2016年1月26日火曜日

26- 宜野湾市長選を総括する二つのブログ

 安倍政権と翁長知事が辺野古基地問題で激突しているなかでの宜野湾市長選は、安倍政権と翁長雄志・沖縄県知事の「代理戦争」でした。志村恵一郎陣営が勝って安倍政権の沖縄圧政への機先を制したかったのですが、残念な結果に終わりました。
 宜野湾市長選を総括した二つのブログを紹介します。
 
 一つは現地で選挙戦を密着取材した新垣洋氏による「宜野湾市長選の勝負を決めた、安倍官邸の狡猾な争点隠し物量作戦で、安倍政権側は選挙民の心理を十分に知り尽くした菅官房長官が徹底的な争点隠しと自民党隠しをして、それが選挙を勝利させたのに対して、志村陣営の「オール沖縄」には、候補者を選ぶ段階から深刻な亀裂が入っていたとしています。
 
 もう一つは、「反戦な家づくり」氏による「宜野湾市長選挙の残念な結果を見ながら」と題したブログです。
 こちらは選挙民が実際にどういう投票行動を取るのかについて考察したもので、
「市民は双方が普天間の返還を言う中で、どちらがより現実的に一刻も早く返還されるのかで判断する」、
正義で勝てる選挙はない各課題の世論調査は正義の問題であり、投票は明日の生活の問題、世論調査の結果と投票は異なる」、
権力にまつろわぬもののヒロイズムを賞賛しながら、投票では権力に投じるのがたくましい庶民
などのショッキングな言葉も並びますが、市民の心理を深く洞察したものと言えます。
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宜野湾市長選の勝負を決めた、安倍官邸の狡猾な「争点隠し」と「物量作戦」
新垣洋 現代ビジネス 2016年01月25日
■とても静かな選挙だった
 どちらの陣営にとっても落とすことのできない勝負だった。しかし、惜しむことなく人と知恵を宜野湾に投入した、安倍自民と公明党の与党タッグに軍配が上がった。「絶対に勝たねばならない」という気迫の差が、勝敗を分けたというべきだろう
 1月24日、安倍政権と翁長雄志・沖縄県知事の「代理戦争」と目された宜野湾市長選挙が投開票され、現職の佐喜真淳氏(51歳、無所属、自民・公明推薦)が、志村恵一郎氏(63歳、無所属)を約六千票の差で制した
 今回の宜野湾市長選に各メディアが注目したのは、そこに「世界一危険」といわれる米軍普天間飛行場が存在するからであり、目下、安倍政権と翁長知事が対立している普天間飛行場の辺野古移設問題に、選挙結果が直結するからだ
 
 しかしながら、現地を取材してみると、マスコミが期待するような激しい舌戦を両候補者がくりひろげたわけではなかった。警備を担当したある捜査関係者は「とても静かな選挙だった」と振り返る。この静けさの実態を、1月17日付の沖縄タイムス社説『争点がはっきりしない』が突いている
 両候補者の違いが分かりにくいと指摘した上で、<決定的な違いは、志村氏が新基地建設に反対する姿勢を鮮明に打ち出しているのに対し、佐喜真氏は「辺野古」の賛否に触れていないことだ。「辺野古」を争点化しないという佐喜真陣営の選挙戦術は徹底している>とし、<わかりにくい選挙である>と釘を刺した
 実のところ、この「わかりにくさ」を演出し、選挙戦を静かにのりきることこそが、官邸・自民党の戦略だったのだ。指揮をとったのは官邸の菅義偉官房長官であり、自民党の茂木敏充選対委員長である
 
 1月12日、宜野湾市内でぶら下がり取材を受けた茂木氏は、ある記者から「(自民党推薦の)佐喜真さんは辺野古移設について明確な態度をとっていない。自民党としては、辺野古移設の是非は争点になるのか」と問われて、「これは宜野湾の市長選です。宜野湾の市民のみなさんにとっては確実な基地の返還、これが大きな課題」と返した
 市民の安全を脅かす普天間飛行場の固定化はあってはならない。しかし、名護市辺野古への移設については「宜野湾市の市長選なのだから」と明言を避ける――。細い糸の上をバランスをとりながら歩くような名答に、してやられた市民は決して少なくないはずだ。筆者は選挙戦の終盤、「え? 佐喜真さんは辺野古移設に賛成の人なの?」と驚く市民の声をいくつも聞いている
 
