2014年1月28日火曜日

市民団体 籾井会長の解任を求める要望書を提出

 籾井NHK会長の就任会見における、特定秘密保護法の成立、NHK国際放送のあり方、従軍慰安婦問題などについての発言は、あまりにも認識不足であり品格に欠けたものでした。
 
 27日、28日の新聞各紙の社説のタイトルは、「新会長の公共放送トップとしての見識(自覚・適格性)を疑う(資質に欠ける)」とするもの(高知新聞愛媛新聞京都新聞琉球新報沖縄タイムス西日本新聞など)や「公共放送の信頼が失われた(損なった、揺らいだ)」とするもの(東京新聞北海道新聞神戸新聞毎日新聞など)、そして「あまりに心配な船出(行方が心配)」とするもの(朝日新聞、信濃毎日新聞など)などで占められました。
 
 中・韓紙も、「NHK会長の発言は日本指導者の過ちと同じ流れ(中国人民網)、「NHK会長慰安婦、どこの国にもあった妄言」(韓国中央日報)、「『新・妄言製造機NHK籾井会長」(朝鮮日報)などと厳しく批判しています。
 
 NHKに対しては、25、26日の2日間だけでも全国から抗議の電話などが1000件以上あったということです(毎日新聞)
 
 これが年末にNHK経営委員の新・再任者を安倍人脈の4名にするなどして1月のNHK会長選出に備え、その挙句安倍氏の意中の人が会長に選ばれた結果でした。
 言いようのないほどにお粗末な話です。
 
 こうした事態に対して、市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」(共同代表、醍醐聡・東大名誉教授)が27日、籾井会長の辞任を求める申し入れ書をNHK経営委員会に提出しました。
 
 申し入れ書では、籾井会長が経営委員会が作成した会長の資格要件「政治的に中立である」「公共放送の使命を十分理解している」に反している点などを挙げ、「会長に不適格であり、視聴者・国民の信頼を著しく損ねたことは明らか」として、会長の任免権を持つ経営委に籾井氏の解任を求めています
 またこうした会長が選出された仕組みに問題があるとして、会長などの選出機構について広く視聴者から意見を求める機会を近々に設けるよう求めています
 
 視聴者コミュニティ醍醐 氏(東大名誉教授)が27日付のブログで、これらについて詳細を明らかにしています。
 ブログには「籾井NHK会長の解任を求める申し入れ」書も添付されています。
 
 以下に紹介します。
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NHK籾井会長の解任を求める要望書を提出:
 醍醐 聰 2014年1月27日
 さる25日、NHK会長の籾井勝人氏は就任記者会見で「従軍慰安婦」はどこでもあったこと、補償せよとなぜ蒸し返すのか」、「領土問題で政府が右ということを左とは言えない」、「特定秘密法は決まったこと、ああだこうだいってもしょうがない、あまりカッカすることはない」などと、公共放送の長としてあるまじき暴言を連発した。
 これについて、私も共同代表の一人になっている「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は緊急に運営委員の間で対応を相談し、今日(1月27日)、NHK会長の任命権者であるNHK経営委員会と籾井会長本人宛に、解任・辞任を求める申し入れを提出した。
 
NHK経営委員会宛「籾井NHK会長の解任を求める申し入れ」
NHK会長・籾井勝人氏宛「会長職の自主的辞任を求める申し入れ」
 
 どちらの申し入れでも、籾井会長の発言を、①NHKが行う国際放送に関する部分、②「従軍慰安婦」問題に関する部分、③安倍首相らの靖国神社参拝に関する部分、④特定秘密保護法に関する部分、に分けて整理し、それぞれについて、(1)「放送法」、(2)「NHK放送ガイドライン」、(3)NHK経営委員会の指名部会が合意した会長資格要件、に照らして、それぞれ検討し、どの観点に照らしても籾井氏はNHKの会長職に不適格な人物であると判断した。それにもとずいて、
 ・NHK経営委員会には籾井氏を会長から解任する、もしくは籾井氏に会長辞職勧告をするよう求めた。
 ・籾井氏に対しては、今回の発言の重大性を自覚し、自ら辞任するよう求めた。
 
