2016年1月14日木曜日

冤罪を生んだ検察の卑劣な証拠隠しと捏造 更に隠蔽のシステム化を画策

 12日、17歳の少女への暴行事件で一審で4年の実刑判決を受けていた男性の控訴審で、DNA鑑定が決め手となって無罪判決が出されました。一審では検察側が「検体が微量でDNA鑑定が不能」としていたのですが、裁判所が依頼した大学教授が簡単にDNAを抽出し、被告のものではないことが明らかにされました。要するに検察はDNA鑑定の結果をごまかそうとしたのでした。
 
 日本の司法は「人質司法」と言われ、検察の言うことを認めない限りいつまでも釈放されず、裁判になると今度は判事によって、起訴事実を否認していること自体が「改悛の情が見られない」ということにされて有罪の根拠にされます。
 日本では起訴された人が無罪になる確率は1000人に1人~3人程度といわれ、諸外国とは2桁も違います。これは起訴に関する証拠はすべて検察が握り、被疑者に有利な証拠を隠蔽してしまうことや、検察側と弁護側の主張が対立すると裁判官は常に検察側の主張を信用する(判検一体)という不合理な体質に拠っています。
 
 2013年5月の国連拷問禁止委員会で、アフリカの委員から「日本の司法制度の不透明性は『中世の名残』である」と批判されました。正に司法の場で最大の人権蹂躙が行われているわけですが、検察は一向に改めようとしません。
 それどころか逆に、このところDNA鑑定で敗北が続いた検察は、今度はDNA鑑定を一切外部の人間には行わせずに、すべて検察内部で行えるようにしようとしているということです。そうなれば民間の権威による再鑑定ができにくくなるので、かすかに残っている救済の道も閉ざされてしまいます。恐るべき策動です。
 
 LITERAが12日、「・・・さらに冤罪増やすDNA鑑定独占画策中」とする記事を掲げましたので紹介します。
 
 なお、「DNA鑑定・証拠開示の抜本的な制度改革」については、弁護士の伊藤和子氏が2012年にすでに本格的な論文を発表していますが、なぜか一顧だにされません。
※ 2012年11月13日 司法改革の具体案が・・・
 
 追記) 伊藤弁護士の提案の詳細は下記でご覧になれます。
     東電OLえん罪事件が示す刑事司法改革の課題
          ― DNA鑑定・証拠開示に関する抜本的制度改革が急務である
                人権は国境を越えて ― 弁護士伊藤和子のダイアリー 2012年11月12日
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鹿児島・強姦事件で逆転無罪! 冤罪生んだ警察の卑劣な証拠隠しと捏造、
さらに冤罪増やす「DNA鑑定独占」画策中
LITERA 2016年1月12日
 福岡高裁は本日1月12日、2012年に鹿児島県で発生した当時17歳少女への暴行事件で罪に問われていた男性の控訴審判決で、懲役4年の実刑を下した一審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。男性は、捜査段階から一貫して無罪を主張していた。
 判決の決め手はDNA鑑定だ。捜査中の鹿児島県警の鑑定では、女性の体内に残された精液に関して「DNAが微量で型の鑑定はできなかった」とし、一審は“精液の検出自体が少女の供述を裏付けるもの”と判断、有罪を下した。しかし本サイトでも以前報じたが、控訴審で、弁護側の依頼により裁判所が法医学の第一人者である大学教授に鑑定を依頼したところ、簡単にDNAが抽出されただけでなく、男性とは別の人物のDNA型であるという結果がでたのだ。
 
 つまり、警察と検察は男を有罪にするために「精液のDNA鑑定ができなかった」と捏造していたのである。しかも、DNA鑑定以外にも、捜査の過程で様々な証拠隠蔽疑惑が浮上しており、さらに、捜査段階の鑑定を担当した県警技術職員が数値等を記したメモを廃棄していたことまで判明している。冤罪であることは明らかだ。
 
 今回は民間でDNA型の再鑑定が行われたがゆえに、男性は幸いにも逆転無罪判決を勝ち取ることができた。しかし一方で、今、捜査当局は“DNA鑑定の独占”を企てているという事実がある。経費削減を名目に、これまで大学の法医学教室などに外部委託していたDNA検査を原則中止し、すべてを警察本部の科学捜査研究所で行おうとしているのだ。
 このように、DNA鑑定を捜査当局が独占してしまえば、警察と検察の証拠隠蔽は闇に葬り去られ、男性のような冤罪は今後永久に判明しなくなってしまう──。
 
 以下に、本サイトが以前この問題を取り上げた記事を再録するので、今回の鹿児島・強姦事件をはじめとする警察と検察による卑劣な証拠隠しと“DNA鑑定独占”の問題について考えるために、ぜひ読んでみてもらいたい。 (編集部)
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 冤罪が相次いで明らかになっている。10月16日には、強姦罪で懲役12年が確定していた男性の無罪が確定。23日には、東住吉の自宅放火女児殺人事件について大阪高裁が再審請求を認め、殺人罪で無期懲役が確定していた母親と母親の内縁の夫が釈放された。
 
