土田修氏による「仏発・グローバルニュースNO9」に掲題の記事が載りました。
ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、米国と西側諸国からは大量の武器供与と資金提供が続いています。ウクライナ側の劣勢とロシアの攻勢が伝えられる中、2月26日にパリで開催されたウクライナ支援の国際会議で、マクロン仏大統領はウクライナへの地上部隊派遣について「どんな可能性も排除されてはならない。われわれはロシアが勝利しないようあらゆる手段を講じるだろう」と述べました。
しかし米、英、独、スペイン、イタリアなどはマクロン氏の発言をきっぱり拒み、ドイツの新聞は「フランスの外交戦略は思慮に欠けている」と批判しました。まかり間違えば核戦争に発展しかねない方向に舵を切ろうとしているのですから当然です。
ところが、フランスのジャーナリストや専門家らは「大統領の毅然とした態度」を称賛し、ル・モンド紙の論説委員ら4人の論客が出演し議論した公共放送の番組(3月3日)では、「軍事的解決のため一線を超える時が来るかもしれない」という点で意見が一致したということです。
NATOの主要国が揃って反対しているマクロン氏のこの突出した発言は一体どこから来て、それを何故フランスのメディアは絶賛しているのでしょうか。これまでウクライナ戦争について理性的な対応をしてきたメディアは一体どうしたのでしょうか。
このフランス メディアの変貌に対して土田氏が大いに戸惑いを感じていることがそのまま伝わってくるレポートです。
併せてマスコミに載らない海外記事「ウクライナでの敗北をフランスは正当化しようとしているのか?」を紹介します。
ここで展開されているのは、ウクライナ側の傭兵部隊として参戦したフランス人の少なくとも数百人が死亡したものの「戦死」と扱えないでいる現状を、打開するための方策という見方です。
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フランス発・グローバルニュース:マクロンの「軍隊派遣」発言とフランス・メディア
レイバーネット日本 2024-05-21
土田修 2024.5.20
ル・モンド・ディプロマティーク日本語版前理事
ジャーナリスト、元東京新聞記者
ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、米国と西側諸国からは大量の武器供与と資金提供が続いているが、大規模な地上部隊の戦線派遣は行われていない。昨年6月に始まったウクライナによる反転攻勢が失敗に終わり、ウクライナの戦況不利とロシアの攻勢が伝えられる中、最近、フランスのメディアはこぞって「西側諸国の軍隊派遣」を求める大合唱を始めた。発端になったのは2月26日にパリで開催されたウクライナ支援の国際会議後のマクロン大統領の発言だ。
「ル・モンド・ディプロマティーク」4月号に掲載されたセルジュ・アリミ記者とピエール・ランベール記者の記事「戦争の新しい犬ども(Les nouveaux chiens de guerre)」によると、マクロン氏はウクライナへの地上部隊派遣について「どんな可能性も排除されてはならない。われわれはロシアが勝利しないようあらゆる手段を講じるだろう」と述べたという。この発言にドイツのショルツ首相は「欧州やNATOが地上部隊を派遣することはない」と否定、NATO幹部も「ウクライナの地に軍隊を派遣する計画はない」と断言した。
米国や英国、スペイン、イタリアなどもマクロン氏の発言をきっぱり拒み、ドイツの新聞は「フランスの外交戦略は思慮に欠けている」と一笑に付した。ところが、フランス国内のメディアは違った。これまでウクライナ寄りの立場での発言や報道を続けてきたジャーナリストや専門家らが「大統領の毅然とした態度」を称賛し、一大応援団を結成した。
