元日、北海道新聞が「憲法から考える」の連載を開始しました。
安倍政権は軍事偏重路線を走り出し、国民の権利制限も既に始めた。しかし私たちは流されるわけにはいかない。道しるべは憲法である。憲法は、第2次大戦の敗戦という痛切な教訓が残した遺産である。
連載はそう書き出しています。
今日から一日遅れで紹介します。
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<憲法から考える> ①針路照らす最高法規 百年の構想力が問われる
北海道新聞社説 2014年1月1日
日本は今、勢いをつけて曲がり角を進んでいる。戦後守り続けてきた平和国家から決別する路線である。
日本版NSCの設立、特定秘密保護法の制定…。安倍晋三首相は「積極的平和主義」と呼ぶが、軍事偏重路線に他ならない。国民の権利制限をも含む危険な道だ。
すでに曲がり角をかなり進んでいると見るべきだろう。今までの政治情勢から言えば、歯止めをかけるのは容易ではないかもしれない。
しかし私たちは流されるわけにはいかない。道しるべは憲法である。
憲法は、第2次大戦の敗戦という痛切な教訓が残した遺産である。だが過去の文書ではなく、今後も日本国民の針路を示し、世界に向かって日本の立場を宣言する価値ある最高法規だと、私たちは考える。
憲法を前面に、この国のあり方をあらためて問い直していきたい。
■目先に走る対中政策
敗戦から69年、日本は曲がりなりにも平和を享受し、経済発展を遂げて世界に存在感を示してきた。
世界各国の力関係は変化しつつある。拡張主義を隠さず周辺国との摩擦を招いている中国との関係が、いまの日本の大きな関心事であることは間違いない。
安倍政権の安全保障政策は、こうした情勢を踏まえたものだろう。しかし、あまりに短絡的だ。
1956年に首相になる石橋湛山は、ジャーナリストとして戦中も自由主義的言論を貫いた人だが、日米開戦前の41年夏、「百年戦争の予想」と題する論説を発表した。
第1次大戦が始まった14年を起点として、戦争状態は100年程度続くと見立てて、「時局(第2次大戦)後の世界ないし日本はどうなるのだ、という問題を検討して見て、それから逆に現在の政策を樹(た)てなければならない」と説いている。
ことしが第1次大戦から100年に当たる。湛山の見立ては原爆投下で修正されることになるが、長期の構想力の必要性は、今日も重要だ。むしろ一層増しているだろう。
将来はもちろん見通し難い。中国の今後に対しても楽観論、悲観論が交錯している。さまざまな備えは必要だろう。
一方、100年後も中国は隣にあり続けるという素朴な事実がある。
米中関係や東アジア諸国の現状を踏まえ、長期的で広範な未来図を描かなければならない。
いま、困難な問題を抱えている国は多い。中国もその一つだ。解決すべき分野でできる限りの協力をする。そうした行動を相互の信頼と利益につなげていくことこそが「戦略的互恵関係」だ。
■開かれた民主国家に
日本が享受してきた平和は、自らの努力で獲得してきたものでもある。憲法に基づく平和外交の成果だ。そしてそれが世界の尊敬も集めてきた。誇っていいことである。
憲法前文の「平和を維持し、…国際社会において、名誉ある地位を占めたい」との言葉は、単なる願望ではなく、構想力を示したものだったと言える。この道を追求したい。
石橋湛山は、病気のためわずか65日の首相在職だったが、その後も政治への提言を続けた。憲法9条擁護を明確にし、軍備の拡張については「国力を消耗する」「国防を全うすることができないばかりでなく、国を滅ぼす」(68年)と鋭く批判した。
国民が主役の真の民主国家、という国の姿をより確かなものにしていくことも重要だ。
経済のグローバル化で、「開かれた国」といえば貿易面だけが強調される。しかし、政治的に開かれ透明性が高いことこそ、国民のためにも対外的にも重要ではないか。
安倍政権の保守的政策はどうか。靖国神社参拝は各国の批判を浴びたが、安全保障政策の中に「愛国心」を書き込むなども、内外に違和感を広げるだろう。
■尊厳ある雇用の場を
憲法は、国民の生存権や幸福追求権も保障している。
財政赤字が増え続け、社会保障は将来の給付削減が必至の段階にある。文字通り「百年安心」の実現のために政治力の結集が必要だ。
就業の場を広げるとして雇用の流動化に傾斜するのも疑問が多い。
そうでなくても雇用の質の低下が目立ってきた。尊厳や自己実現に結びつかないばかりか、憲法が禁じる「奴隷的拘束」や「苦役」に該当しそうな例さえあるのが現実だ。
消費税率引き上げ後は、貧富の格差がますます広がる心配が大きい。
東日本大震災の被災地。米軍基地の圧力に悩まされる沖縄。被災住民や県民は、「差別」を感じている。
これらを放置しては憲法が泣く。
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憲法の3原則は「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」。それぞれについて次回以降、考えていく。