しんぶん赤旗に「アベノミクスの過ち 上・下」という記事が載りました(5月4~5日付)。
安倍元首相によって長期間にわたって行われ、現在も簡単には「決別」できないでいる「アベノミクス」を現時点で簡単に総括するものです。
現在の円安は、米国の金利がインフレ対策上5%以上になっているのに対して、日本の金利が0~1%程度であるためです。では日本も金利を上げられるのかですが、日本は国債残高が約1000兆円、地方債残高が約200兆円もあるので、金利を上げると金利支払額が高騰して財政的に破綻します。
同時に国民の住宅ローンや中小企業の返済金利が高騰するので、家計の破綻や企業の倒産が続出します。これらは円安を目指して10年以上に渡って異常な低金利政策を続けてきたツケで、日本の経済は、「物価上昇と不況が同時進行するインフレ不況(スタグフレーション)」に陥っているとされています。
また安倍政権以降、年金積立金のかなりの部分を株式投資に運用しています。では株価が高騰しているいま「売り抜けられるのか」ですがそれも出来ません。売り抜ければ株価が大暴落し日本政府が国際的な信用を一気に失うことになるからです。
要するに、全てはアベノミクスが日本の経済を根本的に歪めてきたことの結果であり、こうなることは当初から指摘されていたのでした。
記事中に4つのグラフが載っていますが、写真版が使えないのでPDF版で紹介します。
(PDF版グラフ集)↓
https://drive.google.com/file/d/15zoxKAKGqYYjzGzrVTBf-UKneBhMY-HP/view?usp=sharing
植草一秀氏が「売国政策排し保有米国債全額売却せよ」とする記事を出しました。
日本は現在米国の国債を1兆1530億ドル(1ドル150円ベースで換算すると173兆円)保有しています。米国債を売却する権利は当然ありますが、何故か米国債に関しては事実上その自由はないとされています。日本が米国の属国と言われる所以で、あり得ないことなのですがそうなっています。
植草氏がそのタブーを無視するのはさすがです。
ただ残念ながら例によってブログの前半部分しか公開されないので、米国債売却に関する個所の記載はありません。
しかし前半のインフレに関する記述だけでも十分に合点がいくので紹介します。
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アベノミクスの過ち(上) 異次元緩和 破綻し円売り
しんぶん赤旗 2024年5月4日
止まらない異常円安と物価上昇、増える中小企業の倒産、危機的状況に追い込まれる日銀と日本経済 -。積もり積もったアベノミクス(安倍音三政権の経済政策)の過ちが、国民と中小事業者に襲いかかっています。「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざした政策の悪影響を検証します。 (清水渡、杉本恒如)
「今の円安は非常に困る」「(中小企業は)輸出比率が非常に小さく、原料高(の影響)をもろにかぷる」 日本商工会議所の小林健会頭は4月17日の記者会見でこう述べ、輸入原料の値上がり分を自社商品の価格に転嫁できない中小企菓の苦境を訴えました。4月16日のニューヨーク外国為替市場で円相場が一時1ドル=154円79銭に下落。1990年6月下旬以来、約34年ぶりの安値を更新したことを受けての発言でした。しかし、円売りはその後いっそう加速し、4月26日に一時1ドル160円台を突破しました。
円安や原油高の影響で輸入物価が再びじわじわと上昇し、「インフレ再燃」の懸念が高まっています。帝国データバンクの調査によると、主要食品メーカー195社の値上げは4~5月に3223品目に達します。さらに今後、1ドル150円台後半の円安水準が長期化、または円安が一段と進行した場命、今秋にも円安を反映した値上げラッシュの発生が想定され」る、と同社は指摘します。
空前の利益
他方、物価高に苦しむ国民と中小企業を尻目に、多くの多国籍大企業が空前の利益をあげています。海外で得る利益の円換算額が円安で膨らむことが大きな要因です。大企業の好業績を背景に日経平均株価は急上昇し、バブル絶頂期の1989年末に記録した終値ベースの史上最高値(3万8915円87銭)を一時上回りました。
「アベノミクスの本質は、株主の利益を優先する『株価・株主資本主義』です」と語るのは、下関市立大学の関野秀明教授です。
「国民生活を犠牲にして大企業の利益を増やし、株価を上げて資産バプルを生み出すことを狙いました」