例えば、フランスのニュース専門テレビ局LCIのピエール・セルヴァン氏は、大統領の発言に「驚きと喜びの感情」を抱き、「この発言は前もって計画され、熟慮の上、構築されたものだ」と絶賛し(2月27日)、ル・モンド紙の論説委員ら4人の論客が出演し議論した公共放送のフランス・キュルチュールの番組では「軍事的解決のため一線を超える時が来るかもしれない」という点で意見が一致した(3月3日)。「侵略国家」ロシアと国境を接しているスウェーデンやバルト3国が大喜びしているという根拠不明の発言もあった。
この番組はこれまでウクライナ戦争について冷静な分析で定評があったが、この日は「ロシアの攻撃性に釣り合う報復は軍隊の派遣だ」「ロシアを支配しているのは悪党の一派だ。彼らに脅しをかけるべきだ」といった過激な発言が繰り返された。信じられないことに、この番組の出演者の一人である雑誌記者は、プーチン氏をオサマ・ビン・ラディンや「イスラム国」のテロリストと同類の「短絡的な考えの持ち主」と決めつけ、「(プーチン氏はわれわれを)ウクライナのために死の犠牲を出したくない臆病者の群れだと考えている」とまで言い放った。
専門家も負けてはいない。ニュース専門放送局フランス・アンフォに出演したパリ政治学院の講師は「マクロン氏は全くもって正しい」と前置きし、「ロシアは衰退の一途をたどるとるに足らない存在だ。大統領は一種のマフィアであり、ウクライナ人だけを戦わせるわけにはいかない」と主張した(3月17日)。
第二次世界大戦後、東西冷戦のはざまで「戦略的自律外交」に徹してきたはずのフランスのメディアが、大統領の不規則発言を奇貨として、かくも理性を失い好戦的でヒステリックな発言を大々的に取り上げ報道したことがあっただろうか。こうした国内の応援団の称賛ぶりに気をよくしたマクロン氏は、エリゼ宮に集まった招待客の前で「来年にはオデッサに軍隊を派遣せざるを得ないだろう」と嬉々として語ったという(3月15日付けル・モンド紙)。
昨年6月、久しぶりに渡仏し、パリのホテルで見ていたテレビニュースで、LCIのコメンテーターが「NATO軍はまもなくウクライナに入るのか?」と真面目に言い出したのを思い出す。ちょうど、ウクライナの反転攻勢が始まった時期で、画面には東部戦線の激しい戦闘シーンが映し出された。LCIの戦場記者やウクライナ兵のヘルメットに装着したビデオカメラが捉えた映像は戦争映画のように生々しく、ドイツから供与されたレオパルト戦車が次々とロシア軍によって破壊され燃え上がると、スタジオの女性キャスターが「あ、また戦車が!」と悲鳴を上げた。それに重ねるように星条旗を翻したNATO軍の軍事訓練の映像が映し出され、「ウクライナを救うにはNATO軍の投入しかない」とコメンテーターが何度も繰り返すのを耳にした。
もし、仮に西側諸国の軍隊が参戦すれば、欧州大戦になるだけでなく、人類史上初の核戦争に発展する危険性は十分にある。それだけに、軽々しく「NATO軍の参戦」を求めるテレビのコメンテーターたちの口ぶりには心底驚いた。それから1年、マクロン発言は「強いフランス」を称揚する好戦的で勇ましい論調に再び火をつけた。フランス防衛産業と密接な関係にある金融業界と太いパイプのあるマクロン氏は、「ドゴール派」の元軍人団体からも支持を集めている。今回のマクロン発言は6月の欧州議会選挙に向けた「演出」という見方もあるが、マクロン政権を持ち上げるフランス・メディアの大騒ぎぶりと劣化には恐るべきものがある。
▪️核を背景に欧州安全保障の盟主を狙うフランス
今回、マクロン氏は「西側諸国の軍隊」の派遣を言い出したが、「NATO軍」の派遣ではない。日本では「マクロンがNATO軍の派遣を要請した」と報じるメディアがあったが、明らかな誤報だ。マクロン氏の政治姿勢については、高級ブランド企業体「モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)」の大株主ベルナール・アルノー氏ら富裕層の優遇政策と「黄色いベスト」運動や年金改革反対運動など街頭での大衆行動に対する弾圧のほかにはさっぱり思いつかないが、2019年の「NATOは脳死状態にある」という発言を含めて、時折、「ドゴール主義」の信奉者のように米国主導のNATOに批判的な発言をすることがある。