 だが、法務省や警察にこうした冤罪を防止しようという動きはまったくない。今国会では見送られたものの、次期国会で成立が確実視される刑事司法改革関連法案では、肝心の取り調べ可視化がほとんど有名無実化。かわりに盗聴を安易にできる通信傍受法や司法取引制度が導入されてしまった。
 さらにもうひとつ、冤罪を増やすような事態が進行している。それが「DNA鑑定の独占」だ。
 これまで大学の法医学教室など外部に委託しているDNA検査を原則中止し、すべてを警察本部の科学捜査研究所で行うというものだ。その理由は経費削減。しかしそんなことを信じるわけにはいかない。なにしろ、2013年度の司法解剖に伴う検査料は総額14億2900万円に対し、そのなかの外部機関によるDNA検査は約3200万円という小さなものなのだ。
 現在、科学技術の進歩によりDNA鑑定の精度は飛躍的に高まり、4兆7000億人に1人を特定することが可能だ。また警察による鑑定も年間27万件を超える。こうした事件の鍵を握る重要な証拠を捜査機関が独占する。それはすなわち、証拠を警察の都合よくいくらでも操作することが可能になるということだ。
 足利事件、東電OL事件など最新のDNA鑑定の結果、冤罪が証明される事件が相次いだが、もしDNA検査を捜査当局が独占し、隠蔽できれば、これら冤罪も未来永劫証明されえないということでもある。
 
 いや、あれは特殊な事案であり、警察は反省し、今後は違法捜査など行わない、証拠隠滅などしない、時代が違う、などと楽観的に考える人も多いかもしれない。しかし現在でも卑劣な証拠隠し、それに伴う冤罪疑惑事件は多数存在するのだ。
 この問題を正面から取り上げた『テレメンタリー2015「DNA鑑定の闇〜捜査機関“独占”の危険性〜」』(テレビ朝日系/15年6月29日放映)には、警察や検察による卑劣で恣意的なDNA隠しの事例が紹介されている。
 
 そのひとつが2012年10月7日深夜に鹿児島市で起こった17歳少女への強姦事件だった。少女はこれを警察に通報し、その2日後には自ら犯人を見つけたと通報し、Iさん(現在23歳)が逮捕された。
 少女の身体や服に一切傷などはなかったが、少女の胸から検出された唾液がIさんと一致、また1台の防犯カメラには人物は特定されないが男女が歩く姿も残されていた。しかし起訴後、証拠開示が進まないことに疑念を抱いた弁護側は、まず、防犯カメラは少なくともさらに4台あるはずだとして開示を求めたが、警察と検察は「全てのカメラが壊れていた」とこれを拒否。また目撃証人がいたとされたが、検察は目撃供述などないと否定したのだ。そのため弁護側は目撃者を見つけ「カップルがいちゃついていたのを見た」との証言を得ている。
 
 しかし一審では少女の証言は信用できるとして懲役4年の実刑が下された。防犯カメラと目撃証人を隠したとはいえ、DNAの一致という証拠が決め手となっていた。しかし、続いて行われた控訴審でDNA鑑定じたいに大きな疑念が出てくるのだ。
 控訴審では弁護側が要求したDNA再鑑定に対し、検察は試料不足などで再鑑定は不能だと主張した。そこで裁判所は法医学の第一人者である日本大学・押田茂實名誉教授に鑑定を依頼したところ、その結果は簡単に鑑定ができただけでなく、Iさんとは別のDNAが検出されたのだ。しかもこれは事件直後、少女のショートパンツから検出されたものと同一だった。
 
 もうお分かりだろう。警察と検察はIが冤罪だと知っていながら有罪にすべく数々の証拠を隠蔽したのである。このことが明るみにでれば少女の供述の信用性はなくなり、当初警察が描いた事件の構造が崩れてしまう。そのためDNAという重要証拠を隠蔽し、さらに防犯カメラは壊れたことにし、目撃証人をなかったことにした。公正でも正義でもなんでもない。自らが見立てた事件の構図にズレが生じたり不都合が出ると、こうした卑劣な捏造、証拠隠しにでる。それは現在でも、確かに行われているのだ。
 しかし幸いなことに、今回は民間によるDNA再鑑定が可能だった。そのためIさんは保釈された(控訴審は継続中)が、しかし今後DNAの再鑑定が警察や検察によって独占されてしまえば、それさえ不可能になってしまうのだ。また同番組では「再鑑定のための試料を被害者に返した」とウソを付き、証拠DNAの行方が分からなくなったという悲惨な受刑者のケースも紹介されている。
 
 現在でもこんな有様なのだから、DNAが捜査当局に独占されればどんな暗黒な事態が待ち受けているか。想像するだけで恐ろしい。さらにそれを独占する科学警察研究所や科学捜査研究所の実情もベールに包まれている。
 
 そもそもいくらDNA鑑定の精度が高まっているといっても、それを収集し扱うのは人間だ。扱いにミスがあったり、犯人をでっち上げて恣意的にDNAを付着させることなどいとも容易いことだ。冤罪を防ぐどころか、再鑑定が不可能になり、捜査の誤りや無罪を証明する手段を奪うものでもある。
 さらに問題は、こうした捜査機関による“DNA独占”は、朝日新聞が昨年11月5日付で報じたくらいで、メディアではほとんど報じられないことだ。
 ほんの一部の可視化と引き換えに、盗聴、司法取引、そしてDNAまで獲得しようとする国家・捜査権力。安保法制とともに、その監視を怠ってはいけない。 (伊勢崎馨)