賀茂川耕助氏が海外記事を紹介する「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。
記事の多くの部分は、5月10日の国連の緊急特別会合で、パレスチナの国連加盟を支持し安保理に再検討を求める決議を143か国の賛成多数で採択した際に、イスラエルのギラド・エルダン国連大使が行った あまりにも理不尽・不条理で、下品・侮辱的,、そして品位に欠ける意見表明の批判に費やされました。
原著者は、リクード党の党首でもあるエルダンは経験豊富な政治家であり、十分な教育を受け、よく訓練されており、その演説も入念に準備されたものであって、彼が他の国連大使たちや自分のような視聴者に向かって話していると思ったのは間違いで、実は彼のX(旧ツイッター)の15万7000人のフォロワーとイスラエルの右派リクード党の支持者のために大げさな演説をしたのであるとしています。
そういわれれば日本で呆れるばかりの反人権的発言に終始している某女性議員なども、その発言は国民全体に対するものではなく、ひたすらは自分を支持してくれている人たちに向けてのものだったのでした。
しかしそんな少数派を必死に擁護しようとしている米国が、これまで築いてきた筈の地政学的地位を崩しつつあるのはもはや疑いのない事実です。
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アメリカの地政学的地位は崩れつつある
耕助のブログNo. 2158 : 2024年5月25日
America’s geopolitical position is crumbling by Jeffrey D Sachs
より多くの国がパレスチナを承認し、国連加盟を歓迎する中で、イスラエルロビーは挟み撃ちの状態にある。一方では米国有権者、特に米国の若い有権者がイスラエルの残虐性に愕然としている。もう一方で米国の地政学的立場が崩れつつある。
私たちは、国連でパレスチナ国家の大義を提示したイスラエルのギラド・エルダン国連大使に皮肉な恩義がある。エルダンが国連総会においてあまりにも無茶苦茶で、不条理で、下品で、侮辱的で、品位に欠け、外交的ではない演説を行ったため{1}、パレスチナ国連加盟の賛成票が143対9(残りは棄権または無投票)という結果となった。しかしそれ以上に、エルダンはイスラエルの戦術的アプローチ、そしてそれがなぜ失敗する運命にあるのかを明らかにするのに貢献したのだ。
エルダンの演説の内容を考えてみよう。エルダンは端的に、パレスチナ=ハマス、ハマス=ヒトラーのナチス帝国だと主張した。エルダンは国連代表団に対し、「あなた方の多くがユダヤ人嫌いだから」パレスチナ国家を支持しているのだと語った。そして彼は演壇で国連憲章を切り裂き、代表団はパレスチナの国連加盟に投票することで同じことをしていると主張した。その一方で、エルダンの演説と国連での投票とまったく同じ日に、イスラエルは、罪のない市民をさらに虐殺するためにラファに軍を集結させていた。
エルダンの暴言は毒々しい憎悪と不条理のレベルに達していた。パレスチナは平和を愛する国家として国連に加盟するという公約は、リヤド・マンスール国連パレスチナ大使によってしっかりと雄弁に語られた(23:44から)。「我々は平和を望んでいる」とマンスール大使は明確に宣言した。さらに、2国家解決はもちろん外交的空白では実現しないだろう。2002年のアラブ和平イニシアチブによれば{3}、そして昨年11月にリヤドでアラブ・イスラム諸国によって再確認されたことは{4}、アラブ・イスラム諸国は、2国家解決策の一環として和平とイスラエルとの関係正常化を支持することを繰り返し約束した。
エルダンの誹謗に反して、国連総会の各国政府はもちろんユダヤ人嫌いではない。イスラエル政府によるガザでの攻撃を嫌悪しているのである。それは国際司法裁判所(ICJ)でジェノサイド(大量虐殺)の罪に問われているほどの大虐殺である。同じ誤った告発が、反ユダヤではなく、反アパルトヘイト、反ジェノサイドの学生デモ参加者に対してもなされている。
問題は、エルダンが実際に何をしたのかということだ。それはパレスチナを支持する世界的な圧倒的な票を減らすどころか、強めることにしかならないような大げさなものだった。もちろん彼はソーシャルメディアの時代に政治家なら誰でもやることをやった。彼はX(旧ツイッター)の15万7000人のフォロワーとイスラエルの右派リクード党の支持者のために大げさな演説をしたのである{5}。
当初、エルダンの話を聞いていた私は、この男はホロコースト後のトラウマに苦しみ、あらゆる影にヒトラーが潜んでいると見て、錯乱しているのではないかと単純に考えていた。しかし、そのような見方は甘かった。エルダンは経験豊富な政治家であり、十分な教育を受け、よく訓練されており、入念に準備されたスピーチ(小道具としてポスターとシュレッダーも含む)を完全に使いこなしていた。私の最初の勘違いは、彼が他の国連大使たちや私のような視聴者に向かって話していると思ったことだ。
