2019年1月29日火曜日

戦前の「ポスト真実の日本」を取り戻した安倍首相(五十嵐仁氏)

 五十嵐仁・法大名誉教授が、「戦前の『ポスト真実の日本』を取り戻してしまった安倍首相」と題するブログを発表しました。
「ポスト真実」とは、客観的事実より感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況を意味し(コトバンク)、「ポスト真実の政治」は、2016年6月のイギリスのEU離脱是非を問う国民投票や2016年のアメリカ大統領選挙で多く使われるようになりました。(ウィキペディア)
 
 温厚な五十嵐教授ですが安倍政治を批判する際には容赦がありません。
 戦前の日本は、「嘘とデタラメの数字や情報によって国民の目を欺き」ついには国を滅亡の淵にまで導きました。いま眼前で展開されている安倍政治のデタラメさは、「日本を取り戻す」と言っていた安倍首相が、「ポスト真実の時代」の原型ともいうべき戦前の日本を取り戻してしまったものであると断じています。
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戦前の「ポスト真実の日本」を取り戻してしまった安倍首相
五十嵐仁の転成仁語 2019年1月28日
 毎月勤労統計の不正調査、誤魔化しが発覚し、大きな批判を招いています。しかし、これは「氷山の一角」にすぎません。
 安倍政権では、事実の軽視、情報の秘匿、ウソと誤魔化しが横行しているからです。とりわけ安倍首相の場合、「隠す、誤魔化す、嘘をつく」と三拍子そろった「騙しのテクニック」が多用されていることに注意しなければなりません。
 
 沖縄での県民投票でも、このような「騙しのテクニック」が用いられようとしています。県民投票での選択が「賛成」「反対」の2択から、「どちらでもない」を加えた3択に変えられたからです。
 この変更によって協力を拒んでいた5市が参加することになり、全県での実施が決まりました。それは良かったと思いますし、3択にしたのは全県での投票実施を実現するためのやむを得ざる譲歩だったと思います。
 しかし、新たに加わった「どちらでもない」という選択肢が多数になった場合、県知事は辺野古での基地建設に反対できなくなるかもしれません。「反対」の意見が多数になった時にだけ、デニー知事はこれまでと同様に新基地建設阻止の行動をとり続けることができるからです。
 
 つまり、新たな選択肢は3つではありません。「賛成」と「どちらでもない」は新基地の建設に反対ではなく、現状を維持または容認するという点で同じだからです。
 ここには選択肢が2つではなく3つであるように見せかけ、反対意見を少数にするためのカラクリが仕込まれているのです。見事な誤魔化しではありませんか。
 投票に当たっては、このようなカラクリや誤魔化しを県民の皆さんにきちんと説明しなければなりません。実際には3択ではなく2択であるということ、「どちらでもない」は第3の選択肢のように見えるけれど事実上は土砂投入の現実を容認し、基地建設への「反対」を止めさせる意味を持っているということを。
 
 このような安倍政権によるウソと誤魔化し、事実の軽視、情報の秘匿は、第2次政権が発足して以来、ずっと続いてきました。その最初の例は特定秘密保護法だったのではないでしょうか。
 国民の共有財産である特定の情報を、法律によって堂々と隠すことができるようにしてしまいました。「隠す」ということで言えば、イラクや南スーダンへの自衛隊派遣に関わる日報隠蔽問題が典型です。
 ウソをつくのも平気で、最高裁の判決を歪曲して集団的自衛権の一部容認を閣議決定し、そのまま安全保障関連法として成立させてしまいました。憲法についても、自衛隊の存在を書き込むだけで自衛隊の役割や機能は何も変わらないとウソをついています。辺野古の埋め立て予定地への土砂投入についてのサンゴ移植発言もウソでした。
 
 安倍政権には、事実を尊重し情報を公開して国民の判断を仰ごうとする態度も、国会での質疑に真摯に対応し丁寧に説明して与野党の合意を図ろうとする姿勢も全く見られません。虚偽をまき散らすトランプ流の「フェイク病」に感染し、「ポスト真実の時代」に特有なねつ造と誤魔化しに終始しています。
 
