中国の大気汚染は極めて深刻で、12日、13日の北京では一部の観測点で「PM2.5」と呼ばれる大気中の微粒子濃度が史上最高の1立方メートル当たり900マイクログラムに達したということです(世界保健機関=WHO 指針値の36倍に相当)。
「PM2.5」粒子は2.5ミクロン以下で肺の奥、さらには血管にまで侵入し、ぜんそく・気管支炎、肺がんや心臓疾患などを発症・悪化させます。
北京大学の2012年の調査では、北京、上海、広州、西安で「PM2.5」を原因として高齢者や子ども、肺・心臓に疾患のある人を中心に実に年間8000人が死亡していると推計しています。(サーチナニュース
2013/01/15)
大気の汚染は勿論北京などにとどまるものではなく、日本国土の実に3.9倍の面積がスモッグで覆われていると言われます。
また2007年に世界銀行と環境保護部が行った調査では、中国全土で「PM10」を中心とする大気汚染による年間の死者は35万~40万人で、その他30万人が室内の劣悪な大気環境(意味が不明ですが)で、6万人が工場排水で汚染された水により死亡しているとされ、中国における公害死は年間75万人にも及ぶということでした(ファイナンシャルタイムズ2007.7?)。
まさに想像を絶する数値です。これは5年前のデータですが、公害対策を講じないで生産を飛躍的に増大させてきたなかでは、公害は拡大し死者はさらに増加しているものと思われます。
因みに日本では、公害が問題となった1970年代の前半に対策を強化し、最盛期には公害防止施設への投資額は全設備投資の18%、GDP比で8.5%にも達しました。公害問題を解決するには、中国にもそうした問題意識(企業倫理)と覚悟のほどが求められます。
中国のインターネット・メディアも大気汚染問題に対する(地方)政府の姿勢を批判する記事を掲載し、大気汚染の主犯が石油精製会社であるとするなどの論陣を張っています。そして日本紙の論調を報道する形で、日本が公害対策を行って克服した実績を紹介し、大気汚染の解決のために日中が共同すべきだとする記事も見られます。
以下にサーチナのニュースを3つ紹介します。
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全国規模の大気汚染で中国メディアが当局批判 「謝罪の言葉ない」
サーチナ2013年2月4日
中国新聞網、光明網、人民網など中国のインターネットメディアは2日、全国紙の工人日報が掲載した全国規模の大気汚染で各地の当局の姿勢を批判する記事を転載した。記事は、「今に至るも、毒霧が都市を封鎖したことについて、謝罪する市長はひとりもいない」などと指摘した。
現在、最大の問題とされているのは、空気中に浮遊する直径2.5マイクロメートル以下の微粒子だ。同微粒子はPM2.5と呼ばれ、吸い込むと肺の奥まで到達し、喘息(ぜんそく)や気管支炎の原因になるとされる。また、ディーゼルエンジンなどから排出された微粒子は、発癌(がん)性の恐れもある。
記事は、中国でPM2.5の問題が注目されるようになったのは2012年秋に北京市内の米国大使館が計測装置を設置して結果を発表するようになって以来と説明。現在は全国74都市がPM2.5指数を発表しているとも紹介したが、米国大使館の措置で急に注目されることになったと指摘することで、各地の当局の認識や対策は遅れていたと、遠まわしに論じた。
1月に発生したスモッグなどについては、北京市内でPM2.5の指数が国際基準の100倍近く、国内基準の30倍に達したと紹介した。冬から春にかけての大気汚染については黄砂の問題にも触れ、数年前から流行している「われわれは黄色く濁った空気を吸い、新鮮な二酸化炭素を吐き出している」との自虐的な言い回しにも触れた。
PM2.5の汚染の原因について、「大気が停留したため」などとする気象の専門家の説明については、「われわれが無能なせいではない。天のせいだ」とする当局指導者の弁解が潜んでいるようだと批判した。
大気汚染を軽減するためには、環境の改善を政府指導者の業績評価に組み、問責のシステムをしっかりさせねばならないと主張した上で「残念ながら現在に至るまで、汚染が発生した都市の市長が大衆に謝罪した例はない」と指摘した。(編集担当:如月隼人)
中国石油企業の大手トップ「われわれに大気汚染の責任ある」
サーチナ 2013年2月1日
中国の石油化学大手、中国石油化工集団の傅成玉董事長(代表取締役)は1月31日、全国的に続いている深刻なスモッグについて「石油精製企業は直接の責任者のひとつだ」と述べた。中国新聞社が報じた。
中国では深刻な大気汚染について、石油会社が「主犯」とする論調が高まっている。傅董事長は「石油精製企業がスモッグ発生の直接の責任者のひとつ」と認めた。