株価引き上げ政策の最たるものが、アベノミクス「第一の矢」として安倍政権が日銀に押し付けた「異次元金融緩和」でした。超低金利と大量の資金供給で為替相場を円安に誘導し、多国籍大企業をもうけさせて株価を急騰させました。上場投資信託(ETF)を大量に買い入れて中央銀行が株価を支える禁じ手まで使いました。
実際に日経平均株価(終値)は12年末の1万395円18銭から今年4月末の3万8405円66銭へ3・7倍に上昇。5億円以上を保有する「超富裕層」の純金融資産は11年の44兆円から21年の105兆円へ2・4倍に膨張しました。(グラフ集参照、野村総合研究所推計)
滴り落ちず
大企業と富裕層の得た利益が国民全体に波及する「トリクルダウン」は全く起こらず、大多数の国民と中小企業は円安のデメリットばかりを被ってきました。こうして貧困と格差を広げたアベノミクス「第一の矢」は、現在も続いています。
日銀は3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利など一部の政策解除を決めたものの、「緩和的な環境を維持する」と表明。引き続き大量の国債を買い入れて金利を低く抑える方針を示しました。このため日米金利差を意識した円売りが加速しました。
4月26日の金融政策決定会合でも日銀は緩和維持を表明し、植田和男総裁は記者会見で「基調的な物価上昇率にここまでの円安が大きな影響を与えているということではない」と述べました。これが「円安容認発言」と受け止められ、外国為替市場で円売りが暴走しました。
その後、円は乱高下を繰り返しており、政府・日銀が複数回にわたり「覆面介入」したと報じられています。しかし日米の金融政策が当面変わらず、金利差が開いたままとなるため、円安基調は定着するという見方もあります。輸入物価上昇によるインフレ再燃の危機は深まっています。
税財政を用い大企業奉仕
2013年2月28日、安倍晋三政権が発足して最初の施政方針演説で安倍首相は「『世界で一番企業が活躍しやすい国』を目指します」と声を張り上げました。
その宣言通り、安倍政権は税財政をあげて大企業への奉仕を貫いてきました。これがアベノミクス「第二の矢」である「機動的な財政政策」でした。
税制面では法人税を減税し、大企業の税負担を減らしました。12年に国と地方を合わせて37%だった企業の法定税率(法人実効税率)を段階酌に引き下げ、現在は29・74%です(グラフ集参照)。同時に毎年のように「税制改正」大綱に、研究開発減税の上限引き上げや対象拡大を盛り込むなど、大企業減税を拡充してきました。
税金の使い方も大企業奉仕でした。「大企業の国際競争力強化」「国土強靭化」などを口実に、毎年の予算に外環道を含む三大都市圏環状道路の整備や国際コンテナ戦略港湾など大型公共事業を計上しました。
これらの大企業奉仕は国民からの収奪で賄われました。安倍政権は14年4月、19年10月と2度にわたって消費税増税を強行し、合わせて10兆円をはるかに超える負担増を国民に押し付けました。同時に社会保障を削減し、医療費など負担を増やし、年金などの給付を減らしました。
税財政政策でも、「国民生活を犠牲にして大企業の利益を増やし、株価を上げる」やり方を費いてきたのがアベノミクスなのです。 (つづく)
アベノミクスの過ち(下) 日本はインフレ不況危機
しんぶん赤旗 2024年5月5日
アベノミクス以降の11年間で、国民は貧しくなり、日本経済は危機的状況に追い込まれました。
名目贋金の低迷と物価上昇、消費税増税などの影響で、実質賃金は2012年の404万6千円から23年の371万円へ、年額33万6千円も落ち込みました(グラフ集参照)。直近でも23カ月連続で前年同月より減っています。
その結果、消費が冷え込みました。12年から23年までの間に家計の実質消費支出は年間45万円も低下しました(グラフ集参照)。直近でも2人以上世帯の実質消費支出が12カ月連続で前年同月より減っています。
倒産が増加
東京商工リサーチの調査によると、輸入原料などの価格上昇分を転嫁できない中小・零細企業を中心に、倒産が増えています。23年度の企業倒産件数(負債額1000万円以上)は前年度比31・5%増の9053件にのぼりました。
日銀が「賃金と物価の好循環を確認」したといいながら金融緩和を維持する理由の一つは、「好循環」が大多数の国民と中小企業に及んでいないことです。
実際、3月19日の金融政策決定会合で日銀の中村豊明審議委員はマイナス金利解除に反対し、「業績回復が遅れている中小企業の賃上げ余力が高まる蓋然(がいぜん)性を確認するまで継続すべき」だと主張しました。植田和男総裁は同日の記者会見で「消費が思ったように回復してこないというのが下振れリスク」だと述べました。