 森友学園疑惑では公文書の隠ぺいと改ざん、加計学園問題では情報の秘匿と誤魔化し、裁量労働制に関するデータの捏造、障害者雇用率での数字の誤魔化し、外国人技能実習生からの聞き取り調査のずさんさ、そして今回の毎月勤労統計での調査捏造、おまけに外部有識者による課長・局長級職員への聞き取り調査に定塚由美子官房長が同席して質問もしていたことが隠蔽されていました。基幹統計についても56のうち22で問題があったと報告されています。
 このような問題が次々に明らかになってきたのに、政治家は誰一人として責任を取っていません。処分されたのは「トカゲの尻尾」である官僚だけです。
 
 統計法は嘘とデタラメの数字や情報によって国民の目を欺いた戦前の間違いを深く反省するところから制定されました。政治的な決定や政策の立案は、厳格な事実と正確な情報に基づかなければ取り返しのつかない過ちを犯してしまうからです。
 そのことを私たちは、戦前・戦中の歴史を通じて痛いほど体験したはずです。それが再び、安倍政権によって繰り返されてきました。
 「日本を取り戻す」と言っていた安倍首相は、「ポスト真実の時代」の原型ともいうべき戦前の日本を取り戻してしまったようです。事実を隠し国民を騙して大きな過ちを犯し、滅亡の淵にまで国を導いてしまった「戦前の日本」を。

ハゲタカファーストの安倍政治にさようなら(植草一秀氏)

 植草一秀氏が「ハゲタカファーストの安倍政治にさようなら」と題するブログを発表しました。
 政治決戦の年に当たり、安倍政治によるいわば「ハゲタカ」に貢ぐ政治を止めさせるために、どう選挙に臨むべきかについて極めて率直に述べられています。
 
 末尾には、森永卓郎氏に激賞された植草氏の著書「国家はいつも嘘をつく --日本国民を欺く9のペテン」も掲示されています。
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ハゲタカファーストの安倍政治にさようなら
植草一秀の「知られざる真実」 2019年1月28日
通常国会が本日1月28日に召集された。会期末は6月26日になる。
通常国会の延長がなければ、2019年の参議院議員通常選挙は7月4日公示、7月21日投票となる可能性が高い。
 
今年は統一地方選と参院選が重なる政治決戦の年になる。
7月21日の衆参ダブル選の可能性も浮上している。少し前まで衆参ダブル選の可能性はないとする見解が多数を占めていたが、情勢が変わり、ダブル選の可能性ありとする見解が増加している。
私は当初からダブル選の可能性は高いとの見通しを示してきた。安倍首相は2020年の改定憲法施行を目指しており、これを実現するために衆参ダブル選に打って出る可能性が低くないからだ。
 
4月には都道府県知事選、議会選だけでなく衆院補選も予定されている。
元号が改定されると同時に日本政治も新しい時代を迎えることになるだろう。
日本政治を刷新するための政治決戦の年になるわけだ。
その2019政治決戦の第一戦と位置付けられる山梨県知事選が1月27日に実施された。
立憲、国民が推薦した現職候補が、自公推薦の候補者に敗北した。
自公サイドは政治決戦の緒戦に勝利して沸き立っている。
日本政治刷新を目指す主権者勢力は、この結果を厳粛に受け止める必要がある。
 
日本政治を刷新しなければならない理由は何か。それは、安倍政治の政策運営を正す必要があるからだ。政策の刷新が求められているのである。
政権が交代しても、政治の基本路線が変わらないのでは意味がない。政策の基本路線の転換すること。これが目標なのだ。
 
安倍政治は大資本のための政治である。そして、米国に隷従する政治である。
官僚機構は安倍政治によって巨大利権を擁護されている。
米官業のトライアングルによる日本支配の構造。この政治構造を守り、大資本の利益極大化を追求する。これが安倍政治の基本である。
この政治路線に賛同する人々は安倍政治を支援すべきだろう。
しかし、この政治路線に反対する人々は、この路線を転換するために行動しなければならない。
 