NHK会長選考システムの構造的欠陥
 今回の籾井氏の発言は、現在のNHK会長選考システムの構造的欠陥を露呈したものと私は考えている。一言でいえば、その構造的欠陥とは、NHK経営委員会が会長選任機関であるということを拡大解釈して、経営委員個々人が会長候補者を推薦する権限を専有しているかのように誤解されている点にある。そのような誤解が通用しているため、近年、個々の経営委員が自分の知己なり人脈なりに依って会長候補者を推薦し、その中から「よりましな」人物を選ぶという慣例が定着していると見受けられる。その結果、経済界に「太い」人脈を持つ財界出身の経営委員が多くの候補者リストを持ち、強い発言権を持つことになり、就任初の記者会見で「私は公共放送のことはほとんどわかりません」と公言するような財界人が、「大きな組織を統括した手腕」、「日本ユニシスの社長に就任して以降、3,000億円以上の年間総売上を達成するなどの実績を持つ」ことまで推薦の理由に挙げてNHK会長が選ばれる結果になるのである。
 近年、NHKの会長選考が迷走したり、選任された会長が迷走発言や暴言を吐いたり、民間企業に移りたいと称して会長職を辞するなど、NHK会長職の威信を傷つける言動が後を絶たない状況を改革するには、今述べたような会長選考システムの構造的欠陥を根本から改革する必要があると私は考えている。
 
 以下は、NHK経営委員会宛の申し入れ書の全文である。
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2014年1月27日
NHK経営委員会御中
籾井NHK会長の解任を求める申し入れ
                NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
                      共同代表 湯山哲守 zz醍醐 聰
 
 貴委員会におかれましては、日頃より、NHKの公共放送として充実をはかるためご尽力されていることと存じます。
 
籾井会長発言の要旨
 1月26日の全国紙各紙朝刊によれば、籾井勝人・NHK会長は25日に開催された会長就任の記者会見で、放送法を順守すると発言する一方で、次の様な発言をしたとのことです。
 
 第1に、NHKが行う国際放送に関し、「領土問題については明確に日本の立場を主張するのは当然のこと。政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない。」
 第2に、「従軍慰安婦」問題について、「戦時中だからいいとか悪いとは言うつもりは毛頭ないが、この問題はどこの国にもあったこと」、「韓国は日本だけが強制連行をしたみたいなことを言うからややこしい。お金をよこせ、補償しろと言っているわけだが、日韓条約ですべて解決していることをなぜむし返すのか。おかしい。」
 第3に、安倍首相らの靖国神社参拝について、「総理の信念で行かれた。それをいい悪いという立場に私はない。昔の人は戦争に行くときに『死んで靖国に帰る』と送り出した。こう言う人たちが大勢いる」
 第4に、特定秘密保護法の取扱いについて、「一応決まったことをああだこうだ言ってもしょうがないんじゃないか。必要ならやる。あまりかっかすることはない。」
 
当会の評価
 こうした籾井会長の発言は、以下に述べる三重の意味で、同氏がNHK会長職に不適格な人物であることを示したものと考えます。
 
1. 「放送法」に照らして
 「放送法」は第1条3項で、本法の目的を「放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」と定め、第4条で「放送事業者は、・・・・放送番組の編集に当たつては、政治的に公平であること」を求めています。今回の籾井会長の、現政権の見解を代弁するに等しい一連の発言は、これら放送法の条項に反するものであり、放送法を率先して遵守すべき立場にあるNHK会長としてあるまじき発言です。
 
