先般
町議会の不信認を受けて辞任された元双葉町町長の井戸川克隆さんに、ジュネーブ市長から手紙が届きました。町長は昨年訪欧し11月2日に同市長と対談をしておられます。
市長は日本が年間20mSv(実質は28mSv)以下を居住可能地域としていることや、福島県の児童の甲状腺がんが高率で現れ出したにもかかわらず、保健当局が真実を隠蔽し被曝の影響を否定していることなどを痛烈に批判しています。
文中に閾値説に関する記述がありますが、被曝量100mSv以下では放射線の影響はないとするもので、原子力規制員会の田中委員長や中村佳代子氏はこの立場から年間20mSv以下は居住可能としています。
井戸川氏ご自身が同書簡をインターネット上に発信しておられますので、以下に紹介します。被曝先進国である筈の日本がいまや決定的な被曝対策後進国であることがよく自覚できる書簡です。
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ジュネーブ市長 の書簡 (井戸川元町長宛)
井戸川 克隆 様
レミー・パガーニ(ジュネーブ市長) 2013年2月13日
拝啓 昨年のジュネーブご訪問に改めて感謝申し上げます。Palais
Eynard(市庁舎)に井戸川さんをお迎えできたこと、大変光栄に存じます。2011年3月に発生した原発事故後、日本国民の皆さんが直面している問題の理解がより深まりました。
去る1月23日に、辞職の申し出をされたと聞きました。苦渋の決断だったのではとお察しいたします。井戸川さんは、福島県の首長の中でただ一人、住民を県外に避難させ、原発事故の深刻な状況に対し無策、無責任な態度を取る政府、東電を公然と糾弾されてきました。放射能被害から町民の皆さんを守るために、あらゆる措置を講じられてきました。辞職されたことは残念に思います。
昨年10月にお会いした際、チェルノブイリと日本の避難基準を比較した表を見せて下さいましたね。日本政府が、直ちに健康への影響はないとの見解から、年間の放射線許容量を20mSvまで引き上げたと知り驚きました。
ご存知の通り、ICRPは一般公衆の年間被曝許容限度を1mSvと勧告しているほか(放射線取扱従事者の被曝許容限度は年間20mSv)、子供は大人よりも放射能に対する感受性がより高いことは周知の事実です。また、放射能が及ぼす健康被害についても幅広く論文化されており、最近ではニューヨーク・サイエンス・アカデミーが2009年に発行した研究書に詳細が述べられています。 そして、多くの独立した研究者が数十年来の研究結果から、被爆に安全なレベルはないと唱えています(ICRPも閾値※なし直線仮説を認めています)。
※閾値:被曝量100mSv以上で影響が現れ100mSv未満では影響がないとする説
ICRPが勧告した年間被曝許容限度の引き上げ正当化の立証責任は、日本政府にあります。しかし、そんなことを実証できるのでしょうか。実際には、これ(1mSv)以下の低線量被爆による健康被害が認められていることから、許容限度など何の役にも立ちません。政府に福島県民の皆さんがモルモットのように扱われている事態は許しがたいです。事実、政府はIAEAとWHOの協力のもと、福島県民の健康実態のデータを集めようとしています。これは人権侵害であり、即刻阻止しなくてはなりません。
井戸川さんは、今後も政府当局による非人道的な扱いから、町民の皆さんを守るための戦いを続けていかれると聞きました。より多くの人々が共闘することを心から望んでいます。人々が高濃度汚染地域での生活を強いられていることは到底受け入れられません。政府と福島県が、双葉町の皆さんを致死的なレベルに汚染された地域に帰還させようと画策していることは狂気の沙汰としか言いようがありません。
また、福島県の約40%の子供達に甲状腺の異常が認められたことは恐るべき事態です。福島県外でも、甲状腺異常の発生件数が増えていると聞きました。このような非常事態の中、保健当局は真実を隠蔽し、被曝の影響を否定しています。(昨年)お会いした時に井戸川さんが強調されていた通り、日本人はチェルノブイリから学ばなければなりません。福島の状況は、住民の皆さんの全体的な健康被害の発生頻度を見る限り、チェルノブイリよりもはるかに深刻に思えます。ご存知かと思いますが、チェルノブイリ周辺における甲状腺がんの発生件数は、1990年代(被曝4年後)に入ってから増加し始めました。双葉町では約300人の住民の皆さんが、福島第一原発の第1号機爆発後、高濃度の放射性降下物を浴びたと仰っていましたね。にもかかわらず、政府や保健当局は、被害者の皆さんに対して健康調査を実施しなかったとのこと。(昨年の)会合時にお約束した通り、ジュネーブ市は、医療関係者やIndependent WHOなどをはじめとする団体と協同して、適切な健康調査が実施されるよう、最大限サポートしていく所存です。他に何か協力できることがありましたら、遠慮なく仰って下さい。
今後益々のご活躍をお祈りするとともに、正義を勝ち取るための戦いに多くの皆さんが団結することを望んでやみません。くれぐれも健康に留意され、またジュネーブでお目にかかれることを楽しみにしております。 敬具