2019政治決戦において重要なことは、政策を基軸にして選挙戦に臨むことである。
基本政策路線の対立は三つの側面で存在する。
第一は経済政策だ。
大資本のための経済政策を推進するのか、それとも、一般国民=労働者のための経済政策を推進するのか。
安倍政治は大資本の利益を優先する経済政策を採用している。その結果として、一般国民=労働者は下流へ、下流へと押し流されている。この是非を問うことが第一だ。
 
第二は原発政策である。
安倍内閣は原発推進の姿勢を鮮明にしている。これに対して、安全性が確保されていない原発はすべて廃炉すべきとの主張がある。主権者はどちらの政策を選択するのかを判断する必要がある。
 
第三は安全保障政策だ。
安倍内閣は戦争法制を制定して、日本を「戦争をする国」に変質させた。これを是とするのか、非とするのか。
 
これらの政策を基軸にして2019政治決戦に臨む必要がある。
重要なことは、自公維と同類の政策路線を提示する勢力を、主権者が支援の対象から除外することである。
第二自公勢力が政権を奪取しても政策路線は転換しないからだ。
政策を基軸にして、自公維に対峙する候補者を主権者が全面支援することが重要である。
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29- 学者らが声明で「法治」外れた強権やめよと(琉球新報)

 琉球新報が、憲法研究者131人が辺野古新基地建設は違憲だとして反対する声明を出したことをひき、沖縄に対して安倍政権が行っている政治は、菅官房長官が「地元市長や知事の了解を得て閣議決定した。まさに憲法の中の手続きをしっかり取った上で実行している」と述べている『虚偽』とはほど遠いもので、「一連の行為は法治主義から大きく懸け離れている。沖縄の民意を抑え込むためなら、国家権力は何でもできるとの高圧的な姿勢は、まさに強権国家でしかない」と、痛烈に批判する社説を掲げました。
 そして、「辺野古新基地が強行されてしまうと、国家方針に反する地元の声は無視できるというあしき前例になる。全国でも起こり得ることだ。民主主義を守るためにも、国民がわが事として考える契機になってほしい」と訴えました。
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<社説> 学者ら新基地違憲声明 「法治」外れた強権やめよ
琉球新報 2019年1月28日
 安倍晋三政権の強権に直面する沖縄にとって、学問的見地からの心強い味方を得た。
 国内の憲法研究者131人が、辺野古新基地建設は違憲だとして反対する声明を発表した。埋め立ての賛否を問う県民投票の結果が出るまで、工事の中止も求めている。
 
 声明は「新基地建設強行は『基本的人権の尊重』『平和主義』『民主主義』『地方自治』という、日本国憲法の重要な原理を侵害、空洞化するものである」「政府が強行し続ければ、日本の立憲民主主義に大きな傷を残すことになる」と指摘している。
 
 これまで県民は、辺野古新基地を争点にした知事選や国政選挙などで新基地反対の民意を何度も示してきた。過去の県民世論調査でも7~8割が県内移設に反対している。
 明確な民意があるにもかかわらず、これを無視する安倍政権は、憲法が保障する平和的生存権を踏みにじり、沖縄の地方自治と民主主義を侵害しており、断じて許されない。
 憲法学者らが辺野古新基地問題で声明を出すのは初めてだ。工事が強行される現状を見て、研究者の良心に基づき警鐘を鳴らしたと言えよう。
 
 この声明に対し、菅義偉官房長官は「地元市長や知事の了解を得て閣議決定した。まさに憲法の中の手続きをしっかり取った上で実行している」と反論した。
 明らかに間違いだ。1999年に県が受け入れた際は「15年使用期限」「軍民共用空港」という条件付きだった。その後、現行のV字案に変更され、2006年の閣議決定で県の条件は破棄された。
 
 地元の合意を得ようとしない政府の態度は一貫しており、この間、法を逸脱した手続きを繰り返している。
 県が埋め立て承認を撤回した後、本来は私人の権利を救済するための行政不服審査制度を使って工事を再開した。行政法研究者110人が「違法行為」「制度の乱用」と厳しく批判した手法だ。
 
 土砂の搬出場所も、県に届け出た本部港が使えなくなったため、変更申請をせずに名護市安和の桟橋に変更し、搬出を強行した。埋め立て用土砂も、県の承認を得ずに赤土などの割合を増やしていた。
 
