2016年1月1日金曜日

少女像の撤去が10億円拠出の条件だと安倍氏

 28日の日韓外相会談で、慰安婦問題について合意が得られたばかりですが、早くも日本政府はソウルの日本大使館前の少女像が撤去されなければ10億円を拠出しない意向であることを明らかにしました。安倍首相の強い意志に基づいたものだということです。
 
 しかしその少女像は民間団体が設置したものなので、会談でも韓国政府は撤去するとは明言しませんでした。
 会談後の共同記者会見では「日本政府は責任を痛感し、安倍総理大臣が、心からおわびと反省の気持ちを表明するとしたうえで、韓国政府が設置する財団に日本政府の予算からおよそ10億円の資金を拠出し、元慰安婦への支援事業を行うことで合意」となっています。
 
 大使館前の少女像の撤去に関しては、韓国のユン外相は、「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、空間の安寧、威厳の維持といった観点から懸念しているという点を認知し、韓国政府としても可能な対応方法に対し、関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」と述べましたが、撤去を約束したわけではありませんでした
 したがってこの段階でそんなことを言い出すのは合意をひっくり返して台無しにするものです。
 
 もともと韓国においては、1965年の日韓基本条約は当時の両政府の「談合」であって、慰安婦問題は日本が法的責任を取ることなしには解決しないというのが世論になっていました。しかし日本政府にはそんな意識は全くないので、アメリカからの強い要請もあって韓国政府・与党は28日の内容で決着をつけようとしたのでした
※  12月30日 慰安婦問題 日韓合意 首相の豹変と韓国政府の懸念
 まず韓国側は慰安婦やその支援者たちを説得してから合意すべきであったという主張は正論ですが、そうすれば説得の段階で頓挫することは明らかなので、敢えて事後に時間をかけて説得しようしたのでしよう。
 
 韓国政府31日韓合意について国民に理解を求める談話を発表したものの、慰安婦や支援団体、あるいは学生たちの反対は極めて強くとても収まりそうにはありません。そんな状況下で韓国政府が国内の説得に当たっている中で、日本が「像の撤去が10億円出資の条件だ」と言い出せば反対運動の火に油を注ぐことになります。
 
 合意のなかで謳われた安倍首相のお詫びの言葉は、これまでの彼の主張を豹変させたものでしたが、なぜたった一日や二日で再び態度を豹変させたのでしょうか?
 安倍首相は支持者であるタカ派の人たちからフェイスブックなどでめちゃくちゃ叩かれているということです。もしもそれに対抗して身の証を立てようとしたのであればあまりにお粗末すぎて話になりません。むしろそうした彼らの主張を率先して煽ってきたわが身の至らなさに思いを致すべきです。そういう勢力から非難を浴びることは態度を豹変させた時点で覚悟すべきことでした。
 
 彼がいま行おうとしていることは、彼なりに決断し、韓国政府も本来あるべきである形から大幅に譲歩することでまとまった日韓合意を覆そうということです。戦後70年を経てようやく成った合意を、自らが助長した極右勢力の煽りに屈して、少女像がそこにあるということだけで無に帰さしめようということです。
 すべてを振り出しに戻して゛やどかり”が一旦捨てた殻に戻るかのようにして、再び1965年の協定ですべて解決済みと主張することは、もはや成り立ちません。
 今度こそ「法的責任」を問われることになるので、次の合意は一層困難になります。安倍氏は日韓合意を破壊した人間としての汚名を着ることになります。
 そんなことは一人前の政治家であれば決してすべきではありません。なぜ大局的な見地に立てないのでしょうか。
 
 関係の記事を紹介します。
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少女像撤去が10億円の条件 政府、慰安婦支援の新財団
共同通信 2015年12月30日 
 元従軍慰安婦の支援を目的に韓国が設立する新財団への支出に関し、日本政府が被害女性を象徴するソウルの日本大使館前の少女像が撤去されなければ、韓国と合意した10億円を拠出しない意向であることが30日、分かった。少女像問題が未解決のまま財政負担に踏み切れば、国内世論の理解が得られないと判断しているため。撤去を拠出の条件とすることは、安倍晋三首相の「強い意志」の反映だという。政府筋が明らかにした。
 こうした考えは、慰安婦問題をめぐる協議の中で韓国側に伝えているとみられる。
 
 
韓国 「像撤去が日本の条件」報道に元慰安婦支援団体反発
毎日新聞2015年12月31日
 【ソウル大貫智子】28日の慰安婦問題に関する日韓合意をめぐり、在韓日本大使館前の少女像撤去が「日本政府が10億円を拠出する前提条件」との日本の一部報道に、元慰安婦支援団体から強い反発が起きている。 
 「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会」の尹美香(ユン・ミヒャン)代表は30日、自身のフェイスブックで、独自の財団設立に向けた募金活動を始める考えを表明。日本政府が拠出する10億円に相当する100億ウォンを目標としている。 
 これに対し、韓国青瓦台(大統領府)は31日の国民向け談話で、「事実とまったく異なる報道は慰安婦問題に別の傷を残す」と報道を全面的に否定し、沈静化に躍起になっている。 
 
 
日本政府相手の訴訟決定、韓国 元慰安婦が賠償請求
東京新聞 2015年12月31日
 【ソウル共同】旧日本軍の従軍慰安婦だった韓国人女性12人(故人を含む)が日本政府を相手に賠償を求める調停を韓国で起こし、最近正式訴訟への移行を求めたのに対し、ソウル中央地裁は31日までに、訴訟を開始する決定を出した。韓国最高裁が明らかにした。
 決定は30日付。日韓両政府は28日に、日本政府が責任を認め韓国側に10億円を拠出することなどで「最終的かつ不可逆的」な解決が図られると確認したが、政府合意とは別に司法手続きが進むことになる。
 ただ、国際法では国家は外国の裁判権に服さないとの「主権免除」の原則があり、実質的な審理が行われるのかは不明。
 
 
日韓合意に抗議の韓国学生ら連行 ソウルの日本大使館ビル、30人
東京新聞 2015年12月31日
 【ソウル共同】韓国の警察関係者によると、従軍慰安婦問題の日韓合意に反対する韓国の学生ら約30人が31日、ソウル中心部の日本大使館が入るビル内で抗議活動を行い、警察に連行された。警察は建造物侵入容疑などで学生らを取り調べた。
 大使館の建物は建て替え中で、大使館機能は隣のビルの上層階に移っている。警察関係者によると、学生らはビルの玄関付近で「国民は韓日合意を拒否する」などと書いた紙を広げた。このうち数人は領事部が入る8階まで上がり、共用スペースの壁などに同様の紙を貼り付けた。
 
 
韓国大統領府、国民に理解要請 野党は元慰安婦と「共闘」
東京新聞 2015年12月31日
 【ソウル共同】韓国大統領府は31日、旧日本軍の従軍慰安婦問題での日韓合意について国内で反発の声が高まっていることを受け国民に理解を求める談話を発表した。一方、最大野党「共に民主党」の文在寅代表は同日、ソウル郊外の元慰安婦支援施設「ナヌムの家」を訪問し、合意に不満を示す元慰安婦らとの「共闘」をアピール、政権批判を鮮明にした。
 大統領府の談話は、日本との交渉で「国益を守るため崖っぷちに立った気持ちで臨んだ」と強調し、「国民や元慰安婦のおばあさんは大局的な観点から理解し、国家の未来のため力を合わせてほしい」と呼び掛けた。