2016年1月17日日曜日

17- TPP訴訟の実態は(ロリ・ワラック)

 「マスコミにのらない海外記事」に、米・加・メキシコで結ばれた北米自由貿易協定NAFTAで、カナダの会社がアメリカ政府を相手に行った150億ドルの賠償要求に見られるTPP訴訟の実態についての記事を載せました。
 対談に登場したロリ・ワラック女史は一貫してTPP協定に警鐘を鳴らしてきた人で、日本でも数回講演を行っています。
 
 この記事で分かることは、TPPを主体的に推進してきたはずのオバマ大統領が実はその実態を良く知らずにいて、いわゆるISD条項やTPPが国内法を上回る(国内法を改訂させる力を持つ)ことなどについての正確な知識を持っていないことが分かります。要するに名義上トップに祭り上げられていただけで、条文の作成などはすべて多国籍企業が行った(そこから派遣された数百人の社員たちが行った)ものであることが分かります。
 
 また賠償額がパイプライン工事の総額(30億ドル)ではなくて、ラインが完成してからラインの寿命が尽きるまでの間にカナダの会社が得られるはずだった利益を加えた総額(150億ドル)であるという点が、如何にもTPP(=NAFTA) らしさを物語っています。
 このISDによる賠償額には上限はなく、訴訟は3人だけの審判員(弁護士)で決められ上告の制度はありません。
 
 長い記事のため各所で省略(中略)してあります。全文をご覧になりたい方は、記載のURLをクリックして元記事にアクセスしてください。
 
 追記 なお、3人の審判員のうち常に2人が米国人になる(世界銀行から1人が選ばれる)ので、実際にはアメリカは訴訟において不敗であって、逆にカナダなどは50件近い訴訟で全て負けています。
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アメリカのキーストーンXLパイプライ計画却下に対し、トランスカナダが150億ドルで提訴
 TPPが批准されれば、これが当たりになるのだろうか?
マスコミにのらない海外記事 2016年1月16日
Democracy Now! 2016年1月7日
水曜日、トランスカナダ社は、オバマ大統領が、キーストーンXLパイプラインを拒否したのは、アメリカ憲法下の彼の越権行為だとして、アメリカ連邦裁判所に提訴した。トランスカナダ社は、パイプライン承認拒否は、"恣意的で不当だ"として、北米自由貿易協定NAFTAのもとでも提訴した。同社は、NAFTAに基づく要求として、150億ドルの賠償を要求している。 中 略
より詳細について、パブリック・シチズンのグローバル・トレード・ウォッチ代表ロリ・ワラック氏にご参加いただく。
 
エイミー・グッドマン: トランスカナダ社が、キーストーンXLパイプライン拒否を巡って、アメリカ政府を訴えました。水曜日、同社は、オバマ大統領がパイプラインを拒否したのは、アメリカ憲法のもとで彼の越権行為だと主張し、アメリカ連邦裁判所に提訴しました。トランスカナダは、パイプライン承認拒否は、"恣意的で不当だ"と主張して、NAFTA、北米自由貿易協定のもとでも、訴えを起こしました。NAFTAに基づく請求として、同社は、150億ドルの賠償を要求しています。
 
    オバマ大統領は、長年の検討後、11月、国境を越える原油パイプラインを拒否しましたが、これはここ数十年で、アメリカにおける最も強力な草の根キャンペーンの一つです。当時彼は、キーストーン承認は気候変動を止めるための世界的取り組みを損なうことになると述べました。
      バラク・オバマ大統領 「気候変動と戦うための真剣な行動という点で、アメリカは今や世界的リーダーです。そして、率直に言って、このプロジェクトを承認すれば、世界的指導力を損なうことになります。そして、行動しないことは我々が直面する最大のリスクです。究極的に、もし我々が生きている間に、この地球の広汎な部分を住み難くするだけでなく、住めなくしてしまうのを防ぐつもりなら、ある種の化石燃料は、それを燃やして、より危険な汚染を大気に放出するのではなく、埋蔵してままにしておく必要があるので、例を示すことで、現在も、我々はリーダーであり続けている。
 
     キーストーンXLパイプラインは、毎日830,000バレルの原油を、アルバータのオイル・サンドから、メキシコ湾岸の精油所に送るはずでした。トランスカナダの訴訟は、論議の多い彼の環太平洋戦略的貿易連携協定、TPPを大々的に売り込むと予想されていたオバマ大統領最後の一般教書演説のわずか数日前に行われた。    中 略
      さて、これから先は、ワシントンD.C.で、パブリック・シチズンのグローバル・トレード・ウォッチの代表で、The Rise and Fall of Fast Track Trade Authorityの著者のロリ・ワラックさんにご参加頂きましょう。
    ロリさん、デモクラシー・ナウ! への再登場ようこそ。トランスカナダ告訴についてのご意見をお話しください。
 