 菅官房長官が連呼する「法治国家」が聞いてあきれる。一連の行為は法治主義から大きく懸け離れている。沖縄の民意を抑え込むためなら、国家権力は何でもできるとの高圧的な姿勢は、まさに強権国家でしかない。
 
 憲法や行政法の専門家の声を政府は聞き入れるべきだ。
 声明は、沖縄県民の人権問題であると同時に、民主主義の観点から「日本国民全体の問題である」とも言及する。
 全くその通りだ。辺野古新基地が強行されてしまうと、国家方針に反する地元の声は無視できるというあしき前例になる。全国でも起こり得ることだ。民主主義を守るためにも、国民がわが事として考える契機になってほしい。

2019年1月28日月曜日

世耕大臣のダボス会議での「人質司法」擁護の“失言”(郷原信郎氏)

 ダボス会議に出席した世耕経産相が、23日、「日本に関する討論会」の場で、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏が特別背任などの罪で起訴された事件で日本の刑事司法制度に批判が出ていることに関して、「日本ではよほど大規模なテロのような犯罪でない限り通信傍受はできないが、米国や欧州、多くの国々はあらゆる犯罪に関して通信傍受ができる」と述べたと朝日新聞が電子版で報じました。
 しかし趙誠峰弁護士からツイッターで「これは事実に反する。嘘。平成28年刑訴法改正によって通信傍受は詐欺などにも拡大され、およそテロとは無縁の事件でも『現に』通信傍受が行われている。いますぐ発言を訂正すべし」と指摘されると、その直後に通信傍受に関する記述がすべて削除されたということです。
 
 世耕氏は前置きとして「各国の司法制度は歴史上の成り立ちがそれぞれ違う。その一部を切り取ってその国の司法制度が正しいか間違っているかという議論はフェアではない」と述べたのちに、日本の「人質司法」を擁護するかのように、日本の通信傍受に関する虚偽の説明を行っているのでその罪は大きいと思われます。
 
 またこうした公の場で間違った発言をした場合、単に電子版の記事から該当個所を削除すればいいというものではなく(この点は朝日新聞の範囲)、キチンと訂正すべきであるのは言うまでもありません。仮に安倍政権の閣僚が虚偽発言に対する罪悪感が希薄だとすればそれ自体大問題です。
 
 郷原弁護士の「郷原信郎が斬る」を紹介します。
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世耕大臣のダボス会議での「人質司法」擁護“失言”を、朝日はなぜ削除したのか
郷原信郎が斬る 2019年1月28日
ダボス会議に出席した世耕弘成経済産業大臣が、1月23日、「日本に関する討論会」の場で、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏が特別背任などの罪で起訴された事件で日本の刑事司法制度に批判が出ていることに関して、「各国の司法制度は歴史上の成り立ちがそれぞれ違う。その一部を切り取ってその国の司法制度が正しいか間違っているかという議論はフェアではないと思う」と述べた上、「日本ではよほど大規模なテロのような犯罪でない限り通信傍受はできないが、米国や欧州、多くの国々はあらゆる犯罪に関して通信傍受ができる」と述べたと朝日新聞が報じた(1月24日09時44分配信ネット記事)。
 
この中の「日本ではよほど大規模なテロのような犯罪でない限り通信傍受はできない」との発言に対して、趙誠峰弁護士が
これは事実に反する。嘘。平成28年刑訴法改正によって通信傍受は詐欺などにも拡大され、およそテロとは無縁の事件でも「現に」通信傍受が行われている。いますぐ発言を訂正すべし
とツイートするなど、SNS上で批判の声が上がった。すると、その直後、同記事から、通信傍受に関する記述がすべて削除された。
趙弁護士は、その事実を指摘し、「誤った発言部分がカットされていることは、これはこれで大問題ではないか。どういう経緯で記事の内容を変えたのか朝日新聞ははっきりするべきではないか」とツイートしている。
 
安倍首相も含む各国の首脳、要人が出席し、海外のメディアも注目する「ダボス会議」という国際会議での「日本に関するセッション」の場で、現職の経産大臣が、日本の「人質司法」を擁護するかのような発言を行い、しかも、明らかに誤った発言をしたとすると、極めて重大な問題だ。
 
