『ニューヨーク・タイムズ』編集部が作成した〝ガザ報道の用語使用に関するメモ″が外部に流出しました。そのメモを入手した独立系メディア『インターセプト』がその内容を以下のように報じました。。
同メモは、記者がガザ報道に関する記事を書く場合どのような用語を使い、どのような表現に注意すべきかの基準を示したもので、「大量虐殺」「占領地域」「民族浄化」、さらには「難民キャンプ」「パレスチナ」などの、国連でも使われている用語や表現が「不使用」とされています。
その理由として、「紛争の性質上、あらゆる方面で扇動的な言葉遣いや扇動的な非難が行われている。たとえ引用文であっても、そのような言葉を使用する場合には細心の注意を払う必要がある。~ 激しい言葉遣いはしばしば事実を明確にするどころか曖昧にしてしまう可能性があるから」と明記しているということです。
そして「占領地域」と呼んではいけない理由は、「紛争の現実を曖昧にし、紛争が10月7日に始まったという米国とイスラエルの主張に影響を与える」からだということです。
『ニューヨーク・タイムズ』編集部は、このような用語規制は「“すべての側の公平性”を目的とする」からだとしていますが、そんなたてまえ論とは裏腹に同紙のガザ報道では、規制されているはずの用語がハマスによるイスラエルでの戦闘を説明するときにはくり返し使用されていて、この規制が一方に偏ったものであり、イスラエルのパレスチナ人への大量殺害には沈黙し容認するためのものであることが一目瞭然です。
実際に『インターセプト』が昨年10月7日から11月24日までの『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ロサンゼルス・タイムズ』の戦争報道を分析した結果、これらの大手紙は「虐殺」「大虐殺」「恐ろしい」などの用語を、イスラエルによって意図的に殺害されたパレスチナ民間人ではなく、もっぱら〝パレスチナ側の攻撃の犠牲となったイスラエル民間人に限定して使用″していて、イスラエル人の死に言及して「虐殺」と表現したのは53回でパレスチナ人の死についての同じ表現は1回だけでした。
まさに「公平性」の対極にあるもので、パレスチナ側を残虐な存在と誤解させる以外の何ものでもありません。「語るに落ち」ました。
長周新聞の記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ジェノサイド」や「民族浄化」などはNG 『ニューヨーク・タイムズ』のメモが示すもの
長周新聞 2024年5月18日
イスラエルのガザでの大虐殺について西側メディアは沈黙することで、それに加担する報道を続けている。アメリカでは大手メディアが、沈黙を拒否する学生たちのキャンパスでの活動を醜くく描くことで真実を覆い隠そうとする姿を重ねてさらけ出すことになった。こうしたなか、『ニューヨーク・タイムズ』編集部が作成したガザ報道の用語使用に関するメモが外部に流出したことで、「リベラル」を自認するジャーナリズムの犯罪性が浮き彫りになっている。このメモを入手した独立系メディア『インターセプト』が報じている。
イスラエルの犯罪報道のみ「慎重に」
『ニューヨーク・タイムズ』から流出したメモは、記者がガザ報道に関する記事を書く場合どのような用語を使い、そのような表現に注意すべきかの基準を示したものだ。そこでは「大量虐殺」「占領地域」「民族浄化」、さらには「難民キャンプ」などの国連でも使われている用語や表現が「不使用」とされている。「パレスチナ」という用語(領土および国連承認国家の両方をあらわす名称として広く使用されている)すらも「通常の文章や見出しには使用しない」と記載されている。
メモにはその理由として、「紛争の性質上、あらゆる方面で扇動的な言葉遣いや扇動的な非難が行われている。たとえ引用文であっても、そのような言葉を使用する場合には細心の注意を払う必要がある。われわれの目標は明確で正確な情報を提供することであり、激しい言葉遣いはしばしば事実を明確にするどころか曖昧にしてしまう可能性がある」と明記している。