ロリ・ワラック: はい、要するに、このパイプラインは、わが国にとっても、環境にとっても良くないというアメリカ政府決定の結果が、連中の気に入らないので、アメリカ納税者は、150億ドル支払わなければならないと、外国企業が決めたということです。そして、連中が、こうしたお金を我々から搾り取ろうとしている場所は、アメリカ裁判所でもなく、アメリカ法廷でもなく、司法管轄外なのです。NAFTAのもとで認められている投資家-国家裁決機関です。アメリカは、この途方もない制度を有する50の協定を締結しているNAFTAのもとで、全てカナダからですが、約十のこうした攻撃にあっています。これらの協定を締結している国々のどこも、実際にはアメリカに投資家がいないのです。ですから、これまでのところ、アメリカは、こうした訴訟では一つも敗訴していません。ところが環太平洋戦略的貿易連携協定TPP万一実施されれば、一夜にしてわが国の法的責任が倍増します
       中 略
エイミー・グッドマン:5月に、オバマ大統領はオレゴン州、ビーバートンのナイキで演説をして、未決状態の環太平洋戦略的貿易連携協定TPPを擁護しました
     バラク・オバマ大統領 「批判する連中は、この協定の一部がアメリカの規制、食品安全、労働者の安全、金融規制までも損なうと警告しています。これは-連中がでっちあげているのです。これは真実ではありません。いかなる貿易協定もわが国の法律の改訂を強いることはありません
      オバマ大統領は、TPPはNAFTAの改良版だとも言いました。中 略
      ロリ・ワラックさん、オバマ大統領に対するあなたのご意見は? 彼は、ナイキの本社で演説しましたね。
ロリ・ワラック:はい、アメリカ国内の、パイプラインを設置させないという民主的な政府決定に対する、このトランスカナダによる攻撃だけのためではありませんが、中 略これはまさに起きるはずがないと彼(オバマ)が言ったものです。
    同社は実際、150億ドルを要求しています。この投資家-国家紛争調停条項のおかげで、判事ではない、三人の民間部門の弁護士で構成される裁決機関で。利益相反や、公平の規則は存在しません。彼らは、ある日は企業のために政府を訴え、翌日は判事役をつとめるという具合に、交代する連中です。しかも連中は、連中の中だけで、訴訟事件を審理するのです。彼ら自身"クラブ"と呼んでいます。しかも、上訴はありませんし、彼らが政府に支払うよう命じる金額に上限はありません。そして、ちなみに、もし政府が支払わなければ、企業には政府資産を差し押さえる権利があるのです。税金を引き出すため政府資産を差し押さえるのです。ですから、第一にこの訴訟は、オバマ大統領が、これについて懸念をしている連中がでっちあげているのですといった、まさにその訴訟なのです。それが今実際に起きたのです。
      (中 略
    TPPには、皆様に知っていただくべき、更にひどいことがあります。トランスカナダは、訴訟事件摘要書を提出していますが、この訴訟で用いている実際の文言一言一句違わぬ文言がTPP中で繰り返されています。NAFTAとTPPの投資家-国家紛争調停条項の文言では、色々細かいものが変更されています。様々な点で、実際、TPPは投資家-国家紛争調停条項を拡張しているのです。TPPは、より広汎な企業の主張を可能にしています。外国の土地での外国企業の天然資源採掘免許に対する政府契約に異議を申し立てることまで認めています。これはNAFTAにはなかったのです。ところが、トランスカナダがしている実際の主張は、一言一句TPPの文言です。この分析は、我々のウェブサイト、Trade Watch.Orgでご覧いただけます。文章をお読みいただいて、私たちの分析を、基本的にガイド版としてご利用ください。
エイミー・グッドマン:ロリさん、彼らが一体なぜ、150億ドルを要求しているのかご説明ください。
ロリ・ワラック:これは昨日、実に多くの人々が私に聞いた質問です。"はい、ちょっとお待ちください。"新聞を読んでいる人なら誰でも"そう思うでしょう。これは、30億ドルのパイプラインです。彼らは一体なぜ、納税者に、150億ドルも要求できるのでしょう?" 答えは、理不尽な投資家-国家紛争調停制度のもとで、外国企業は、アメリカの裁判所を回避し、アメリカの法律を回避し、補償を要求するというこうした特別な権利を得られるだけではありません。彼らがプロジェクトに投資した金額だけではなく、彼らは期待される将来の利益まで補償されるのです。連中は計算しているのです。準備書面は、これを論じています。パイプラインが認可されていれば、パイプラインの稼働寿命の間に将来、得られたであろうと考える利益。そして、彼らの商業プロジェクトは、国益にならないと、アメリカ政府が民主的決定をしたのだから、それが、我々納税者が連中に支払うべきだとされるものなのです。それが150億ドルなのです。
エイミー・グッドマン: ロリさん、貿易ルールが、気候変動への各国の対処方法にどう影響するのかお話しいただけますか? 例えば、2014年に、アメリカが、インドの太陽光発電奨励金に対して、WTOの異議申し立てをしたような。
ロリ・ワラック:中 略問題の一つは、ある国と貿易協定を結べば、たとえば液化天然ガスの輸出を停止することが許されなくなってしまいます。エネルギーを輸出し続けることが義務にされてしまうのです。中 略我々は貿易を制限することが許されなくなります。
    二つ目は、これら全ての貿易協定にある、貿易以外の規制制限です。規則は、あらゆる国が、あらゆるこうした貿易以外の規則に合致すべく、国内法を改訂しなければならないというものです。中 略たとえば、政策で、化石燃料対、風力や太陽光で、差別をして、規制することが許されなくなります。化石燃料は化石燃料なのです。しかも、この種のエネルギーと環境保全施策を巡って、一連の具体的制限があります。
    更に、三つ目は、行える調達政策の種類を限定してしまうのです。中 略ですから現在は、たとえば再生可能エネルギー供給義務化基準というものがあり、政府がエネルギーを購入する場合は、一定の割合は、再生可能エネルギーでなければなりません。この種の条件制限は、TPPのような協定では、調達の章で制限されます。ですから、燃料政策の選択肢で、政府の動きを制限するので、基本的に燃料業界にとっては大当たりで、それが彼らがこの協定が大好きな理由なのです。
 
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