通信傍受についての明らかに誤った発言
まず、世耕氏の「通信傍受に関する発言」が、ダボス会議の場で本当に行われたのか否かが問題になるが、記事の掲載と削除の経緯からすると、あったと考えざるを得ない。
世耕氏が、当該発言をしていなかったのに発言したかのように誤って報じたというのであれば、現職閣僚の発言についての朝日新聞の誤報だったということになり、明示的に訂正するのが当然である。訂正がないということは、世耕大臣の発言はあったが、何らかの事情で削除したということしか考えられない。念のため、朝日新聞の「お客様オフィス」に問い合わせたが、「世耕大臣の発言はあったと考えてもらって差し支えない」とのことであった。
そして、世耕氏が「日本の通信傍受の対象犯罪は大規模なテロのような犯罪に限られている」と発言したとすれば、その内容は、明らかに誤っている。
 
日本における「通信傍受」は、2000年に施行された通信傍受法で、対象犯罪が、薬物・銃器・集団密航・組織的殺人の4類型に限られていたが、もともと、「大規模なテロのような犯罪」に限られていたわけではない。しかも、2016年12月施行の刑事訴訟法改正に伴う通信傍受法の改正により、対象犯罪が爆発物使用・殺人・傷害・放火・誘拐・逮捕監禁・詐欺・窃盗・児童ポルノの9類型に拡大されており、現在では、詐欺・窃盗などの財産犯も含まれている。
しかも、世耕氏は、第1次安倍内閣発足と同時に内閣官房副長官に就任し、刑訴法改正と併せて通信傍受法改正案が成立した2016年5月も、官房副長官の地位にあった。なぜ通信傍受の対象犯罪が「大規模なテロのような犯罪に限られている」などという誤った認識を持っているのかも極めて不可解である。
 
問題は、その世耕発言が、どのような趣旨で行われたものなのかである。当初の朝日新聞の記事も、世耕氏の発言の要点を伝えたものであり、発言全体がどのような趣旨だったのかは不明だが、少なくとも、世耕氏が、ゴーン氏の事件で問題にされている日本の刑事司法制度に対する海外の批判に関して発言したこと、それが、犯罪事実を認めない限り保釈が許可されず身柄拘束が続く「人質司法」への批判を強く意識したものであったことは間違いないと考えられる。
 
世耕氏は、なぜ、「人質司法」に対する海外からの批判への反論で、通信傍受のことを持ち出したのだろうか。
ゴーン氏の事件に関して海外から批判されている「人質司法」というのは、ゴーン氏の事件のような、凶悪事件ではない経済犯罪においても、犯罪事実を否認し、無罪主張をしている被告人については、「罪証隠滅のおそれがある」との理由で保釈が認められず身柄拘束が長期化する現実のことである。それは、「推定無罪の原則」を軽視し、長期の身柄拘束を、自白獲得・無罪主張の封じ込めに使う検察と、それを容認してきた裁判所の姿勢の問題である。(高野隆氏【人質司法の原因と対策】)
一方、「通信傍受」は、捜査機関が裁判所の令状を得て行う捜査手段であり、その対象をどの範囲の犯罪に認めるかは、保釈を認めない理由の「罪証隠滅のおそれ」とは凡そ関連性がない問題だ。
 
世耕氏の発言の趣旨が、仮に、「日本では、捜査機関に通信傍受が許される範囲が狭いから、通信手段による罪証隠滅が行われることが防止できない。だから否認している被告人の保釈が認められないことも合理性がある。」というものだとすると、全く見当違いも甚だしい。
それどころか、「人質司法」の解消のためには、捜査機関にさらに広範囲に通信傍受を認めるべきという恐ろしい発想につながりかねないのであり、現職閣僚がそういう考えを持っていること自体が重大な問題だ。
いずれにせよ、朝日新聞の報道によれば、日本の経産大臣が、国際会議の場で、経産省の所管外の刑事司法制度に関する発言をし、その内容に重大な誤りがあった可能性が高いのであるから、その発言全体がどのようなものであったのかを明らかにすべきである。その上で、世耕氏が、説明責任を果たすことが不可欠だ。
 