第二次世界大戦後、フランスは東西冷戦のはざまで「独自外交」の道を突き進んできた。1963年にフランスと西ドイツが結んだエリゼ条約は西側陣営に衝撃を与えた。フランスは欧州経済共同体(EEC)6カ国の指導的立場に位置付けられ、西ドイツのアデナウアーも6カ国の政治協力という構想に傾いていった。ドゴールは英国のEEC加盟に反対したため、エリゼ条約はあたかも「英米VS仏・西独」という新たな対立構図を浮かび上がらせた。
米国は大慌てで、アデナウアーの次期首相エアハルトを親米路線に引き込み、NATOの多角的核戦力(MLF)に加入させた。ドゴールはMLFを「米国による核の支配の手段」とみなしていたから、西ドイツが米国の核の傘に入ることはドゴールにとって明らかな「裏切り行為」に見えた。66年、ドゴールはNATOの軍事機構からの脱退を表明し、駐留米軍のフランス領土からの撤退とパリにあったNATO本部の移転を求めた(山本健『ヨーロッパ冷戦史』ちくま新書)。
そのフランスは2009年にNATO軍事機構に43年ぶりに復帰する。フランスでは珍しく親米路線を突き進んだニコラ・サルコジ大統領の時代だ。とはいえ核政策の自立性を維持するためNATOの核計画(NPG)には加盟していない。1991年に短距離核戦力(SNF)の大幅削減が実現した結果、欧州に配備されている核戦力は米国が約150発、フランスが約300発、英国が約200発といわれている。核ミサイルを搭載した原子力潜水艦は世界中に配備されており、仮にフランスが他国に攻撃された場合、短時間で相手国を核攻撃できるといわれている。
フランスは、仏領ポリネシアやニューカレドニアなど海外領土を多数保有し、太平洋では世界最大規模の排他的経済水域(EEZ)を誇っている。ニジェール、マリ、ブルキナファソなどアフリカ旧植民地での「帝国主義的政策」が次々と破綻している現在、フランスの安全保障政策の主舞台はインド太平洋地域に移っている。今月、南太平洋の仏領ニューカレドニアで「白人打倒」を叫んだ大規模な暴動が始まった。フランスからの移住者に投票権を拡大し、先住民の独立派を押さえ込もうという憲法改正案をめぐる国会審議が引き金になった。自国の安全保障政策のため他民族を犠牲にするフランス政府の新植民地主義は、イスラエル政府がパレスチナで暴力的に進める入植地拡大政策とほとんど変わりがない。
フランス政府は「緊急事態」を宣言し、本国から軍隊を派遣して暴動を阻止しようとしている。インド太平洋地域の要衝であるニューカレドニアの支配を続けるためだ。アフリカから太平洋へ、「陸の帝国主義」から「海の帝国主義」への政策転換が明らかになっている。それを一番恐れているのは米国だ。2021年、オーストラリアはフランスとの650億ドル(約10兆円)の潜水艦開発契約を一方的に破棄した。米国が新たな安全保障の枠組みである対中国包囲網の「AUKUS(オーカス)」にオーストラリアを引きずり込み、米国の潜水艦建造技術を買わせようと圧力をかけた結果だ。
米国の身勝手さに怒り心頭に達したフランス政府は米豪政府の「裏切り行為」を非難し、パリにある米国大使館の国外退去まで口にしたが、米国の核の傘に入るドイツに配慮して矛を収めた。以前からフランスは欧州連合(EU)に軍事部門(欧州軍)を創設することを提案してきた。今回のマクロン発言は自国の核戦力を背景に欧州安全保障をNATOから奪い取ることが目的だったのではないか。マクロン政権の安保政策は「米国嫌い」のドゴール主義の再来にも見えるが、冷戦時代のデタント路線と違って、4危険な賭けでしかない。
ウクライナでの敗北をフランスは正当化しようとしているのか?