抜本転換を
下関市立大学の関野秀明教授は「物価上昇と不況が同時進行するインフレ不況(スタグフレーション)に、日本経済は陥っている」と指摘します。
「円安と物価上昇を止めるために利上げをすれば、利払いが増えてローン破綻が続出し、株価も下落して大不況になります。利上げをせず円安と物価上昇を放放置しても実質賃金の低下と中小企業の経営悪化に拍車がかかり、大不況になります。出口がなく、日銀はもがいている状況です。この危機から抜け出すためには、物価上昇を大幅に上回る国民全休の所得増加を実現し、利上げに耐えられる経済をつくらなければなりません。株価上昇のために国民を犠牲にしてきたアベノミクスの抜本転換が不可欠です」 (おわり)
売国政策排し保有米国債全額売却せよ
植草一秀の「知られざる真実」 2024年5月 1日
かつてジャパンアズナンバーワンともてはやされた日本経済。凋落が始まって35年の時間が経過する。
ドル表示の日本の名目GDPは1995年を100とすると2022年が76。27年の時間を経て経済規模が4分の3に縮小した。
同じ期間に米国のGDPは3・3倍に拡大した。中国のGDPは24・5倍に拡大した。
購買力平価ベースでも日本の平均賃金水準はG5最下位に転落した。隣国の韓国にも抜かれている。
2012年12月に第2次安倍内閣が発足してアベノミクスなる経済政策路線が提示された。
「成長戦略」と銘打たれ、日本経済の成長を目指すとされた。
しかし、アベノミクスの下でも日本経済の成長はまったく実現しなかった。
国民にとって最重要の経済指標は実質賃金の動き。
労働者一人当たりの実質賃金指数は1996年から2023年までの27年間に16・7%も減少した。
アベノミクス始動下においても、2012年から2023年までの11年間に実質賃金は8・3%も減少した。
2022年の内閣府年次経済財政報告によれば世帯所得の中央値は1994年の505万円から2019年の374万円へと131万円も減少した。
つまり、アベノミクスはまったく成功しなかったということ。
現在、日本は日本円の暴落に直面している。
日本円の実質実効為替レートは1970年よりも下落している。
1ドル=360円時代の日本円よりも日本円の力は落ちている。通貨の下落は国際評価の下落。
日本国民が保有する資産のドル換算金額は日本円暴落に連動して暴落している。
日本円暴落は日本国民の財産喪失を意味している。
通貨の暴落を誘導する政策を採用することは狂気の沙汰。
この点を含めてアベノミクスの評価を再確認しておく必要がある。
アベノミクスは三つの政策を総称したもの。
三つの政策とは、財政出動、金融緩和、成長戦略である。
財政政策、金融政策、構造政策は経済政策の主要な三本柱。
アベノミクスはこのメニューを羅列しただけのもので目新しさは皆無である。
内容を見ると、財政政策では財政出動を掲げたが、2014年と2019年に二度の消費税増税を実施している。財政出動ではなく財政緊縮である。これを「アベコベノミクス」と呼ぶ。
金融政策では量的金融緩和を実行した。
インフレ率を2%に引き上げることを公約に掲げた。この公約は実現しなかった。
これは不幸中の幸いだった。そもそも「インフレ誘導政策」が誤りだ。
インフレは政府と大企業に利益を与えるもの。
インフレが進行すると実質賃金が減少する。
インフレが進行すると債務の実質価値が減少する。
一般国民は労働者であり預金者である。
インフレは労働者・預金者に損失を与える。
インフレ誘導に失敗したから国民の大損失は回避されたが、その後遺症が2022年から23年に現れた。日本でも激しいインフレが生じたが黒田東彦氏が率いる日銀がインフレを煽る政策を実行した。同時に黒田日銀の量的金融緩和政策が日本円暴落をもたらした。
その結果として、日本国民が甚大な損失を蒙っている。
アベノミクスの核心は「成長戦略」にあった。
成長戦略とは「大企業利益の成長戦略」であり、「労働者=一般国民の不利益の成長戦略」だった。
日本経済を立て直し、国民生活を改善するためには、これまでの経済政策を総括し、政策運営の抜本転換を断行することが必要不可欠である。
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「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。