現職経産大臣の発言の影響
次に問題となるのは、世耕氏の発言の影響である。
「ダボス会議」は、ジュネーヴに本部を置く独立した国際機関「世界経済フォーラム」の年次総会であり、政府間の公式会議ではないが、知識人やジャーナリスト、多国籍企業経営者や国際的な政治指導者などのトップリーダーが一堂に会し、世界が直面する重大な問題について議論する場であり、そこでの発言は、国内外のメディアから注目されている。
ゴーン氏の事件では、日産の西川社長らが、社内調査で把握したゴーン氏の不正事実を検察に持ち込み、ゴーン氏が逮捕され、出席できなかった取締役会でゴーン氏を代表取締役会長職から解職したという、企業ガバナンスという面からは本来許されないやり方で経営トップを交代に追い込んだ。その背景には、日産と、その大株主でフランス政府が筆頭株主のルノーとの経営統合をめぐる争いがあったとも言われている。
 
ゴーン氏が逮捕・起訴されても、フランスのルノーの側では、「推定無罪の原則」を重視し、ゴーン氏を会長職にとどめていたが、身柄拘束が長期化し、解消される見通しが立たないことから、とうとうゴーン氏は、ルノーの会長職辞任に追い込まれた。
そのような事態を招いた、「長期の身柄拘束の解消の目途が立たない」という現実が、日本の「人質司法」によるものだと海外から批判されているのである。日本の有力な自動車メーカーである日産の経営に関わりを持つ経産省にとって、「人質司法」に対する国際的批判は他人事ではない。
 
そうした中で、司法制度については所管外の経産大臣が、海外のメディアも多数取材しているダボス会議の「日本に関する討論会」の場で、日本の「人質司法」を擁護し、海外からの批判に反論するかのような発言を「敢えて」行い、しかも、その発言が「明らかに誤っていた」ということになると、国際社会に対して、日本の刑事司法への重大な誤解を与えることになる。そればかりか、今後、日産とルノーとの関係にも関わりを持つ可能性のある日本の経産省のトップが、日本の刑事司法制度の現状について基本的な理解を欠いていたことを露呈することになり、今後、日産とルノーをめぐる問題への経産省の対応にも重大な悪影響を及ぼしかねない。
 
世耕発言の該当部分が削除されたのはなぜか
もう一つの重大な問題は、一度ネット記事で掲載した世耕大臣のダボス会議での発言を、誤りが指摘された後に、何の断りもなく削除したのは、いかなる事情によるものなのか、という点である。
新聞紙面の記事と異なり、ネット記事は、修正や削除が容易にできる。誤った事項があった場合に、訂正を明示することなく、修正・削除が行われることもある。しかし、今回のネット記事は、現職閣僚の、国際的な会議の場での発言に関するものだ。それに対して読者から批判の声が上がっているのに、何の断りもなく一部削除することは許されない。発言の内容が実際の発言と異なっていたのであれば、明示的に訂正するのが当然だ。もし、記事に掲載した世耕氏の発言が日本の刑事司法制度に関する誤った発言であることが分かったのであれば、発言に関する記事はそのままにして、発言が誤っていたことを別途指摘すべきだ。
ネット上での誤りの指摘を受け、その発言を削除したとすれば、朝日新聞は、現職有力閣僚がダボス会議で行った誤った発言の「隠ぺい」を行ったことになる。
 
森友・加計問題で安倍政権を徹底追及し、激しく対立してきた朝日新聞である。安倍政権の中枢を担う現職閣僚と不透明な関係を疑われないよう、ネット記事から世耕氏の発言に関する記述の一部を削除した経緯と理由を明らかにすべきだ。
 