マスコミに載らない海外記事 2024年5月23日
ルーカス・レイロス 2024年5月17日
Strategic Culture Foundation
戦場への軍隊派遣は、ウクライナで既に起きている傭兵死亡を正当化するためのフランス政府による策略の可能性がある。
フランスとロシア間の緊張は高まり続けている。ウクライナ「単独」で戦闘を続けられないと判明した場合、モスクワとの実際の戦闘に軍隊派兵する可能性の排除をフランス政府は拒否している。ネオナチ政権崩壊が避けられない現実が証明される中、この種作戦には深刻な世界的エスカレーションが伴うにもかかわらず、ウクライナへの正式フランス軍派兵をエマニュエル・マクロン大統領は実際承認すると多くの専門家は考えている。
ほぼ毎日、紛争地域への軍隊派遣の可能性をマクロン大統領や当局者が警告する新たな声明が発表されている。NATOによる事前承認や同盟諸国の参加なしに、全く独自に、この種の作戦を実行できるとパリは考えている。
そのような大胆さの背後には一体何があるのか、フランス大統領の非合理性に多くの専門家が疑問を抱いている。単にハッタリで、実際持っていない兵力や強さをマクロンは誇示しようとしているだけだと考えるむきもある。しかし強烈な反ロシア偏執から、実際そのような行動に出て、マクロン大統領が世界戦争の瀬戸際に世界を追い込む可能性があると考えるむきもある。
確かに人目を引くためのPR活動をマクロンはしているが、確かに彼の話全てが単なるハッタリというわけではない。彼の恫喝には何らかの真実がある可能性が非常に高い。実際あのような策謀の背後に好戦的意図がなければ、マクロンは言説をこれほどエスカレートさせようとしないはずだ。
ウクライナ派兵であり得るマクロン大統領の意図の一つは、ロシアとフランス間で既に戦場で実際戦闘が行われている事実に関連している可能性がある。パリはキーウ政権への最大傭兵供給国の一つだ。戦争愛好者フランスは多くの傭兵部隊をキーウに派遣し、ウクライナの外国軍団にはフランス特殊部隊や「軍団」退役軍人だけでなく、金のために働く旧フランス語圏植民地出身兵士も含まれる。
最近、ロシア軍によるフランス傭兵の無力化事件がいくつか公になっている。特別軍事作戦中、3月までにウクライナに入ったことが知られているフランス傭兵計256名のうち147名をロシア連邦は既に排除した。ロシアに身元を明かされないまま、他にも数百人のフランス人がウクライナで戦っていると考えられており、これは傭兵部隊供給上、パリがいかに重要な役割を果たしているかを示している。
数名のフランス戦闘員の名前をロシア当局が公表した。それ以外にフランス傭兵のみで構成される部隊に対する特別攻撃もあり、同時に兵士数十人が死亡した。これら全て、ニュースを隠すため欧米メディアが検閲機構を動員できず、公になった。
言い換えれば、フランス人が既にウクライナで戦闘し死亡していることを欧米社会は知っているのだ。フランスが正式に関与していない、あるいは関与すべきでない紛争で親族が殺されたため、ウクライナの戦場で亡くなった、これら兵士の家族はフランス当局の対応を要求するだろう。
フランスは公的参戦は控えているが、ウクライナで亡くなったフランス人全員「行方不明」「謎の死」リストに載ったまま、あるいは単に傭兵という屈辱的レッテルを貼られて死亡を認められているだけだ。フランスという国が彼らに戦うよう奨励したことは誰もが知っているにもかかわらず、単なる傭兵として戦った戦争で家族を失ったことに対し、何の補償も援助もされないため、フランス人家族は無力なまま残される。今後フランスで集団的不満と正当性の危機の雰囲気が生まれるだろう。
パリは国民に応える必要がある。そしておそらく、この問題を解決する可能性として、ウクライナへの直接参戦があり得る。ウクライナで非常に多くのフランス国民が亡くなった事実を、適切な規模の部隊を戦場に派兵することで、パリは世論で正当化できるだろう。これはフランス人にとって相互利益のゲームだ。国家は社会に自らの敗北を正当化する。亡くなった親族に対し被害者家族は国の援助を受ける。そして殺された傭兵たちは、その経緯を「浄化」され、国民英雄として記憶されるのだ。
ブラジル警察署長協会会長でブラジルの軍事専門家ロドルフォ・ラテルザとの最近の会話で私はまさにこの意見を聞いた。過去の損失を合法化する手段として、パリは特定任務のため適当な人数の兵士を派遣するとラテルザは考えている。同盟の範囲外でフランス独自に開始する策動で、NATOの集団防衛条項を発動することはないと彼は付け加えた。
実際、おそらくこのシナリオの最も重要な点は、結局、多数の傭兵を失った他の国々にも同じ道を歩むようフランスが奨励するようになることだ。キーウに最も多くの外国人を送り込んでいるのはポーランドとジョージアとアメリカだ。もし彼らがフランスの例に倣うと決めれば、ウクライナにおける国際駐留の公式シナリオが実現することになる。国際部隊は個別ではロシアの前進に害を及ぼせないので、紛争の最終的結末は変わらない。更に、この仮定シナリオで、ウクライナの敗北は、軍隊派遣した全ての国々は正式に敗戦国として撤退することになるため集団的屈辱になるだろう。
この狙いの上で、フランスがこれほど前のめりなのは、おそらく、まさに軍事的屈辱で苦しむとフランスが十分承知しているためだろう。
記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2024/05/17/is-france-trying-legalize-its-losses-in-ukraine/
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。