2014年1月6日月曜日

<憲法から考える>④基本的人権・生存権

 第4回目は「基本的人権・生存権」です。
 憲法25条は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)を保障しています。
 日本では非正規雇用者が全労働者の4割に達し、既に1千万人を超えるワーキングプアと呼ばれる人たちがいます。企業が利潤を追求しやすいようにと労働規制緩和して、日本型雇用形態を変質させた結果です。
 SNEP(スネップ)と呼ばれる人たちも16万人を超えました。
 
 その一方で、セーフティーネットの網のは一向に細かくなっていません。職に就けずに生活保護を申請しても、それを受け付けずに自助と自立を強要ます。
 安倍首相は所信表明で「意志さえあれば必ずや道は開ける」と力説しましたが、そんなことで解決するものではありません。
 いまこそ生存権の実現が国に求められています。
(このシリーズは今回で終わりです)
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<憲法から考える>④基本的人権・生存権 弱者の「居場所」を確実に 
 北海道新聞 社説 2014年1月5日
 景気回復の兆しが伝えられる一方で、暮らしが上向いたと実感できる人はどれだけいるだろうか。
 安倍晋三政権は企業活性化を通じて家計を潤すシナリオを描くが、恩恵は庶民にまで浸透していない。4月からの消費増税でむしろ生活が苦しくなる人は増えるだろう。
 深刻なのは、年収200万円以下の働く貧困層が増え、1千万人を超えている点だ。正社員であっても、リストラや病気で仕事を失いかねない。若者も就職難で、大学新卒者の2割が非正規雇用だ。
 今や世代を問わずだれもが貧困に直面する可能性がある。貧富の差が広がれば一層社会不安は増す。
 憲法25条は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)を保障しているが、現実は暮らしの安心や安定とはほど遠い。何よりも生存権の理念がすべての国民にとって、現実となる方策が求められる。
 
■看過できない孤立化
 昨年、SNEP(スネップ)(孤立無業)という言葉が流行語大賞の候補になった。20~59歳の未婚者のうち働かず、ふだんは1人で過ごすか、家族しか一緒に居る人がいない層を指す。
 東大の玄田有史教授の調査によると、SNEPは2011年現在で全国で約162万人、道内は約5万人に上る。10年間で倍増したという。
 背景には日本型雇用の変質がある。企業は終身雇用や年功序列で、従業員やその家族の生活を曲がりなりにも守ってきた。
 だが、バブル崩壊後、リストラは常態化し、身分が不安定な非正規雇用は全労働者の4割に達した。初めから就職そのものを諦めたり、過労による精神疾患などで再就職を断念したりする人も増えた。
 無業になれば家族から援助を受けていてもいずれ行き詰まり、生活保護に頼らざるを得ない。
 社会的関係も断ち切られ、孤立しやすい。婚姻率の低下や少子化にも拍車がかかるだろう。まさに生存権にかかわる新たな課題だ。社会として看過できない。
 
■「緩和」より安定化を
 憲法に保障された基本的人権は侵してはならない権利だ。生命や財産、内心の自由など多岐に及ぶ。
 その中でも生存権は、国に実現を要求できる請求権と呼ばれる。具体的には医療や介護、年金、雇用など社会保障がそれに当たる。
 自民党は憲法改正草案に「自由と権利には責任と義務が伴う」と明記し、昨年の参院選公約でも社会保障は自助と自立を強調している。
 安倍首相も先の所信表明演説で「意志さえあれば、必ずや道は開ける」と力説したが、自助努力や自己責任にはおのずと限界があるのは自明の理だ。憲法に生存権が盛り込まれたのもそのためである。
 生活を維持するには、一定の待遇が得られる職が欠かせない。
 ただ、企業は容易に正社員を増やさない。自己責任を強調したところで就職が進むわけではない。社会全体で雇用機会を確保しなければ解決は難しいのは明らかだ。
 国は、派遣労働者の期限撤廃など労働規制緩和に傾斜しすぎている。むしろ求められるのは、企業に雇用や待遇改善を促す政策だ。
 非正規と正規の格差を縮めるために「同一価値労働は同一賃金」の原則を定着させなければならない。
 今後、暮らしが成り立たない人も増えるだろう。高齢者や障害者、働くことが困難な人のためのセーフティーネット(安全網)の目をきめ細かくする必要がある。
 避けて通れないのは財源問題だ。少子高齢化が進む中で、現在のように現役世代が負担の中心となるのではたちゆかなくなる。高齢者でも高収入の人は負担を増やすなど、支払い能力を重視した形にすべきだ。
 
■住民巻き込み共助も
 もちろん公助ですべての問題が解決するわけではない。生存権を補完する共助も充実すべきだろう。
 釧路では全国に先駆けて市や市民団体が中心となり、失業者や定職に就いた経験がない人の自立支援に取り組んでいる。02年の太平洋炭鉱閉山以降、失業者が増えたためだ。
 12年4月に釧路社会的企業創造協議会を結成し、高齢化で担い手が減った漁網の補修や介護予防運動の器具づくりに携わっている。
 今のところ月3万円程度の収入にしかならないが、「居場所」を確保し、孤立化を防ぐ効果が出ている。
 櫛部武俊副代表は「自立支援は地域と人を耕す」という。
 高齢者の見守り、除雪など地域で需要がありながら、解決できない課題は多い。
 それを仕事に結びつければ雇用の受け皿になるばかりか、住民の要望にも沿うはずだ。
 国や行政、企業、住民がそれぞれの役割を果たしてこそ、生存権を実質化できる。
 (この項おわり)