世耕氏はどう対応すべきか
世耕氏は、まず、ダボス会議の「日本に関する討論会」において、日本の刑事司法に関してどのような発言をしたのか、全体を公表すべきである。そして、同発言中に、誤った発言があったのであれば、海外メディア等に対して速やかに訂正し、日本の通信傍受について正しい理解が得られるように措置を講じるべきだ。
その上で、その発言の趣旨、「人質司法」など日本の刑事司法制度に対する海外からの批判への反論の中で、なぜ「通信傍受」の話を持ち出したのかについても明確に説明すべきだ。
ダボス会議での「通信傍受」に関する“失言”は、日本の有力自動車メーカー日産とフランスのルノーとの経営統合問題にも影響を及ぼす可能性があるばかりでなく、刑事司法制度に対する日本政府の姿勢自体にも疑念を生じかねない。世耕氏は、現職経産大臣として十分に説明責任を果たすべきだ。

ハンストが窮地を打開 若者の決意が政治動かす(琉球新報)

 沖縄の県民投票は、24日、県議会の各派代表が3択に条例改正することで合意し、5市の36万余人の有権者たちも投票に参加できるようになりました。条例改正案は29日の臨時議会で全会一致可決の予定です。
 琉球新報は、若い元山仁士郎・県民投票の会代表のハンガーストライキが転機になったとして、11日の県民投票条例改正見送りの知事発表以降、24日までの関係者の動きをまとめる記事を出しました。
 記事を日付順に整理すると下記のようになります。
 
11日 玉城知事 県民投票条例改正見送りを発表
15日 県民投票の会・元山代表 ハンガーストライキ開始 (19日17時ドクターストップ)
16日 うるま市長(県市長会長)「可能な限り幅広く柔軟な対応を求める」と県知事と県議会議長に宛て声明
17日 謝花副知事は「若者にここまでさせてしまった」とハンストの影響で前週までと状況が異なってきたとの認識を示す 以後5市長の意向を電話で確認
17日 公明党県本の金城勉代表、選択肢の3択への修正で全会一致に協力すると副知事に伝える
18日 新里米吉県会議長、玉城知事に「与野党の調整に動く」と伝える
18日 与党3会派、議長提案の3択案に「5市長の責任があいまいになる」と猛反発
? 日 玉城知事、条例改正に進むかどうか、賛否2択で条例制定を請求した「辺野古」県民投票の会の意思と5市長の投票実施の意向の確認を指示
21日 県民投票の会・元山代表、緊急会合を開き「全市町村で実施するために柔軟な対応が必要」と3択を容認する姿勢を打ち出す
23日 玉城知事、選択肢を見直し全県実施を目指す立場へにかじを切り、与党代表者らに「私の責任でやらせてほしい」と3択への支持を取り付ける。
24日 新里県議会議長、各派代表者会議を招集し、3択に条例を改正することで合意。29日に臨時議会が開かれ、全会一致で条例改正案を可決へ。
 
 毎日新聞は27日の社説で、「どちらでもない」を新たな選択肢に加えるという異例の展開になったことについて、「これほど複雑な背景のあるテーマを『賛成』『反対』の2択で尋ねる設問のあり方に問題があったことも否めない」と、変更に理があるとしました。
 そして「2択にこだわって全県で実施できなければ、投票結果に疑念を差し挟む余地が生まれる。~ その意味で、沖縄県議会が自民党も含む全会一致で県民投票実施を決める形になったことは評価できる」とし、「そもそもの問題は、なぜ沖縄県民だけが苦渋の判断を迫られなければならないのか、だ。むしろ、この県民投票を沖縄の基地負担軽減について国民全体で考える機会としたい」
と述べています。
 
 琉球新報と元山・県民投票の会代表の声明を紹介したしんぶん赤旗の記事を紹介します。
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ハンスト、窮地を打開 若者の決意が政治動かす
琉球新報 2019年1月27日
 「条例の改正はさまざまな課題があり、難しい」。玉城デニー知事は11日の記者会見で県民投票条例の改正を見送ることを一度は発表していた。
 条例を改正しなければ選択肢を増やしたり、県が5市の事務を代行したりすることはできない。投開票事務を拒否する5市長と県の協議は平行線をたどっており、このままでは全県の有権者の3割が投票できない。記者から「参加しない自治体が出ても2月24日で実施するのか」と問われると、玉城知事は「それを与党と確認したところだ」とこわばった表情で答えた。
 
