だから基本は、駐留させたとしても自由なき駐留だ。これを同盟という。日本はそうではない。
 さらに、今日の報道ではチェルノブイリ原発をロシア軍が制圧した。意図はわからないが、これから長期化してロシア軍が入ってきて地上戦になれば、ウクライナ市民も応戦して市街戦になる。そのときに原発は究極の地雷となる。そこを早く制圧するというのは当然といえば当然だ。
 山 本 重要拠点は真っ先に抑えられる。そうなると、この緩衝材国家(日本)には山ほど占拠されるような施設が林立している。
 伊勢崎 今は亡き私の友人が経団連幹部で原子力産業の中枢にいたが、彼は生前「原発というものはみずからに向けた核弾頭だ」といっていた。それが仮想敵国と向かい合う海岸線にずらっと並んでいるわけだ。こういう国を通常戦力で防衛するというのは無理だ。ウクライナ危機を通じて日本は学ばなければいけない。
 山 本 ここまで進んでしまった事態を中断させることは難しい。こういう状態になるまでは「G7で力を合わせて!」と結構勇ましいことをいっていたが、実際に戦いが始まると一歩も踏み出せない。それをやると世界中で戦争になる。
 伊勢崎 2014年から8年もたっているのに、なぜ国際社会は米国を中心に対話によってウクライナ東部に高度な自治を認めるなどの決着を図らなかったのか、だ。
 山 本 ウクライナのNATO加盟についても、「東方拡大をしない」という約束がありながら、あり得るかもしれないという広がり方はまずい。
 伊勢崎 そういうことをプーチンは利用する。プーチンは追い詰められるキャラではないとは思うが、NATOの冷戦直後から続く約束も含めて、ロシアに攻撃の口実を与えるようなことをずっと積み上げてきたのが西側でもある。冷戦終結時には西側首脳にはNATOを軍事同盟ではなく、政治フォーラムに変身させるというビジョンが明らかにあった。そこへもう一度もっていくために、何がそれを仲介できるか。国連は常任理事国の一つがかかわっているから安保理が動かない。
 山 本 日本が事態をエスカレートさせないためのカードとして主体的に動ける部分はあっただろうか?
 伊勢崎 ちょっと遅い。その前に日本にその意志があるのかという話だ。この国にはプレゼンス(存在感)がない。アフガン問題に関しても、今から20年前の日本にはまだ中東和平に向けたプレゼンスがあったが今はない。
 現状に介入することは難しいが、冒頭でいったように国際法をもう一歩バージョンアップさせるべきだ。国際法のあいまいなところでこの事態が起きている。つまり集団的自衛権の発動を依頼されたという形で軍が入っている。これは明確にやってはいけないというとり決めを、国連憲章に加えるのか、国際協定みたいなものを成立させて批准国を増やしていくなどのやり方で広げる。そういうことを日本が主体になってやってほしい。