■菅官房長官の暗躍
 また菅氏は告示前後、官邸詰めの記者たちに「オフレコ」を前提に、こう語ったという
 「自民党幹部らを佐喜真の応援に送り込むけど、マイクは握らせない。いまの沖縄で自民党幹部が話をしても、反発されるだけだからね。水面下で業者まわりをさせる
沖縄では保革を問わず、辺野古の新基地建設を強行する官邸・自民党に対する風当たりは強い。そのリアルを、何度も沖縄を訪れ翁長氏と会談してきた菅氏は肌で感じている。だからこそ、「控えめの応援」を徹底し、移設問題を争点化しない戦略を採ったのだ
 事実、佐喜真氏の応援に入った自民党幹部らは、島尻安伊子沖縄担当大臣ら一部をのぞき、ほとんど応援のマイクを握らなかった。極力表にも出ず、商工会や建設業者などを地道にまわり、佐喜真氏への支援を呼びかけた。菅氏の指示は徹底していた
 官邸だけでなく、公明党の動きも見落とせない。公明党沖縄県本部は、普天間の辺野古移設には明確に反対している。しかし、官邸・自民党が「辺野古」を争点から外したことで、佐喜真氏の応援をスムーズにやれるようになった。公明党の東京都議らは、露骨にも大手ゼネコンの幹部を引き連れて宜野湾市内に入り、建設業者らに佐喜真氏の支援を要請していたとの情報もある
 「大手ゼネコンに頼まれれば、地元の中小零細業者は頭が上がらない」(宜野湾市の建設業者)
 他にも、選挙前に宜野湾市へディズニーリゾートを誘致する話を持ち上げたり、宜野湾とは直接関係のない政治団体「日本歯科医師連盟」(日歯連)会長を佐喜真氏の応援に送り込んだりと、菅・茂木の両氏はあらゆる手をつくし、佐喜真勝利の流れをつくりあげた
 この戦略がうまく機能したことは疑いようがない。官邸幹部たちは勝利の美酒に酔いしれていることだろう
 
■「オール沖縄」の内部対立
志村氏の敗北で翁長氏を基軸とする基地移設反対派、すなわち「オール沖縄」勢力は大きな痛手を被ってしまった。選挙前、急遽持ち上がったディズニーリゾート誘致の話に、翁長氏は「話くわっちーを持ってきたな」と周囲につぶやいたという
 「話くわっちー」とは沖縄の方言で「美味しい話」という意味だ
 「選挙前に汚いぞ」という批判を浴びながらも、しっかり「美味しい話」をもってくる官邸に、翁長氏は舌を巻いたのだろう。自民党沖縄県連の幹事長まで経験した翁長氏は、選挙に勝つことのシビアさ、勝つことの重みを重々承知している
 
 ただ、「与党の戦略が巧みだった」で終わらせてはいけない。敗因は複合的だ
 外的要因で大きかったのは、下地幹郎おおさか維新の会政調会長の策略だろう。公の数字ではないが、2014年の沖縄県知事選で翁長氏、仲井眞弘多前知事、下地氏の三人が立候補した際、宜野湾市で翁長氏に入った票は約2万1千票、仲井眞氏に入ったのは約1万9千票、下地氏に入ったのは約4千票とされていた
 佐喜真氏が仲井眞氏支持だったことに鑑みると、今回の宜野湾市長選のキャスチングボードを握ったのは「下地票」だったといっても過言ではない
 選挙期間中の下地氏の動きについて、ある地元紙記者は「完全に寝ていた」と評したが、筆者は、下地氏の約4千票が佐喜真陣営に入ったことを複数の関係者から確認している。保守政治家である下地氏は、自民党にみずからの存在価値をアピールすることに余念がない。「寝たふり」をしつつ、自民党に大きな恩を売ったのだ
 もう一つ敗因を挙げるとすれば、「オール沖縄」勢力が抱えこむデリケートな内部対立だろう
 「オール沖縄」は14年の知事選前、保守も革新も辺野古新基地建設阻止のために「腹八分、腹六分でまとまろう」という翁長氏の呼びかけで成立したムーブメント。今回は、その翁長氏がもっとも危惧していた事態が起こってしまった
 