かつての放送時代の政治と今日のソーシャルメディア時代の政治との大きな違いは、政治家がもはや広範な国民に向けて話してはいないということだ。政治家たちは今や、自分たちの支持基盤や 「支持基盤に近い人たち 」とのコミュニケーションに終始している。今日、一人ひとりは、個人の選択(どのウェブサイトを訪問するか)、デジタル「フォロワー」のネットワーク、フェイスブック、X、ティックトックなどのプラットフォームのアルゴリズム、そして諜報機関、政府の宣伝担当者、企業、政治工作員を含む隠された力によって共同で構築された、個人化された「ニュース」を受け取っている。その結果、政治家は自分たちの支持層を動員し、やる気を起こさせているのである。
政治家エルダンと彼のリクード党は、ハマスがガザの政治を支配していたよりも、いや、ハマスが存在していた期間よりずっと長い間、パレスチナ人と戦ってきた。エルダンはリクード党の中で青年部からずっとパレスチナ国家と2国家解決策に常に激しく反対する運動の中で育ってきた。実際、リクードは長い間、パレスチナ人を分断し、それによって2国家解決を求める国際的な要請をかわすための策略、政治的な小道具としてハマスを扱ってきた。イスラエルのメディアでさえ報じているように{6}、リクードの指導者たちは長年にわたってアラブ諸国と協力し、ハマスに資金を供給し続けることで、パレスチナ当局に継続的な競争を仕掛けてきたのだ。
では、イスラエルがますます世界から孤立していく中で、リクードの戦略は何なのか。ここにも、エルダン自身の過去の政治的策略がヒントになる。エルダンは、裕福なアメリカのユダヤ人コミュニティーだけでなく、アメリカのキリスト教福音派コミュニティーともリクードの同盟関係を築くことに成功したイスラエルで最も抜け目のない政治家の一人だ。キリスト教シオニストは、ハルマゲドンの前段階としてではあるが、イスラエルの聖地支配を熱烈に支持している。
リクードの戦術的信念は、良いときも悪いときもアメリカは常にそこにいるだろう、なぜならイスラエル・ロビー(ユダヤ教、キリスト教福音派を問わず)とアメリカの軍産複合体が常にそこにあるからだ、というものだ。リクードの賭けはこれまでうまくいってきたし、これからもうまくいくと信じている。そう、イスラエルの暴力的な過激主義は、バイデンがアメリカの若い有権者の支持を失うことを意味するだろうが、もしそうなら、それは11月のトランプ当選を意味するだけであり、リクードにとってそれはなお良いことなのだ。
リクードの戦略では、イスラエルの大規模な戦争犯罪に愕然とし、まったく反抗的なイスラエルに2国家解決策を押し付けることに賛成する世界社会がますます結束を強めている中で、唯一の阻止勢力であるアメリカにイスラエルの安全保障を完全に依存している。しかし、米国の核心的利益(経済、金融、商業、外交、軍事)は、国際システムの中でイスラエルと共に孤立することとは相容れない。
イスラエルロビーは挟み撃ちにされるだろう。一方は、アメリカの有権者、特にアメリカの若い有権者がイスラエルを非難している。もう一方ではアメリカの地政学的地位が崩れつつある。近いうちにスペイン、アイルランド、ノルウェーなど多くのヨーロッパ諸国がパレスチナを承認し、国連加盟を歓迎すると予想されている。エルダンはリクード党の頂点に立つかもしれないが、リクードとその過激で暴力的な連立パートナーはまもなくその傲慢さ、暴力性、残虐性の限界にぶつかるだろう。
Links:
{1} https://www.youtube.com/watch?v=ltqJEV5UULE
{2} https://www.commondreams.org/news/israel-ambassador-un
{3}https://www.kas.de/c/document_library/get_file?uuid=a5dab26d-a2fe-dc66-8910-a13730828279&groupId=268421
{4} https://www.fm.gov.om/final-statement-of-extraordinary-joint-arab-islamic-summit/
{5} https://twitter.com/giladerdan1/status/1789033224531771421
{6}https://www.timesofisrael.com/for-years-netanyahu-propped-up-hamas-now-its-blown-up-in-our-faces/#:~:text=According%20to%20various%20reports%2C%20Netanyahu,West%20Bank%20and%20Hamas%20in
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。