「われわれを置き去りにしないでほしい」「全県で実施しなければ県の責任になる」。市長が事務を実施しないことに抗議するハンガーストライキを始めた「辺野古」県民投票の会の元山仁士郎代表の行動に呼応するように、謝花喜一郎副知事の下にも全県実施を求める声が寄せられていた。17日、謝花副知事は面談した市民らに「若者にここまでさせてしまった」と感極まった様子で語り、ハンストの影響で前週までと状況が異なってきたとの認識を示した。そして「このまま条例改正せずにいいのかという思いもある」と打ち明けた。
 
 実はこの時、謝花副知事の下には公明党県本の金城勉代表から、選択肢の3択への修正で全会一致に協力するとの要請がもたらされていた。16日には県民投票参加に難色を示すうるま市の島袋俊夫市長が、県市長会の会長として「可能な限り幅広く柔軟な対応を求める」と県知事と県議会議長に宛てた声明を発表。投票実施に向けた出口を探ろうとするメッセージには首長側の変化を感じさせた。
 
 公明の金城代表は「辺野古」県民投票の会の幹部にも条例改正を打診していた。謝花副知事に相談した県民投票の会幹部に(1)公明が了承する(2)公明が自民に働き掛ける(3)5市長の投票実施の確約がとれる ― が担保できれば検討するとの玉城知事の回答が伝えられるなど、事態は水面下で急速な動きを見せていた。
 公明から同様に要請を受けた県議会の新里米吉議長は18日、行政視察で県庁を離れていた玉城知事に「与野党の調整に動く」と電話で伝えた。だが、社民・社大・結、会派おきなわの与党2会派は「5市長の責任があいまいになる」と議長が提案する3択案に猛反発、調整は冒頭で立ち止まった。
 
 与党で激しい議論が交わされる中で玉城知事は、県としても条例改正に進むかどうか、二つの条件を確認する必要があると指示を出す。賛否2択で条例制定を請求した「辺野古」県民投票の会の意思と、5市長の投票実施の意向だった。
 これを受け、県民投票の会は21日夜に緊急会合を開いた。会合後、元山代表は「全市町村で実施するために柔軟な対応が必要となっている」と、3択を容認する姿勢を打ち出した。
 県では謝花副知事が5市長と電話で連絡を取り合い、期待にも近い前向きな感触を得ていた。
 3択案に対する与党会派の反発で手詰まり感が強まっていた22日夜、ある与党県議の携帯に玉城知事からメッセージが届いた。「県民投票は必ず全県実施します。元山君の動きが市民を動かしました」―。
 
 翌23日午前、選択肢の見直しにより全県実施を目指す立場へとかじを切った玉城知事は、自ら与党代表者らに連絡を取り「私の責任でやらせてほしい」と3択への支持を取り付ける。与党3会派が急転直下、一致したことで、新里議長は各派代表者会議の24日招集に瀬戸際でこぎつけた。(中村万里子、与那嶺松一郎)
 
 
さあ 県民投票へ 全沖縄実施見通し「歓迎」 「会」が会見 
「議論さらに深める」
 しんぶん赤旗 2019年1月26日
 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設の埋め立ての賛否を問う県民投票で、選択肢を3択にする条例改正案を県議会が全会一致で合意したことを受け、「『辺野古』県民投票の会」(元山仁士郎代表)は25日、県庁で記者会見し、声明を発表しました。
 
 声明は、選択肢が賛否のほか「どちらでもない」を加えた3択となったことで、不参加を表明していた5市で県民投票実施に向けた条件が整い、全市町村で県民投票が実施される見通しとなったとして「すべての有権者に投票権を保障するために行った与野党の歩み寄りを歓迎する」と表明しました。
 
 一方、賛否の2択を前提に県民投票条例の制定を求める署名をした県民の批判や複雑な心境も真摯(しんし)に受け止めるとし「現在、『どちらでもない』という意見を持つ県民には、これからさらなる議論を深め、明確な賛否の意思表示が可能となる環境を整えるために全力を尽くすことを決意する」としました。
 
 会見した元山氏は、全県実施のめどがついたことに「すごく安堵(あんど)した」と述べつつ、2択を支持していた県民に対し、会として説明や意見交換を行っていく考えを示しました。