2013年2月28日木曜日

TPP 安倍首相のごまかし


自民党は先の衆院選で「TPP交渉参加の判断基準」を政権公約にして政権を勝ち取りました。具体的には次の6項目です。

1. 「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り、交渉参加に反対する。
2. 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
3. 国民皆保険制度を守る。
4. 食の安全安心の基準を守る。
5. 国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。
6. 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。 

TPP交渉参加に当たっての日本側の留意点(条件)が要領よく適切にまとめられています。

しかし政権についた安倍首相は、いつの間にか国会等であたかも「聖域なき関税撤廃」の回避のみが条件であるかのような説明をし出しました。そして日米首脳会談に臨むに当たっては「大統領から聖域保証の“感触”が得られれば・・・」と、その基準すらも大幅に緩和しました。
安倍首相が訪米前からTPP参加を決めていたことは、218日付 日経ビジネス「安倍首相、TPP交渉参加決断へ」(安藤毅 日経ビジネス編集委員)でも明らかです。 

そして首脳会談が終わると、メディアとともにあたかも「聖域」が認められたかのような演出をして、帰国後には交渉参加判断の政府一任を党内で取り付けました。自民党内には交渉参加に慎重な意見の人が200人を超えていた筈ですが不思議なことです。

共同声明は、「交渉参加に当たって『関税の全面撤廃』を言明する必要まではないが、どうするかは交渉の中で決めよう」というきわめて当たり前にことを述べているに過ぎません。そもそもオバマ大統領はTPP交渉委員会の主宰者というわけではないので、そんな言質を与えられる筈もありません。 

共同声明の「自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し、その他の非関税障壁に対処し、TPPの高い水準を満たすことについての作業を完了することを含め、解決する作業が残されている」という文言から読み取れるものは、むしろ
「米国が要求している自動車と保険の問題にはまだ決着がついていない。TPPが求めている『非関税障壁』の完全な撤廃を実現するための作業が残っている」とする、米企業が日本で自由に活動が出来るようにしようとするアメリカの魂胆であり本性です。

アメリカが強い医療保険・医薬、さらには診療業務分野で業績を伸ばしていくに当たって、日本の国民健康皆保険制度が何よりの「非関税障壁」であると言い出さない保証はどこにもなく、それが目的で日本にTPP参加を強いてきたアメリカがためらう筈もありません。 

27日付のしんぶん赤旗に「TPP 安倍首相 このごまかし・・・・」と題する鈴木 宣弘(のぶひろ)東大教授のインタビュー記事が載りました。
同教授は農学が専門で、数年前にTPP問題が生じた時から一貫してTV等でTPPの問題点を指摘する論陣を張って来られた方です。
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TPP  安倍首相 このごまかし “聖域なし”確認しながら“聖域あり”?         東京大学大学院教授 鈴木 宣弘さんに聞く
     しんぶん赤旗 2013227 

 安倍晋三首相は、オバマ米大統領との会談を受け、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に大きく踏み出そうとしています。この事態をどうみるか。東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授に聞きました。(聞き手 渡辺 健)
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交渉参加反対の声 総結集を
 安倍首相は、TPP交渉について「(日米首脳会談で)聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になった」などとして「なるべく早い段階で決断したい」と表明しています。 

「関税も非関税も撤廃」明記
 “聖域なき関税撤廃が前提でない”というのは、まったくのごまかしです。日米首脳会談後に発表されたTPPに関する共同声明をみると、日本がTPP交渉に参加する場合には「全ての物品が交渉の対象とされる」としています。また、日本は、TPP交渉参加国首脳が表明した「TPPの輪郭」で示された「包括的で高い水準の協定」を達成していくことになるとなっています。2011年11月12日に発表された「TPPの輪郭」は、「関税ならびに物品・サービスの貿易および投資にたいするその他の障壁を撤廃する」と明記しています。 

 TPP交渉とは、関税も非関税障壁も全て撤廃するものだと、日米首脳は改めて確認したわけです。「聖域」がないことを確認しておきながら、「聖域」があるかのようにいうのは、ごまかしそのものです。 

 何をもって「聖域」というかという議論もあります。これまでの日本の自由貿易協定のなかで例外にしてきた重要品目、コメ、酪農品、畜産、畑作、砂糖などが「聖域」と理解されます。仮にコメだけが例外になるという話があったとしても、「聖域」を守ったことにはなりません。関税分類上、重要品目は840もあります。 

米国も例外を認められず
 いままでにない例外のない協定をやる。それがTPPの出発点です。関税について合意されているのは、例外なしにすべて撤廃する。重要品目についてはそれぞれの国で、ゼロにするまで7年から10年ぐらい猶予期間があるにすぎません。アメリカはごり押しで、乳製品と砂糖について、オーストラリア、ニュージーランドにたいして例外扱いさせようとしています。両国は反発し、そんな例外を認めるのであればTPPに署名しないといっています。アメリカでさえ、例外が認められないところまで、交渉は進んでいます。 

 しかも、日本が参加するための条件として、アメリカは現交渉参加国が決める協定に、日本がどの段階で入ってこようが、従うだけで交渉の余地も逃げる余地もないとはっきりいっています。最近、参加が承認されたカナダ、メキシコは念書を交わしましたが、これまでに決まった内容について文句をいわない、これから決まる条文についても基本的に口をはさまないという屈辱的な念書です。日本だけが交渉で例外をつくれるはずがありません 

許されぬ国民への裏切り
 総選挙での自民党の公約は6項目ありました。「聖域」問題はもちろんほかの公約も守られる保証は何もありません。例えば「自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない」と公約しています。ところが、アメリカは日本の交渉参加の条件、“前払い”“頭金”として、アメリカの自動車をもっと輸入するようにしろと迫っています。保険も残っていると“頭金”を求めています。米国産牛肉の輸入については、すでに規制を緩めてしまいました。「国民皆保険制度を守る」「国の主権を損なうようなISD(投資家対国家紛争)条項は合意しない」という公約も守られる保証はありません 

 総選挙で自民党の多くは「TPP交渉参加反対」を公約して当選しました。その舌の根が乾かないうちに、国民を裏切ることは許されません。 

 農業については、ゼロ関税にしてしまえば、ばく大な金銭補償がなければ、いまの生産水準を維持することなどできません。1兆円規模の補償という話もあるようですが、毎年4兆円ぐらいかかるのですから、まったく足りない。失うものが大きすぎ、“条件闘争”などは成り立ちません。参加反対しかありません 

互恵的な貿易ルールこそ
 政府や財界は「アジアの成長を取り込む」といっています。しかし、中国、インド、インドネシア、韓国も参加しないといっています。アジアのいい貿易ルールをつくるとか、「成長戦略」というのであれば、強いものだけが勝つTPPのような暴力的な協定であってはなりません。日本が東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力し、日中韓もいっしょになってアジアに適した柔軟で互恵的なルールをつくることが大切です。そこにアメリカも参加したいというのであれば、乗せてあげればいい。 

 日本がTPPに参加すれば食料自給率が13%に下がるなど国民の命がかかっています。医療も崩壊しかねません。仕事も奪われます。地域、各界各層に広がったTPP交渉参加反対の声をいまこそ総結集する時です。