2. 「NHK放送ガイドライン」に照らして
 2011年に定められた「NHK放送ガイドライン」は冒頭で「報道機関として不偏不党の立場を守る」とし、「放送とは直接関係のない業務にあたっても、この基本的立場は揺るがない」と定めています。NHKの全役職員の先頭に立って、この不偏不党の立場を堅持すべき会長が、こともあろうに会長就任の記者会見という職務遂行の場で時の政権の立場に寄り添うような発言をすることは、「NHK放送ガイドライン」に真っ向から反する暴言を吐いたものというほかありません。
 さらに、領土問題、靖国神社参拝問題の報道に関する籾井会長の発言は、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」という言葉に代表されるように、政府の見解を追認し、代弁するものです。しかし、「NHK放送ガイドライン」は国際報道の基本姿勢として、「各国の利害が対立する問題については、一方に偏ることなく、関係国の主張や国情、背景などを公平かつ客観的に伝える」と定めています。この点で、籾井会長の発言はアジア諸国に対する日本の侵略責任を認めた村山談話を無視する一方で、国内でも異論が多い現政権の歴史認識を代弁するものであり、上記の「NHK放送ガイドライン」に背くものです。また、「従軍慰安婦」問題についての発言は、河野談話によって日本政府の公式見解となり歴代内閣が踏襲してきた立場を真っ向から否定するものです。
加えて、籾井会長の発言は、昨今、日韓・日中両国はもとより、アメリカや欧州諸国からも厳しく警告・批判されている日本政府の偏狭な歴史認識を代弁するものですが、それは「NHK放送ガイドライン」が定めた「国際平和や、各国国民との相互理解、友好・親善の促進に貢献する」という規定にも逆行するものです。
 次に、特定秘密保護法について、籾井氏は、通ったものをどうこういってもしょうがないと発言しましたが、同法案が成立した後に行われた世論調査でも、法案の国会審議が「十分でない」という回答が76%、法案自体に「反対」が51%を占め、「賛成」の24%の2倍以上となっています(「朝日新聞」2013年12月7日調査)。また、同法の修正・廃止を求める意見が合せて82.3%に達しています(「共同通信」2013年12月8・9日調査)。現に、複数の政党は今国会に同法の廃案法案を提出する準備をしています。
 このような世論および政治の状況に照らせば、今回の籾井会長の発言は、「政治上の諸問題の扱いは、あくまでも公平・公正、自主・自律を貫き、・・・・視聴者の判断のよりどころとなる情報を多角的に伝える」と定めた「NHK放送ガイドライン」に真っ向から反しています。
 
3. 指名部会が合意した次期会長の資格要件に照らして
 経営員会内に設置された指名部会の第8回部会(2013年11月26日開催)会議録によれば、次期会長の資格要件として6点が合意されたと記され、その第1に「NHKの公共放送としての使命を十分に理解している」こと、第3に「政治的に中立である」ことが挙げられています。籾井会長の会長就任会見での一連の発言はこれら両項に背反することは明らかであり、経営委員会が合意した資格要件に照らしても籾井氏はNHK会長に不適格な人物と言わなければなりません。
 
当会の申し入れ
1.  以上3つのどの観点から検討しても、籾井氏がNHK会長の職に不適格な人物であること、NHKに対する視聴者・国民の信頼を著しく損ねたことは明らかです。よって、当会は、会長任命機関としての貴委員会に対し、すみやかに籾井氏をNHK会長職から解任するか、籾井氏に辞職を勧告されるよう申し入れます。
2. 会長就任早々、言論・報道機関の責任者としての自覚のなさをさらけ出す発言をするような人物を選任した貴委員会の責任は極めて重大です。なぜ、そのような選任になったのかを徹底的に検証し、審議の模様をそのまま議事録として公開するよう求めます。
3. ここ数年、NHK会長選考が混迷したり、選任された会長が問題発言をしたりすることによってNHK会長の威信が著しく低下しています。こうした事態を改めるには、現在のNHK会長選考のシステムを、視聴者に開かれた、より透明なものにするよう抜本的に改革する必要があると考えます。その第一歩として、当会はNHK会長選考のあるべき仕組みについて、広く視聴者から意見を求める機会(パブリックコメントや公聴会の開催)を近々に設けるよう求めます。
 
 以上3点の申し入れに関する貴委員会の対応なりご見解を、2月10日までに別紙掲載宛てに書面でご回答くださるようお願いします。
                                 以上