■亀裂は深刻
志村氏が正式な候補に決まったのは10月末のこと。政治家経験のない人間が、わずか3~4ヵ月で官邸・自民党がフルサポートする現職市長に対決をのぞむことになったわけだ
 なぜ直前まで候補者選びが難航したのか。当初、最有力候補のなかには「革新のエース」とされる元宜野湾市長の伊波洋一氏の名があがっていた。「革新の伊波さんと保守の翁長知事が一緒に宣伝カーに立てば、理想的なオール沖縄の形になる」(地元関係者)という声があったのだ
 しかし「オール沖縄」勢力の中には、革新カラーの強い伊波氏を推すことに抵抗感を覚える議員、経済人が少なくなかった。「伊波氏が前面に立てば、保守票が逃げていく。志村氏のほうがオール沖縄の形としていい」(別の地元関係者)という見立てだ
 
 結果的に市長選では後者の形に収まったが、「オール沖縄」の内部に亀裂が走ったことは間違いない。6月には県議選を控え、7月の参議院選挙では島尻大臣の対抗馬として伊波氏が出馬することになってはいる。しかし「オール沖縄」内部では、はやくも「伊波氏は選対本部長代行として、志村氏を勝たせきれなかった責任をとるべきだ」という声が強まっている
 翁長雄志というカリスマ政治家が基軸になって機能してきた「オール沖縄」ムーブメントに、今回、綻びが生じた。この事態を待ち望んでいた官邸や自民党幹部、防衛官僚たちは声を押し殺してガッツポーズしていよう
 
 辺野古の新基地建設をめぐって国と3つの裁判で争っている翁長氏にとって、今回の宜野湾市長選を落とすわけにはいかなかった。敗北のダメージは小さくない。法廷闘争で勝つのはハードルが高いが、沖縄の「民意」を一つひとつ示していけば道は拓ける――そう考えていたに違いないからだ
 保守から革新までが参画する「オール沖縄」で内部対立が起きるのは、ある意味で「宿命的」といえる。しかし対立点を残しながらも「辺野古移設反対」「イデオロギーよりアイデンティティ」でまとまれたからこそ翁長知事が誕生した。「オール沖縄」の真価が問われるのは、むしろこれからだろう
 
 
宜野湾市長選挙の残念な結果を見ながら
反戦な家づくり 2016年1月25日
昨日投開票された宜野湾市長選挙は、残念な結果だった
 
佐喜真氏が再選 宜野湾市長選 志村氏に5857票差
2016年1月24日 琉球新報
任期満了に伴う宜野湾市長選は24日夜に投開票され、政府・与党の支援を受けた現職の佐喜真淳氏(51)=無所属・自民、公明推薦=が2万7668票を獲得し、元県幹部で翁長県政与党の支援を受けた新人の志村恵一郎氏(63)=無所属=の2万1811票に5857票差をつけて再選を果たした
 米軍普天間飛行場の返還・移設問題が最大争点になった今回の市長選で、名護市辺野古移設を進める政府・与党が推す現職が勝利したことで今後、安倍政権は移設作業を強硬に推し進めることが予想される
 
 佐喜真氏は政府・与党の全面支援を受けて自公幹部らを水面下で投入して企業・団体票を固めた。与党市議団が地域をくまなく回る「どぶ板選挙」を徹底して支持を広げた。普天間問題では「固定化阻止」を強調して争点化を避け、経済振興や子育て支援の実績が市民に評価された。(引用以上)
 どぶ板で現職の強みを発揮したこともあるが、普天間基地の固定化阻止を掲げて基地反対派をも取り込んだことが大きいのだろう
 双方が普天間の返還を言う中で、どちらがより現実的に一刻も早く返還されるのか、という市民の判断になってしまった
 政府方針通りに辺野古に押しつけての返還か、県内移設を拒否しての返還か、普天間の地元としては本音では前者が現実的だと考える人が多いのは致し方ないことだといえる
 そのなかで、たとえ茨の道でも辺野古反対に投じた人が、得票率で44%もいたのはむしろすごいことだと思う
 