傅董事長は製品油を燃焼した際に含まれる硫黄含有量について、北京で適用されている基準の「京5」では10ppm以下だが、上海、広東省の珠江デルタ、江蘇省など一部の地域で使われている「国4」の基準では50ppm、その他の広い地域で使われている「国3」の基準では150ppm以下という、極めて緩い基準だ。
傅董事長は米国では30ppm以下、欧州では10ppmの基準が適用されていると説明し、「北京では欧州と同様の基準が適用されているが、それ以外の広い範囲では、石油廃ガスに含まれる硫黄分は欧州の15倍、米国の5倍だ」と述べた。
傅董事長によると、南京や上海などでも、現在は一部地域で適用されている「国4」よりもさらに厳しい「国5」の基準に対応できる製油所が存在する。ただし、製造コストが向上するため、国が製品油の販売価格引き上げを認めてくれないと、新たな基準の製品油を普及させる動きは遅くなるという。
石油関係の情報を扱う中宇資訊に所属するアナリストの高承莎氏は、大気汚染の原因物質の排出を低減するためには、石油製品の価格引き上げだけでなく、市場の意識改革に時間がかかるとの見方を示した。
価格を引き上げることは、消費者の購入意欲が減退するだけでなく、販売量が低下する恐れがあるために生産者の積極性もそがれることになる。多くの要因を考えると、中国国内で製品油の品質を引き上げる道のりは遠く、各方面の利益のバランスを図っていく必要があるという。(編集担当:如月隼人)
濃霧が日本に影響を及ぼす?日中が共同対策する必要=中国
サーチナ 2013年1月31日
ここ数日、100万平方キロを超える規模の濃霧が中国を覆い、多くの地域で大気汚染が深刻なレベルに達している。中国網日本語版(チャイナネット)は31日、「日本の報道機関も汚染物質の日本への影響を懸念し、日中両国が協力して同問題に取り組むべきと呼びかけている」と報じた。以下は同記事より。
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産経新聞などの報道機関は、「北京一帯が濃霧に覆われている」、「日本の3倍の地域が濃霧に包まれる」、「街が肉眼ではっきり見えない」などと報道、広い範囲の大気汚染が、主に自動車、工場、暖房用ボイラー、火力発電所などから発生しており、空気の比重が重くなる冬に大気汚染が発生しやすいと説明した。
また、「有害物質が風に乗って日本に飛んでくる」と懸念を示し、環境省は国民に「できるだけ外出を避け」「窓はしっかりと閉め」「空気清浄機を使用」と呼びかけた。
また、朝日新聞、読売新聞はいずれも日中は地理的に非常に近い位置にあり、緊密な経済関係にあるため、中国の環境は日本にとって重要であることは言うまでもないと指摘。戦略的互恵関係にあることからも、日本政府は省エネ、環境保護の面から中国政府と協力し、効果的な技術サポートを提供するなど共同でこの汚染問題に対処すべきと提案している。
具体的には、日本の地方行政機関も中国との環境協力を進め、企業にとっては好機となるだろう。また、大学や各研究機関との協力も必要だ。
日本は環境保護の面で豊富な経験がある。1960年代に「大気汚染防止法」を制定し、1970年代と21世紀初頭には汚染問題の深刻化、汚染源の増加などに基づき、3回の大幅な法改正を行った。
さらに、地方行政機関は環境管理の制度上、重要な役割を果たしている。日本では、地方が制定している環境基準は国の基準よりも厳しい(いわゆる県条例による上乗せ基準)。また環境管理制度の改善は国よりも進んでいる。
日本には環境審議会、公害審査会、大気汚染被害者認定審査会など、非常に多様な環境保護の機関・団体がある。こうした機関や専門家、代表の意見が直接、地方行政に反映している。各種環境審議会は科学的な施策決定の役割やコンサルティングを行い、しかも行政と市民の橋渡しも果たす。
工業化前期の日本も公害の苦しみを経験した。1980年代、日本ではさまざまな手段で汚染対策が進められた。その1つが都市の緑化だ。東京では法律で新築ビルの屋上緑化までも義務付けている。また、自動車の排出ガス規制も行われている。首都である東京都内を走る数万台のタクシーは、すべて天然ガス車だ。2000年12月、東京都は関係条例を制定し、PM2.5排出基準を満たさないディーゼル車の都内乗り入れを禁止した。
現在、首都圏では高速道路の入り口やサービスエリアでこれに関するチェックを定期的に実施している。ほとんどの自動車メーカーはディーゼル車の設計時にフィルターを追加し、中古車にもフィルターを装備したものが増えている。
日本の環境省は大気汚染物質の広域監視システムを設置して、PM2.5を含む各種の大気汚染物質をモニタリングしており、データの集計分析内容は24時間ネット上で公表されているのだ。 (編集担当:米原裕子)