たとえば、「虐殺」「大虐殺」「大量虐殺」などの用語は「情報よりも感情を伝えることがよくある。みずからの声で使用する前によく考えるように」と注意するよう指示している。また、「占領地域」の用語に関しては、「それぞれの状況が若干異なるため、可能であればこの用語を避け、具体的に(例えば、ガザ、ヨルダン川西岸など)書く」と示している。
国連はガザ、ヨルダン川西岸、東エルサレムを「イスラエルが占領したパレスチナ占領地」とみなしているのだが、「占領地域」という用語は「紛争の現実を曖昧にし、紛争が10月7日に始まったという米国とイスラエルの主張に影響を与えている」というのが、その理由だ。
“公平性”という欺瞞
『ニューヨーク・タイムズ』編集部は、このような用語規制は「あらゆる方面で」殺害を描写するうえで扇動的な用語を使わないようにするためだといい、「“すべての側の公平性”を目的とする」からだとしている。だが、そのようなたてまえとは裏腹に同紙のガザ報道では、規制されているはずの用語がハマスによるイスラエルでの戦闘を説明するときにはくり返し使用されてきた。実際には、この規制の適用は一方に偏ったものであり、イスラエルのパレスチナ人への大量殺害には沈黙し容認するためのものであることが一目瞭然となっている。
『インターセプト』は今年1月、昨年10月7日から11月24日までの『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ロサンゼルス・タイムズ』の戦争報道の分析した結果を明らかにしていた。それによると、これらの大手紙は「虐殺」「大虐殺」「恐ろしい」などの用語を、イスラエルによって意図的に殺害されたパレスチナ民間人ではなく、もっぱらパレスチナ側の攻撃の犠牲となったイスラエル民間人に限定して使用していた。
たとえばこの間、イスラエル人の死に言及して「虐殺」と表現したのは53回、パレスチナ人の死についての同じ表現は1回だけであった。この時点でパレスチナ人の死者が約1万5000人に達していたが、それにもかかわらず「虐殺」の用語の割合は22対1であった。また、10月7日のハマスによる攻撃で死んだイスラエル人の大部分は現役、非番、または予備役だったにもかかわらず、「虐殺」や「大虐殺」などの用語が多用されていた。さらに、ハマスによって「虐殺された」人々の多くがイスラエル軍の手による「同士討ち」で死亡した(イスラエル側が認めている)という事実や、それらの人々がイスラエルによる包囲と以前のガザ虐殺に直接関与していたことについてはほとんど言及していなかった。
編集部内の対立を反映
『インターセプト』によれば、このたびの用語統制メモの流出は、ガザ報道をめぐる『ニューヨーク・タイムズ』編集部内の対立・混乱を反映したものだ。この漏洩を受けて、同社ではきわめて異例の社内調査が始まった。だがその過程で、中東や北アフリカ系の従業員を標的にしたことが、さらに厳しい批判にさらされることになった。ジョー・カーン同紙編集長はスタッフに対し「漏洩調査は不成功に終わった」と語っている。
ガザ報道をめぐる同社内の対立は、とくに「10月7日のハマスによる組織的な性暴力」をセンセーショナルに報じた「言葉なき叫び」と題する記事(12月28日付)がねつ造であったことから先鋭化していた。
この扇動記事の内容は多くの西側メディアによって報じられ、イスラエルのガザでの残忍な攻撃と欧米のそれへの軍事支援を正当化するために利用された。しかし、その後さまざまな調査報告で、この記事にはなんら根拠がないことが判明した。この記事を寄せたのは、パレスチナ人への憎悪と暴力を煽るSNS上の複数の投稿に「いいね!」を付けていたフリーランスのイスラエル人ジャーナリストであった。
ちなみに最近、60人以上のジャーナリズム専攻の大学教授らが『ニューヨーク・タイムズ』に「ハマスのメンバーが10月7日に大規模な性暴力をおこなった」という報道について、なぜ「このような粗末な記事が撤回も調査もなしに掲載された」のか、第三者機関による「独立した調査を依頼する」よう求める書簡を送る事態となっている。