 とはいえ、負けは負けであり、惜しかったとか善戦したとかでお茶を濁すべきではない
 (と、何のお手伝いもできなかった私ごときが言うのはおこがましいのは承知の上だが、先に進むためには厚かましく批評させてもらう。もちろん、外から見た表面的な見方に過ぎないけれども。)
 まず、第一印象としては、保守の強みを活かしていなかったように見えた。シムラ氏のプロフィールを拝見すると、県の幹部職員として建設業界とのパイプもあるようだし、お父さんが自民党の元県議会議長とのことで、典型的な保守の方ではないかとお見受けするのだけれども、そういう面をあまり出さずに、辺野古反対を前面に出しすぎたのではないかという気がする
 翁長知事の選挙の時は、10のYESと3のNOというように、辺野古反対を明確にしながらも、沖縄の将来像を肯定的かつ現実的に描いていた
 名護の稲嶺市長も、選挙の時の演説をネットで拝聴した印象では、辺野古のことも言うけれども、市民生活に密着した話をかなりしていたように思った
 私は、「正義で勝てる選挙はない」 と考えている
 これは、善悪の話ではない。宜野湾市民を責めているのでもなければ、選挙に正義はないと選挙を貶めているのでもない
 ほとんどの人は、まず、自分の暮らしがどうなるだろう、という観点で投票するものだ、ということだ
 ここを考え違いしているから、「世論調査と選挙の結果が違う。不正選挙だ」という話が出てくる
 原発や安保法制などの世論調査の賛否の割合と、選挙結果が違うのは当たり前だ
 各課題の世論調査は、「正義」の問題であり、投票は明日の生活だからだ
 明日の生活を考えたら、多くの人は体制に寄り添おうとする。これはある意味当然だ
 権力にまつろわぬもののヒロイズムを賞賛しながら、投票では権力に投じるのが、たくましい庶民というものだと、うぶな政治市民は思い知らなければならない
 自らを「市民」とか「リベラル」などと自覚する特殊な人たちは、2012年から続く数々の敗戦に、謙虚に学ばなければならない
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 ひるがえって、今年の参院選を考えたとき、戦争法案や改憲だけで戦おうという議論は自滅行為だということができる
 もちろん、世論調査をすれば、戦争法案も改憲も圧倒的に反対が上回るだろう。しかし、それは投票の基準にはならないのだ
 これだけ負け続けて、そのことを学ばないのは、口さがなく言わせてもらえば利敵行為だと思う
 戦争法案を廃案にし、改憲を阻止しなければならないからこそ、それだけを掲げて戦ってはいけないのだ
 庶民の明日の暮らしを、「なるほど」と思える明るさで照らさなければ、選挙では勝てない。絶対に勝てない
 今回の悔しさから、そのことを学ばずに、有権者が悪いかのような総括をすることは許されない
 自公政権は、そのことを骨身にしみて、もう本能といえるレベルで理解している
 だから、株価が暴落して、あらゆる経済指標が悪化しているなかで、ウルトラCの手段を使ってくるだろう
 あり得るケースは、安倍が5月くらいで退陣して、一見ハト派の谷垣あたりが首相になり、消費増税の延期を発表するというもの
 その流れの中で、民主党+維新の党との大連立ということもないとはいえない
 (もしそうなれば、おおさか維新は当て馬で使い捨てということになる。)
 TPPの「功労者」である甘利を切り捨てる動きは、その始まりの可能性がある
 そうなれば、戦争法案や改憲は完全に争点をはずされ、地滑り的に自民党が圧勝することになる
 そして、やつらは、勝ってからことを始めるのである
 であるならば、こちらはそれ以上の「勝利の執念」がなければ、勝てるわけはない
 金も人も情報も、何もかも不利な条件の下で、勝てるとすれば「執念」だけだ。その「執念」で負けていたならば、どう転んでも勝てるわけがない
 勝負は、「執念」を持った勢力をどれだけ作れるか だ
 「正義」をもった勢力は想像以上にたくさんいるけれども、それでは勝てない、というのが貴重な貴重な教訓だ
 今年の参院選には間に合わないかもしれないが、今後数年の間に「執念」をもった勢力をどれだけ集められるか
 そこに未来がかかっている